エロイカより愛をこめすぎたら 07 act.06 ただならぬ関係 (7) The Alarming Relations If Eroica put too much love
深夜。 AM1:00ごろ。 「『暗い方が興奮する』なんて言って、本当は君、私に見られるのが恥ずかしいんだろう」 「勝手に言っとれ」 やや機嫌を損ねたか? すぐ怒る。 かわいいんだから。 「いいんだ。私も闇が好きだから」 微笑んでつぶやいた。 「知ってるんだ。闇はやさしい。闇の中の君はもっとやさしい」 そう言って暗闇の中、そっと隣の身体に身を寄せる。 少佐が伯爵の向こう側に腕をついた。 そして口づけた。 驚いたが伯爵は大人しくそれを受けた。 「…珍しいな」 闇の中、少佐を見つめる。 「君からしてくれるの」 「?」 「キスだよ」 真っ暗でも少佐の嫌そうな顔が容易に想像できる。 交渉中、お互いわけがわからなくなっているときでなく、こんな風に少佐からしてくれたのはこれがはじめて(『西翼の庭』を除く)。 真っ暗闇の中、伯爵は少佐の顔を顔でつついた。 「もう一度して」 「…断る」 「君は『お願い』が苦手みたいだから私がやり方を教えてあげてるのに」 「そんなもんやりたかったら勝手にやればいいだろうが!」 すぐ怒る。 伯爵は若干拗ねた様子で軽くため息をついた。 (私にはやらせたくせに。ケチ…) 気分を切り替えてやさしく訊いてみた。 「…本当にやっていいの? やりたいときに?」 「………TPOをわきまえろ」 クスッと伯爵が笑う。 「そういえば、ここに来たときの君、ムチャクチャだったね」 絶対怒鳴りだすとわかって、伯爵は先手を打って少佐の口唇を口唇で塞いだ。 *** 座位でつながったまま、少佐の首を抱きしめる伯爵がうわごとのように言った。 「君がどんなにこの行為に夢中になっても私はかまわないよ…。ただ、おもしろがってるだけだ…」 厚いカーテンはきっちり閉めたはずだが、何かの拍子に少しズレでもしたのか、カーテン越しの窓の外のどぎついネオンのお陰で、 お互いの目ぐらいは見れる瞬間があった。 荒い息のままふたりは一瞬見つめあい、からかうような伯爵の瞳を少佐はギラッと睨んだが、結局は無視してむさぼり続けた。 *** ベッドの上でめいめいに座りくつろぐ二人。 揃いの白いバスローブが奇妙なほどに新鮮だが、妙にかわいらしくもあった。 「前から思っとったが、爵位やら何やらが残せなくて問題なのはおまえの方だろう。うちはもう『貴族』とかないからな。せいぜい屋敷と使用人の整理だ」 「だってうちは父がホモだもの。父上はまったくそんなこと私に期待しなかったよ」 伯爵は枕を抱えている。 「だからこそだ阿呆。おまえの親父は男色家であるにもかかわらずちゃんと子孫を残したんだろうが。そういう意味でもおまえの血はずっと柔軟だ」 「ムリだよ。私が女性で勃つわけない」 パンと少佐が伯爵の頬をはたいた。 「何するんだ痛いな!」 「そんなこと口にするな」 ふたりとも、変なところは上品な貴族のおぼっちゃまであることを相手に望んでいるようだった(苦)。 伯爵がため息混じりに言った。 「それこそ『親が泥棒』なんて、子供には悲劇だろう」 「それを言うなら、「血を残すため」「家を継がせるため」『だけ』に生を受ける子供はもっと悲惨だ。 少なくともおれはそんなものだけのために生まれたわけじゃない」 言いきった少佐を伯爵はしばらく凝視してから、堪えきれぬ風情で少佐の胸に抱きついた。 「…なんだ。うっとおしい。離せ」 「ついさっき私を襲ったくせに、そういう勝手なことを言う君が大好きだよ」 その鼓動。 熱。 涙が出る。 「君が、もう何年ものつきあいなのに、いつまでたっても私を驚かせてくれるからだ。もういい加減、私を泣かせるのはやめたまえ」 「………下ネタか?」 「どっちもだ」 「断る」 「どっちを?」 