労働者国家擁護の問題

今日、わが同盟は、第四インタナショナルの真の再組織者として登場しなければならない。その場合、わが同盟が、再建されるべき第四インタナショナルの歴史的基礎に関わる問題として明らかにしておかねばならないことは、十月革命の遺産に対する評価である。換言すれば、労働者国家擁護の今日的意味を明らかにすることである。全国委員会の、結局は何も明らかにしえていないのであるが、「労働者国家擁護は世界革命戦略における特殊的任務」(「現代における平和と革命」)という抽象的見解、およびパブロ派、IC派の「無条件擁護」の見解に対して、同盟は自らの見解を明らかにしなければならない。IC派第三回国際会議において、我々がおこなった主張を、再度確認することは重要である。

1.原則上の問題

さて、IC派第三回国際会議は、今後の国際討論を「ソ連、中国、及びスターリニスト国家の無条件擁護の枠内」の中でおこなうことを決議した。

この決議は、現代のスターリニストの反動的政治に対する我々の把握の鋭さのゆえに、SLL派が我々を「国家資本主義論的傾向」として批判した事実からみるとき、明らかに彼らがスターリニストの政治に対してなんらの革命的敵対性=独立性を明らかにしえず、自己の立場を唯一スターリニスト国家無条件擁護に純化したものとみなされるべきである。

我々は、この問題を、階級闘争の歴史的現段階の認識の相違であり、組織論の方法論上の対立の問題であると考える。

SLLのスターリニスト国家無条件擁護と「批判的支持」の方法は同一である。

「批判的支持」=“スターリニスト及び社民(労働党)の政策には反対だが、その影響下の労働者を支持する”というスターリニストの政治とその組織的基盤とを機械的に分離する立場。

この方法は、SLLがスターリニスト、社民の組織的基盤に立って、これらの既存政党を批判するという方法であるからして、スターリニスト、社民に対する左翼反対派の枠を突破できない運動の方法である。それは、本質的にパブロ主義の方法であり、既存潮流の中に左翼潮流を形成する、あるいは既存潮流を左傾化させるという方法である。

「労働者国家無条件擁護」=“スターリニスト官僚の政策には反対だが、労働者国家、国有計画経済と労働者階級は擁護しなければならない”という、官僚の政治とその物質的基礎を機械的に分離する立場。

堕落せる労働者国家の存在を擁護しつつ(これとて、労働者国家が労働者国家である限り、進歩的であるという一般的抽象的確認以上ではないのだが…)、その同一の基盤に立って政策批判をおこなうという方法である(たとえば核実験は、ソ連を弱めるという批判)。

「無条件擁護」と「批判的支持」の方法は、ともに帝国主義とスターリニズムの対立の中で、二者択一を迫る立論の方法であり、かつ、スターリニスト、労働党の裏切り的組織基盤、堕落せる労働者国家の階級的基盤(反動的官僚政治を支えている階級意識のおくれた労働者国家のプロレタリアート)をいかに変革するのかというのではなく、官僚の政治とその物質的基礎とを分離することによって自らが同一の組織的基盤に立ち、政策批判を展開するという反対派の方法である。

それ故、党組織論の方法としての「批判的支持」の方法の論争をめぐっておこなわれた第四インタナショナルの再建の闘争は、「労働者国家無条件擁護」の綱領問題に発展せざるをえない。

「我々の原則上の立場」=「所有関係の変換がいかに重要であろうとも、それは我々の第一の政治的基準ではない。…世界プロレタリアートの意識変革と組織化…。モスクワの政治は、反動的である。」

「われわれにとってソヴィエト官僚の打倒は、ソ連邦における生産手段の国有を維持する問題に従属し、ソ連邦における生産手段の国有は、世界プロレタリア革命に従属する」(トロツキー)

歴史的現代(第四インタナショナルの時代)において、一般的にプロレタリアートにとってはいかなる戦争(キューバ危機、ベトナム戦争、米中戦争)が起ころうとも、そのいずれかを支持するという問題ではない。あくまでも、世界革命の遂行の観点から、プロレタリアートの階級的独立と権力獲得のための闘争が追及されなくてはならない。

