========================================= 集合住宅論 4/4====


============================================2001/11/25====

       建築家の自邸に表れた家族意識

=================================================22/25====


       食寝分離論 (前)


                     芹沢俊介

 西山夘三は、「食寝分離」、──食室と寝室の空間を、同一空間

を転用して使うことなく、それぞれ独立空間として住居平面を構成

すること──は関西諸都市の伝統的な都市住宅の間取りに定型化さ

れているけれど、関東ではどちらかといえぱ食寝複合が依然として

行われる傾向にあると述べている。このことは、食寝分離が必ずし

も、日本人の住居における普遍的な要求ではないということを意味

している。ちなみに、西山夘三はこの地方差について、極小住宅(

六畳・三畳の二室に三人ないし四人が住んでいる)の住み方を調査

した結果から、次のように書いている(「戦災者応急住宅住み方調

査報告」一九四九年)

「全体の七二%が三畳を食室とし、二三%が六畳を食室としている。

六畳を食室として使用する比率には明瞭に地方差があらわれ、関東

ではその比率が五〇%に達するが、近畿では二四%、中部一〇%、

中国七.二%となっている。(改行)このような食室の選択傾向が

当然のこととして食寝分離の度合に反映する。このような極小住宅

でも全体で六一%が食寝分離をおこなっているが、地方的に見ると

関東が最もひくく四〇.五%、九州五六.四%、近畿六五.二%、

中部六六.八%、中国七九.一%となって、従来から予想されてい

た関東における主室の食室利用・食寝結合の慣習が割合に明瞭にあ

らわれている。」

 ここで「主室」と呼ばれているのは、その住居でもっとも大きい

部屋をさしており、二番目に大きい部屋が「補室」、それ以下は「

属室」と呼ばれている。右の引用で言われていることは、「食寝分

離」という住み方における法則が比較的強く見出されるのは中国、

中部、近畿といった地方においてであり、関東では弱くしかこの法

則があらわれていないということである。その場合、主室を食室に

用いない地方ほど、言いかえれば補室や属室を食室に用いる地方ほ

ど、「食寝分離」の法則が強く見出されるということは興味深い点

である。

 関東地方において「食寝分離」という住み方の法則が見出しがた

いことは、昭和一六年に西山夘三が行った東京市足立区の「千住緑

町住宅調査調告」ですでに確認されている。緑町住宅は、住宅営団

の前身である同潤会が分譲した住宅団地である。西山夘三はこの調

査報告のなかで、三室住居をとってみた場合、「属室を食室とする

もの最も多きも半数にみたず」という状態を記述している。

「ここに明らかなように、三室住宅を主とするきわめて簡単な住居

面構成をもつ住宅群であるにかかわらず、その食室のとり方はさま

ざまな形式があり、平面構成における食室配置に一定の方針が見ら

れない。(改行)この程度の小住宅において住居面の構成が食室の

配置の仕方でほとんど決定されることを考えると、この事実は、平

面構成の基準原則を何ら樹立していないことを示す。平面構成にお

ける科学性の欠如であり、遺憾なことといわねはならない。」

「平面構成における科学性の欠如」というきびしい表現を西山夘三

は、緑町団地ひいては関東地方の住居の平面構成に対してとってい

る。地域差に過ぎないことを、科学性という普遍的な観点から語っ

ているのではないか、という疑念が湧くが、そうではない。西山夘

三は、狭小な住居面、多人数居住、不合理な間取り等によって阻害

されているけれども、食寝分離は、小住宅の住み方を秩序づけるう

えからは、普遍的な要求とみて間違いないと述べている(「庶民住

宅の研究」一九五〇年)。

 理由は、明白である。主室を食室としている例が多い関東地方に

食寝分離の住み方の法則が弱くしか働いていないということは、食

室と寝室が相互に転用されていることを示している。すでに触れた

ように、西山夘三が転用論を批判し、否定するのは、庶民の極小住

宅に転用論を応用することは、貧しい住空間の現実を隠蔽すること

に繋がるからである。部屋の転用的な利用からはっきりとした機能

に応じた部星の分離へ、というのが西山の主張であった.機能に応

じた住空間の分化が行われてはじめて、日本の住宅現実の貧しさが

露出する、というのが西山のとった庶民住宅の革命の方法であった

のである。

 執ような調査は、次のようなことを西山に着目させるにいたる。

それは、就寝時に空室が生じるという現象であり、就寝時空室の七

割強が食堂を空室としているという点である(「千住緑町住宅調査

報告」)。「生活過程の合理的な遂行の必要上、住宅が小となれば

なるほど寝室と分離した食室を必要とすること。その広さは止むを

得ない場合はかなり小さくても耐え得ることが示された。したがっ

て住居面構成の原則のひとつは、寝室と分離した小さくてもよいが、

食室となるべき室を炊事場と直結してつくるべきことである。」

 これとほぼ同一の帰結が「庶民住宅の研究――小住宅の居住部分

の構成について―― 一九五〇年」でも述べられている。主室を食

室としている住宅の九九%が食寝複合しているのに対し、補室を食

室としている住宅では複合の割合は三六%にすぎない。これを五人

以下居住のものに限るとさらに、二四%へと複合割合は低下する。

極小住宅の方がかえって、食寝分離による住み方の整理が熱望され

ているのである。




                 食寝分離論(後)に続く


============================================================= 

  ■ 建築家の自邸に表われた家族意識 (月1回発行)

     発行者  :武田稔

発行システム:まぐまぐ http://www.mag2.com/ ID:0000017583

     MACKY http://macky.nifty.ne.jp/index.htm

HP:http://www.alpha-net.ne.jp/users2/mirutake/serizawa00.html

=============================================================

   ■ 掲示板です。なんでも書き込んで下さい。

     http://www.aichi.to/~bbs/k/nagaya.cgi?room=166

   ■ このメールマガジンへのお問い合わせ感想などは

     mirutake@mcn.ne.jp











============================================2002/01/20====

       建築家の自邸に表れた家族意識

=================================================23/25====


    食寝分離論 (後)


