Uramaturi7+10 #03 露天風呂 ホテル「露天風呂」 どうしてこんなことになったのか、花道にはわけがわからなかった。 *** 場所はファミレス。 向かいに座るのは、出掛けに偶然出会った三井と宮城。 そして隣に座ったのは、本日強引に花道を「ある場所」に拉致ろうとしていたその男…。 *** 「いやあ、わりいな、出鼻くじいて。で? オメーら、どこ行くんだよ」 三井の問いかけは花道の耳には届かなかった。 背を丸めた猫のように「フーッフーッ」と隣(端側)の男を睨んでいる。 花道は一刻も早くこの場をトンズラしたかった。 何がなんでもこんな男とあんなトコロに行くわけにはいかないのだ。 ヤツの一瞬の隙をついてでもとっとと逃げ出すために、 ソイツの側や隣は避けたかったし、続き椅子の奥側というもの避けたかった。 店の奥の4人掛けテーブル。 ………最悪の座席位置だった。 仙道は妙に男臭い笑みを浮かべると、アイスコーヒーに挿したストローをまわしゆったりと応えた。 「いや、ちょっと温泉にね」 「オレは行かねー!」 テーブルをひっくり返しかねない勢いの花道の声が店内に響き渡る。 客がほとんどいなくてよかった…と思ったのは、三井・宮城の方である。 仙道はもともとそんなもの気にもかけないし、花道はこの状況から逃げたい一心でいっぱいいっぱいだった。 重い沈黙の後、ようやく三井と宮城がほぼ死んだ声で棒読みのようにコメントした。 「うっわー…、オトコふたりで温泉かー、うらやましー」 明らかに全然うらやましくない、プラス花道への同情が幾分含まれていた。 「なんて宿だ、教えとけ。テメーらの後ぜってぇ行かねぇからよ」 「なっ…どっ…どういうイミだよそれミッチー! ま、まるでオレらがそこでななななななんか オカシナことでもスッスススルみてぇじゃねえかよ!」 ソレを120%肯定してしまうかのような花道の動揺しまくりの絶叫。 いつもならそのテのハナシにてんで疎いハズの花道が、それほどに過敏なのは 明らかに身の危険がついそこまで迫っているからであろうか。 かわいそうなモノを見るような目で、三井と宮城が花道を見つめた。 「ああ、そうですね。●●旅館」 仙道が同意とともににっこりと冷静に応えることで、ソレはもう200%確定となる。 「ぎゃ〜〜〜〜〜〜!」 花道は立ち上がると頭を両手で掻き毟りながら絶叫した。 助け舟を出してやろうと思ったが、すでに言葉すらかけてやれない三井と宮城。 かける気もない隣の仙道。 *** 三井、宮城がふたりに出くわしたのは本当に偶然である。 「おー!何やってんだてめー………らぁ…」 少し遠くにいるヤツラへの掛け声が尻つぼみになったのは、どうも様子がヘンだからである。 仙道と花道。 あまり追求してはいけないふたりの関係(自分らの精神衛生上)。 そのふたりが天下の往来で口論?していた。 というか必死で花道が抵抗している。 ??? 「…ああ、宮城に三井サン」 気づいてゆっくり振り向いた仙道に腕を掴まれたまま、花道が必死でブロックサインを出している。 かわいい(?)弟分の窮地に、ふたりは強引にファミレスへとヤツラを誘ったのだった。 *** 三井・宮城は持久戦に持ち込むことに決めた。 どうでもいい世間話が延々と3時間も続いた。 しかし温和にソツなく対応する仙道。 仙道にとっては隣の花道を自分の側から逃がさないことだけが重要なようだ。 店にとっては迷惑この上ない客かと思いきや、花道が黙々と全オーダーを注文していたので、 逆にありがたい客かもしれなかった。 「おいおい花道、テメんなに食ったら風呂で戻すぞ」 「フン、どうでもいいじゃねぇか、どうせ×ー××散ってんなら、ゲ●が浮いてようが●ソが浮いてようが…」 花道はもうヤケクソだったが、それを想像した三井たちの方が口に入れた肉を戻しそうになった。 この若者たちは昼間から酒まで注文していた。 実は仙道をつぶそうという魂胆だったが、あっさり見抜かれ、 仙道はその狭い店内をざっと見渡すと 「オレ、店中の酒でも多分つぶれませんよ?」 と余裕の笑みで微笑んだ。 そしてそのほとんどが、無茶食いのついでに無茶飲みする花道の胃袋に消えていったのだった…。 脅威の健啖家である花道の摂食スピードもさすがに落ちる頃、 オーダーを相談する三井・宮城に聞こえぬよう花道にだけそっと耳打ちする仙道。 「桜木、どんなにあがいても行くからな、温泉」 花道は食いかけの焼きそばを口から垂らしたまま、もはや呆然と仙道を見つめていた。 一体ナゼにそこまでして行きたいか… 花道にはサッパリ理解できない。 そもそもこの2週間、仙道の部署は異常な繁忙期で毎晩午前様。睡眠時間は1日3時間も取れればいい方だった。 オマエ週末は家で寝てるのがイチバンなんじゃ… というのは、むしろ仙道の身体を心配して言ったのだ。 が、ヤツは異常なまでに固執した。 花道と行く「温泉」、なにより「露天風呂」に。 花道は本当にもうわけがわからなかった。 ただひたすら腹がいっぱいで、酒も入っていたし、もうあまり真剣に物事を考えられなくなっていた。 いつの間にか三井・宮城と話し込む仙道は、いつもの通りおだやかに笑ったり相槌をうったりしている。 花道にはいまだに仙道のことがよくわからないと改めて思う。 花道は左手で頬杖をついたまま、ぼんやりとつまらなそうに仙道を見ていた。 不意にテーブル下の花道の右手が何者かに掴まれていた。 向かいのふたりのハズがないので隣のコイツなのだが、 本当に眉ひとつ動かさず、花道をチラリと見もせずにこういうことをアッサリしてくる。 …ポイントガード?… と花道は妙な連想でヤツの横顔を凝視した。 「!」 不意にぴく…と花道の表情が微妙に変わった。 花道の指の股や側面を、仙道の指が繊細に愛撫しているのだ。 テーブルの上では完全に花道を無視したままに。 (…あ……) 花道が、く…と微かに眉を寄せる。 仙道の指先がいたずらに花道の指をなぞり撫でる度に、身体の奥に切ない痺れがキュウと走るのだ。 仙道のバカ話に三井と宮城が吹き出す。 花道以外の3人の会話は妙な盛り上がりを見せていた。 (…あ………あ…セ…や…め…) 3人の笑い声が遠くで聞こえるような錯覚の中、 一度スイッチの入ってしまった指先は、仙道のどんな小さな刺激も 甘い責め苦として感受し、花道の全身をしびれさせる。 そんな先端の些細な刺激に身体の芯まで疼かされ、たまらず深く俯くとさらに眉を寄せる花道。 「どうした、酔ったのか花道。顔あけーぞ?」 かけられた声に、不自然にビクッと大きくおののくと、そのイキオイでテーブル下の仙道の手を振りほどいた。 「なななんでもねー!」 必要以上に大声で否定する花道。 3人が話に花を咲かせている間中、仙道の指先に翻弄され続けた花道は、すでに息も絶え絶えに小さく身を震わせていた。 「ホントだ、赤いな。水もらってやろうか」 暗に揶揄を含んだようなささやきに花道がギラッとヤツをにらみつける。 無論ひるみもせず、本当に店員に水をもらう仙道。 「…どうした?」 水を花道の前に置くと、眉をあげとぼけて花道を覗き込む。 どうしたもこうしたもねー! と内心怒髪天を突く花道に凄まじい視線を向けられ、蕩けるような笑みを返す仙道。 この野郎、おもしろがってやがる!! 仙道が上機嫌なのは明らかに三井たちと話がはずんだからではない。 むしろあんなに饒舌だったのはワザとである。花道を翻弄する時間を、少しでも長くふたりにジャマさせないために。 怒りのあまりブルブル震える花道。 もう腹が立って腹が立ってしょうがなかった。 が、仙道の方は、そんな殺意さえこもったようなギラギラした視線を向けられるのがむしろ嬉しくてしょうがないというような風情で花道を見つめながら、 「そんなアツイ瞳で見るなよ。誤解するぞ?」 と囁いたかと思うと、す…と花道に手を伸ばした。 「…な………」 花道の頬や口のまわりについた食べかすを指でつまみ、口に運んでは指をしゃぶるようにして食べ始めたのだ。 