2.歴史的現時代における労働者国家の役割

問題は現代がいかなる歴史的時代であるか、そして今日、労働者国家がプロレタリアートの世界革命の発展にとっていかなる存在であり、いかなる役割を果たしているか、ということである。

①現代は、第四インタナショナルの時代である。それは、十月革命によって成立したソ連のプロレタリア独裁がスターリニスト官僚によって簒奪され、形骸化され、かつまた30年代の一連の歴史的な革命闘争における反階級的裏切りを通して「ブルジョア反革命秩序に移行した」スターリニスト官僚の打倒が、世界プロレタリアートの歴史的特殊的任務となった帝国主義の時代である。

②第四インタナショナルは、かかる時代を「革命指導部の危機」の時代として集約し、この歴史的任務に応えるために創立された。だが、第四インタナショナルは、戦争と戦後の過程を通して敗北した。インタナショナルのこの敗北に象徴される世界プロレタリアートの階級的敗北のうえに、ヤルタ・ポツダム協定を基礎にした戦後世界の反革命体制が成立した。

③その大勢の構造は、いかなるものか。スターリニスト官僚は30年代の革命闘争を抑圧することによって固定化しようとした世界体制そのものが、世界戦争という形で帝国主義的矛盾を爆発させる段階で、帝国主義戦争を「反ファシズム、民主主義防衛のための戦争」と規定し、帝国主義の国際的分裂の一方の極(米英仏)に自己の体制を組み込むことによって、スターリニスト官僚支配の維持を図ったが、このことは、この過程を通してスターリニスト官僚体制が、帝国主義世界体制の存続のための支柱になったことを意味する。

④ヤルタ・ポツダム協定による世界分割は、大戦の過程でのスターリニスト体制の帝国主義支配の支柱化の完成である。この戦後の世界体制は、帝国主義の側においては、東欧・中国=スターリニスト官僚支配と、西欧=帝国主義的復活を交換することによってしか自己の世界支配を維持し得ないという危機の体制であり、スターリニズムの側においては、帝国主義の支柱となることなしには、官僚体制を維持できないという危機の体制である。

かかる戦後世界反革命体制は、第四インタナショナルの敗北に決定的に特徴付けられる世界プロレタリアートの闘争を不断に粉砕することによってしかそれ自身を維持しえない。

帝国主義は、プロレタリアートの階級闘争の抑圧のためには一層スターリニスト官僚の反革命的役割に依存せざるをえず、スターリニズムは、自己の支配の維持のためにプロレタリアートを直接掌握することによって闘争を解体し、あるいは自らの暴力装置によって粉砕せざるを得ない。かくして、官僚は、労働者国家の社会的基礎そのものをブルジョア的反革命の方向に押しやる、すなわち労働者国家の解体を促進する。さらに、官僚の政治的役割が反革命的であるというばかりでなく、ソ連国家自体が、帝国主義の市場分割の対象として位置づけられ、帝国主義の経済構造のなかに組み込まれていることによって労働者国家の基礎の解体の危機は急速に進行している。

⑤現在、我々が言うスターリニスト体制とは、ソ連における官僚によるプロレタリア独裁の簒奪と、その存在を機軸に形成された東欧、中国におけるブルジョア的社会的基礎に立つスターリニスト国家権力と、そうしたスターリニスト国家権力の維持強化を目的にした資本主義国におけるスターリニスト党の運動の体系であり、全体として世界資本主義の存続のための不可欠の機構に転化した体制のことである。

それは、官僚の自己保身のために、歴史的見地から見れば、本来進歩的であるソ連における国有計画経済体制の物質力と、十月革命に象徴されるマルクス、レーニン主義の革命的権威が、世界プロレタリアートの抑圧のために動員され、転化していることを意味する。

