【分権改革要綱案】

◎首相は要綱案に目を通したのか

 この人の頭には、野党の問責決議案と洞爺湖サミットのことしかないのではないかと思いたくなる。分権改革を「政権の最重要課題」に掲げた福田首相のことだ。
 地方分権改革推進委員会が求める権限移譲に最後まで抵抗する官庁に、さすがに首相も黙っていられなくなって関係閣僚に「忠告」したのに、である。
 政府が
11日、自民党の地方分権改革推進特命委員会に示した「地方分権改革推進要綱案」は、焦点の農地転用があっさり後退するなど、分権委勧告の主要項目は「今後の検討」に回すものが目立った。
 増田総務相と関係各省大臣が、暮れの来年度予算編成の大詰めに見られるような「大臣折衝」を幾度となく重ねたことが、無為に帰すような要綱案としかいいようがない。勧告に反発していた急先鋒の特命委員会がすんなりと了承したほどだから、勧告から懸け離れた内容であることは明白だ。
 要綱案は、勧告と違って政策に直結する。政府は20日にも全閣僚による地方分権改革推進本部(本部長・福田首相)を開いて正式決定、続いて、来年度予算編成に向けてまとめる「骨太の方針2008」に反映させる。
 つまり、分権委の第1次勧告を受けた政府の手続きは、「粛々」と始まったのである。

 要綱案はまず、「第1次勧告を最大限尊重する」とした。
 ところが、農地転用制度は「今秋に予定される農地制度改革で勧告の方向により検討」であり、国道と一級河川の移譲対象も「年末までに検討」である。
 全国一律の義務付けの即時廃止を求められた福祉施設の設置基準は「来年度の分権改革推進計画策定までに結論を得る」となった。

 いずれも結論を役所の検討に任せた改革の先送りであることは隠しようがない。

特命委員会が主張するように、本当に「農地は国でなければ守れない」のか。福祉施設の設置基準が全国統一でなければ「市民の安心につながらない」根拠は何なのか全く理解できない。地域事情を考えれば、地域の判断が優先されてこそ「市民の安心」が保たれるのではないか。
 農地転用に対する特命委員会の反発は激しかった。しかし、「国でなければ農地が守れない」ことを、国民のどれほどの人が信ずるだろう。中山間地の疲弊、耕作放棄地の増加は農政の行き詰まりを示すものだし、現場の実情を知らない場当たり的な政策が、どれほど農村を追い込んだことか。

 世界的な食料問題が突き付けられ、先進国の中で最低の食料自給率を改善するには、まず政策当局の頭の切り替えから始めなければならない。
 農地転用を地方に任せたら、開発の波に飲み込まれてしまうかのごとき主張を本気でしているとしたら、その言い分自体が地方を全く信用していないことの表れである。
 彼らの主張は、いわば「超中央集権」である。分権改革の流れに気付いていないとは思いたくないが、地方の自主・自立の意味をよくよく考えてほしい。

さて、こんな要綱案が霞が関と永田町でまとまったことに、当の分権委員会が納得するはずはない。しかし、政治的後ろ盾がない分権委では打つ手も限られる。世論を味方につけるしか突破口は開けない。
 権益を削がれる霞が関が大きく譲歩することは考えにくい。永田町、とりわけ族議員は存在意義を失うような改革には最後まで抵抗するだろう。

 常套句は使いたくないが、やはり政治のリーダーシップが求められている、としか言いようがない。

08611日)