========================================= 集合住宅論 3/4====


============================================2001/07/22====

       建築家の自邸に表れた家族意識

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     ──就寝空間について(前)

                  芹沢俊介(評論家)


 西山夘三が行なった戦前、戦中期における庶民住宅の住まい方の

調査とその分析は、食室と就寝室のあいだに興味深い関係があるこ

とを抽き出した。就寝空間については、全床面を寝床面として利用

しうる状況にあるにもかかわらず、寝床面を少数室へ局限化する傾

向があること。(註一)採食空間については、就寝空間と分離して

おきたいという意向が非常に強くうかがわれること。これらふたつ

の住み方における傾向は、相互に影響しあっており、一方ほ他方の

現象の原因になっているということ。言いかえれば、集中就寝とい

う顕著な現象は、食寝分離の強い意向という点に、無視できない出

現の理由を求めることができるということ、を指摘した。

 これらふたつの傾向とその相関関係について、西山夘三の記述を

いくらかていねいに追ってみよう。まず、就寝空間から。

 就寝空間 住空間の利用の仕方は、日中と夜とで異なる。したが

ってごく一般的に言って、一住宅における全室あるいは全床面は夜

間、就寝空間として用いることができる。ところが現実は、全室就

寝という形の分散就寝は皆無に近く、他はすべて就寝時に空室を残

しているのである。(ここではまだ現在のようにダイニングルーム、

リビングルーム、ベットルーム等機能に応じて空間が分化しておず、

畳敷のさまざまに転用可能な床面であるような住居状態を思い浮か

べなくてはならない=芹沢)西山が調査した大阪市内の四九七戸の

専用住宅のうち、一室を空室に残していたのは三七戸であった。ま

た五室以下の住宅についてみると、一室を空室にしている比率は一

三.三%、二室以上を空室にしている比率は約七五%にのぼった。

極小の住宅であっても全室を就寝面に利用していないのである。四

室以下の小住宅では二室就寝が最も多いが、それ以上の多室住宅で

あっても三室就寝が主である。五室住宅の平均値が二.五室、七室

以上になってようやく三室を超える程度なのある。(註二)

 このことは、住宅が小さいことが分散就寝を促す要因にはならず、

また住宅が大きいことも分散就寝にとって決定的な推進要因にはな

っていないことを示している。西山夘三は「就寝室の集中傾向、集

約就寝の慣習的存在が明瞭に指摘される」と述べている。(註三)

 このような「集約就寝の慣習的存在」は、就寝空間の局限化の傾

向が食寝分離の意向とは独立に生まれうることを伝えている。夜間

時に空室が生じるという事態は、食寝分離の強い意向だけでなく、

もっと別の生活的、社会イデオロギー的慣習からも規定されている

のである。西山はそのような傾向を、家父長制約家族制度を根底と

した長いあいだの生活慣習および家事労働上・家屋の維持上分散利

用が忌避されてきたことに帰せしめている。




            ──就寝空間について(後)に続く


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芹沢俊介・藤井東「ファクス書簡」再開とご購読お願いのお知らせ


 評論家の芹沢俊介と学習塾自営の藤井東が、「山梨日日新聞」に

「ファクス書簡」と題し、子どもを核に、家族・学校・教育・事件

などに象徴される社会現象に対し、リアルタイムで考察、言及して

きました。その間、阪神大震災、オウム・サリン事件、神戸の少年

事件などが起こり、時代や私たちの精神の基底部に大きな衝撃があ

ったことは、まだ記憶に新しいことと思います。

 1993年4月から2000年7月までの約7年4カ月に亘る新

聞連載は終了しましたが、芹沢の新著『ついていく父親』にありま

すように、「家族のエロス(=受けとめる力)が枯渇」している現

在、私たちは未知の課題に直面しているのを感じます。このような

現在の未知に、思考停止に陥らずにできるかぎりフットワークよく

ことばを届かせられるよう、「ファクス書簡」を再開いたします。

引き続き、また新たにお読みいただけたらと思い、ご案内させてい

ただきます。

 なお、発表の形式ですが、往復書簡を通信スタイルで、年5〜6回

発行する予定です。

一つのテーマについて、1回2往復の計4便(1便・400字×4

〜5枚程度)をまとめて郵送いたします。


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ますが、切手でも可です。)

