☆稲嶺氏の当選を誰よりも喜んだのは首相官邸の面々だった。大田前知事に翻弄され続けた政府・自民党幹部にすれば、「支援」を素直に喜んでくれる沖縄のリーダーを何としても実現させたかった。だが、稲嶺県政を待ち受けるのは、気心が知れるだけに国の過大な期待である。


核心評論「稲嶺県政始動」

◎前途占う那覇軍港の移転
 気前いい政府の振興策

 少し前の話だが十一月十五日の深夜、沖縄県の新知事に稲嶺恵一氏の当選が決まったことを確認した梶山静六元官房長官は「興奮して眠れなかった」という。
 一週間後、梶山氏は沖縄に飛ぶ。その喜びようは普通ではなかった。橋本龍太郎前首相の女房役として沖縄問題を仕切り、陰に陽に問題解決に取り組んだが、今年初めから国と県の関係が断絶状態になっていただけに、感慨もひとしおだったのだろう。

 その稲嶺県政がスタートした。不況で身動きが取れない県民意思をくんで、基地問題より経済問題に重心を置いて当選したのだから、経済振興策の具体化を小渕恵三首相らに求めるのは当然だ。
 政府も気前がいい。大田前知事に約束しながら凍結していた振興策を“解禁”するだけでなく、来年度予算に最大百億円の特別振興対策調整費を計上するという。
 一年ぶりに開かれる十一日の沖縄政策協議会は、さながら稲嶺氏のお披露目となるだろう。そして、協議会に出席する各閣僚らは振興策の概略を紹介、稲嶺県政への全面協力を約束するに違いない。
 一口に沖縄問題と言っても単純でない。
 強大な米軍基地の存在があって、その上にもろもろの社会、経済問題が組み立てられている。大田氏は、その根っこの基地問題にくさびを打とうとして普天間飛行場の県外・海外移転を主張して国の不興を買った。

 稲嶺氏が公約した県北部での軍民共用の期限付き陸上施設が実現するかどうか全く分からない。
 将来をにらんだ良策なのか、あるいはやむを得ないものなのか、多くの県民は判断しかねている。地元自治体や住民の意思を確かめた上で移転候補地を決めるという説明は問題がいかに難しいかを物語っている。

 経済問題にウエートを置いている稲嶺氏だが、十一月二十四日の小渕首相との会談で最初に那覇軍港の移転に取り組む意向を示した。経済問題に限らず基地問題解決の処方せんとなると踏んだからにほかならない。
 那覇軍港は全面返還が決まりながら、県内移設が条件だったため二十年以上も放置されていた。幸い、隣接の浦添市への移設条件が整いだした。
 稲嶺氏は、返還後の那覇軍港を近い将来、海上物流の一大拠点とする夢を描いている。計画が具体化すれば、基地問題解決と経済振興の象徴的な事例になることは間違いない。
 暗礁に乗り上げた普天間移転問題でも間接的な効果が期待できるかもしれない。首相も基地問題の突破口が見つからない現状では、いずれ政治的配慮を示さざるを得ないのではないか。
 つまり、那覇軍港の扱いは首相と新知事にとって極めて重要な意味を持つ。

 政府は大田氏の“反逆”が明確になってから海上ヘリ基地に代わる対案を声高に求めたが、選挙戦が始まるとその声も消え音無しの構えに変わった。
 保革を問わず複雑な反基地感情は、稲嶺県政のスタートでも変わることはない。誕生した「話し合える相手」(政府筋)を窮地に追い込んでは元も子もない。
 政府は「基地」「経済」のいずれの問題も、まずは稲嶺氏の話を「じっくり聞いた上で対処する」(同)と言う。

 政略にたけた政治家や実務に通じた官僚を相手に問題解決を目指す稲嶺氏の苦労は計り知れないくらい多いはずだ。
 「はっきり物を言い解決に導く」と断言するが容易ではない。県議会野党は、のっけから「普天間問題」で厳しく追及するだろう。稲嶺氏が難問をどうさばくか、県政運営を見守りたい。

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