                     芹沢俊介


 なぜ、食室と寝室は分離されるべきなのであろうか。

 ふたつはもっとも相入れない空間であること、住居における生活

過程は最後にはこれらふたつの空間に集約されてしまうこと、が主

な理由であるだろう。

 西山夘三はおそらく食寝分離論を説いた最初の論文のなかで住空

間における生活過程を四つに分けている(「住居の基本空間に対す

る一考察」一九四一年)。常時・食事・就寝・特別な場合。このう

ち常時には食寝以外の家事・団らん・執務・保育等が含まれる。特

別の場合には来客、軽度あるいは突発の病人が考慮に入れられてい

る。特別の場合を例外的なものとしてひとまず排除してかまわない

とすれば、一日の生活過程は朝から夜へ、三つの要素が食事→常時

→食事→常時→食事→常時→就寝という順をたどって進展すること

になろう。これらのうち、同一空間内で比較的円滑に機能移行が可

能なのは、食事→常時と逆の常時→食事の過程であり、常時→就寝、

就寝→食事の過程は、部屋の片づけと布団の上げ下しという行為を

ともなうことに見られるように移行すなわち転用の過程は断絶的で

ある。空間に前の機能が残されていては、転用された空間の機能は

十分に発揮されえないからだ。ところで、常時→食事またはその逆

の食事→常時の機能転換が円滑に行なわれやすいということは、完

全ではないかも知れぬが常時過程を食事空間のなかで処理できるこ

とを意味している。それゆえ常時→就寝は食事→就寝と置きかえら

れる。こうして、食事と就寝という同一空間内で移行ないし転換す

るには不向きな、あるいほ共存しがたい対立的なふたつの機能が浮

びあがる。食寝分離は、生活過程からも不可避なのである。西山夘

三はここを、「生活の質的低下防止の第一線」ととらえ、「居住様

式再構成の基準点」に据えたのである。

 常時は食事空間に包括可能である。だとすれば、常時を含んだ食

事空間は、居間へと発展しなくてほならない。食寝分離は居間へと

飛躍することによって、「日本的粗悪住居の本質をなす居・寝結合

の止揚への起点とせねばならぬ」というわけだ。私たちは昭和一六

年の時点ですでに、LDの思想の萌芽が生じていたことを知ること

ができよう。

「居住様式再構成の基準点」を食寝分離に置くというときの、「再

構成」というモチーフに触れておく必要があるだろう。西山夘三に

よれば、我が国の過去の庶民住宅は、形式化される以前の機能分離

を内在していた。「そこでは床上と土間、ネマ・奥の問と台所・茶

の間・中の間との機能分化、夜間就寝面と昼間作業居室面、特に食

室面との分離が存在していたのだ。」(「住居空間の用途構成に於

ける食寝分離論」一九四二年)再構成というモチーフは、この形式

化以前の食寝分離を明瞭な意図のもとに、庶民住宅の住居面の構成

の中心に組み込むことである。

 西山夘三は、食寝分離を住居生活様式の合理的改善の第一歩だと

考えている。極小住宅=庶民住宅の場合、「小さくてもいいから食

室をヨリ大きな寝室とともに与える方が、たとえ過密就寝が起った

としても、ヨリ実情に即した解決であるし、住居様式の合理性にも

のっとっている」(「極小住宅における平面基準の問題」一九四一

年)。具体的に言うと、この言葉は「住宅及其ノ敷地設計基準」(

厚生省住宅規格協議会、一九四一年)の出した、居住室を三畳以上

としてすべて独立室(=寝室)とするという条件に対する批判とし

て、書かれたものである。つまり、食寝分離論は転用論に対する批

判をバネにして提案されたものでもあるのだ。西山によれば、最大

居住人員三人なら、そこに幼児一人が加わっても食室は二畳まで切

り詰められるのである。その分を寝室の方へ回せ、が与えられた場

合、それを六畳と四.五畳に分割するより、八畳と二.五畳に分割

した方が合理的である、というのが西山の主張であった。

 だが、西山夘三はここで、これまでの提案と矛盾したことを述べ

ていないか。食寝分離遂行のためには、過密就寝もやむをえないと

いう発言は、分離就寝を近代的な住居生活様式が成立するうえでの

中心課題に据えていた事実と反するのではないか。西山はこのよう

