【分権改革推進要綱】

危機意識が足りない

 これが再スタートを切る分権改革の旗印といえるのだろうか。
 政府の地方分権改革推進要綱は国道、一級河川の取り扱いに加えて、焦点の農地転用許可権限の移譲が骨抜きになるなど、地方分権改革推進委員会の第一次勧告から大きく後退した。
 確かに、要綱は「公営住宅の入居要件緩和」や「幼稚園と保育所の機能一元化」など、勧告にあった三十七項目のうち二十八項目を盛り込んだ。保健所設置や保健所長の資格要件緩和も本年度中に結論を出すという。
 項目数だけ見れば勧告を踏襲しているが、見過ごせないのは要綱作成に当たって内閣官房が、省庁と自民党の族議員の圧力に無力だった点だ。
 福田康夫首相は分権委の丹羽宇一郎委員長に「しっかりと受け止めて対処する」と労をねぎらったが、要綱には「地方分権は最大の政治課題」とする首相の意気込みがほとんど感じられない。

 象徴的だったのは、世界的な食料不足が懸念される中で、農政の今後を占う農地転用の許可権限の扱いだった。
 「農地転用」は勧告の最大の眼目だ。勧告は過去の農政の失敗を念頭に、農地転用の許可権限を地方に移譲するよう求めた。これに自民党の特命委員会が猛反発、国民の食料と農地の安定確保は「国の責任。地方に任せられない」とねじ込み、農地転用の許可権限は最終的に「国の責任」の名の下に、地方の手が届かないところに行ってしまった。
 世界的規模での食料問題を逆手に取った国の責任論が、どれほど説得力があるのか疑問だ。耕作放棄地が増え続ける中山間地の疲弊は、農業政策と農村の位置付けが不明確な「農村対策」に原因がある。その教訓が生かされていない。

 国道と一つの都道府県で完結する一級河川の取り扱いは「原則として都道府県に権限を移管する」としたが、移譲対象は国土交通省の検討に任せ、実施時期もあいまいな表現で終わった。
 国道と一級河川の扱いが重要なのは、今秋の第二次勧告の中心となる国の出先機関の見直しに直結するからだ。
 国交省や農林水産省の抵抗が強いのは、それぞれ地方整備局、地方農政局といった公共事業関連の出先機関の存在意義が問われることへの警戒からといっていい。だが、摘発された国交省北海道開発局の官製談合事件は、そうした出先機関の体質を示していないか。
 出先機関は都道府県との二重行政だけでなく、国の地方支配の象徴だ。
 もはや、省庁と族議員のエゴを見て見ぬふりする時期ではない。首相は改革に向けて関係閣僚に先頭に立つよう指示したが、先頭に立つべきは首相自身である。

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