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    〒400−0015 甲府市大手1−4−6  藤井東

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 P.S. 第1回目のテーマは「『虐待』について」です。5月末発

行予定です。なお、数カ月先になるかと思いますが、ホームページの

   作成も検討しています。

   発表スタイルを模索していきたいと思っています。

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  ■ 建築家の自邸に表われた家族意識 (月1回発行)

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============================================2001/09/30====

       建築家の自邸に表れた家族意識

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     ──就寝空間について(後)

                  芹沢俊介(評論家)



 そのとおりだと思う。けれど同時に、住空間に夜間、空室を残し

てしまうということには宗教的、家族的(家族原理的)な契機も加

担していたように思われる。けれどここではそれ以上の言及は慎み

たい。西山夘三が就寝空間の現状をどのように分析しているかを見

届けることが大切である。西山は、就寝空間の過密化=集中就寝と

いう事態をふたつに分けてとらえている.過密就寝と混合就寝であ

る。過密就寝は、量的にみた集中就寝のかたちである。西山が昭和

十七年に調査した東京周辺部の労働者街の住宅のうち平屋建専用住

宅一九五七戸の就寝空間の利用状況は、およそ次のようになってい

る。(註五)

 一室ないし二室住宅における主室の就寝状況は、六畳主室で五人

以上寝ているのが全体の二三.六%、平均で三.六一人であり、四

.五畳では四人以上が全体の三九%、平均三.二七人が寝ている。

 一人当りの就寝面積は主室で一.六九畳、補室で二.〇六畳、総

平均で一.七畳である。十二歳以下の子供を〇.五人と数えた場合

でも主室二.〇六畳、補室二.三三畳、平均二.二畳にすぎない。

この状況は家具が置かれている点を念頭におけば、「幾何学的最低

占有状況」とみなされる。また二室住宅における食寝複合は六二%

である。これは家族構成を無視して言えば三八%の家族が食寝分離

を行っていることを意味する。三室住宅における主室の平均面積は

六.五二畳、平均就寝人員は三.三七人である。二室就寝、つまり

食寝分離の実行率は五一.九%である。

 四室以上の住宅になると、過密就寝の度合いは大きく減じる。

 同じ寝床に二人以上寝る複合就床の比率は一室住宅七一.四%、

二室住宅八六.三%、三室住宅五三%、四室住宅四二%である。



 集中就寝の質的な面に光を当ててみると、混合就寝という事態が

浮び上ってくる。混合就寝とは主に、夫婦が独立した就寝空間を保

有していないということと成人(十五歳以上)の性別分離就寝が行

なわれていないことのふたつの事態をさしている。

 夫婦隔離寝率(夫婦が他の家族とは別室で寝る比率)は、現在か

ら見ても決して低くはなかったことが知れる。けれど細かく調べて

ゆくと、貧しく狭小な住居水準とともに混合就寝を根強く再生産し

ている現実が見えてくる。

 さきほどの東京周辺部の労働者住宅の調査結果は、二室住宅では

集約的混合就寝がきわめて多いという事実を指摘している。総数の

約四五%が混合就寝である。夫婦以外に成人(十五歳以上)をもつ

家族は全居住者の四〇%を占めるが、その二二%(四〇%を一〇〇

として)は一室就寝をとっている。妻が四〇歳以上の「老夫婦」の

場合を除外すると、成人をもつ家族は二四%となるが、その一三%

が一室就寝である。

 妻の年齢が三五歳以下の「若夫婦」のうち六七%しか家族内の成

人と寝室を隔離できておらず、二三歳以上の成熟した女性の一五%

は夫以外の男性と混寝を余儀なくされている。

