天沢履  兌下、乾上
「虎の尾を踏む危機から脱出する方法。」
危険困難に直面するが謙虚、従順に徹することで危機を脱出できる。


履(リ)は木をくり抜いて作ったクツ。そのクツを履く、履いて踏みしめる、踏みしめて歩く、という意味です。履はしかるべき立場の者が正装して履き、威儀を正して歩むものです。
この卦は柔が剛に対処する方策、強力な敵や難儀な問題に出会った時どう切り抜けるかということです。
並みの対応では身を滅ぼすことになります。礼を尽くし、誠心誠意対応することです。
その結果、無事切り抜けることができるから吉なのです。
この卦は、丁寧に道を踏む、道理や礼節を弁える、という意味が有ります。これがなかなか難しく、人はよく道を外し、危機に堕ちるのです。
(概説)
「願いごと」ー至難。時期を待つべし。
「商ごと」ー成功至難。
「相場」ー先上がる。
「受験」ー危うく合格。
「病気」ー重体危機なるも養生に専念すれば回復する。医者が大切。
「就職」ー今は不調。時期を待て。
「天気」ー悪天注意。
「旅行」ー危険あり。見合わすべし。
「開業、転業、移転」ー時期を得ず。
「失物」ー何かの下になっている。気長に探せば出る。
「方角」ー西、西北。
「色」ー白


「初爻変爻」の場合:
  まだ危険にはちょっと距離が有ります。今の内に対策を。
  人の助けが得られないで苦労をしますが何とか進むでしょう。

「二爻変爻」の場合:
  淡々と我が道を行く、といったところでしょうか。欲を出さずに進めばよいでしょう。

「三爻変爻」の場合:
  能力以上のことに手を出して困ったことにならないよう注意。
  とにかく無理をせぬことです。

「四爻変爻」の場合:
  周到な準備、根回し、配慮により困難を回避することが出来ます。

「五爻変爻」の場合:
  内輪でのもめごとなどに注意。
  正論を述べて苦境に立つかも知れません。

「六爻変爻」の場合:
  前例など参考にすればうまく行く。
  懸案の問題が解決することもあります。   


「虎の尾を履むも人を喰らわず。享る。」

彖に曰く、履は、柔にして剛を履むなり。よろこびて乾に応ず。ここをもって、虎の尾を履むも人を喰らわず、享るなり。
剛中正にして、帝位を履みてやましからず、光明あるなり。

象に曰く、上天にして、下沢なるは履なり。君子は以って上下を分かち民の志を定む。

初九。素履。往くも咎なし。
   象に曰く、素履の往くは、独り願を行うなり。
九二。道を履むこと坦々たり。幽人貞なれば吉なり。
   象に曰く、幽人貞なれば吉なりとは、中自ら乱さざるなり。
六三。眇にてよく見んとし、跛にてよく踏まんとす。虎の尾を踏むは人を喰う。凶。武人大君となる。
   象に曰く、眇にてよく見んとすとは、もって明ありとするに足らざるなり。
   跛にてよく踏まんとすとは、もって行を共にするに足らざるなり。
   人を喰うの凶とは、位当たらざればなり。武人大君となるとは、志のみ剛なるなり。
九四。虎の尾を履む。愬愬たれば、ついには吉なり。
   象に曰く、愬愬たればついには吉なりとは、志行なわるるなり。
九五。夬(さだ)めて踏む、貞なれど危うし。
   象に曰く、夬めて踏む、貞なれど危うしとは、位正しく当てればなり。
上九。履むを視て祥を考う。それ旋(めぐ)るときは元吉なり。
   象に曰く、元吉にして上にあるは、大いに慶びあるなり。


(解説)
「虎の尾を履むが、人を咥(くら)わず。亨(とお)る。(目的が貫徹出来る。)

彖伝(たんでん)に曰く、履は柔軟、従順な者が剛健な者を履む、説(よろこ)んで乾(剛健なる者)に順応する象である。だから、虎の尾を履むが、人を咥わず。亨る、のである。

象伝(しょうでん)に曰く、天が上に、沢が下にあるのが履の卦である。君子はその「各々が在るべきところに在る」という象に則り、上下の別をはっきりさせ、その結果民の志しも定まる。

初九。素直な心で履み進む。進んで問題は無い。
   象伝に曰く、素直な心で履み進むということは、自分独りの決断で行動することである。
九二。坦々として履み進む。幽人(山中に隠棲する者)の如く貞正に(志の中心がぶれないように)すればよろしい。
   象伝に曰く、幽人貞吉とは、心中が乱れることが無いからである。
六三。自分の立場、能力をわきまえず、例えば眇(すがめ、視力が弱い)のに良く見えると思い、
   跛(あしなえ、片足が悪い)のに強く履もうと思う。このような者が虎の尾を履めば喰い殺される。
   威勢ばかりが良いだけの者が大君になろうとするようなものである。
   象伝に曰く、眇にてよく見んとすとは、明瞭に見る能力が不足していることである。
   跛にてよく踏まんとすとは、共働して行う能力が不足していることである。
   人を喰うの凶とは、位が不当だからである。武人大君となるとは、気持ちだけ威勢がいいからである。
九四。虎の尾を履むような危険な立場にある。
   愬愬(さくさく。おそれ慎む)心がけで行動すれば、最後は吉である。
   象伝に曰く、愬愬たればついには吉なりと言うのは、その志がやがて行われるからである。
九五。その地位、立場から決然と履み進む。その意気は正しいが危険を伴う。
   象伝に曰く、夬めて踏む、貞なれど危うしと言うのは、その地位立場からして正当な行動ではあるが、
   そもそもが危険な事態であるからである。
上九。自分がこれまで履み進んできたところを省りみて祥(善悪、正邪)を考える。
   その上で正しい行いをするようにすれば大いに吉を得られる。
   象伝に曰く、最後に大いに吉であるとは、大いに慶福があるということである。


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