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世田谷「9」の字事件

1988年(昭和63年)2月21日午前1時ころ、東京都世田谷区の区立砧南中学校(生徒数686人)にストッキングを頭にかぶり白の軍手をはめた男たち9人が乱入。宿直室でパジャマに着替えようとしていた警備員(当時38歳)に対し、「盗みや放火はしない。何もしなければ危害も加えない」と脅した上、粘着テープやビニールひもでイスに縛りつけてトイレに監禁した。

3時間後、警備員は人の気配がしなくなったところで自力で脱出し、外に出てみるとグラウンド中央に横20m×縦30mに渡って机が447脚とイス9脚が放置されていた。初めそれは何か分からなかったが、上から眺めるとキレイに数字の「9」の形に描かれていることが分かった。机とイスはすべて宿直室とは別棟の3階建て南校舎から運び出されたものだった。

捜査にあたった成城署では「9」の字の意味については推理小説の題名とか前年卒業の第9期生などを意味するのではないかといった憶測がされたりしたが、実際の捜査では事件のあった砧南中学校の卒業生の聞き込みに重点がおかれた。

2月24日、「日本帝国主義革命連合軍・別動・黒い九月一派」と名乗る声明文が砧南中学校宛てに届き、「9」の意味について「光GENJI、少年隊のメンバー計10人のうち1人を暗殺する意味」とあった。また、共同通信社宛てに届いた脅迫文には「ジャニーズの芸能人は今後いっさい活動してはいかん」「無視すれば取り返しのつかんことになる、コンドウがその1人や」「ジャニ芸能人はわが祖国日本の文化伝統に多大な損害を及ぼした。よってこれからわしらの報復戦争はじまる」などとあった。「コンドウ」とは近藤真彦のことで1987年(昭和62年)12月に起きた近藤の母親の骨壺盗難事件も自分たちの犯行だということを匂わせている。近藤の所属レコード会社にも「遺骨を預かっている、レコード大賞を辞退しろ」「要求を拒否した場合は遺骨を処分する、処分したら何らかの方法で知らせる」という脅迫状が届いていたことから「9」はその通告処分ではないかとも推測された。

4月になり、捜査員が「メンバーに誘われたが、怖くなって断った」という証言から犯人グループを割り出し、4月30日までに犯行の呼びかけ人の砧南中学3期生の園芸リース販売業のA(当時22歳)、デザイン担当の信州大3年生のB(当時22歳)など9人が逮捕監禁容疑で逮捕された。

主犯Aの自供で「日本帝国主義革命連合軍・別動・黒い九月一派」と名乗る者の砧南中学校への声明文や共同通信社やレコード会社への脅迫状は犯行グループとは無関係ということが分かったが、送った者が誰であるかは不明のままである。

主犯のAは小学校時代から極真カラテにこり、5、6人ならひとりで片づけちゃうほどケンカが強く、砧南中学校では3代目番長であり、世田谷区の中学33校から集まった番長組織のアタマだった。そして卒業すると一時はマジメに小さい工場で働いていたが、やがてマルチ商法で羽根ブトンを売ったり、地上げ屋をやってお金を儲け、六本木の高級マンションに住み、ベンツを乗り回すようになったという。

描かれた「9」の字についてAは「一桁では最大で一番好きな数字だったから」という単純なものだったが、「宇宙人へのアピールで宇宙人に選ばれれば限りないチカラをもつことができる。1999年、俺たちは日本のトップにいる。それを宣言したんだ」とも言っている。

1997年(平成9年)に起きた神戸須磨児童連続殺傷事件で、神戸新聞社宛てに第2の犯行声明文が届くが、その犯行声明文はA4サイズの罫線が入った集計用紙2枚に赤い文字で横書きに書かれていた。2枚とも欄外右上の枚数を書き込む部分に<9>と書かれており、「9」と書いた理由をのちに逮捕されることになる「酒鬼薔薇聖斗」(当時、中学3年生で14歳)はただ単に便箋にその欄があったので、一番好きな数字を書いただけと答えている。さらに、なぜ好きなのかを訊かれ、切りのいい数字は10だと思っているので、その1つ前の数字が9であることと電卓などを叩いた時、一番大きな数字は、「9」を何度も叩いた数字になるからと答えている。

犯行1週間前からAはメンバー集めに約20人に声をかけたが、10人に断られ、さらに当日に1人にすっぽかされて結局9人になった。そのために「9」の字も当初の計画よりも小規模に予定を変更することになった。Aは「世間を騒がせたい」という思いと「久しぶりにたくさんの仲間とワイワイやるのが楽しかった」という。

A、Bら3人に建造物侵入、逮捕監禁罪で懲役1年6ヶ月〜1年(ともに執行猶予3年)の判決。ほかの6人には罰金1万円の略式命令が下された。

刑法130条(住居侵入等)・・・正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

刑法220条(逮捕及び監禁)・・・不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3ヶ月以上7年以下の懲役に処する。

身体を直接拘束するのが「逮捕」で、一定の区画された場所から出られなくするのが「監禁」

この事件からヒントを得て書かれた小説に『密閉教室』(講談社文庫/法月綸太郎/1991)がある。

参考文献・・・
『「事件」ブック』(春秋社/山崎哲/1989)
『明治・大正・昭和・平成 事件・犯罪大事典』(東京法経学院出版/事件・犯罪研究会編/2002)

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