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第一書・第五章

人類の繁殖。救世主の待望。聖ヨアキムと聖アンナ

 アダムの子孫はたくさん増え、その中には義人も罪人もいます。いと高き御方の民は、主が人性を得て勝利する計画に参加し、救世主の御来臨を待ち望む最終段階に入りました。悪者たちの罪の世の中も今や広がり、その極みに達し、罪の修復の好機も到来したのです。

 その時とは、古来の蛇が毒気により全地を汚染し、理性の光が見えなくなってしまった人間たちを完全にコントロールした時です(ロマ1・20)。人々は昔の成文法が見えなくなり、真の神を求めず、多くの偽りの法律をでっち上げ、自分の好みに従って神を作り上げました。これらの多数の神には、善、秩序と平和に反対し、真の神を忘れさせ、悪意と無知をはびこらせました。誇りが幅をきかせ、愚か者ばかりの世となりました(コヘレト9・15)。神に対する反逆はますます酷くなり、全被造物が全滅すべしという神の審判が下ってもしょうがない時が来たのです。

 神は、計り知れない正義に対し、慈悲の法を秤にかけて均衡を作りました。義人たちや預言者たちの忠実を、他の者たちの罪に対し天秤にかけました。神は恩寵の約束を実行することに決め、我らの主キリスト、正義の太陽の現われる前に、ヨアキムとアンナを地球に送りました。ヨアキムはガリラヤの町ナザレトの出身で、正義と聖性の士であり、特別な恩寵に照らされ、聖書や預言に通じていました。神の御約束の成就を心から願っていました。

 一方、アンナはベトレヘム出身の、純潔で謙遜な美しい乙女でした。幼少の時から諸徳を積み、黙想に終始し、聖書を充分に知り、救世主の御来臨を絶えず祈願していました。「あなたは、ただ一目で、その耳飾りの一粒の真珠で私の心を奪った」(雅歌4・9)と神が仰せられたほどに、アンナは旧約の聖人の中で抜きん出ていました。古来の律法を守り助けてくれる夫を探して下さるよう、アンナは神に懇願しました。ヨアキムも同様な祈りを同時にしました。聖三位一体なる神は両者の祈りを聞き届け、人となられる神の御母の両親となることを定めました。主の命令を受けた大天使ガブリエルは、アンナの前に姿を現しました。光り輝く天使を見てアンナは驚き、喜び、平伏しました。聖ガブリエルは、他の天使たちの知らない啓示、すなわち、アンナが御言葉の御母マリアの母になるべしという啓示を告げたのです、「至聖なる神が召し使いになる汝を祝福します。汝の懇願を聞き届け、救世主の御来臨を待ち望む叫びに耳を傾けて下さいます。汝がヨアキムと結婚するよう望んでおられます。二人は心を合わせ、主に仕え、律法の成就を祈願し、正義の道を歩み、天国に心を開き、救世主の御来臨を待ち望みなさい」と。言い終わると聖ガブリエルは見えなくなりました。