「ん…結構イケるな…」 すでに赤を通り越してどす黒くなる花道と岩になる向かいの三井・宮城。 *** 三井・宮城の推測はこうだった。 どうやら仙道は何か怒っている。 仙道の顔面に完璧なまでに終始張り付いたままの愛想のいい笑顔。 饒舌な話術。 それが今日は恐ろしいほどに研ぎ澄まされているのである。 それなりに長い付き合いでカンのいい人間にならスグわかる。 というかそんなことに気づかないのは、大抵その原因である花道くらいなものである。 下手なことを口にしたら、かわいい(?)弟分がこれ以上何を致されるかわからない。 仙道を直接攻撃するのはあまりに危険と三井・宮城には思われた。 とにかく、ここはもう花道の気持ちだけでも軽くしてやる他はない。 「ま、まあいいじゃねぇか花道、でけぇ風呂は気持ちいいぞ? おめぇアレ好きじゃねぇか、アレ! ホラ、潜水艇ごっこ」 「ああ! アレな。おっまえほんとバカだよな。広島でも伊豆でも、確か静岡でもやってたよな。」 「そうそう、泣き出す石井を追っかけまわして…」 ビシィッとそのファミレスの気温が10℃以上下がっていた。 「………湘北の合宿、伊豆と静岡…はどこですか?」 地の底から這い上がるような仙道の声。 明らかに地名なんかが聞きたいわけではないハズだ。 三井と宮城は自分たちが踏んでしまったあまりにも大きい地雷に恐れをなし震え上がる。 花道に至っては気絶し泡を吹いていた。 「バカヤロウ、冗談だ。湘北貧乏だから風呂ねんだよ、個室個室。備え付け」 「今、何か聞いたか? オレは何も聞いてねぇ」 もうふたりの連携プレイはてんでバラバラだった。 「……………」 不気味な笑顔をはりつけた仙道は、うつろな三白眼で虚空を見つめたままストローのコーヒーをすすっていた。 *** 結局、三井と宮城は花道のために何もしてやることはできなかった。 むしろ火に油を注いでしまっただけだった。 ふたりを乗せた車を見送りながら、どちらからともなくつぶやいた。 「アイツら●●旅館って言ったよな…」 「ぜってぇ行きたくねぇな…」 *** ふ…と花道は薄目を開けた。 なんだかカッコイイ和室用の電灯が目に映った。 モノのよしあしなんて花道にはよくわからないが、オレ様の部屋にも今度こんなのつけてみるのもいいかもな…、 とぼんやり思ったとき、もういい加減見慣れたシルエットが電灯の像を遮った。途端さ…と目を閉じ狸寝入りを決め込む花道。 「…桜木? あれ?起きたんじゃなかったのか?」 声の位置、頭の下の感覚から言って、これはヤツの膝枕攻撃か? 下手に刺激しない方がいい。とにかく今はじっと我慢の… 口唇に何か触れたこの感覚。 花道はがばぁっと身を起こすと、すごい勢いで部屋の隅に移動しゼーハー言いながらヤツを睨み付ける。 「やっぱり起きてんじゃん。おはよ。もう着いたよ」 「×●△□※☆○!!」 花道には言いたいことはイロイロある。でもその思いが強ければ強いほど言葉にはならないものだった。 「よかったよ、目覚ましてくれて。せっかく浴衣あんのに意識のないおまえにオレが着せるのもつまらないしな…」 「×●△□※☆○!!」 「なんだよ、着せて欲しいのか? オレはどっちかってゆうと脱がすほうが…」 「×●△□※☆○!!」 「はやく着替えて風呂行こう。ここ露天がみっつもあるんだぜ? ドレから行こうか。」 嬉しそうにパンフレットを見ながら風呂を選定している。 仙道はもうすでに浴衣姿になっていた。 *** 浴衣姿の仙道。 まともな神経のオンナなら、とても正気じゃいられない(苦)。 仙道は確かに顔もいいのだが、それよりもさらにいいのが実は「身体」である。 とにかくスタイルが抜群にいいのである。バランスがとれすぎてイヤミなほどだ。 だからオンナもオトコも、仙道に惹かれるのはある意味仕方がない。 何をしたって様になる。何を着たって様になるのである。 実際今ヤツは、ごくありきたりな宿名入りの白の浴衣に濃紺のどてらを羽織っているだけである。 そこそこいい宿のようなので、悪い品ではないであろうがここまでキマって見えるのはやはり仙道ならではなのだろう。 普通なら自分の連れがそんななら得意になったり自慢になったりするのかもしれないが、 生憎花道は普通じゃないし、仙道にアコガレなんてこれっぽっちも持っていない。 むしろ腹立たしい。 オレの方がカッコイイ!!!(怒) ムキになってワナワナ震えながら心の中でそう叫ぶのは、世界一素晴らしいハズの自分が負けそうなことを理性が察知しているからだろうか。 とにかく今すぐに自分も浴衣姿になって、どれだけオレ様の方がカッコイイかコイツに思い知らせねば! と花道は仙道をギラギラ睨みつけながら男らしく着替え始めるのだった(…)。 *** 一方、その熱すぎる視線の意味はともかく、大胆に着替え始めた花道の姿に、微かに息をつめる仙道。 つややかな花道の素肌。その熱さを知ったのはつい最近のことだ。 長いこと、仙道は自分の気持ちを押さえつけながら花道のそばにいた。 花道が自分を受け入れてくれる日が来るか来ないかなんて、仙道にもわからなかった。 ただ、そばにいた。 それだけは抑えられなかった。 語る瞳をして。 そうして、結局ややフライング気味に結んだ関係だが、仙道が想定していたような最悪な結果には至らなかった。 むしろ、想定外なほど結果はよいものだったろう。 花道は仙道を一方的に拒絶したりはしなかった。 もちろん全く抵抗しないわけではないが、今では花道も、おずおずとだが仙道の思いに応えてくれることもある。 その思いの深さにおいて、ふたりの間には依然凄まじい隔たりがあるにしても…。 *** 「んだよコレ。丈が短ぇじゃねぇかよ。ちっ、天才の足は長すぎるからな…」 苦悩げにひとりゴチて己のステキさをアピールするが、ヤツには全く違った点がアピールされていた(苦)。 浴衣はもうそれだけでなまめかしいのだ。 腰のラインもバッチリ出る。 襟まわりなど、「どうか手を突っ込んでくれ」と言わんばかりのデザインだ。 深く座椅子に背を預け腕を組み、息を詰めたまま目を凝らして花道を見つめていた仙道が、不意に視線を外し自嘲するように ふ…と笑うと、「そうかな…」とつぶやいて立ち上がる。花道のすぐそばまで来ると、箪笥に手をつき、花道の上から下まで舐めるように視線を這わせた。 「おうだ、オメェなんかより、オレ様のほうがずっとカッコイイんだからな!」 腕を組んでいた花道が、得意げにビシィと仙道を指差す。その肘から先、チラつく袂だけでも眩暈がしそうだ。 「…ああ、そうだな。いいよ、桜木。たまらない…」 「ソウダ、ソウダ。わかればい…」 仙道の口唇が花道の口唇を塞いだ。 *** 「んっ!…んっ!………んんんっ!」 浴衣が入っていた箪笥に両腕をつき、花道を囲ったまま情熱的な口づけを贈り続ける仙道。 初心者の花道はその衝撃に思わず目を剥き当然ながらガタガタとあがこうとするが、さらにふたりの間の距離を縮められ効果的に抵抗できない。 「んんっ……んっん……ん…ん……」 深く口唇をかさねたまま、溢れる思いを擦り込むように巧みに舌まで愛撫され、濡れた音に翻弄されるままに花道がきつく眉を寄せる。 そのうち次第にがくがくと膝が震えだす。もう立ってもいられない。 仙道のテクニックはとにかくスゴイのだ(…)。 ただでさえそんな男が、本気でこの赤毛の大男に夢中なのである。 ファミレスで指先だけでイタズラされ、中途半端に煽られていた身体が、途端にその熱さを思い出したかのように疼きだす。 花道が必死でもがくのを押さえつけるため、ふたりの身体はぴったりと押し重ねられているが、割り込まれすでに触れ合う脚同様、 当然のことながら互いの熱い昂ぶりが薄い布越しにはっきりと感じられてしまう。 ソレに気づいた花道が、さらに顔を真っ赤にして抵抗の力を強めるが、そうされればされるほど、切なさをかきたてられるのか 仙道のキスは情熱的になってゆくのだ。 