ソ連労働者国家、それは歴史的過程においては帝国主義世界支配の一角を革命的プロレタリアートが掌握したという限りにおいて進歩的であるにもかかわらず、現実にはスターリニスト官僚によってプロレタリア独裁が簒奪されているが故に、その制度の物質力は、官僚の反動的力として利用されている。官僚は、しかしながら国家の力を自己の反動的目的に使用するためには、不断に内外のプロレタリアートの闘争を弾圧しなければならない。ソ連国家は、現代の世界階級闘争のなかで、プロレタリア世界革命の手段として機能しえていない。したがって、革命的プロレタリアートは、官僚的に堕落した労働者国家を社会主義的理想像として擁護することを強制するスターリニスト官僚のイデオロギー的幻想に対して闘わねばならないだけでなく、スターリニスト官僚打倒を直接に自己の任務としなければならない。労働者国家が世界革命の手段として機能するためには、革命的プロレタリアートがスターリニスト官僚支配を打倒し、労働者国家の存在を世界革命の目的に、すなわち第四インタナショナルの綱領に従属するように意識的につくり変えねばならない。

⑥パブロ派、IC派、全国委員会、国家資本主義論者は、総じて「労働者国家擁護」のスローガンを、狭義の意味において、すなわち固有の意味での「ソ連擁護」と同義に用いる。しかし、本来的には「労働者国家擁護」のスローガンは、狭義の意味ではとらえられない。世界市場全体が帝国主義支配下にあるにもかかわらず、帝国主義の全面的な危機が蓄積され、爆発点に達し、世界革命が不可避であった第三インタナショナルの時代の帝国主義の歴史的危機を、さらにその深部において推し進めた歴史的社会的事実として労働者国家ソ連の出現はとらえられねばならない。

ソ連労働者国家の実現は、プロレタリアートにとっては、第三インタナショナルの時代にかち得ていた革命の歴史的基礎を飛躍的に拡大前進させたものなのであり、帝国主義者にとっては自己が直接支配し関与しえぬところの、これまでの歴史においては全く経験することがなかった対立物を包摂したことなのである。このことは、世界の革命的危機の飛躍的、段階的発展を意味する。

我々は、「労働者国家擁護」をかかる飛躍的、段階的に発展した歴史の革命的条件の確保の問題としてとらえるべきである。かかる意味において把握するべきスローガン「労働者国家擁護」が、第二次大戦の時期の経験、狭義の意味のスローガンが現実的問題であったことを通して、限定され、本来的意味を失わされたことこそ明らかにされるべきである。狭義の意味において「労働者国家擁護」を主張することは、今日無意味である。本来的意味に立つとき、それは、まさしく第四インタナショナルの歴史的基礎の確認と継承の問題である。

⑦1948~53年の冷戦の激化の時期から今日に至るまで、帝国主義者とスターリニストは、プロレタリアートの階級意識と闘争を帝国主義化スターリニズムかの分水嶺でもって解体し、反動的世界体制の固定化を図ってきた。加えて今日、核戦争の恐怖によって階級意識を打ち砕いている。

現在、経済的には、ソ連をはじめ東欧諸国は、西欧帝国主義経済への依存を深めている。かかる傾向は50年代の東独、ポーランド、ハンガリーの革命的闘争の敗北を経過して現れた。今日ベトナム戦争をめぐってスターリニスト体制が統一戦線を形成できないほどに分解している現実は、これら諸国がどれほど深く帝国主義に包摂されているかを示すものであり、同時にまたソ連の十月革命の遺産の最終的清算に至る革命的危機の深化の程度を示すものである。

このように階級闘争の発展段階において、「労働者国家無条件擁護」のスローガンは、帝国主義とスターリニズムによってなされるプロレタリアートの階級意識の解体に対して闘い得ないばかりか、むしろ「スターリニスト官僚打倒」という革命的プロレタリアートの中心的任務を曖昧にすることによって反動的である。

十月革命の遺産を擁護することは、第四インタナショナルの任務である。しかしながら、官僚によってプロレタリア革命かブルジョア反革命かという革命的危機が醸成されつつある現代、いわゆる「労働者国家擁護」のスローガンを掲げることに意味はない。

第四インタナショナルの任務は、かかる革命的危機の醸成についてプロレタリアートに告げ、スターリニスト官僚体制打倒に向けて、プロレタリアートの政治的武装をはかることでなければならない。

(1966年8月 創立大会報告)