 ヨアキムに対して大天使は夢の中で告げました、「ヨアキムよ、汝がいと高き神の御手により祝福されますように! 神は汝がアンナと結婚するよう望まれます。彼女の面倒を見、いと高き神に誓約して彼女を敬いなさい。神に感謝しなさい」と。直ちにヨアキムはアンナに求婚し、結婚しましたが、二人とも長い間、天使の御告げを隠していました。ナザレトで主の正義の道を歩みました。二人の収入は三等分され、三分の一ずつ、エルサレムの神殿への寄付、貧者への分配と二人の生活費となりました。二人の寛大な慈善業をお喜びになった神は、二人の生計を助けました。二人は平和と一致の内に暮らし、喧嘩も不平もありませんでした。同じことを願わないことがありませんでした(マテオ27・20)。子供が生まれずに二十年間が過ぎました。この期間、近所の人たちは子供の授からないこの夫婦を非難し、軽蔑しました。救世主の恵みを受けるに値しない者と決めつけたのです。神は、この夫婦が忍耐して、将来の光栄ある子供の出産を準備するよう望まれました。この夫婦は、子供を恵まれるならば、エルサレムの神殿に奉献するという誓願を立てました。一年間の熱願の後で、町の人々と一緒に神殿に行き、救世主の御来臨と赤ちゃんの出産のための祈りと献げ物を捧げることになりました。神殿で、下位聖職者であるイザカー師にさんざん叱られました、「ヨアキム、お前は子無しだから神に喜ばれないのに、なぜ献げ物をするのか? 団体から離れ、立ち去りなさい。神に迷惑をかけるな。どうせお前の供え物は、はねつけられるに決まっている」と。この聖者は恥と混乱で頭が一杯になり、謙遜に主に話しました、「至聖なる主よ、御命令の通り神殿に参りました。御身の代理者は私を嫌っています。私が罪人だからです。私は御身の御意志に従いますから、見棄てないで下さい」(詩篇275・10)。自分の所有している倉庫のような所に引きこもり、何日間か祈りに明け暮れました、「いと高き永遠なる神よ、人類の生存と救済は御身次第です。私の霊魂の苦悩を御覧下さい。私の祈りと御身の婢アンナの祈りを聞いて下さい。我らの希望は御身によく見えています(詩篇38・10)。私は無価値でも、私の謙遜な妻を嫌わないで下さい。アブラハム、イザクとヤコブ、我らの最初の祖先たちの主なる神、子無しの私が非難され捨てられる者たちの仲間入りにさせないで下さい。ああ、主よ、私の祖先である御身の召し使いや預言者の犠牲や献げ物を思い出して下さい。信頼して祈るように御身はお命じになりました。私が御意志に従えますよう祈ります。私の罪が御身の慈愛を遠ざけるならば、私の罪を取り去って下さい。私は貧しく、取るに足りなくても、御身は最も卑しい者に対しても慈悲を下さいます。御身は何世代にも渡って恩恵を下さいました。もしも、御旨に適うならば、私に子供を恵んで下さい。私は子供を捧げます。子供を神殿で常に奉献します。私は御身に眼を向け、この世の過ぎ行く事柄から眼を背けてきました。御身の玉座から、この汚い塵を御覧になり、拾い上げて下さい。この塵が御身を讃え、敬い、御旨の成就を願いますように。」 ヨアキムが人々から離れて祈願している時、聖なる天使がアンナに現われ、子供を授かりたいという彼女の熱願が全能者の御旨に適ったことを告げました。御旨と夫の意志であることを知り、アンナは謙遜と信頼の内に祈りました、「いと高き神、私の主、宇宙の創造者にして管理者、我が霊魂は御身を無限、聖、永遠なる神として崇めます! 私はただの塵芥にすぎませんが、御身の実在の前に平伏し、申しあげます(エステル13・9)。被造物にあらざる主なる神、私の胎内に子供を授け給え。子供が神殿に於て御身に仕えるため献げることができますように(創世18・27)。ああ、主よ、御身の召し使いなるサムエルの母は産まず女でしたが、御慈愛により本望を得ましたことを思い出して下さい。同じ御慈愛をお願い申し上げます。私の祖先の犠牲、献げ物と奉仕、そして恩恵の報酬を思い出して下さい。私の最大の献げ物は私の霊魂、私の能力と私の全存在です。私に子供を授けて下さいますならば、私はたった今、子供を聖別し、神殿の奉仕に供えます。イスラエルの主なる神、このいやらしい被造物を眺め、御身の召し使いヨアキムを慰めて下さいますよう、全てに於て御旨が行なわれますように。」

 聖三位なる神は天使たちに仰せられました、「御言葉は人体をまとい、あらゆる人々に救いをもたらすであろう。このことを世の中に宣言するように、我らの召し使いなる預言者たちに既に伝えた通りである。生きる者たちの罪と悪意は処罰されるべきであるが、人間に対する我々の愛は消されない。我らの姿に似せて創造した人間を、我らの相続者、参加者にさせるつもりである(一ペトロ3・22)。我らを誉め、愛する大勢の者たちを認める。全ての人々の上に、選ばれるべき『女』がいる。御言葉を胎内に抱き、人体を与えるからである。この事業の初めより、神のこの宝はこの世に示された。時機到来にあたって受入れられるべきである。ヨアキムとアンナは我らの恩寵を得た。二人は試練に於て、単純さと正しさに於て、常に忠実である。このことをガブリエルを通して両人と世の中に知らせよう」と。