「…んんっ…んんっ……んんっ………」 ついにぐったりと、仙道の浴衣をひっぱる手も力を失うまで味わいつづけてから、ようやく仙道は名残惜しげに口唇を離した。 が、小さく震えながら舌の疼きに涙を滲ませ、悔しそうに恥ずかしそうに眉を寄せたまま荒い息を吐く花道の表情を見た途端、 たまらずもう一度口唇を合わせようとする。 花道が力なくもがく。 「…や…めろよ、……だからヤだったんだテメーとこんなトコ…」 むしろ泣き声のような震える甘い声でなじられ拒絶され、仙道はあっさりと理性を失った。 強引に塞いだ口唇。 そこから漏れる花道の切ない悲鳴が、さらに仙道を狂わせ歯止めのきかない愛欲に溺れていく。 ついに立っていられなくなった花道の身体が、徐々にズズズ…とその場に身を落としていった。 *** 「…は…セン…ド…も…ダメ…イく…って…イっちま…」 泣くような声でうわごとのように許しを請う花道。 大きく脚を開かされ、 仙道に舌を這わされる度に、大きく震える花道自身。 ビンビンに張りつめ、ぬめる先走りと仙道の唾液でてらてらと光っている。 ビク…ビク…と大きく揺れる先端を、ゆっくり含むと舌先でこすりながらにじみ出る蜜を吸ってやる。 「…ひ…ひいっ…」 すさまじい快感に四肢を硬直させ、仙道の指を二本、根元まで抽送されている隘路がさらにぎゅっときつくなる。 「いい子だ、花道…気持ちいいんだね。かわいいよ…」 そのまま、指の輪であやすように花道自身をこすりながら、先ほどから指を銜え込んで必死にヒクヒク震える小さな入り口を舌先でたどる。 「…あっ…あっ…ああっ…」 抜き差しもさることながら、その舌の愛撫がたまらないらしい。 蕩けるような喘ぎをもらして、ついに泣き出す花道。 「あ…ヤ、だ……はな…せ、イく…、も…射精…るって…はな…イっ……!」 悲鳴さえ詰まらせると、ぶるぶると全身を大きくわななかせたまま白濁した切なさを迸らせた。 *** 花道は達った後、しばらく断続的に痙攣し続ける。 いつも仙道を相手に堪えに堪えた末に迎える絶頂は、とてもじゃないが初心者の身に余る衝撃なのだ。 それにしてもその日の花道は、箪笥を背に身を起こした仙道の腕の中、小さく身を縮こまらせたまま、 いつまでもいつまでもヒクンヒクンと身を震わせ続けた。 確かに存分に達かせたとは思うが、あまりに続く恋人の痙攣に、嬉しいような困ったような表情で仙道が囁きかける。 「……桜木? ね…そんなに快かった?」 返事はない。 「?」 もちろんはじめは絶頂の余韻でもあったのだろうが、どうやらいまや花道はしゃくりあげながら泣いているのだった。 途端仙道の身体がさらにカッと熱くなる。 花道が、あの花道が自分の腕の中で身を震わせて泣いているという事実だけで、胸の奥の切なさが狂ったように暴れだす。 「泣かせたくない」という思いと「もっともっと泣かせたい」という思いが交錯し、花道の震える身体を猛烈に抱きしめたい衝動にかられてしまうのだ。 「こ…のやろう…オッオレはだからヤだって…」 花道がしゃくりあげ泣きながらブツブツと仙道をなじりだした。 「ひっ…昼間っからこんなトコで…キタネーっつってんのに…なんでいっつも… だいたい、仲居さん来たら、ぜってぇこの部屋イカくせーって…………」 あまりの情けなさに言葉をつまらせると、不意に花道の身体がブルブルブルブルと震えだした。 「…こ…ここ…メシは……………」 「各室配膳」 「バカーーーーーーーーー!」「…だって仕方ねーじゃん。あのまんまじゃオレらいつまでたっても風呂入れねーし」「てめーとなんてハイラネェっつっただろっ(怒)」 「………なんで?」 ぷいっと思い切り怒りを込めて花道は仙道から顔を逸らした。 「別に…桜木がどうしてもイヤっつーなら………………しないよ」 「ウソつけ!」「…信用ないな」「当たり前だ!」 仙道がご機嫌をとるように伺う。 「約束するから。な?」 大きく花道は首を横に振る。 徐々に仙道の目つきが怪しくなってきた。 「……桜木…どうしてオレとだけ、そんなイヤがるわけ?」 「べっ…別にテメーだけってわけじゃねーよ! ヤローと風呂なんかオレは全ッ然…」 「…三井さんとか宮城とかは?」 ぐっと花道が言葉に詰まる。 「がっ合宿なんだから仕方ねーだろ!!」 「……「潜水艇ゴッコ」も?」 ぐぐっっとさらに花道が言い訳に詰まる。 「ウルセーーーーー! イチイチイチイチイチイチイチイチなんなんだテメーは!! もーったあきた! フロだけじゃねぇ。 もー金輪際テメーなんかと…」 仙道がグワシィッっと花道を抱きしめた。 「ひでぇよ桜木! あんまりだ!! オレのことキライじゃないって言ったくせに! 今週なんか毎晩オレのこと手でイかせといて!!」 「だっ、バカヤロウ! そっそれはテメーがバカみてーに毎晩毎晩遅ぇのにサカるからじゃねーか! あーでもしなきゃオメー おさまんなくて絶対カラダぶっこわすって…」 ブチューーーーーーーーッと仙道が花道の口唇を奪う。 「バ…まだやるつもりかーーーーっ!!」 「オレの身体をそんなに思ってくれんだったら、オレがどんな気持ちで今週過ごしたと……!」 わけがからなくて花道が抱きしめられたまま宙を凝視する。 花道をぎりぎりと抱きしめまま、仙道の身体が小刻みに震えていた。 「…………………………おまえ先週、水戸とドコ行った」 花道の顔面から一気に血の気が失せた。 「なん…で…」 花道の問いかけに身体をもぎ離すと、仙道は机に一枚の紙切れを置いた。 「ホテル露天風呂」と打たれたレシートだった。 「…落ちてたよ」 「…オ…オレじゃねぇ…」 仙道が目を細めて花道を見た。 「…わけじゃねぇ」 花道が半泣きのアイソ笑いで訂正した。 「べっべべべべべ別にナンもねぇよ! テテテテメーはシゴト続きで寝てたから、洋平と出かけただけじゃねぇか。別にテメーが思ってるような…」 「じゃあなんで隠してた?」 「ソッ…ソレは…」 *** 実は洋平に口止めされたのだ。 こないだまで花道は猛烈に露天風呂に行きたかった。きっかけはテレビでそんなような特番を見たからだった。視覚刺激に非常に弱い男だった。 思い立ったら止まらない花道は、駅の旅行カウンターなどでパンフレットを物色しては、コレもいいアレもいいと洋平を説得した。 しかしもちろん仙道の報復を予測できる洋平は片っ端からなんだかんだと断った。 「泊まりはダメ」 「遠出もダメ」 「そんな高ぇところは仙道サンと行け」 ついに花道は3つ駅向こうにそのターゲットを発見し、先週強引に洋平をつき合わせたのだ。 が、そこに着いた途端、洋平は口に銜えていたタバコを落とし、力なく、でも心から花道を見つめて言ったのだ。 「おまえ本当にバカだろう」と。そこでふたりは久しぶりに取っ組み合いの大喧嘩になったが、ほぼ互角に強いふたりが互角に 殴り合った結果、泥だらけのままどちらからともなく吹き出すと、肩を組んで大声で笑いながらソコに入っていったのだ。 入ってからもふたりの大笑いは止まらなかった。なんせ変わった施設だったのだ。 花道にはすべてがモノ珍しかったし、洋平はそのリアクションひとつひとつに大ウケだった。 一通りハシャギ終えた後、ふたりそろってチャチいジャグジーにつかると洋平は苦笑した。 「…ったくしょうがねぇなテメェはよ」 花道がむっとする。そのまま洋平が諦めたようにため息をついた。 「ただでさえ疲れてんだ。仙道サンにはぜってぇ言うなよ」 そう言って花道の顔面にビシャッと湯を飛ばした。 「…のやろう」 花道はゆっくりと近づくとざばぁっと一気に洋平の頭を湯船に沈める。 爆笑とともに第二次洋花大戦の火蓋が切って落とされた。 *** 仙道がせせら笑った。 「…水戸とは行けてオレとは行けないんだ」 もはや完全にすねている。 すねる仙道は、扱い方次第でどう爆発するかわからない、厄介極まりない男だった。 「…一緒に入ったんだろ。水戸とは風呂で何したんだよ。」 