与謝野氏はアキレス腱

雑記帳

2011年1月15日

◎物議かもす菅第二次改造内閣(ブログ)

 案の定というべきか。
 発足したばかりの菅第二次改造内閣だが、早くも与謝野経済財政相が矢面に立たされそうな気配になった。首相は同氏を改造内閣の目玉と自賛するが、与党内では全く意味の違うサプライズである。矢面の先にどんな政治状況が待ち受けるのか注目したい。

▼与謝野氏の動き次第で波乱も

首相にとって消費税発言で味わった、昨年の参院選のあの忌まわしい思いをどこかで場面転換しなければ気がすまない。つまり、腹に溜まって抑えようがなくなった「イラ感」を、何らかの手段で放出する機会を窺っていたわけである。
 自前の予算編成となる来年度予算案は抑えようもなく膨らみ、またも膨大な国債という借金に頼らざるを得なくなった。無駄・冗費の洗い出しを公言していたが思っていたような打ち出の小槌とは程遠いものだった。
 打ち出の小槌がないなら、税制改革という形で消費税を引き上げるしかない。そのためには財政再建をリードしてくれる有力政治家が必要になる。首相にとっては、「たちあがれ日本」を離党した財政再建論者の与謝野氏は、瓢箪から駒、想定外の人物だったのである。すべてを任せておけばいいからだ。
 与謝野氏の登用は異例だった。広く人材を求めたといえば聞こえはいいが、政治的思惑の強い人事である。ところが、与謝野氏の心は必ずしも首相と同じではない。財政再建という思いは同じだが、首相の政治的思惑に対して与謝野氏の財政再建論は信念ともいえる。
 与謝野氏は24日に開会する通常国会で、首相に代わって税制改革と社会保障の一体改革を主張、財政再建論を突き進むはずだ。税制改革という名の消費税増税がはっきりと姿を表すことになるだろう。
 となると、民意はどう出るか。財源問題で消費税やむなしの声は各種世論調査でも表れている。だが、この「やむなし」は理屈であって、生活実態を考えた場合は必ずしも消費税を認めるものではない。与党内の消費税反対は、4月の統一地方選をにらんだもので、昨年9月に首相が唐突に言い出し、そして撤回した消費税問題が再現することへの恐怖感からだ。
 ただでさえ民主党は地方選で立て続けに惨敗を喫している。2月初旬に行われる愛知県知事選・名古屋市長選、さらには住民投票の結果次第の名古屋市議選の帰趨は、開会早々の通常国会論議にも大きな影響を及ぼしかねない。統一選は既に始まっているのだ。

▼閣内の役割に微妙なズレ

第二次改造内閣で菅内閣の支持率は幾分持ち直したが、これで有権者が民主党に戻ってきたと考えるのは早計すぎる。昨年秋、財政破綻のギリシャの例を持ち出して消費税引き上げを言い出し、今度は国家的危機だから税制全般の見直しだと言われても、大半の国民は納得しない。
 さらに注意しなければならないのは、自民党に三くだり半を突きつけて離党した与謝野氏との話し合いに自民党が乗ってこない可能性が高いことだ。石原幹事長は「信頼の置けない人と話すことはできない」とにべもない。与謝野氏が財政再建に一生懸命になればなるほど与野党の対立、与党内の亀裂が大きくなる矛盾をはらんでいる。最悪の場合、税制改革が菅内閣を袋小路に追い込むことだってあるかもしれない。
 それと、与謝野氏と野田財務相、さらには地方財政に絡んで片山総務相との関係にも響きかねないことも考えておかねばならない。財政再建論者としての与謝野氏の存在が大きければ大きいほど、波乱要因も無視できないということだ。
 財政再建論については閣内でも微妙なズレがある。経済財政担当相から経済産業相に横滑りした海江田氏はデフレ脱却を優先すべきで、その前に消費税を云々すべきではないという意見だ。与謝野、海江田両氏は選挙区が衆院東京1で同じ。同じ選挙区の政治家を閣内に据える首相の感覚も分からないが、政治主導でリーダーシップを印象付けたい首相の思惑が、閣内不統一、党内対立を一段と激化させかねない想定外の事態を招くことも予想される。
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 菅第二次改造内閣は財務相経験で重鎮の藤井氏を官房副長官に据えた。軽量級の枝野官房長官を支えるためだが、主目的は霞が関の中央省庁の束ねである。参院前議長の江田氏を法相に、旧民社の中野氏を国家公安委員長に充てた。菅内閣が考えられるすべてを出し切った布陣だ。
 首相が意図するのは、通常国会の乗り切り一点に絞られる。民主党内の融和に見切りをつけて臨む通常国会は、冒頭から波乱含みで始まるだろう。永田町一流の政局が、政策論議を置き去りにして一気に火を噴くのか。
 今、私の頭をよぎるのは、自公政権が地方の反乱で選挙の敗北を重ね、政権交代につながった軌跡である。

11115日)=尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」