菅・民主党代表代行(左)と議論する麻生・全国知事会会長(右)。道路財源問題では、最後まで平行線をたどった(08年2月19日、東京・紀尾井町のホテル)

【道路財源の公開討論】B完


◎福田首相は調整に乗り出せ


 道路財源問題が浮上して以来、全国知事会など地方6団体は、国が定めたルールで整備計画を全うしてくれなければ困ると盛んに強調している。だが、言い分は住民の意を受けたものかよく分からない。地方自治との関連でも、納得できない人が多いのではないか。
 地方の自立が求めれれている今日、このままではいいとは思えない。

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 三位一体改革のとき、地方6団体は財源と権限の移譲を、これでもか、これでもかと思えるほど要求した。地方自立に欠かせないプロセスだったからだ。
 その同じ6団体が、道路問題で主張している姿は、自治の追求とは思えないくらい政府、与党の言い分をオウム返ししているに似ている。言い換えると、本人たちの本音はともかく、政府、与党の「応援団」としか映らない。「別働隊」と言ってもいいかもしれない。
 地方団体は現行制度が崩れると、地方財政への深刻な影響が表れると言う。暫定税率が廃止されると予定していた予算編成ができなくなる、一般財源化されると道路整備に福祉、教育予算が食われてしまうからだという。
 それがもし本音ならば、予算を道路だけに縛り付けることが、地方行政、県民にとって最善の方策なのかも少しは考えるべきではないか。
 就任1年目の東国原知事とすれば、事務方が用意し説明したデータを基に県内の道路未整備を訴えるのは、ある意味では当然だ。ただ、事務方は道路問題の背景、実態を政治的な側面から説明したのだろうか。
 東国原知事のスクリーンを使った宮崎県の道路実情の説明は、窮状の訴えを超える自治行政の戦略が感じられない。

教育水準が高く、学力も自慢できた日本が諸外国のそれと比べた実像が、政府や教育関係者を慌てさせている。無資源国の日本は「人」と「技術」しか自らの将来を託す資源がないことを思い起こすべきだ。道路だけが、投資の対象ではない。
 道路、道路の大合唱を聞くと、一昔前の「列島改造」「バブル経済」当時の雰囲気を思い出してしまう。
 予算に地域の競争条件(ここでは幹線道路)を同じにしなければ競争にもならないという主張も理解できる。ところが、その競争条件をあまり考慮することなく道路整備が策定されてきたのである。

 分権改革の終盤で行われた「国と地方の協議の場」といった形の交渉の場が、これまで道路問題で持ち上がらなかったのが不思議でならない。
 分権型社会は地域の優劣がいやでもはっきりする。自治体の競争条件が整えられるに越したことはない。社会的インフラを可能な限り整備しないまま「競争しろ」と言われても酷な話だからだ。
 東国原知事は企業誘致を例に挙げ、「企業は『道路は大丈夫ですか』と聞いてくる。それに応えられるような整備をしておかないと、企業は来てくれない」と言う。道路整備は最低限のインフラ整備という意味だ。
 企業立地の現状を見ると、企業は進出先の選定に厳しい判断を示している。道路だけでなく、教育環境、人材確保、住環境などに加えて行政の対応、マーケット(市場)にどうつなげるかを極めて重視している。
 道路がなければ、すべてが始まらないという反論はあるだろうが、企業立地は行政が考えるほど単純でない。それは、当の企業誘致を担当した職員なら、嫌というほど分かっているはずなのだが。

宮崎県には確かに「命の道」と言える道路が多い。私が10年ほど前、取材で訪ねた椎葉村は、日向市から熊本県境に向かって約75キロだが、バスが走った327号は、椎葉村に近付くと道幅は狭く、車も行き交えない。代替道路がないこのあたりで土砂崩れが起きれば、何日間も交通不能となり、陸の孤島と化す。
 道路は幹線道路だけではない。生活道路、命の道もある。国土の均衡ある発展を目指した「国土総合開発計画」から取り残された山間僻地は、近年、「限界集落」に示されるように政治・行政の恩恵から見放された状態で消滅の道を歩み始めている。

 「格差社会」の典型とも言える疲弊地域の顕在化に対する効果的な政策は見当たらない。改革派知事として名を売った増田総務相の、いわゆる「増田プラン」は従来の総務省にはない発想なのだが、効果の程は計りがたい。
 地域振興は喫緊の課題として自治体の肩にのしかかっている。
 繰り返しになるが、分権社会は地域の独自性を競う。都市部、地方、中山間地などさまざまな地域社会の知恵が問われる時代でもある。
 中山間地を多く抱えた自治体とそうでない自治体が、同じ競争条件を整えることは不可能に近い。地域の特色、特性を生かした自治体間競争にならざるを得ない。
 第2次分権改革のスタートは、皮肉にも道路問題でテープが切られたようだ。あらためて、権限、税財源、補助金問題を考え直すことを試されている。

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 道路特定財源の是非、ガソリン暫定税率の問題は見通しがないまま時間だけが過ぎている。残り40日を切った3月の年度末ぎりぎりまで政府、与党と野党の調整が続くだろうが、不思議なのは、福田首相の動きに野党との調整を促すような気配がないことだ。首相にその問題意識はないなずはないと思うのだが。
 首相の「指示」がなければ、与党は従来の主張を繰り返すだけだろう。
 首相は「落しどころ」を考えて動き出さなければ、問題は収拾しない。先の薬害肝炎訴訟問題でも、自民党幹部が再三首相官邸を訪ね、首相に議員立法で動くようアドバイスした。
 今、あらためて首相の出番が来ていると判断すべきだろう。
 道路特定財源や暫定税率の手直しは避けて通れない。それを基に道路整備中期計画の改定を視野に入れた政府と与野党の協議を始めるべきだ。その協議は開かれたものでなければならないし、地方代表も正式なメンバーとして加わらなければならない。
 当面する地方自治体の新年度予算編成については、政府は臨時措置として何らかの対策が求められるだろう。(08223日)