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第四書・第三章

ベトレヘムへの旅

 不変の御摂理は、御父の御独り子はベトレヘムの町に生れると決められました(ミカ5・1)。諸聖人や諸預言者も予告しました(エレミア10・9)、神の絶対なる意志は誤りませんし、何ものも妨げられません(エステル13・9)から、天地が消失しても、神の御命令は成就します(マテオ24・35)。古代ローマ全帝国のアウグスッス皇帝が、人民登録、又は国勢調査を発令した(ルカ2・1)ことで成就したのです。当時、世界の大部分を占領したローマ帝国は、人々に税を約めさせるため、出身地に行き登録するように命じました。このことを外出先で聞いた聖ヨゼフは、悲しそうな顔で家に戻り、聖マリアに報告しました。聖マリアは答えました、「どうぞ心配しないで下さい。私たちに起こる全ては天地の王なる主により命令されています。全てに於て御摂理が私たちを助け、導いて下さいます」(シラ22・28)。御父の御独り子がべトレヘムで生れることになっているという預言を聖マリアは知っていましたが、聖ヨゼフに話しませんでした。話すなと命令されていることを話さず、聖ヨゼフの指導に身を任せました。月は進み産期は近づいていました。聖ヨゼフは言いました、「天地の女王なる我が女主人、全能者から反対の命令がなければ私だけで行きます。ローマ皇帝の命令は、所帯主だけ行くように言っています。でも私は御身を私の助けなしにしておけませんし、御身なしには私はあまりにも不安ですし、御身のそばでやっと安心できます。」

 二人は出発の日を決めました。聖ヨゼフは世界の女主人を乗せるロバを探しにナザレトの町に出かけましたが、他の人たちもロバが必要なので、なかなかロバが見つかりませんでした。やっと見つけたロバはありきたりのロバでしたが、御母と御子を運ぶという大任と幸福を頂いたロバです。二人は旅の必要品を五日分準備しました。聖マリアは、御子の出産のための布や産着を持っていくことにしました。二人の旅姿は貧しく見すぼらしいものでしたが、永遠なる御父の無限の愛に価する御子と二人は、天使たちから崇められました。自然は新約の生ける真の聖概(ヨシュア3・16)を認識しました。ヨルダン川は水を左右に分け、二人とその後に続く天使たちに道を開けました。天使たちは総数一万位で、聖マリアには見えました。多数の太陽よりももっと輝いていました。その他に御父と御母の間を行き来している天使たちも参加しました。

 しかし、皇帝の命令で旅してきた人たちが旅籠屋に集合している様子は、聖マリアと聖ヨゼフにとり、大変不快で困らせました。二人が貧しくおどおどしていたので、他の人たち、特に富者よりも冷過されました。どの旅館からも次から次に叱りつけられました。旅で疲れ切った二人はそっけなく断られるか、廊下の片隅か、もっとひどい所をあてがわれました。そんな所に天地の女主人が留まると、天使たちは最高の王と女王の居りを固め、警護にあたりました。聖ヨゼフはそのことを知り安心し、聖マリアに休むよう勧められ、その間、聖マリアは天使たちと話をしました。

 このように苦労しながら、二人がべトレヘムに着いたのは第五日目、土曜日の四時でした。冬至の時で、太陽は沈みかかり、夜のとばりが落ちてきました。二人は街に入り、一夜の宿を探しながら、たくさんの道を通りました。知人や親戚の家に行き、断られ、ののしられました。最も謙遜な女王は、人混みの中を家から家へ、戸口から戸口へ、夫の後についてまわりました。人々の心も家む二人を締め出していると知っており、身重の自分を衆目にさらすのはもっと辛いことでしたが、夫に従い、この恥を忍ぶことを望みました。街をさすらいながら、人民登録の役所の所に出てきました。名前を登録し、献金しました。その後も家々を訪ねました。五十軒以上もまわったのに、全て無駄足に終わりました。聖マリアの忍耐と温和、それにひきかえ、人々の頑なな心に天使たちはあきれ返ってしまいました。

 追い払われ、心臓が破れそうになった悲しい聖ヨゼフが妻の所に来たのは夜の九時でした。「私の最も甘美なる貴婦人、私の心は悲しく、裂けそうです。御身を泊める所を探せず、厳しい天候から御身を守れません。疑いもなく、天は秘密を隠しています。ところで、市の城壁の外に洞穴があるのを思い出しました。羊飼いたちや羊たちのための避難所です。そこへ行ってみましょう。天は地が与えてくれなかった肋けを与えるかもしれません。」 最も思慮深い聖マリアは答えました、「私の御主人様、このような事態になったことを私の胎内にいる神に感謝して下さい。御身切おっしゃる所は私にとり最善と思われます。御身の悲しみの涙は喜びの涙に変わるでしょう。貧乏は私の至聖なる御子の計り知れない貴重な宝です。貧乏を抱きしめましょう。喜んで主の御導きになる所へ参りましょう。」 聖なる天使たちは、道を明るく照らしました。城壁の外の洞穴は空になっていました。二人は主に感謝しました。

元后の御言葉

 私の親愛なる娘よ、今日より、世の軽蔑と無視を新たな尊敬で抱きしめなさい。その代わりに、神は最も甘美なる眼差しで汝を見て下さいます。神の愛、私の愛と天使たちの愛を汝は受けます。私の至聖なる御子は、現世の虚栄と誇りを軽蔑し、謙遜を愛するための先生として私を任命しました。窮乏と貧困は神に至る最も確かな近道です。御子の言葉を引用しましょう、「我が天の御父の完全なるが如く、汝らも完全なれ」(マテオ5・48)、この完徳に汝を招待します。どんなに難しくても、困惑しないように。自分の救いだけでなく、他人の救いと私の御子のために。

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