まさかフル●ンでジャレあった、なんてことは死んでも口にするわけにはいかない。 「…あのな、洋平とオレはキョーダイみてーなもんだ。オメーだって姉チャンたちと風呂入ったからって イチイチなんもねーだろが。テメーで想像してみろよ。」 「……………いかがわしいな」 「変態家族!」(作者注:ウチの仙道くんは家族親類の大量のお姉チャンたちに弄ばれて成長しました) 「なあ…」 仙道の囁くようなかすれ声。 その淋しげな瞳に見つめられるだけで花道はピクンと動けなくなる。 「なんでオレ以外の奴等とは入れて、オレとは入れないんだよ」 仙道が自分の腕の中の花道に、さらに顔を寄せて覗き込みながら切なく問いかける。 振り払うようにもがくように花道がなんとか向きを変える。が、その身体を仙道が後ろから抱きすくめる。 「なんで水戸とは行きたがるくせに、オレには誘ってもくれないないどころか…こんなにイヤがるんだ?」 震える腕に締めつけられ、切々と訴えられるだけで胸の奥がキュンキュンと甘く痛み出す。 ついさっきあんなにイッたのに…。こんなにも簡単に熱くなってしまう自分の身体が情けない。 「…なせ…よ、も…イヤだ……あ…」 花道の首筋を仙道の口唇が辿りだす。 すでに半勃ちの花道を浴衣の上からさすりながら耳に直接吹き込むように脅すのだ。 「な、桜木。一緒入ろ。オレだけ除け者にするなんて…ひどいぞ。一緒入ってくれなきゃ、このままここでずっとイジメるぞ? いいのか?」 いつのまにか胸元に入り込んだ仙道の腕。 てのひらが硬い突起に気づくとそのままかするように転がし花道を硬直させる。そのうち指先でキュと摘むとこりこりと芯を捏ねては引っ張りさらにてのひらで転がし続けた。 「…はっ…はっ…イヤっだっ!」 涙を滲ませ震えてイヤがりもがく花道。 もともと感じ易かったソコは、仙道に徹底的に快楽を教えこまれ、すでにもっとも敏感な器官とされているのだ。 「何もしないから。な? いいだろ?一緒に……」 そのまま、耳の孔には舌を差し入れ、さらに花道をふるふると震えさせる。 何もしないどころかすでにしている卑怯者を、なじるように潤んだ瞳で見つめるが、花道には抗うすべはもはやなかった。 *** 仙道はその露天風呂の湯気の中、熱い湯に身を浸し、恋人の来るのを待っていた。 脱衣所でいつまでもモソモソとしていた花道に小声で先に行けと怒鳴られた。 非常に不本意ではあったが「トンズラしたら水戸を殺す」と耳元で脅して先に湯殿に来た次第である。 正直この1週間、仙道にとっては非常につらかった。 もちろん仕事も大変だったのだが、それ以上に花道とできないのがつらかった(苦)。 実は一緒に暮らすようになってようやく1ヶ月というふたり。 特に仙道にとっては最愛の恋人相手に抜いても抜いてもまだ抜けるといった時期である(苦)。 そんなわけで週の前半から、猛ってしょうがない仙道を花道が手で慰めてくれた(正しくは仙道が強引に「慰めさせた」)。 しかし、そうされればされるほど、花道の奥深くを感じたくて感じたくてたまらなかった。 そして、もうどんなに遅くなっても花道が泣いて嫌がっても…!と思った木曜日の深夜帰宅後、仙道はソレをゴミ箱の隅に発見してしまったのだった…。 心臓に直に氷を当てられたような衝撃に立ち尽くす仙道。 奥の部屋では花道がすでに白目をむいて大イビキをかいて暴酔している。 すぐさま無理矢理犯し責め立てることもできた。 が、そんなことをしたら、今の自分は花道にどんなひどい乱暴をしてしまうかわからない。 愛しているのだ。 自分でもコントロールできないほどに。 誰よりも何よりも大切に慈しみたいのに…、 なぜ愛しい恋人は、自分にそうさせてはくれない? 自分の中の激しい衝動を押し殺してベッドに近づき、みぞおちがよじれる程の切なさに震えながら、花道の赤い髪にそっと口付けた。 するとそのこそばゆさに眠そうに目覚めた花道が、暗闇の中寝ぼけたまま仙道の首に腕を回した。 「…おせぇよ、てめぇは…ねみぃじゃねぇか…寝るぞ…」 舌足らずな声になじられ、そのまま布団の中に引きずり込まれた。 仙道がどれ程の苦悶の夜を過ごしたか、誰にも想像できまい…(苦)。 仙道はいったん湯船から上がり身体を洗い始めた。それでも花道は入ってこない。 だんだん仙道もイラつきはじめた。水戸をどうやって嬲り殺しにするか具体的に考え始めたその矢先… カラカラと戸の開く音にそちらを見… 「ぶーーーーーーーーーーーーっ」 仙道は思わず盛大に吹き出していた。 *** その宿のタオルはハンドタオルもバスタオルも橙に近い黄色で、他の温泉客も皆めいめいに小さい方のタオルを 持って風呂に入っていた。 腰に巻く者、畳んで頭の上に載せる者。それぞれ使いたいように何枚でも貸し出してもらえた。 しかし花道は、身長2m近いあの桜木花道は、バスタオルを女性のように胸元から隠すように身体に巻きつけて登場したのである。 あのゴツイ身体で。 あのいかつい顔に「世界中が憎い」とでも言いたげな凶悪な表情を貼り付けたまま。 彫り物のある客はそれだけで入浴を断られたりもするが、今の花道はそれ以上にタチが悪そうだった。 客は皆その巨大なオカマヤクザ(赤毛)に心底ビビリまくり、目があっただけで「ヒィッ」と小さく悲鳴を上げると 一目散に逃げ出す始末。 笑い転げる仙道以外のすべての客が「さわらぬ神に祟りなし」…というか、「絶対にさわりたくもない」と、息を殺し目を逸らし、 さりげなさを装いつつも、そそくさと風呂から避難していったのだった…。 *** 仙道と花道はふたり、露天風呂につかっていた。 静かである。 なぜなら 花道のお陰で自分たち以外のすべての客は退散し、その後もひそかに噂にでもなっているのか、その男湯に新たに入ってくる客はいないのだ。 仙道はチラリと少し離れたところにいる花道を見る度に笑いを堪えられず顔を歪めた。 声を出すと怒られそうなので、なんとか堪えるが顔をそむけプルプルと震えている。 「…にがおかしんだテメー」 全身おかしいとしか言いようがない姿をした花道が、ドスの利いた声でメンチを切る。そうされればされるほどおかしくて仙道の身体が ヒク…ヒク…とわななき続ける。 「…笑うなっつってダロ(怒)」 ざばあっと立ち上がったその身体にはまだしつこくバスタオルが巻かれている。 ブルブルブルブル震える仙道が再び盛大に吹き出した。 *** 「…ホントに桜木はもう…勘弁してくれよ」 ようやく落ち着いた仙道が、息を整えながら花道のすぐ横に寄ってきて座った。手ですくった湯で顔を洗う。 「…なにがだよ。一緒に入ってやってんじゃねぇか」 背を向けたままの花道が不満そうに「んだよ、ったくよ」などとブツブツ言っている。 仙道があらためてクスッと笑った。そして湯船の中、気持ちよさそうに伸びをした。 「は〜あ、桜木とこれてよかったなぁ…」 ジロリと花道が仙道を睨む。 「温泉は気持ちいいし、桜木はおもしれぇし…」 (オ、オモシロがってんじゃねぇ) と、ワナワナ震える花道の怒りのこもった視線には全く動じない。 「オレさ、ずっと来たかったんだ。だって…」 仙道は鼻の頭を人差し指で掻きながらつぶやいた。 「…桜木は好きなコと登下校すんのが夢だったろ? オレは、その…好きなコと一緒に温泉来んのが夢だったから」 花道がなぬ…?と仙道を振り返り凝視した。 湯のせいかそれ以外でか、照れたように笑う仙道の頬が少しだけ赤い。 花道は下唇をきゅ、と噛むと慌てて仙道から顔を背けた。 「…………」 うつむいて湯を見つめる花道。 なんだか、自分が洋平と風呂に行ったことが無性に悪かったような気がするではないか。 花道が猛烈に露天風呂に行きたかった頃、真っ先に仙道を誘う気になれなかった理由は「仙道は疲れているから」というだけではもちろんナイ。 まさかソレが花道の「登下校」に匹敵するものだとは知らなかったが、 仙道を誘えば、コイツはどんなに身体がボロボロだろうと付き合っただろうし、どんなに喜んだかも想像できた。 