☆国とたもとを分った大田知事は、米政府への直接談判の訪米に発つ。1月に予定された首相との会談は名護市長選で流れたが、官邸の事務方は4月に会談を実現すべく水面下で動いた。だが、「対案なき会談」に政府・自民党は否定的だった。そんな中で、沖縄問題の司令塔とも言うべき野中自民党幹事長代理が「陸上案」の考えを示す。

核心評論「基地問題の相克」

◎普天間問題の新展開あるか
 どう動く「陸上基地案」

 米海兵隊基地、普天間飛行場の返還が宙に浮いたまま沖縄県は十五日、本土復帰二十六年を迎えた。この日、大田昌秀知事は「普天間」の早期返還を米政府関係者らに要請するため訪米の途に就く。知事の訪米は就任以来七回目だが、今回ほど政府との間で理想と現実との相克を際立たせる訪米はない。
 普天間飛行場の代替施設となる沖縄本島北部のキャンプ・シュワブ沖での海上ヘリ基地建設を「最良の選択肢」とする政府に対し、知事は県内移設を拒否。逆に本土やハワイ、グアムへの移転を正式に申し入れ、米政府へも同様の働き掛けをするからだ。

 このことは、二年前の普天間返還合意以降続けられた日米特別行動委員会(SACO)の結論を否定、議論を振り出しに戻す。知事の行動を政府、自民党首脳らが苦々しく思っているのは当然だ。
 橋本首相と大田知事は四月中旬に会談する予定だったが、ロシアのエリツィン大統領の訪日がずれ込み首相との会談は実現できなかった。
 このころ政府首脳や自民党内で、知事が海上基地に代わる対案を示さなければ会談する意味はない、との雰囲気が広がっていた。知事から対案がない以上、普天間問題の議論はかみ合うはずもないからだ。
 政治的に見ても、首相は財政構造改革の扱いで野党の攻撃にさらされ、与党内からの批判も受けている。知事との会談は得る物が少ない。会談日程を模索する事務当局を自民党幹部が叱りつけ、会談が流れたのが真相である。
 結局、知事の意向は要請書の形で今月七日、宮平洋副知事の手で官邸に提出された。

 知事を迎える米政府の態度は硬い。だが、知事は訪米の狙いを米国内の世論の喚起に置いている。海上基地の予定海域で国際保護動物のジュゴンが再三確認されたことは環境問題に敏感な米国の世論を動かす可能性は十分ある。
 知事は基地の過重な負担と同時に、海上基地と環境問題を重ね合わせ、冷戦崩壊後の日米安保の在るべき姿を問うはずだ。ジュゴンの出現は海上基地問題を根底から問い直すことにつながるかもしれない。
 海上基地建設は技術的に可能だが、環境問題に加えて完成後の維持、管理面で難問が多い。日米合意を盾に両政府は当面、海上基地最優先の姿勢は崩さないだろうが、同時に水面下で「陸上案」の模索が始まっているのではないかと思わせる動きがあった。
 自民党の野中広務幹事長代理は四月初めの講演で海上基地に疑問を呈し、沖縄北部に軍民共用飛行場建設の意向を表明した。初代の総務長官として沖縄復帰にかかわった自民党長老の山中貞則元通産相が提唱するキャンプ・シュワブ内の代替飛行場建設構想と併せ考えれば、「(野中発言は)対案を示してほしいという趣旨ではないか」(村岡兼造官房長官)というよりは、問題解決の落とし所を念頭に置いた発言と見るべきだ。

 既存基地内への移設であれば基地の整理、統合となり、海上基地のような新たな基地建設に反発する県や地元の理解が期待できる、と野中氏が読んだのかもしれない。普天間問題はいずれ新たな展開を見せ始めるかもしれない。
 もう一つ見逃せないのは沖縄県選出の元国土庁長官、上原康助衆院議員(社民)がこのほど経済人も加えた政策研究会を発足させ、基地問題の弾力的解決を目指す意向を明らかにしたこと。
 上原氏の行動は十一月の知事選を意識したものと見られがちだが、個人的な理由より沖縄問題解決に向けたもっと大きな政治的背景と必然性がありそうだ。そこに有力政治家の顔がちらつく。

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