天水訟  坎下、乾上
「訴訟の心得。争いは水際で止めよ。」
気運閉塞し、諸事意のごとく進まず、意見利害の対立ある象。
自分に理があっても対立は程々にせねば、かえって窮地に入る。

小吉
この卦は理不尽な強者に困り果てた弱者が堪らず公の場に訴え出た、という形です。
本来、上下心を合わせて物事に当るのが望ましいにもかかわらず、下の者が上の者を訴えるというのは余程のことです。理は訴える方に有ります。しかし、ある程度、理が通ったところでお終いにしなさい、と易は教えています。
今は運勢が衰えている時、また非難を受けたり、争いがあったり、チグハグな時です。
無理をせぬように、また誘いに乗って軽はずみに行動したりせぬ様、心を引き締めて下さい。
またことを始めるに当って後々トラブルが生じないように十分な配慮が必要です。
(概説)
「願いごと」ーかなわず。
「商ごと」ー手違いで損失あり。
「相場」ー当面は混迷。
「受験」ー不成績。
「病気」ー病状の変化激しく、危険な状態にもなる。薬や医者の間違いもある。
「就職」ー望みなし。
「天気」ー変化激しく、注意を要す。
「旅行」ー難渋する。見合わすべし。
「開業」ー時期を得ず。
「転業、移転」ー時期を得ず。
「失物」ー人手に渡り出ない。大勢に聞いてみると出るかもしれぬ。
「方角」ー北、西北。

「初爻変爻」の場合:
  争いがおこりやすい時です。まず話し合いで解決するなど、出来るだけ争いを回避することです。
  思い通りに行かないことは、無理せず方針を見直すことも必要です。

「二爻変爻」の場合:
  どうしても、という思いが強いが、概ねうまくいきません。

「三爻変爻」の場合:
  誘いを受けても動かぬこと。やがて展望が開ける。

「四爻変爻」の場合:
  今しばらくの我慢です。

「五爻変爻」の場合:
  長く悩んで来た問題が解決します。新しい運勢が開けるでしょう。

「六爻変爻」の場合:
  争いに勝っても相手から恨まれたり、傷つけられたりします。
  控えめにすることが必要です。
  病気は、あまり良く有りません。治療に専念することです。


訟は孚(まこと)ありて塞(ふさ)がる。おそれ中すれば吉。終えんとすれば凶。
大人を見るによろし。大川を渉(わた)るによろしからず。 彖に曰く、訟は上剛にして下険なり。険にして健なるは訟なり。
訟は孚(まこと)ありて塞(ふさ)がる、おそれ中すれば吉とは、剛来たりて中を得るなり。終えんとすれば凶とは、訟は成すべからざるなり。
大人を見るによろしとは、中正を尚(たっと)ぶなり。
大川を渉(わた)るによろしからずとは、淵に入るなり。

象に曰く、天と水の行き違うは訟なり。君子は以って事を作(な)すに始めを謀る。

初六。事とするところを永くせざれば、小(すこ)しく言あるも、終には吉なり。
   象に曰く、事とするところを永くせずとは、訟は長くすべからざるなり。小しく言ありといえども、その弁明らかなり。
九二。訟に克(か)たず。帰りてのがる。その邑人三百戸なれば、わざわい無し。
   象に曰く、訟に克たず、帰りてのがれ隠くるるなり。下より上を訟(うった)う、患(うれ)いの至ること拾うがごとくなり。
六三。旧徳に食(は)む。貞なれば危うけれども終には吉なり。あるいは王事に従うとも、成すことなかれ。
   象に曰く、旧徳に食むとは、上に従えば吉なるなり。
九四。訟に克(か)たず。復(かえ)りて命に即(つ)き、変えて貞に安んずれば、吉なり。
   象に曰く、復りて命に即き、変えて貞に安んずとは、失わざるなり。
九五。訟え、元吉なり。
   象に曰く、訟え元吉なりとは、中正なるをもってなり。
上九。あるいはこれに般帯を賜るも、終朝に三度これを奪わる。
   象に曰く、訟をもって服(ふく)を受くるは、また敬するに足らざるなり。


(解説)
訴訟は自分に道理がある、自分の方が正しいのに、理不尽にも相手に邪魔されることからやむを得ず起こすものである。天命を畏れかしこみ程々のところで終われば吉であるが、最後まで我が意思を貫き通そうとすれば凶である。
英明な賢者に相談するのが良い。大胆なことを決行するのはよろしくない。

彖伝(たんでん)に曰く、訟の卦の形を見るに、上が乾(天)で剛、下が坎(水)で険。険しい心で外に強く働きかけようとする、だから訴訟になる。
訟は孚(まこと)ありて塞(ふさ)がる、おそれ中すれば吉、と言うのは、この卦は「天地否」の九二の爻のところに剛(陽爻)が来た形で、中庸の心を持てば、対立は収まる。
終えんとすれば凶、と言うのは、本来他人の非をあげつらう訴訟は出来るだけ避けるべきものだからである。
大人を見るによろし、と言うのは、中正を尊び、識者の見識に従うのがのが適切だからである。
大川を渉(わた)るによろしからず、と言うのは、深みに落ち込み渡ることができないからである。

象伝に曰く、天は上にとどまり、水は下に流れるように、考えや行いが行き違うことから訴訟になる。
君子はこのようなことを避けるため、事を行おうとするときは、まず初めに慎重に準備をするものである。

初六。事を長引かせないようにすれば、少々の言い争いがあっても、最後は吉となる。
   象伝に曰く、事とするところを永くせずとは、訴訟は長引かせてはならないものだからである。
   多少の言い争いはあっても、こちらの主張が正しいことは明らかだからである。
九二。訴訟に勝つ見込みはない。引き下がって逃れるのが良ろしい。自分の小さい領域内で密やかにしていれば災いが降りかかることはない。
   象伝に曰く、訴訟に勝てないことが判っているから、逃れて隠れるのである。下位のものが上位のものを訴えるのは、患いを自分の方から拾いとるようなものである。
六三。これまでの境遇に甘んじて、大人しくすること。心正しくしていれば危ないことがあっても最後は吉になる。
   王の命を受けるようなことが有っても出過ぎることの無いように。
   象伝に曰く、旧徳に食むとは、上の者に従えば吉と言うことである。
九四。訴訟に勝つ見込みはない。引き下がり従来の役目に就いて、気持ちを入れ替えて貞正に安すんずれば吉である。
   象伝に曰く、復りて命に即き、変えて貞に安んずとは、道を失わないからである。
九五。訴訟の裁きは公平で吉である。
   象伝に曰く、訟え元吉なりとは、裁きをする者が中正の徳を備えているからである。
上九。訴訟を最後まで争って勝ち、朝廷より般帯(皮革の大帯)を下賜されてもこれを何度も奪われてしまう。
   象伝に曰く、訴訟に勝って褒美を受けるのは、尊敬するに当たらないことである。


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