それでも、そんな気にはなれなかった。 なんせこうしてすでに湯に浸かっている今でも、花道は正直一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだ。 なのに… なのにそんな嬉しそうに笑われると、花道はいたたまれないほどに切なくなってしまう。 もう、どんなにバスタオルで巻いても巻いても隠しても、愛される悦びを教え込まれたソコやソコが、キュンキュン疼いてたまらなくなってしまうのだ。 *** (…あ………) 意識した途端、ソレはもうバスタオルの感触にさえ反応してしまっていた。 たまらず小さく身じろぐ花道。しかしそのかすかにこすれる感覚にさえ息を呑む。 花道が、こんな奇妙な格好で風呂に入ってきた真の理由。 実はそれは、風呂に入る前からソコもソコもすでに微妙に勃ってしまっているように思えてならなかったからである(哀)。 そんな恥ずかしい身体をとても人目になんかさらせないし、仙道なんかにはなおさらだ。 もしかしたらそれらはすべて花道の考えすぎなのかもしれないが、一度そう思ってしまうともうどうあがいてもぬぐえない。初心者の限界だった。 だいたい、ついさっき部屋で仙道に施された濃厚な愛撫が脳裏をよぎれば、もうそれだけで即体中が恥ずかしい様相を呈してしまいそうで、 このバカヤロウにこんな変態な身体にされた自分が情けなくて涙が出る。 だから… 本当は仙道と風呂なんて絶対に入りたくないのだ。 それは仙道が確実に花道に手を出すであろうから、ということ以上にむしろ、 すでに夜毎愛されその情愛を奥深く刻み込まれることを覚えた身体が、とても平静でいられるはずがないとわかっていたからである。 *** 俯いて決して自分の方を見ない花道を、仙道は切なく見つめていた。 向けられたうなじが赤く見えるのは、湯が熱いからなのだろう。 けれど、仙道にはそれが視界が揺らめくほどに妙になまめかしく見える。 相変わらずつれない… その「職人」と謳われたテクニック(?)で強引に愛撫すれば花道の若い身体は簡単に篭絡するし、 脅し宥めすかせばこうしてなんとか一緒に風呂にも入ってくれる。 けれど… なんなんだそのバスタオルは…(怒)さっきまではその奇妙さにただ単純にウケていたが、よくよく考えると全く面白くないということに気づいた。 きっと、花道は自分以外の相手には惜しげもなく素肌をさらすのだろう。 例の「潜水艇ごっこ」だって常に花道が真っ先にやりたがったに決まっているのだから(怒)。 約束したのだから手は出すまいと思っていた。 けれど、こうまで頑なに隠され背を向けられると、寂しさも切なさも痛いほど仙道の胸を締め付け、 堪えがたい焦燥感と嫉妬が入り混じり、じわじわとヤツを追い詰めるのだった。 「…桜木?」 不意に耳のすぐ側で囁かれ、ビクッと派手に大きく身を引く花道。 そのまますぐさま離れようとする花道の腕をぱっと掴んだ。 「なっなんだよっ放せよ、はな…」 焦った様子で声を上げ、必死で手を振りほどこうとする。 つれない! 相変わらずつれない! 悔しそうに口唇を噛むと仙道はぐいっとその腕を自分の方に引っ張った。 「どわ!」 花道がバランスを崩して仙道の胸に倒れこむ。 その身体を仙道が愛しげにきつく抱きしめてしまう。 「…なみち…!」 (…あっ…ああっ…!!) 搾り出すような切ないささやきに、花道は仙道に抱きしめられたまま思わずぎゅっと拳を握る。が、痛いほどに抱きしめられる快感が花道の脊髄を直撃する。もうビクビクと震える身体が止まらない。 仙道の方は、もうひたすら必死だ。 なぜ今更こんなに花道が自分を避けるのか。 なぜこんなにいつまでも花道は自分にだけつれないのかわからない。 きつく抱きしめた身体に身をすりよせ、切なく名を呼び続けてはバスタオルに包まれたその背を肩を、まさぐるように愛撫する。 「…ねぇ、こんなのもう取りなよ。邪魔だよ。何こんなギチギチに巻いてんの?」 仙道がバスタオルの裾を苛立たしげにぐいっと引っ張った。 が、剥かれまいと必死に脇を閉める花道。 「…や…めろよ、なせっ……」 本気で嫌がる花道の声は怒りで泣き声のように震えていた。 しかし拒絶されればされるほど仙道は余裕を失ってゆく。 「こんなんで隠すなよ、もう知ってるぞ?こん中どんななってるか…」 仙道は花道の腰をぐいっと自分に抱き寄せると、すでにガードがガラ空きになっている花道の弱いソコを、探るように人差し指の側面でくりくりと刺激した。 「あっ…あっああっ…てめっ…」 仙道が一瞬驚いたような表情をした。 必死に顔を背け、悔しそう目を伏せたその頬がすでに羞恥に真っ赤に染まっていた。 花道の拒絶の意味にようやく思い当たり小さく息をつく仙道。 「…なんだよバスタオル越しにもこんなかよ。それで隠したかったんだ…」 耳元でからかうような仙道の声は、もう最愛の恋人の意地っ張りがかわいくて愛しくて仕方ないという音を含んでいる。 「あっ…あっ…チガ…」 「ダメだよ桜木。隠してももう全部知ってる……。ココの色も…ココの硬さも……」 つぶやきながら花道の弱いポイントをバスタオル越しに確かめるようにさすってはこすり確認する。その片腕がついに尻の凹地にまでのびた。 「この奥がどんな風にオレを悦ばすかも…」 「ああっ…あっ…ああっ…やっ…」 花道がわななきながら甘く切ない声を上げる。 「………て…め、しねぇって約束し…」 なじる声も続かない。ビクビクと震えたまま、仙道の嵐のような愛撫にさらされてしまう。 「だって桜木のココもココも…こんなじゃ、とても湯から上がれないじゃん…ちゃんとオレが宥めてやんなきゃ……」 必死にあらがう手を押さえられ、ついにそのプチンと勃ち上がり震える両乳首がバスタオルの外に露にされてしまった。 「…あっ…ああっ…やっ…」 そんな恥ずかしいソコが、コイツのイヤらしい視線にさらされているという事実だけでもう消え入りたいほどに切なくなる。 「…なみち…」 吐息のようにつぶやくと、さらに乳首のまわりを指で押し広げ、ソコがどんなに硬く勃ち上がっているかをじっくり確認されてしまう。 「…ああ、きれいなピンク色だ…こんなに勃って、オレにいじられんの健気に待ってる…」 「も…や、めろよ、見ん……あっ…」 ついに尖らせた舌と指がその震える突起を確かめるように宥めだした。 *** 「桜木…ちゃんと見てなきゃダメだぞ? 誰か入ってきたら…」 岩に両手をついて、花道は露天風呂の出入口である戸を凝らした瞳で見つめていた。 しかしヒクヒクッと震えては潤んだ瞳を閉じてしまい、そこをただ見ていることさえもできなくなる。 胸元から広がる凄まじい快楽に、きつく眉をよせ身をよじる。 花道のやや斜め下、岩を背にする仙道が、バスタオルの幕の中、その反らされた胸の上でプチンと勃ち上がった乳首を、 尖らせた舌先で執拗に転がしているのだ。その上時折吸いついては甘噛みを繰り返し、その恋人の甘い突起を存分に味わっている。 花道は仙道の身体を大きくまたがされ、膝立ちでなんとか身を支えているが、身を捩る度、張りつめた己と仙道のソレがこすれ合い、たまらずわななく。 腰を引こうとしても、尻に置かれた仙道の腕がそれを許さず、むしろさらにきつくこすり合わされてしまうのだ。 そのまま尻の割れ目に伸ばした指で、疼く入口までやさしく愛撫され蕩けさせられてしまう。 ついに花道の全身がブルブルと震え、「イく…も、イく…」とうわ言のように泣き出した。 「…ダメだよ、くらぎ…こんなとこで…湯汚しちゃうだろ…」 すでに先走りを溢れさせているに違いない花道を、右手にやさしく掴むと先端を擦りながら己と何度もこすり合わせ、さらに乳首を苛め続ける。 花道は必死に堪えているが、体中を貫く快楽の波に、ついに白濁の蜜が断続的ににじみ出しこぼれてしまっていた。 「…ダメだって言ってるのに…くらぎは…」 なじる言葉とは裏腹に、さらに激しく花道をこすり追い詰めてゆく。