社説
☆橋本首相は懸案の米軍用地特措法を成立させて訪米、日米首脳会談に臨む。しかし、沖縄問題は「基地」と「経済」をどう調和させるかで新たな問題に段階に移る。
◎キーワードは自立、発展(97年4月22日付)
橋本龍太郎首相は、恐らく肩の荷を下ろした気持ちでクリントン大統領との日米首脳会談に臨むだろう。
米政府から「国内問題」と突き放された沖縄の米軍基地強制使用問題は、米軍用地特別措置法(特措法)改正案が圧倒的多数で成立。そして、政権の基盤さえ脅かしかねなかった「沖縄政
局」が収束したからだ。
肝心の基地機能の見なおしは事実上先送りされる中で、これからは沖縄側が求める経済振興策に首相がどんな指導力を発揮するかが焦点となる。
沖縄振興のキーワードは「自立・発展」である。
本土復帰から二十五年、政府は五兆円におよぶ財政資金を投入する一方、各種の経済特例措置で沖縄経済の自立を後押ししてきた。
だが、この間の施策は戦後の米軍占領下という異常な状況の中で、健全な経済体制が育っていない状態に対して継続的に行われたため、いびつな構造を生み出してしまった。
道路などの社会資本はほぼ期待通り整備されたが、公共事業依存体質が強く、産業振興には結びついていない。基地返還の跡地利用はできているとは、とても言えない。
さらに、他府県に比べた高額補助金は補助金依存体質を高める結果となっている。自然条件を生かしたリゾート施設の整備も、圧倒的な本土資本の進出が地元とのあつれきを招いている。
こうした沖縄の特殊性は、県民所得が全国平均の約七割、失業率は平均の二倍というデータに表れている。
かつての基地依存から公共事業依存の経済に移ったが、自立への道は生やさしくない。沖縄の振興策は、まず自立への道筋をどうつくるかから始めなければならない。
沖縄県は二〇一五年までに基地の全面撤去を前提にしたグランドデザインをまとめ、国際都市形成構想を軸に政府に大幅な規制緩和や自由貿易地域の強化・拡充、ノービザ制度の導入などを求めている。
構想は、経済的にも文化的にも沖縄を国際交流拠点に位置付けようというものだ。
昨年秋以降、政府、与党は流動化する政局を乗り切るため、特措法改正をちらつかせる一方で、沖縄振興策に万全を期す意向を再三表明した。
今回の法改正に際しても、衆参両院は基地の整理・縮小や振興策に全力で取り組む委員会の付帯決議をし、自民、社民、さきがけの与党三党は八項目の振興策で合意した。
衆院は今週中にも、沖縄の心情に訴える同様の趣旨の国会決議を採択する。
この国会決議は、特措法の改正が避けられなくなった時点で、沖縄県が「最後のよりどころ」(県幹部)として政府に申し入れ実現する運びとなったのである。
沖縄の米軍基地縮小についての国会決議は、返還協定承認案が衆院本会議で可決された一九七一年十一月にもなされているが、決議の趣旨はほとんど生かされていないままだ。
今度の国会や委員会の決議と与党三党の合意事項がどこまで沖縄県民の不安を念頭に置いてなされたか疑問がある。
法改正の審議入り前に、既に結果が分かってしまった特措法改正を正当化するための「政治的妥協」の側面はぬぐえない。
政局を乗り切るための決議だった、と思われないように国会は責任を自覚し行動すべきだ。
梶山静六官房長官が言う「一国二制度的な改革を目指す」は、文字通り政府の公約として、今後の作業にきちんと反映させなければならない。
在日米軍の七割が駐留する沖縄は、日米安保条約の下で一国二制度に置かれている。「平和の配当」は県民に無縁だった。大胆な改革がリップサービスで終わってしまっては、沖縄の自立も発展も望めない。
急成長を続けるアジアの玄関口としての沖縄の可能性は大きい。香港返還を前に、台湾が沖縄に大きな関心を示しているのは注目していい。閉塞状態の日本経済の活路として沖縄を位置付けられないか。
沖縄の自立、発展は地方分権のモデルとなり得るが、広大な基地が現状のままでは、それは無理だ。
県民の声を背に米国に物を言う勇気が、日米の新しい友好関係の確立にも必要だろう。