鴨川条例
稲垣勝彦
鴨川条例が制定・施行された。この条例には、鴨川を「山紫水明」と言われる京都のシンボルとして、いつまでも府民の憩いの場として後世に引き継ごうとする思いが込められている。
その前文では、「鴨川は、平安京の造営以来、京都の歩みとともに絶え間なく流れ、その歴史の中で人々の集いや遊興の場、芸能発祥の舞台となり、また、その清流は、様々な伝統的な水文化をはぐくんできた。その一方で、鴨川は、時にはん濫して人々に多大な被害をもたらすこともあった。」と始められ、「京都に暮らす人々は、鴨川の猛威を防ぐ工夫を重ねながら、適切にその管理を続けるとともに、水源をかん養する森林の保全に力を注いできた。こうした努力により、鴨川の清流や鴨川と周囲の山々とが織り成す四季の美しい景観が守られ、今に伝えられている。」と続けられている。
鴨川は古来から氾濫を繰り返してきた川であり、平安時代に長期にわたり院政を引いた白河法皇が「天下の三不如意(思いどおりにならないもの)」のひとつとして賀茂川(鴨川)の水(鴨川の流れとそれによる水害)を挙げたというのも有名な故事として伝えられている。
そして、「私たちは、脈々と受け継がれてきた鴨川等の良好な河川環境がもたらす恵みを、現在の京都に生きる私たちばかりでなく、将来の世代や京都を訪れる人々、更には下流の淀川水系にかかわる人々が享受できるよう、(中略)鴨川等の安心・安全で良好かつ快適な河川環境を実現するための施策を推進し、もって府民の誇りである鴨川等を後世に引き継ぐため、この条例を制定する。」と締め括られている。
京都に住む私たちにとって、鴨川はやはり特別な存在であり誇りである。そこに訪れる人も様々である。散歩をする人、ジョギングをする人、本を読む人、昼寝をする人、お弁当を食べている人‥‥、子どもからお年寄りまで天気の良い日などは人がどこからともなく集まってくる。
しかし、なぜ今条例なのかと考えてみたとき、そこには様々な課題が見えてくる。上流域の開発、廃棄物の不法投棄などによる水質の問題(一時期より改善されてはいるが)、花火やバーベキューによる騒音、空調の室外機や納涼床の不統一になどよる景観問題など‥‥。これらの”課題”に対応するために条例が制定されたのである。
規制を行わなければシンボルが守れないと言うのは、今ここに住む者にとってはいささか寂しさを覚える。規制を行わずに、今の人たちによって、自然のままで、この素晴らしい鴨川を未来へ引き継いでいけるなら、それにこしたことはないし、より素晴らしいであろう。
昔から鴨川の上流に住む人たちは、鴨川を神聖な川として、また下流の人のことを考えて、どこでもこの綺麗な水が使えるよう、できる限り水を汚さない生活をしてきたと聞く。そのような一人ひとりの鴨川に対する思いが、今の鴨川を創り、そして、その清らかな思いが、鴨川の清々しい風となって私たちに届いているのかもしれない。
勿論、今住む人が皆鴨川を壊しているかというと、そんなことはない。今でも鴨川を美しくする活動が多くの人たちによって支えられ、行われている。この鴨川条例を契機に改めて鴨川の良さに気づき、京に住む人、訪れる人にとって、いつまでも安らげる場所としてあり続けられるよう引き継いでいきたいものである。
皆さんも是非鴨川にお越しいただき、せせらぎの中でゆったりとした時間と安らぎを感じてみてください。
(京都府総務部自治振興課)