バラ色に染まった花道の全身が絶頂の予兆にヒクヒクヒクヒク震えだした。 「…は…も、そろそろ…オレもダメ…だ。ね…入りたい。入れるよ…なみち」 「…あ…や…や…」 泣きながら力なくあらがう花道。 指先でその窪みををやさしくマッサージしてから広げ、右手に己を支え持つとピトと熱い先端を当てた。 ヒクンと硬直する花道の体内に、ゆっくりと猛る自身を挿入してゆく。 少しずつ飲み込ませながら、花道自身への愛撫も忘れない。 前をこすられながら熱い肉塊に胎内をゆっくりと押し開かれる感覚に、花道は泣き出してとても出入口の監視などできていないが、仙道も今はそれどころではない。 器用に腰を揺すりながら花道の最奥まで挿入してしまった。 ぴっちりと隙間なく繋がれたソコは、抜き差しする前から絶頂間際の性急さでひくひくと締まり、仙道に凄まじい悦楽を味わわせていた。 「…いいよ、花道、すごく締まる。お前ん中…すごくいい…」 そうつぶやきながらゆっくりと腰を廻し、しっかりと根元まで己を穿ち込む。 はじめての対面座位で、最も深いところまで挿入れられてしまった花道はなすすべもなく震えている。 そのうち仙道に細かく突き上げられはじめ、奥を突かれる度に、花道の、鼻に抜けるようなか細い悲鳴が上がりだした。 「ダメだよ…なみち…声、誰か来たら、聞かれちまう…」 そう言いながらも全く腰の動きは緩めず、花道をさらに追い詰めてゆく。 声を出すことも精を放つことも、どんなに必死で堪えても堪えきれそうもない切なさに、花道の瞳から涙がポロポロこぼれ落ちる。 息を詰めて手の甲を噛んで耐えようとするが、堪えれば堪えるほど仙道に刻み込まれる行き場のない快楽の波が全身を支配し、花道を狂わせるのだ。 もう絶頂は間近だ。 どんなに堪えてももう射精を我慢できそうにない。 ガクガクと震え始めた花道の最奥を、容赦なく突き続けていた仙道が不意に腰の動きを止めた。 「?」 ぴたっと動きを止め、再開する気配もない仙道。 わけがわからなくて涙の溢れる瞳で花道が仙道を見つめた。 「………たまには桜木もキモチいいように動いてみて…」 「な…」 あまりのことに花道はボロボロ泣き出した。 もうあと少しで達くのに。 じれったくて切なくておかしくなりそうなのに。 あまりのことに言葉にもならなくてボロボロ泣きながら「できない」と悔しそうに頭を振る。 「じゃあずっとこのままだよ。はやくしないと誰かきちゃうぞ?」 催促するように仙道が腰を揺する。奥の弱いところをこすられて花道がブルブル震える。 「ほら…いい子だから…ね?」 何度か軽く突かれ、ついに花道は下唇を噛むと仙道の肩に震える手を置き、観念したように緩慢に動き出した。 硬い肉塊が、自分の動くままに疼く胎内をこすっては出入りしている。 快楽を求めて自ら腰を動かすなんて、純情な花道には恥ずかしくて耐えられない。 しかも花道がこうして腰を動かすことで、どれほどの愉悦をコイツに味わわせているのだろう。 そのやるせない恥ずかしさがさらに花道の内奥を敏感にし、深く銜え込まされた仙道にヒクヒクヒクヒク絡みつく。 こんなイヤらしいことは嫌なのに…。 なのに腰を上下に動かす度に全身を粟立たす悦楽が、花道を支配してしまうのだった。 「…上手だ花道…いいよ…すごくいい……おまえん中すごくキモチいい…」 吐息とともにしぼり出されるささやきは、射精をこらえるように震えている。 ぎこちない動きだが、それさえも仙道には愛おしくてならないのだ。 花道のはじめての能動的な求めにひたすら感動する仙道は、 そのまま両手で花道の尻をわし掴むと、大きく割り広げ巧みに揉みしだきだした。 途端、反射のように肉壁がさらにぎゅっと締まり、思わず悲鳴を上げる花道。 そのあまりの快楽に肩をそびやかせた上半身はブルブル震え硬直するが、きつく仙道を銜え込んだ腰は逆に狂ったように激しく動き出した。 「…なみ…ちっ……」 あまりの快さにこらえきれず、仙道も花道の尻を割り広げたまま、奥をガンガン突き始める。 ちょうど口の辺りに来た硬い乳首を尖らせた舌で転がしながら。 「…あっ…あっ…もっイヤっだっイクっっ…!!!」 やっと与えられた激しい責めに、全身をわななかせながら花道が達った。 切なく長い絶頂に、ビクビクと収縮を繰り返す最奥を何度も何度も突いて味わうと、仙道もまた堪えに堪えた精をたっぷりとその奥に注ぎ込んでいた。 *** 「ダメだって言ったのに…あんなに射精(だ)して…いけない子だね、なみちは…」 先ほどと同様、脚を大きく開かされ膝立ちで岩に両手を突いているが、今度は後ろから仙道に責められていた。 脚を開いているため、湯面ぎりぎりで挿入されているのだが、悶える度に仙道を銜えたソコが湯から上がったり潜ったりするその湯面の繊細な 刺激にすら息を呑む花道。それどころか仙道が腰を使うたびにパチュパチュと派手な音が立ち、花道をさらに切なく悶えさせるのだった。 快楽に支配され戸の監視など到底できなくなった花道と位置を交代し、 今度は仙道がそこを監視するため…というのは単なる口実である。仙道はそんな遠方はハナから全く見ていない(苦)。 花道は先ほどと同様、ヤツに両手で尻を掴まれ、深々と銜え込んだままひくつくソコがよく見えるように大きく割り広げられている。 そうしてその恥ずかしいところをヤツに見つめられながら 気が遠くなるほど何度も何度も突かれ続け、花道はもう何の抵抗もできないほどの悦楽に全身を支配されいた。 「…くっダメだ締まり過ぎ、持ってかれるっ」 仙道がさらにその孔に両親指を差し込みそのままぐいっと押し開いた。 「…ひっひいっ!」 入口を大きく開かれることで、深部はさらに敏感に締まり、必死で仙道を離すまいとキュウキュウキュウキュウ銜え込む。 「ああ…ナカすごく動いてる…こんな奥までザラザラして…すごくいいよ…達っちまう…」 腰を回しながらその蕩けそうにイイ奥を隅々まで堪能し、悶える花道をさらに泣かせた。 先ほど、大量に射精されたせいで、ソコは最奥までスムーズな抜き差しを許してしまっている。 動かす度にその粘性のある蜜液の音が湯の波音に紛れ、花道を切なく泣かせるのだ。 「くっ…もう、そろそろ中に射精すよ? なみち…」 一層激しく突きながら、荒い息にまぎらせ限界を告げる仙道。 花道は言葉も発せずブルブルと頭を振るだけだ。 「今…いっぱいあげるから…。ね? またこの奥に…オレの熱いの…」 花道の奥が恥ずかしそうにキュウウウッとさらに締まる。 「でも…なみちはダメだよ、湯汚しちゃうからね」 もう仙道の意地悪な言葉など理解も聞き取りも出来ない花道にやさしく囁きかける。 そのまま片手を前にまわし射精を許さぬよう根元をきつく締めると、伸ばしたもう片手の指先で花道の乳首を探り、摘んだまま激しく腰を使い出した。 狂ったように身もだえ大きくわななく花道。 絶頂の切なさが体中を駆け巡り大きく身を震わせるが、肝心のそこをきつく締められ解放の出口を失っている。 射精はできないものの、胎内の絶頂だけは逃れることができず、ビクビクと大きく蠢きながら締めつけ欲しがる内奥に、 仙道はありったけの欲望をバシバシとぶつけていた。 *** どうやって部屋に戻ってきたのかわからない。 仙道に再び内部(ナカ)にたっぷり射精され、意識を失ったような気がするが、絶頂を極めさせてもらえなかった花道の方は、 まだビンビンに張りつめたまま震えていた。 「あ…センド…センド…」 泣きながら、自分の身体をこんな風にしたバカヤロウを呼ぶ。 浴衣はいったん着せられたものの、すでに肩も露に前をおおきくはだけられ、腕に申し訳程度にかかっているだけで 帯がかろうじて結ばれているにしてもほとんど無意味だった。 頭部と肩だけが布団に預けられていたが、それ以外は仙道に持ち上げられ大きく脚を広げられ、恥ずかしいそのすべてを仙道の視線にさらされていた。 先ほど何度も自分を蕩けさせ昇天させた小さな窪みを指でく…と広げると、逆にソコは恥ずかしそうにきゅ…と締まり、たっぷり注ぎ込まれた蜜をじゅ…と溢れさせた。 