【解答14】(C)右下端の麦藁製のねずみ 11巻「穴」 P122(新) P127

(あれにしようか、これにしようか)
おもい迷うのも、たのしい夜な夜なであった。
(略)源助は、この春に茂兵衛の女房とむすめをつれ、川崎大師へ参詣に出かけた帰り途、大森の名産・麦藁細工を買ったことをおもい出した。
大中小の鼠の麦藁細工である。

 11巻「穴」で初登場する西の久保の扇屋〔玉風堂 平野屋源助〕と番頭・茂兵衛主従は、押し入れの下から穴を掘って隣家の化粧品店〔壺屋〕から三百余両を盗み、三か月後にそっくり返しておいた。が、しばらくすると、元盗賊帯川の源助の「盗め」の血がまたもやさわぎだした。番頭の茂兵衛が仕入れで京へのぼっている留守に、源助はひとりで〔壺屋〕へしのびこみ、麦藁の鼠が川越名物の甘藷をかじったように細工して置いてきた。
 池波さんは、ことあるごとに『江戸名所図会』を一日に一度はながめたり読んだりして江戸の雰囲気へひたった。〔麦藁細工〕の鼠のいたずらはその産物といえる。深夜の執筆中、これをおもいついたときの池波さんのにんまり顔が目にうかぶようだ。
 鬼平にこの仕掛けを見破られた主従は、密偵しごとを兼務する羽目になった。