☆大田知事が橋本首相と約束した会談を待たずに、普天間飛行場を名護市沖合に建設する海上ヘリ基地構想に反対を表明した。知事は1日の名護市長選告示日に、海上ヘリ基地案に反対を訴えている玉城候補の応援に駆けつけ、事実上の「建設反対」を表明している。 事態は決定的な亀裂に向かい出した。(共同通信加盟紙の7日付朝刊に配信された「本記」に関連する解説記事は縦6段見出しの大きな扱いになった)

大型解説「知事が移設反対表明」

◎処方せん誤れば重大事態も
 反基地感情への認識欠く

 大田昌秀知事が橋本竜太郎首相との会談を待たずに海上ヘリ基地建設に反対の立場を表明したのは、首相との会談実現のめどが立たず、これ以上結論の先送りができないと判断したためだ。
 知事は名護市長選告示日の二月一日、海上基地建設反対を掲げた玉城義和候補の応援に駆けつけ事実上の「建設反対」を印象付けている。知事の行動は首相や自民党首脳らにとって「予想外」で、首相らを強く刺激した。
 大田知事の最終判断の重大さは、首長が外交・防衛という国の権限に異をとなえ、再考を求めたことである。
 一昨年、基地用地の強制使用問題での知事の代理署名拒否は、政府が国内の法的手続きで何とか乗り越えた。前回と違うのは、知事の反対が日米両政府間の合意を覆しかねない危険性をはらんでいることだけでなく、日米安保を基軸としたアジア・太平洋地域の安全保障体制の信頼性が問われかねないからだ。

 問題は「国際信義」にかかわり、解決の処方せんを誤ると橋本内閣の責任問題にとどまらず、日米関係全般への深刻な影響が避けられない。
 知事がこうした事情を知らないはずはない。外交問題だけでなく、沖縄には大胆な経済振興という課題もある。だが知事があえて「反基地」の旗色を鮮明にしたのは、基地問題の原点に返ることで運命的な沖縄の位置付けに穴を開けようとしたからだ。つまり、基地の島からの脱却である。
 知事の心は「建設容認」「反対」で揺れた。
 その知事が反対を決断したのは
名護市民投票の結果に加え、県内世論の動向が大きい。副知事、出納長の新三役体制もでき反対の環境が整ったと判断した。

 「普天間返還」は現時点では白紙状態になった。日米の沖縄基地問題に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告に盛られた施設の返還、移転計画も不透明さを増すだろう。経済振興策で政府の積極的な協力は難しくなった。いずれも今後の沖縄を占う意味で悲観的材料である。
 政府はこれまで、こうした要因を挙げ海上基地容認を迫った。
 だが政府は手のひらを返すように沖縄関係予算に大なたを振るう愚は取れないだろう。あからさまに協力を弱めれば県民全体の反発を招き、得るものが少ない。沖縄振興に協力する旨を約束した異例の首相談話や、税制面での優遇など一部だが沖縄への特別措置を既に約束しており後戻りはできない。

 沖縄には今、新たな反基地の意識が広がっている。三年前の米兵による暴行事件に端を発した動きが、それを示している。振興策のメニューをそろえる積み上げ方式で沖縄問題を解決できると踏んだ政府の甘い認識が覆されたわけである。
 沖縄側は最近になって基地の公平な負担、つまり本土への移転を求めだした。日米安保条約を国民レベルで論じてもらおうという意味が込められている。普天間飛行場の移転先としてキャンプ・シュワブ沖以外の選択肢はないと首相は言い切るが、これでは問題解決を沖縄に求めるだけだ。
 日米安保の再定義となった二年前の日米安保共同宣言とこれに続く日米防衛協力のための指針(ガイドライン)は、考えようでは沖縄の負担軽減を可能にする。政府は新たな選択肢を模索すべきだ。

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