【解答9】(C)墓火の秀五郎  2巻「谷中・いろは茶屋」 P65(新)P77

「お前の好きな、あの御浪人は、このごろお達者かね?」
川越さんに訊かれたとき、
「でも揚代が、もうつづかなくて……」
さびしげに、お松がこたえた。
すると、
「そりゃあ気の毒。わしは間もなく川越へ帰らねばならぬ。しばらくは江戸へも来られまい。ま、長々と世話になったお礼というほどのものではないが……この金を好きな男のためにつかっておくれ」

 これが〔墓火の秀五郎〕。
 墓火の秀五郎のような気前のいい年長者が、若いころの池波さんの身辺にいたろう。池波さんはしばしばエッセイに、自分は年長者から可愛がられたほうだと書いている。
 ここで、池波文章の特徴の一つをあげておく。「川越へ帰らねばならぬ」がそうで、行き先、方向を示すときには、「川越に帰らねばならぬ」でなく「川越へ……」である。『鬼平』のどの篇でもいいから、一篇お確かめを。