「ああ、まだ入ってるね、オレの熱いの…ここの奥で、さっきいっぱい射精(だ)したから…」 そうつぶやくと再びその窪みを舌でぺろぺろと舐め始めるのだ。 「あっ…ああっ…イヤだっ…あっ…ああっ…」 花道が蕩けるような鳴き声を上げて嫌がるが、仙道がやめるはずもない。 さらに指先でそこを押し開いて、溢れる蜜をくみ出してはヒクつく肉襞のひとつひとつまでも丁寧に舌で舐め続ける。 「…ヤだ…ヤだ…も…ヤ…」 あまりの切なさについに花道が泣きだした。もう達かせてほしくて達かせてほしくて、腰がひっきりなしに揺らめいてしまう。 仙道の両手がゆっくりと花道の両脚をたどり、そのまま足指に手指を絡ませると、さらに熱心にそのヒクつくソコを舌で愛撫し続ける。 気の遠くなるような快楽の波に、花道は布団を握り締め泣きながら耐えるしかなかった。 花道の切ない鳴き声が、仙道の耳をくすぐり震えるほどに酔わせた。 露天風呂でするのももちろん悪くないが、こうしてじっくり花道を泣かすにはあそこはちょっと落ちつかな過ぎる。 鍵を閉め切り、布団の上でこうして落ち着いて(?)花道を責め抜き悶えさせるのも、仙道にはまたたまらないのだった。 「…ヤ…だ…もう達…」 尻の孔をこうして丹念に舐め続けられるだけで、花道は達ってしまう。 もはやヒクヒクと全身が震えだし、玉のような汗を浮かべ、ずっと絶頂をお預けにされた自身が、切ない愛液を自らの腹の上に滴らせはじめた。 仙道も、一度もう花道を達かせてやろうと、その意図で舌の動きを激しくさせるのだが、それでも切ない悲鳴が高くなるばかりで、 どうしても絶頂には至れないらしい。そのまま震える花道をしごきながら舐め続けても、身も世もなく身悶えるばかりで達することができないのだ。 先ほど、あんなに達きたがった時に射精(だ)させてやらなかったせいで、達けなくなってしまったのだろうか? もう、花道の甘い悲鳴に煽られ続けた仙道の方が、辛抱たまらなくなっていた。 持ち上げていた腰をゆっくり自分の腿の上に降ろす。花道の熱い内部(ナカ)を感じたくてガチガチに硬くなっている己を指先で支え、 花道の前をこすりながら、そのヒクつく窪みへ押し当てた。 「…ひぃっ…んああっ…やぁ…いっ…」 舌とは全く違う圧迫感と熱さに、花道の身が硬直しブルブルと震える。 そのまま窪みを苛めるように先端で何度もこすり、ゆっくりと押し開きながら挿入してゆく。 すでに延々と絶頂をお預けにされているような花道の内部は、蕩けそうなほどに熱く、絶頂時のように切なく締まっては激しくざわめいていた。 「くっ…すげ…」 自分の方があっさり終わってしまいそうで、焦る仙道。 しかしどんなに早いリズムで張りつめた花道自身を愛撫しても、締まりが一層よくなるだけで、花道の方は達けない切なさに身悶えるばかりだった。 「も…ダメだ、なみち…動くよ」 達きたくて達きたくて狂ったように泣きじゃくり出した花道の内部を、何度も何度も突き上げる。 その度にビクビクと締まる隘路を容赦なく突き刺しては廻しさらに突き続ける。 前も激しくしごいては先端をくりくりと苛め、一層ざわめく内奥をじっくりと味わうのだった。 「…ふ、も、ダメだ、快すぎ…オレのがも達く…」 「や…も、ずり…オメ…ばっか……」 大きく足を開かされたまま激しく奥を突かれ味わわれ続け、がくがくと揺さぶられながら達きたいの達けない切なさに泣きじゃくる。 硬く勃ち上がった乳首を摘まれ、激しく前をこすられながら、仙道の熱い欲望を容赦なく再びその最奥に注入されていた。 *** 目が覚めた。 どうやら夜は明けたらしい。 もうあれから何が何やら、正直あまりよく覚えていないが、やりまくったのは確かだろう(苦)。 あんなにおかしくなりそうだった体内の切なさはかき消え、変わりに全身を襲う凄まじい疼痛と満たされた感じ。 みじろぐだけでソコだけでなく全身が、コイツにどれほど深く激しく愛されたかを花道に思い知らせるのだ。 薄闇の中、深い寝息を立てる仙道を見つめた。 寝乱れた浴衣姿の仙道は、まるで映画のワンシーンのように妙に雰囲気を醸しながらそこにあった。 長い睫。むしろ白い肌。 「美しい」という形容すらぴったりくるような肢体。 それでいて引き締まった身体は鎖骨も腕も十分男らしい。 ここで「ドキ…」とかすれば普通の仙花か少女マンガなのだが、生憎ウチの花道はそんなカワユクできていない。 明け方近くまでこの天才に好き放題しやがったこのムカつくカッコつけ野郎に、無性に腹が立ってきた。 あてつけがましく久しぶりに安らかな寝顔で花道を横抱きにしているのも腹立たしい。 ええい、放せ…とヤツの顔面を腕で押しのけるが、反射的に「う〜ん」などと唸りながらさらに抱きついてくる。 ぬ…お…お…? オカシイ。 全然力が入らない。 逆に眠ったままの仙道の方は、さらに身をすりよせて花道にほぼ被さると寝返った。 ふ、ぬ、う… 「…はあ…」 どんなに力んでも全く力が入らない。 花道もついに諦めて深い寝息を立て続ける仙道の下で脱力した。 バカヤロウ… 花道はいまいましげに舌打ちした。 仙道の深い寝息。 コイツは先週ほとんど寝ていないのだ。 だから今週末は花道も家で過ごそうと思っていたのだ。 コイツと一緒に。 *** ソレだって花道には勇気がいるのだ。 花道は片思いこそ軽く200を超えるほどの熟練者だが、両思いというのはホントのホントに超初心者なのである。 仙道に口説き落とされ一緒に暮らすようになって1ヶ月。 それでもいまだに花道には、家でコイツとフタリキリでふと会話が途切れたときなど、 もうどうしたらいいのかわからなくて、非常に落ち着かないいたたまれない気分になってしまうのだ。 だから何かと用事をかこつけては出かけてしまう(苦)。 でないと、そのまま仙道の熱い瞳に見つめれられ、そっと身を寄せられたかと思うと抱きしめられささやかれ、 本当はずっと隠しておきたい秘密の胸の鼓動まで、コイツにすべて暴かれてしまうから…。 長いこと、鈍い花道は仙道の想いに気づかなかったが、それを知ってからはたまらなかった。 その表情、笑顔、声、しぐさ、ドレをとっても花道への愛に溢れているではないか(苦)。 それに全く気づかぬまま、無邪気に仙道の想いに包まれていた自分。 切ねぇ!切ねすぎる! 想いを遂げられないキモチの切なさに関しては、花道は誰よりもエキスパートだ。 禿げるほど悩んだ末に自分も仙道を選んだ今となっては、コイツの思いには出来るだけ応えてやりたいと思う。 …思うのだ。 …ホントウに。 …ウソじゃねぇ。 けれど… どうしてもダメなのだ。恥ずかしいのだ。いたたまれないのだ。もうとてもじっとなんてしていられない。 仙道が、花道に嬉しそうに笑うだけでもうダメなのだ。たまらないのだ。 ただフツウのことを問いかけられたり話しかけられたり、テーブル端の醤油をとってもらったり、肩の糸くずをとってもらうのさえダメなのだ。 だってスベテに愛が溢れすぎてる!!(泣)。 …いや、わからない。 実際のところはわからないが、花道にはそう思えてしまう。 (実際、仙道の愛情表現は誰がどう見ても徹底的に花道に対してだけ露骨だが、それすらも初心者の花道には判断つきかねるのだった…。) だから暴れてしまう。怒鳴ってしまう。仙道がどんなに淋しく思うとわかっていてもつれなくしてしまう。 だって恥ずかしくて照れくさくてどうしたらいいのかわからないのだ。 そんなシアワセそうにと微笑まれると。 そんな花道が、毎日のように熱く見つめられたり抱きしめられたり好意を耳元でささやかれたり、指先で髪をすかれたりくちづけられたり それ以上のコトをされたりして平気でいられるわけがナイではないか(泣)。 なのにコイツは… コイツというヤツは… 昨日だってなんということをしくさってくれたんだこのバカヤロウは…(泣) …と、ここまでの回想だけで花道はすでに勃ってきてしまっていた(苦)。 コレを「朝勃ちだ」と心底思い込めないところが花道の哀しい長所である。 (チクショウ…オレの純情を返しやがれ…!) 動けないまま花道の両目から悔し涙がだーだー流れていた。 「…くらぎ…オレを殺す気だろう…」 いつの間に起きていたのか仙道がつぶやいた。 途端に花道の全身の毛穴からドォッと汗が吹き出す。 「…オレすんげバテバテだったのに…おまえ全然寝かしてくんないんだもんな…」 けだるそうな、それでいてシアワセを滲ませるような声はクスクス笑いも含んでいた。 「…でもオレ、快すぎて失神したのってはじめてだ………ん?」 何かにあたった仙道の掌が、布団の中をまさぐり育ちかけの花道に気づくとやさしく撫ではじめる。 「…驚いたな。桜木がこんなにエッチだったとは…ね。」 悲鳴も燃え尽きる勢いで花道が一瞬で黒焦げになった。 ぷす…ぷす…と煙を上げる花道は無視して、一層うっとりとささやくのだ。 「すごくよかったよ。知らなかった…桜木、オレのことすげぇ好きなのな…」 な…!!! 「寝、寝言言ってんじゃねぇ〜〜〜〜!」
