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3.あわれみの神

第13章

神の答えによって、この霊魂の苦しみは、一方においてはやわらげられるが、他方においてはさらに増すことについて。──聖なる教会と神の民とのために祈らなければならないことについて。

 すると、自分自身のなかに抱いている果てしない望みに悩まされ、燃え立たされているこの霊魂は、神の大いなるいつくしみに対して、言い知れない愛を感じた。そして、これほど甘美に答えて下さり、願いを満たして下さった神の仁愛の広大さを観想するのであった。神は、ご自分に加えられる侮辱、聖なる教会の悪、霊魂が自分自身の認識によって示された自分のみじめさに対して抱いていた悲しみに、希望を開いて下さったではないか。この希望は苦しみをやわらげたが、しかしまたこれを増加させた。いと高く永遠な「父」は、完徳の道を示して下さったのち、さらに、──あらためて、もっとくわしく説明されるが、──ご自分に対する侮辱と霊魂の亡びとについて話して下さったからである。
 霊魂は、自分自身の認識のなかで、もっとよく神を認識する。それは、自分自身に対する神のいつくしみを体験するからである。そのうえ、霊魂は、神のこの心地よい鏡のなかで、その尊厳と卑賎とを同時に認識する。
 霊魂は、その尊厳を創造によって与えられた。霊魂は、自分の側からはなんの功績もないのに、神の似姿としてつくられ、このたまものを、純然たる恩寵によってさずけられたことをさとる。霊魂はまた、神のいつくしみのこの鏡のなかで、自分自身の過失によって招いたそのみじめさを認識する。人間が鏡を見て、自分の顔のよごれをもっともよく認めるように、霊魂は、自分自身のまことの認識をもつようになると、望みにより、知性の目で神の甘美な鏡を見るまでに上昇する。そして、神のなかに発見する清さによって、自分の顔のよごれをもっとよく認識する (4)
 ついで、この霊魂は、そのなかに、すでに話した方法で、光明と認識とが増したので、内心に、心地よい心痛が、第一の「真理」によって与えられた希望によって穏和された心痛が、増してゆくのを感じた。火はこれに薪を投げ入れると勢いを増すように、この霊魂の情熱は燃えさかり、その人間的体は、霊魂が離晩しないかぎり、これを堪えることができないほどになった。もしも、至上の力である「かた」が、力によって守って下さらなかったら、死をまぬかれることができなかったにちがいない。
 このように、霊魂は、自分自身と神との認識のなかで発見した神的仁愛の火によって清められ、その望みは全世界の救いと聖なる教会の改革との希望によって高まった。そこで、いと高き「父」のみまえに、安心してのぼり、聖なる教会の癩と世のみじめさとを示したのち、モーシェとほとんど同じ言葉を使って (5) 、申し上げた。
 ──わたしの主よ、おんあわれみの眼を、あなたの民であるこの民と聖なる教会の神秘体との上に注いでください。多くの被造物を赦し、これに認識の光明を与えてください。そうすれば、かれらは、あなたの無限のいつくしみによって、大罪の暗黒と永遠の亡びとから救われたのを見て、あなたを賛美するでしょう。そして、あなたは、あなたをはなはだしく侮辱したわたしからよりも、あらゆる悪の機会であり道具であるみじめなわたしからよりも、栄光を受けるでしょう。それゆえ、永遠の神的仁愛よ、わたしはあなたに祈ります。あなたの復讐をわたしの上に加え、あなたの民をあわれんで下さい (6) 。わたしは、あなたがこれをあわれんで下さらないかぎり、決してみ前を立ち去りません。
 それに、たといわたしが永遠の生命を有しているとしても、あなたの民が死のなかにいるとしたら、光明であるべきあなたの浄配が暗黒におおわれているとしたら、なんの役に立つでしょうか。しかもそれは、主としてわたしの罪のため、他の被造物の罪のためではなく、わたしの罪のためではないでしょうか。それゆえ、わたしはあなたに、あなたの民をあわれんでくださるよう、切にお願いします。これに慈悲を注いでください。あなたに人間をあなたの似姿として造らせたあの造られざる仁愛にかけて、お願いします。そのとき、あなたは、「人間をわたしたちの似姿に作ろう」(7) と言われました。そして、ああ、永遠の三位一体よ、あなたは、人間がいと高く永遠な三位一体であるあなたとすべてを分かちあうように望まれて、そのとおり実行されました。あなたは、人間があなたの恩恵を保って、「父」の力を分かつことができるように、記憶を与えられました。あなたのいつくしみを見てこれを認識し、あなたの「ひとり子」の英知を分かつことができるように、知性を与えられました。最後に、知性があなたの「真理」について見たもの、認識したものを愛し、それによって、聖霊の寛仁を分かつことができるように、意志を与えられました。
 あなたは、どのような理由で、人間にこれほどの尊厳を与えられたのでしょうか。あなたは、はかり知れない愛によって、あなたの被造物をあなた自身のなかに眺め、これに夢中になられたのです。あなたは、これを愛によって造り、愛によって、あなたの至高かつ永遠な「善」を味わうことのできる存在を、これに与えられたのです。
 わたしは、人間が罪を犯して、あなたがかれに与えられた尊厳を失ったことを、よく分かります。人間は、その反抗によって、あなたの寛仁に対して、戦いを開きました。あなたの敵になりました。しかし、あなたは、あなたにかれを造らせたおなじ愛の火によって、大きな戦いに引きこまれた霊魂に和解の手段を与えようと望まれました。大きな戦いののちに大きな平和がおとずれるようにするためでした。そこで、あなたは、あなたとわたしたちとの「仲介者」であるあなたの「ひとり子」、「み言葉」をお与えになりました。かれはわたしたちの義となられました (8) 。なぜなら、わたしたちの不義を負われ、そして、ああ、永遠の「父」よ、あなたがかれに命じた従順を実行して、わたしたちの人性をまとわれ、わたしたちの姿と本性とを取られたからです。
 ああ、仁愛の深き淵よ、偉大そのものであるあなたが、これほどの卑賎まで、わたしたちの人性まで、お降りになられたのを観想して、張り裂けない心があるでしょうか。わたしたちはあなたの似姿です。そしてあなたは、永遠の「神性」をアダムの腐敗した肉のみじめな雲の下にかくし、人間と結ばれた一致によって、わたしたちの似姿になられたのです。
 その理由はなにだったのでしょうか。「愛」だったのです。このようにして、神であるあなたは人間となり、人間は神となったのです。このくすしき愛によって、わたしはあなたに、あなたの被造物をあわれんでくださるよう要請し、哀願いたします。

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