 三室住宅になると事態はやや、改善されている。夫婦の七一%は、

他の成人と寝室を分離できている。二十歳代の夫婦の場合では、そ

の率は九〇%に達している。とはいえ、依然として二一.五%の夫

婦が混合就寝をしいられている。

 四室住宅になると、混合就寝はさらに減少し、夫婦寝室の隔離は

地域差はあるとはいえ、ほぼ実現された状態になる。

 性別分離就寝について西山夘三は、住宅の規模が大きくなると混

合就寝が顕著に減少するところから、家族に性別分離就寝の意向が

あることを認めている。けれども他方で、つねに相当数の混寝があ

ることも事実であり、混寝に対する無関心さを重要な改善すべき課

題と考えていることも確かである。性別分離就寝を実現させるには

住宅の規模を大きくし、よりよき就寝空間をより多く与え、かつこ

れに居住者を適格に住まわせることが必要なのは当然としても、こ

うしたことが可能になるためには、それ以前に解消しておかなくて

はならない問題がある。それでなくては、せっかくの低住居水準の

克服も、混合就寝の消滅につながらない。

 西山はそうした問題点を幾つかあげている。第一に居住者が混合

就寝という現実に関心をむけること。第二に家事労働の節約・食寝

分離および家屋保持といった動機にもとずく集約居住と集中就寝に

対する要求を相対化すること。第三に家庭内における女性の住まい

方に対する配慮の無さ、すなわち女性の地位の低劣さを改善するこ

と。とりわけこのことが近代社会が必要とする倫理観を成長させる

に不可欠な、正しい意味の個人生活の出現を阻んでいる、と西山は

述べている。(註八)

 分散就寝ということが、食寝分離という庶民の強い意向とくらべ、

近代的な住居観が成立するために必須の課題であると西山が考えて

いることが理解できよう。

 西山はそこから一歩進め、就寝空間としての住居空間のもつべき

諸要件をふたつの観点から指摘する。(註九)第一の要件はその容

積、すなわち気積の問題であり、第二は就寝空間相互の隔離という

要件である。言うまでもなく、第二の要件が近代住居とその内部で

生活する近代家族が成立するために必須の課題である。就寝空間相

互の隔離という要件はさらに以下のような諸条件に分割される。



 一、空気遮断 保健衛生上── 病弱者の隔離、空気伝染の予防

 二、音遮断 生理上──睡眠時の妨害排除

    〃  風紀上──個人生活の隔離

 三、視線遮断 風紀上──個人生活の隔離

 四、接触遮断 衛生上──接触伝染の予防その他

    〃   生理上──睡眠妨害排除



 就寝空間相互の隔離という課題は、目的を衛生上に置くか、生理

上に置くか風紀上に置くかによって実現のされ方が違ってくる。病

人の隔離を目的とするなら、接触の遮断が第一義となろうし、睡眠

が妨げられないようにすることに狙いを置くならば、音や接触の遮

断を第一に考えるであろう。家族内で性別分離就寝が行なわれるた

めには何を置いても視線の遮断が充たされなくてはならない。視線

の遮断が個人の生活を他と隔離する第一歩であるのだから。

 もしこれら四つの条件を同時に充足させたいと願うときはじめて、

個室の要求が生まれるのだと言える。個室が成立するためには、就

寝空間が相互に隔離されてあることに対する要求がなくてはならな

い。空気、音、視線、接触という四つの遮断すべき条件を充たすこ

とは、就寝空間を相互に分離し、個室の誕生を可能にする。

そして分離就寝ということが庶民の住み方に定着することが、就寝

空間を相互に分離したことの意味を十分に活かすことである。つま

り個人(個室)の誕生であり、その個人(個室)に応じた個室(個

人)の誕生である。



註一 「庶民住宅の住み方」一九四二年

註二 「就寝空間と採食空間」一九四三年

   註三 「小住宅の居住部分の構成について」一九五〇年

   註四 註一参照

   註五 註三参照

   註六 「夫婦寝室の隔離」一九四三年

   註七 註六参照

   註八 「性別による就寝室の分離」一九四三年

   註九 註八参照



               ──食寝分離論 (前)に続く


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