「寝言じゃないよ。起きてるよ」「バカヤロウ!ダレがオメェなんか!ふざけたことヌカしてんじゃねぇぞ! あんなんタダのセッ…セッ…セッ…………じゃねぇか!男のセーリだ!てめぇがオレ様にあんなイヤラシイことばっかり してくるから、オレまであんな!あんなん断じてオレのせーじゃねぇからな!おかしな誤解してんじゃねぇぞウニ男!」 茹蛸以上に真っ赤になった花道は、そのまま仙道を殺しかねない視線でギラギラギラギラ睨みつける。 何か言いたそうに口を開いたがあえて言葉を飲み込んだ仙道。花道は派手に舌打ちするとブツブツと文句を言い出した。 「だからテメーとなんかこんなとこ、きたくねかったんだ!オレァ…」 「ふ〜んソレで来たくなかったんだ。桜木あんなにエッチになっちゃうから…」 花道はぶるぶるぶるぶる震えている。もう言葉も出ないほど怒り狂っている。 「違うよ。オレが言ったのはね、桜木が、オレが×回ナカ出ししてもまだまだ欲しいって欲しがって、 奥まで銜え込んだまま「イイ」「イイ」っていい声で鳴きまくって朝まで放してくれなかったからじゃなくてね…」 再び黒焦げ化した花道がプス…プス…と煙を上げていた。 「…違うよ、そうじゃなくて。」 仙道は不意に視線をはずし、つまらなそうに口唇をとがらせると少々ぶっきらぼうにつぶやいた。 「…そんなの、チューすればわかるんだよ。どんだけ桜木がオレのこと好きか、なんて…」 すでに花道は白い灰になっていた。 コイツがナニを言ってるのかなんて、もうなにもわからない。わかりたくもない。 「…なのにいつまでもオレにだけつれなくして…。オレのキモチ知ってるくせに…」 花道はギギギギギ…と軋み音を立てながら仙道に背を向けると布団の中縮こまり、脂汗を垂らしながらゆうべのナニを反芻する。 チュー…? 確かにした。 延々とした。 ずっとした。 やりまくってはチュー、チューしまくってはやりまくったのだから(苦)。 確かに… セッ××の合間とはいえ、あれだけ身も心も溶け合うようなキスを何度も何度もしておいて、「実はキライです」は無理だろう。 ガタガタ震える花道の全身から脂汗が止まらない。 「桜木…もう背ばっかり向けるなよ…」 そのまま仙道に強引に向きを変えられても、力が入らない。あらがえない。 精一杯顔を背けても、悔しそうに羞恥に震えたまま目を伏せる以外なすすべもない。 「…桜木。ね、こっちを向いて…」 花道の顔のすぐそばで仙道が切なくささやきかける。 真っ赤になったまま震える花道は、往生際悪く必死にぎゅっと瞳を閉じ続けるのだが、仙道はそんな花道を見つめたまま諦める気配もないらしい。 ついに根負けした花道が、眉を寄せたまましぶしぶ目を開いて仙道を見…… …る間もなくしっとりと口唇を重ねられていた。 「…好きだ…」 (…あ…) ささやきと同時に与えられたくちづけに、きゅ…と布団を掴んで揉みしだいた花道。 仙道の口唇がついばむように花道の口唇をやさしくくすぐっては愛撫する。 「…きだよ、なみち…愛してる…」 熱っぽくささやきながら慈しむように口唇を重ね、 気が遠くなるほど何度も繰り返される甘いくちづけ。 (ダメだ…キモチいい…クソ…) もう嫌がりたいのに嫌がれない。 ついに悔しそうに眉をよせ震えたまま、おずおずとくちづけに応えはじめた花道の、先ほど触れたトコロに再び仙道の手が伸びる。 「…あ…もバカ、やめ…」 ビク…と震えた花道が力なく身をよじりきつく眉を寄せる。 「いいからじっとして。オレが口でしてやるから…」 そのまま仙道が向きを逆転させ布団の中に潜っていった。 「…ふっ…」 口内に包まれる感覚に花道の上半身がピクッとのけぞる。 しばらくヒクヒク震えてはやるせなく頬を染め、涙が零れそうなほど瞳を潤ませ息も絶え絶えに吐息を漏らしていただけの花道も、 そのうちまるで熱に浮かされたように手を伸ばし、震える舌と口唇で自ずと仙道自身を慰めはじめていた。 *** シックスナインで達ききったふたりは、もうサスガにこれ以上は出ん!と再び仙道は花道にほぼ被さったまま爆睡し、花道はぐったりと天井をみていた。 今日一日、布団から出られそうもない。 旅行に来てまでこのサルっぷり。 情けなくて涙が出るが、仙道は寝かせておいてやりたい気もした。 いや、そもそもそう思っていたのだ。こんな余計な肉体労働など花道は期待していなかったのにコイツが勝手に… 不意に花道の携帯電話が床の間で唸りだした。 やべ…と、慌てて手を伸ばしぱっと取り上げ仙道をチラ見する。 ひとつ大きく呼吸しただけで、花道に抱きついたまま再び深い眠りに落ちていた。 手の中で唸り続ける携帯。 ダレだ?洋平? 花道は携帯を開けると、小声で応答した。 「おう、洋平。どした」 「どしたじゃねぇよ。おめぇダイジョブか?」 「へ? ダイジョブだぞ?…ってナニが?」 「ナニじゃねぇよ。さっき三井サンたちにばったり会ってよ。おめぇがタイヘンだって聞いて…」 「ああソッチか。ソッチは全然ダイジョブじゃねぇ」 花道が棒読みに言った。 「まさか………バレたのか?」 「あ?ああ、ああ、ありゃバレてた。レシート見つかっちまってよ」 「レシート!? バッカ野郎、そんなもん持って帰るなよ!…って、まてよ?別にコレにはそんなこと書いてねぇぞ?」 洋平は自分で持っていた方のレシートを財布から取り出しソレを確認する。 「ああ、バレたっつーか、「露天風呂」がな。風呂好きなんだと」 花道は、仙道にとって露天風呂がいかに大事なイベントなのかを手短に話した。 「マジかよ。ならちゃんと言って安心させてやれよ。アレはそんな「露天風呂」なんて立派なモンじゃねーって。」 確かにそうである。あんなもの「露天風呂」なんて看板だけだ。 まあイロイロあったから花道と洋平には非常に楽しい施設だったが(苦)、 仙道が「露天風呂記念」に憧れるようなものとは程遠いハズのシロモノだった。 ソレをちゃんと教えてやれば、仙道の気も少しは落ち着くだろう。 「だよな!そう言われりゃそうだぜ。あんなのただの「ラブホテ………」 不意にブツッと電話が途切れた。 ツーッ…ツーッ…ツーッとしか言わなくなった携帯に必死に洋平は呼びかけていた。 「おいっ花道!どうした!バカ!オメェ死んでも仙道サンに「ラブホ」なんて言うんじゃねぇぞ!バッカヤロウ! んなことしたらオレがブッ殺されるじゃねぇか!おい!どうしたんだよ花道!花道ー!」 もはや「ツーッ…」以外言わなくなった携帯を見つめガタガタ震えだした洋平。 ―――多分、おそらく、十中八九手遅れである。 (と、と、とにかく、一刻も早く荷物をまとめねば…) 真っ青になったまま力なく部屋の中を右往左往する洋平。 そして… ソレが、洋平が花道の声を耳にした最後だった…(ウソ(笑))。 FIN
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