☆在日米軍は陸上だけでなく、空域も「占領」していると言ったのは元沖縄県知事の大田昌秀氏である。
 沖縄の空は言うまでもなく、首都圏の空域も米軍の管制空域である。羽田空港を飛び立った旅客機は房総半島に向かい、その後で目的地に機首を向かわせる。
 昨年11月、稲嶺県政がスタートした沖縄は国との関係も修復、順調な滑り出しを見せた。首相官邸は基地問題で久しぶりの開放感を味わっていたのだが、今度は高知県の土佐湾に訓練中の在日米軍岩国基地所属のFA18が僚機と接触、墜落(120日)した。
 翌日、今度は岩手県釜石市の山中に米空軍三沢基地所属のF16が墜落した。2日続けての米軍機の墜落で、基地問題は沖縄だけでないことを浮き彫りにした。
 皮肉なことに、日米両政府は事故の1週間前の14日、在日米軍の低空飛行訓練を抑制する合意文書を交わしている。
 高知県の橋本大二郎知事が強硬な措置をまとめた。小渕首相らは知事を激しく批判する。

核心評論「非核港湾条例案」

◎増幅しかねない地方の懸念
 関心高まる基地問題

 高知県が外国艦船の「非核証明書」の提示を求める非核港湾条例案の要綱案をまとめた背景に在日米軍機の低空飛行問題があったことは、これまで「沖縄」に凝縮されていた基地問題が本土の自治体にも広がる可能性を秘めている。
 小渕恵三首相をはじめ関係閣僚が橋本知事を激しく批判しているのは、政局の焦点となっている日米防衛協力のための新指針(ガイドライン)関連法案の柱である周辺事態措置法案の実効性確保に欠かせない自治体の協力への影響が懸念されるからだ。
 だが、同法案が明らかになった昨年春以降、在日米軍とのかかわりが稀薄だった自治体もにわかに懸念を示し出しており、統一地方選を控えて他の自治体に波及する可能性は否定できない。
 橋本知事は今回の提案を最終的に決めるに際し、米軍機の低空飛行訓練での接触・墜落事故の再発防止と改善要求に対し外務省が真剣な対応を示さなかったことに最後までこだわった。

 事故は一月二十日、高知県・土佐湾で起きた。また、翌二十一日には岩手県釜石市の山林に米空軍三沢基地所属の戦闘機F16一機が墜落した。
 橋本知事の言葉を引用すれば「外務省に改善を申し入れてきたが、どのような形で米国に申し入れたのか見えてこない。なぜそれができないのかも明らかにされなかった」。
 知事が言わんとしたのは、日米安保条約と日米地位協定にかかわる問題であるにもかかわらず国の説得力のなさであり、もっと根本的には事前協議の空文化に象徴される対米姿勢の消極さである。
 こんなわだかまりをぬぐえず、知事は国是の「非核三原則」を盾に、自治体が外国艦船に「非核証明」を求めることは国の方針に合致するとの論理を展開、政府の批判に真っ向から反論した。

 日米両政府は一月十四日に在日米軍の低空飛行訓練による住民被害軽減に関して初めて文書を交換した。二件の事故は、皮肉にもその一週間後に起きた。地域住民を不安に陥れた事故に対する国の対応に誠意が欠けていたことが、問題を大きくしてしまったのである。
 野中広務官房長官は以前、自省の念を込めて「(沖縄の基地問題で)米国に必ずしも言うべき事を言ってこなかった」という趣旨の発言をしている。沖縄への思い入れの強い野中氏ならではのせりふだが、岩手県高知県・土佐湾での事故に対する地元の要請に、政府の配慮があったなら、橋本知事のこだわりも少しは変わっていたかもしれない。
 在日米軍の専用施設の七五%が集中する沖縄の基地公害に比べれば、本土の他自治体が直面している基地問題はそれほど複雑でない。一九七二年の沖縄返還以前は言うまでもなく、復帰後も沖縄では数え切れないほどの事件・事故があり、住民を巻き込んだ。
 その沖縄の脅え、怒りが基地密度の薄い本土には十分に伝わらなかった。沖縄の基地重圧を軽減しようとして実現した県道越えの米海兵隊の実弾砲撃演習は、本土五地区の演習場に分散され沖縄の不安が少しなくなったが、代わって大分県・日出生台など移転先で新たな問題が起きている。

 九六年四月の日米安保共同宣言に始まる日米防衛協力体制の強化を目指したガイドラインに百を超える自治体が反対決議した。日米安保の在り方を地方が問い始めた中での橋本知事の提案は、基地問題で本土が「沖縄化」しだした出来事と言えるかもしれない。

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