な疑問が投げかけられることを予想していた。極小住宅において食

寝分離論によって住居面が構成されたとしても、第一にそこで与え

られた独立寝室(数)は、家族数が多い家では資格のある者全員に

保証されていない。つまり分離(散)就寝という課題を充足しえな

い。第二に食室を最小限度に切り詰めたため、「全体生活」(家族

全員での食事、団らん)のすべてを食室において遂行しえない。け

れども、こうした難点は食寝分離論に帰着されるものではなく、ひ

とえに「国民住居水準の問題」である。

 食寝分離をまず、庶民住宅のなかに実現すること。このことは、

庶民の住居生活の根強い要求であるとともに、居・寝分離という合

理化の起点として重要な一歩である。これが実現したとき、分離就

寝という課題は、国民住居水準の改善をまってはじめて実現される

ものだということが、明瞭に浮び上ってくる。これが西山夘三の将

来の構想であり、この構想が戦後家族の住居史の出発点となったの

だと言える。この西山の構想がいまも有効に生きているか否かの判

定は知見の範囲では行われておらず、今後の検証に委ねられている

のである。


                           了


============================================================= 

  これで芹沢さんの住宅論は終わりです。

 以降、住宅について対談されたものをひとつ掲載するつもりです。

============================================================= 

  ■ 建築家の自邸に表われた家族意識 (月1回発行)

     発行者  :武田稔

発行システム:まぐまぐ http://www.mag2.com/ ID:0000017583

     MACKY http://macky.nifty.ne.jp/index.htm

HP:http://www.alpha-net.ne.jp/users2/mirutake/serizawa00.html

=============================================================

   ■ 掲示板です。なんでも書き込んで下さい。

     http://www.aichi.to/~bbs/k/nagaya.cgi?room=166

   ■ このメールマガジンへのお問い合わせ感想などは

       mirutake@mcn.ne.jp

============================================================= 

       朝日カルチャーセンター・横浜 講座の案内
      
   「ひととき」に探る21世紀家族像

                ―朝日新聞・家庭面から

                    講師 評論家 芹沢俊介

    現代の家族は50年前の家族とどこがどう違っているのだろうか。

   40年前、30年前と比較するとき、その比較から浮き彫りにされて

   くる問題は何だろう。

    50年続いている朝日新聞の女性の投稿欄「ひととき」の中から、

   そのときどきで大きな反響を呼んだテーマのいくつかを取り上げ、生

   き物としての家族の姿を探りたい。その生き物としての家族像から、

   これからの家族が向かう道筋が見えてくるかも知れない。

                             (講師記)

    日時  2002年1月24日、2月14日、3月7日 全3回

        木曜 19:00から20:30

    受講料 会員7,500円 一般(入会金不要)9,000円

        *受講料には消費税5%が加算されます。

    場所 ルミネ横浜8階(横浜駅東口)

============================================================= 
                 



========================================= 集合住宅論 4/4====


目次に戻る