 主はガブリエルに仰せになりました、「ヨアキムとアンナに明瞭に伝えよ。『二人の願いは受入れられた。二人は恩恵の子供を授かるであろう。子供をマリアと名付けよ』」と。命を拝したガブリエルは最高天の頂きから降り、ヨアキムの前に立ち、祈っている聖人に声をかけました、「正義の人よ、天の玉座におられる全能者は汝の希望を知り、汝の嘆きと祈りに耳を傾けられ、汝を地上の幸せ者にして下さった。汝の妻アンナは身ごもり、『娘』を産むであろう。『娘』は女性の中で一番祝福された御方である(ルカ1・42)。諸国民に知れ渡るであろう。永遠の神であり、自ら存在し、万物を創造された御方は、最も正しく強力であられる。汝の仕事ぶりと貧者への施しを喜ばれ、汝の家庭を『娘』の出産によりお祝いになる。名前をマリアとせよ。汝が約束したように、幼少の時から神殿の中で神に捧げなさい。神は産まず女のアンナに子宝を授けるという奇跡を行なわれる。神に感謝するためにエルサレムの神殿に行け。黄金の門の所で感謝の参詣をしに来る汝の妻アンナに会うであろう。この子の受胎は天と地を喜ばすのである」と。

 一方、三回も祝福されたアンナは、御言葉の受肉の熱想に没頭していました。最も酷く自己を卑下し、生き生きした信仰を持ち、人類の救世主の御来臨を次のようにお願いしました、「いと高き王にして唯一の創造主よ、私は最も邪悪な嫌悪すべき被造物ですが、私に与えられた命を賭けて、我らの救いの時が早く来るよう御身に切願いたします。人類の改革者にして救世主に御目に掛かれますように! 主よ、御身の御独り子を我らに遣わすと汝の選民におっしゃいました。たった今、御出でになりますように! 御独り子が天より降り、この地上に母を持つことは可能でしょうか? どのような御方が御母になるのでしょうか? 誰に御母の召し使いになる価値があるのでしょうか? 御母を見る眼と御母の御声を聞く耳はどんなに祝福されるでしょうか?」

 この時、聖ガブリエルが現われ、アンナに話しました、「汝とヨアキムの謙遜、信仰と貧者への施しはいと高き御方の玉座に報告されました。神は私に伝令の役をお命じになりました。神は、汝が御独り子を産む御方の母になることを望まれます。汝は娘を産み、マリアと名付けなさい。マリアは女性の中で一番祝福された御方です。聖霊に満ちておられます。人間を元気にするため、天の露を垂らす雲のような御方です(三列王18・44)。祖先の預言が成就するのです。この御方はアダムの子孫のため、生命の門であり、救いであります。私はヨアキムに『娘』の誕生が近づいたことを知らせましたが、『娘』が救世主の御母になることを打ち明けていません。この秘密を守り、神殿に行き、いと高き御方に感謝しなさい。黄金の門の前でヨアキムに会い、知らせを伝えなさい。汝の胎は、人体をまとう不滅者を産む御方を産むのです」と。

 アンナの謙遜な心が聖天使の知らせにより、讃美と喜びのショックに参ってしまわないように、聖霊から守られました。すぐさま立ち上がり、エルサレムの神殿に向かいました。そこでヨアキムに会い、共に全能者に感謝し、特別な献げ物と(動物の)いけにえを供えました。聖霊の恩寵に満たされ、帰宅しました。聖ガブリエルのメッセージをお互いに打ち明けました。同時にお互いの結婚を承諾せよという最初の御旨のメッセージも初めて分かち合いました。結婚のメッセージは二十年間もお互いに隠していたのです。改めて娘を神殿に奉献することを誓い、毎年同日を神の讃美、感謝と多くの施しをすることにしました。この誓いは二人の死まで実行されました。

 賢明なアンナは『娘』が救世主の母になるべきことを夫にも他の誰にも知らせませんでした。ヨアキムが死の直前、全能者からこの秘密を教えて頂いたことは後で述べましょう。

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