核心評論「沖縄県民の選択」

沖縄基地問題

◎一段と基地縮小の努力を
 基地問題は依然不変

 日ロ首脳会談の成果はともかく、一連の首脳外交を始めたばかりの小渕恵三首相にとって、沖縄県知事選で保守系新人の稲嶺恵一氏(65)=県経営者協会特別顧問=が当選したことは基地問題という外交にまたがる難題解決に一筋の光明をもたらした。
 もし、逆の結果が出ていたら、ただでさえ弱い政権基盤が安保・外交問題でさらに窮地に陥ることは避けられなかったに違いない。

 稲嶺氏の当選で、既に政府と沖縄県の間で合意しながら棚上げ状態になっていた沖縄振興策はいずれ動き出し、そして日米間で合意した普天間飛行場返還とその移転先についても県との協議も具体化するだろう。だが注意しなければならないのは、基地問題は依然として重くのしかかるという厳然たる事実である。

 稲嶺氏から幾度となく沖縄問題の話を聞いたが、基地の重圧をまくし立てることでは革新系の指導者と見まがうほどだった。
 三年前の米兵による少女暴行事件に抗議する県民大会では、当時の大田昌秀知事と壇上に並んでいたことを思い出す。保守系の人物だから基地問題に寛容だ、などと政府や自民党首脳らが考えるようでは先が思いやられる。
 本土の人が考える以上に沖縄問題は複雑であり、こと基地問題については保守と革新にそれほど大きな違いはない。性急な対応は厳に慎み、いい意味での「間合い」を考えたスタンスこそ重要だ。橋本前首相が大田氏を説得できなかったのは、この間合いを忘れたからではないか。
 今回の知事選は稲嶺氏の完勝である。
 沖縄県内の完全失業率は全国平均の約二倍。この逆境下、経済界は「大田離れ」し団結した。稲嶺氏も「県政不況」を終始有権者に訴え、争点の一つだった基地問題にはそれほど触れなかった。都市部で強いはずの大田氏が票田をさらわれたのは、稲嶺氏が世代を超えた生活不安層を手堅くまとめたことが大きい。

 逆に大田氏は、基地問題に比重を置きながら過去八年の実績を訴えたが、民意の動向に的確な手を打てなかった。「理念・歴史の証言者」として沖縄の近未来像で争うこともなかった。
 告示日の直前に見聞きした大田陣営の選挙態勢の弱さは想像以上だったし、「危機的状況」と言う社民党県議もいた。作戦会議を告示の前日に開き、選挙戦の奥の手をOBに要請する県庁幹部の感覚に見られる緊張感のなさ。現職の強味の「県庁マシーン」はほとんど機能しなかった、と言っていい。
 つまり態勢の立て直しができず、参謀不在が最後まで響いたのである。
 選挙結果に政府首脳らが胸をなで下ろしたことは言うまでもない。しかし、普天間移転問題がすぐさま動き出すととは考えにくい。
 キャンプ・シュワブ沖の海上ヘリ基地計画は消えた。当選した稲嶺氏は、移転先として沖縄本島北部の振興につながる「陸上案」を表明しているが、具体的な地域は明らかにしていない。土地収用で混乱を極めた成田空港問題を見るまでもなく、陸上案が具体化した場合の反対運動は稲嶺県政の死命を制しかねない。

 また、経済振興策については政府側からすぐさま実施を言い出すことはなさそうだ。基地問題解決のための振興策という論議には政府筋も嫌気が差している。沖縄県との関係改善は進むが、予想しにくい問題も現れるかもしれない。
 沖縄県民は今回、「経済」を選んだが基地問題の存在は不変だ。
 各種世論調査が示すように、県民の多くは普天間飛行場の県外移設を強く求めている。そんな有権者が稲嶺氏当選の裏にあることを忘れてならない。基地と経済―この運命的な関係を断ち切る時期が来ている。「話せる知事の誕生」(政府筋)はそれを可能にする。
(98年11月17日付)