☆沖縄問題を真正面から見る首長はそう多くない。アジア各国と歴史的な交流の経験を持つ沖縄を、アジアと九州の交流を軸に独特のローカル外交を続けている大分県の平松守彦知事に聞いた。
 この企画は2回続きだが、1回目は同僚が沖縄県の前知事の大田昌秀氏に話を聞いた。大田氏は沖縄の基地問題を踏まえながら、総合的なアジア集団安保体制の必要性を強調した。私が担当した平松知事の話を紹介する。

インタビュー企画「沖縄―サミットの陰影」
2回続きの(下)平松守彦大分県知事

◎国境超えた交流をバネに
 地道な活性化対策必要

 アジア各国と先取的な地域交流を積み重ねる平松守彦知事は、サミット後を視野に基地問題での政府の役割を強調。一方で、新生沖縄の地域振興面の努力不足に苦言を呈した。

 ▽基地集中はおかしい

 「沖縄の米軍基地問題は中国も含めて二十一世紀(の外交関係)をどう構築するか、という国際政治の枠組みの中で起きている。パワーポリティクスの中で、これからの日米中の関係をどう考えるかということだ。沖縄に在日米軍基地が集中するのはだれが見てもおかしいし、基地問題は大きな枠組みの中で努力して解決する以外にない」
 「国の安全保障は国政の根幹をなす問題だが、一方で地方自治体にとっての最重要課題でもある。米海兵隊の実弾射撃訓練を本土五カ所の演習場に分散・移転し、県内の日出生台演習場でも実施するようになった。沖縄の実情を考え、いかんともしがたいと判断した」
 「沖縄県が県民の治安、安全確保を最優先して基地の整理縮小を国に繰り返し要請することは当然だ。国もしっかりと受け止め解決することを願っている」

 ▽沖縄中心の地図を

 
「国が沖縄の特別振興策を講ずるのは当然だが、地域振興を図るための新しい経済圏という視点が国も地元も欠けている。沖縄を中心に地図を作ると、中国・福建省、台湾、九州本島がある。私は十年前からアジア九州地域交流サミットをやっているが、いろんな国や地域の首長が集まって話し合うと国境を超えた議論ができる。そうしたことを積み重ねれば新しい沖縄像が見えてくる」
 「アジアが二十一世紀の成長センターになるのは間違いない。欧州に欧州連合(EU)があるように、アジアにアジア連合(AU)があっていい。そういう気持ちでアジア経済圏を考えアジア外交をやれば、地政学的に沖縄が中心になる。首相官邸にはそのような発想に基づく具体案がなかった」
 「沖縄を、ハイテクを中心にした産業基地と言う前に、基盤は農業という認識を持って地に足が着いた沖縄問題の議論が必要だ。いきなりハイテク産業だ、自由貿易地域だでは、一体だれがやるのとなったらどうするか。付加価値の高い農業を育て、地域の足腰を強くしないといけない。李登輝さん(台湾前総統)も沖縄にアドバイスしたいと言っていた」

 ▽地域間交流が不足

 「大田昌秀さん(前沖縄県知事)は基地問題に忙殺されて農業や工業、中小企業問題にかかわる時間がなかったようだ。あまりにも基地問題に集中し過ぎてしまい、政府もそういう問題でしか沖縄対策を考えていなかった。そこに一番の問題がある。地域の活性化をどういう順序で、何をやるかの議論が十分でなかった」
 「九州・沖縄はアジアへのゲートウエー(出入り口)と位置付けられている。だが、ゲートウエーには経済圏としての後背地が要る。沖縄の場合、後背地は九州、台湾、中国・福建省であり、第五次全国総合開発計画(五全総)でいう新太平洋国土軸にまで広がる。そのためにはモノ、ヒトの交流を活発にさせるべきだ」
 「官邸に行って(基地問題や経済振興策を)どうしてくれると言えば問題は前進するかもしれない。官邸に頼まなければならない事情も分かるが、官邸との直接ルートのみでは地域間交流が進まなくなる。沖縄を独立的な存在にしてはならない」
 「われわれは、アジア各国との交流で持てる力と知恵を提供し共生の努力を続けている。グローバルに考えて地域的にどう行動するかだ」

(聞き手・構成は共同通信編集委員 尾形宣夫 00623日付)