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トランジスタのスゴいところ

(1)スイッチング作用

前ページでは,トランジスタの動作を説明するためにプッシュスイッチや可変抵抗と比べたりしました. プッシュスイッチのON・OFFは人間の手で行いますが,トランジスタの場合は「ベース端子に流す電流」でコントロールすることができます. トランジスタのこの機能を「スイッチング作用」と呼ぶらしいです.

これを「入力」・「出力」という言葉を使って考えてみると, スイッチの場合は人間の手が「入力」になります.そして,スイッチを流れる電流のON・OFFが「出力」です. これに対してトランジスタの場合は「入力」がベースの電流,「出力」がコレクタ−エミッタ間の電流ということで, 入力と出力の両方が電気的なものになっていることになります.
(電流を流す2端子に加えて,それをコントロールする3本目の端子を持っている部品(デバイス)のことを, 「三端子デバイス」と呼んだりします.トランジスタは三端子デバイスの1つです.)

これはヤバイことです. トランジスタのような三端子デバイスが生まれるまでは,「入力」に相当するものは全て人間の手でした. どんなことをやるにしても「人間が自分の手で行う」ことしかできません. たとえば,いくつかの仕事を電気回路にやらせるとします. 1つ1つの仕事をさせるたびに,その都度スイッチを操作する必要があります.

見ての通り,全部「手動」という感じです. 操作するのも人間,結果を見て次の操作をするのも人間・・・という感じで作業は進んでいきます.

これに対して,「入力」と「出力」の両方を電気的に行える場合は 1段目の回路の出力を2段目の回路の入力へ,2段目の出力を3段目の入力へ・・・ といった感じで次々と仕事(処理)を電気回路の中で行えるようになります. すなわち,三端子デバイスがあると「自動化」ができるようになるわけです.

色々な仕事を「自動化」しているものの代表として「コンピュータ」なんかが思い浮かびます. コンピュータは正に,様々な仕事をどんどん自動的に行ってくれるわけですが, これは「電気的な入力」が無ければ不可能なことです. このコンピュータに動き回るための手足を付けてやれば自律ロボットができます. そんなわけで,トランジスタのような三端子デバイスが有ると無いとでは大違いです. コンピュータの心臓部であるCPUの中には,小さなトランジスタが1億個以上入っています. CPUはまさにトランジスタの塊といった感じです.

(2)増幅作用

前ページで, トランジスタに流す電流はベース電流によって「なめらかに」変化させることができるんだ,という話が出ていました. 可変抵抗のツマミに相当するものがベース電流ということになります.

確かにその通りなのですが,重要なのは「コントロール電流の量」です. 「本電流(コレクタ−エミッタ間に流れる電流)」は大きいのに対して, 「コントロール用の電流(ベース電流)」は非常に小さく,その差は何ケタもあります. 一般的に,コントロールされる側の電流(コレクタ電流)は,コントロールする電流(ベース電流)の100〜1000倍, さらにそれ以上の場合もあります.

つまり,「非常に小さなベース電流の変化でも, トランジスタの抵抗値は大きく変化する」ということです. 抵抗値が変化すれば,当然コレクタ電流も変化しますので, 言いかえれば「小さな電流の変化で大きな電流をコントロールできる」ということになります. ・・・ぱっと思いつく例えとしては,マイクとスピーカーみたいな感じの物があります.

入力はとても小さな電気信号(マイクで拾う人の声とか)であっても,トランジスタの出力側には大きな電流の変化が現れます. 例えばここにスピーカーをつないでおけば,マイクの信号と同じ波形を持つ大電流をスピーカーに流すことができるので, 大きな音を鳴らすことができます. こんな感じのトランジスタのはたらきを「増幅作用」と呼ぶらしいです. 要はアンプです.


(※余談ですが.小学生の頃,どうしてもトランジスタの原理を知りたくて本屋さんで立ち読みをしていました. すると,「トランジスタには増幅作用がある」と仰々しく書いてあり,やはり,上図のような 挿絵が書いてありました. 当時の僕は上の図を見た時に, 「トランジスタを通すと小さい信号がでっかくなるのか!スゲー!! だったらトランジスタを通せば電池1本の電流が100本分くらいの電流になっちゃうの!?」 などと意味不明な事を考えました.トランジスタを「エネルギー発生器」(?)のような物だと思い込んでいました... エネルギー保存則なんて知らない子供でしたので.電池を買うお金が浮くもんだと思ってかなり喜んだ覚えがあります. 上の図で言えば,マイクにはマイクの電源,スピーカーにはスピーカーの電源が必要です. トランジスタはあくまで「自分の抵抗値を変える」だけですので,「大きな電流の変化」を取り出すためには, 当然それなりの電源をコレクタにつないでやる必要があります...)


「スイッチング作用」とか「増幅作用」とか出てきましたが, トランジスタ動作の本質は「ベース電流でコレクタ−エミッタ間の抵抗値が変わる」という,それだけです. ただ,コンピュータなどのディジタル回路の文脈では「スイッチング作用」の話が多く出てきます.やはりディジタル回路は 2値(1と0,ONとOFF)の話なので.それに対してアンプ等のアナログ回路の文脈では「増幅作用」の話が主役になることが多いです.

風速を変えられる扇風機を作る

では最後に,はじめにのところで話題にしていた 「風速可変扇風機」に触れておきます.これは敢えて言えば「増幅作用」を使っている感じになります...

可変抵抗を回すと,電池から可変抵抗を通ってトランジスタのベースに流れ込む電流が変化します. それに伴って,電池(+)→モーター→コレクタ→エミッタ→電池(−)という経路で流れる電流が変化します. これを見て,「じゃあモーターに直接可変抵抗をつなげばいいだろう?」と思う方もいるかもしれません.

おそらく,普通に売ってる可変抵抗でコレをやると燃えます. (燃えると言っても,火が出るというよりは静かに煙を吹く感じです.もちろん部品はダメになります). モーターに流す電流は数100mAくらいは必要なので, 抵抗なんて直列につなげたらそもそも電流が減少しすぎてモーターは回りません. 逆に抵抗値が低い可変抵抗をつなぐと電流が流れ過ぎて可変抵抗が燃えます. というか,僕がやった時は光ってました. 許容電流が大きい「巻線可変抵抗」なるものを使えば,上の単純な回路で実現可能ですが,巻線可変抵抗は値段が高くて買えませんでした...

トランジスタにも「許容電流」なるものが当然あります.トランジスタにも様々なサイズがありますので, 小さいトランジスタにモーターなんかを接続すると電流が流れ過ぎて燃えます. たまに爆裂することもあるので危ないです...


そんなこんなで,トランジスタの機能に関する大まかな説明はこの辺で終わりです. ここまでは主にバイポーラ・トランジスタを使ってトランジスタ機能の説明をしてきましたが, 次ページではこれまで触れていなかった電界効果トランジスタ(FET)の話に少しだけ触れます.




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