「どっちもだ」 *** 夜通しがんばった二人は(死)、少佐がメリンダちゃんに強制的に持たされていた手作りお菓子 (塩と砂糖でも間違えているのか、高カロリーながら激甘くはなかったため少佐も食べれた)で胃袋をごまかすとその後10時間近くも爆眠した。 気づくとすでに夜だった。 シャワーを浴びなおし身繕いして、ようやく二人がその似つかわしくない場所を出たのは、結局27時間近くをそこで過ごした後だった。 もう夜も深い。が、伯爵は言った。 「歩こう、少佐」 「夜のここらは物騒だぞ」 そう言ってトレンチコートの男はタバコに火を点ける。 少佐にはアメリカなんか似合わないと思っていたが、実際意外とそうでもなかった。 伯爵がクスッと笑った。 「大丈夫。君以上に物騒な男なんていやしないよ」 *** さすがに公共交通機関もなくなったその時間のブルックリン・ブリッジには、人影も少なかった。 そんな時間でも、一応宝石箱をひっくり返したようなNYの夜景が前方に広がる。 気に入った景色のポイントを見つけると、伯爵は橋の手すりに身を乗り出して一心に見入った。 美しい。 アメリカに美しいものなんてないと思っていたけれど、その景色は文句なしに美しかった。 だって隣には君もいるし……… と、うっとりと隣を見たらすでにいない。 さっさと先に行ってしまっている(死)。 少佐はいつもよりかはかなりスローテンポとはいえ、歩みを止めてくれたりはしないので、何度も小走りに追いかけなければならなかった。 そしていつものごとく、伯爵は一方的にしゃべり続けた。 「…君にたくさん教えられた。私は数え切れないほど恋をしてきたと思ってたけど、全部思い違いだったみたいだ」 どうでもいい、とでも言いたげな少佐の顔。 でもちゃんと聞いてくれてるのはわかってる。 「嫌がる君を追いかけているうちはね、すごく楽しいばっかりだった。なのに、私の一方通行じゃないのかも…と思った途端、すごく怖くなったんだ」 少佐は伯爵の方など見もしないまま把握していた。 仕方ない。そういう習性は永年身についてしまったことなのだから。 楽しそうに、少し照れくさそうに独白を続けるヤツの瞳が妙にキラキラしているのは、前方のビル群の細かい明かりのせいだと解釈した。 「私がこれまで恋愛だと思ってたのは全部ただの『ごっこ遊び』だったみたいだ。だからあんなにも無邪気に楽しめたんだろうな。でも君は、 こんなに私を夢中にさせてくれた上、あんまり真っ直ぐ私を見返すから…」 つぶやきながら、夜風にやさしくなぶられる髪をかきあげた。 そのまま煌く摩天楼ををまっすぐ見つめる。 やや自嘲気味に笑った。 「もちろん私は君の何十倍も君を想ってるよ。だからこそ怖くなったんだ。…もう戻れないって。私はこんなに自分が臆病だったなんて…知らなかった。 でもね、考えてみたら君がたとえどう変わろうと変わらなかろうと、問題は私自身であって、昔も今もこの先も、 この私が君をこんなにも愛してしまってるんだからどうしようもないって…」 不意に目の前の摩天楼が遮られ、ほんの一瞬口唇に何か…………触れた。 押し付けられたものに若干あごが上がり、あまりに驚きすぎてそのまま伯爵の歩みが止まった。 「何してん…」 指で口唇を押さえ呆然とつぶやく。 すでに先を歩いている少佐は背を向けたまま言った。 「話が長い」 もうその後の伯爵は、完全に大人しくなってしまった。 真っ赤になったまま黙って少佐のやや後ろをついていく。 「…きさま、いい加減に飽きろ」 少佐は耳を小指でかきながらつまらなそうに言った。 「この『メロドラマごっこ』に…」 橋の終わりごろ、少佐が両手をコートのポケットに突っ込んだまま振り返った。 「『遊び』に付き合うのは構わんが、次はおれも楽しめるのにしろ」 *** 少佐がNYで滞在しているホテル。 「本当にいいのかい? 私なんかをこんなに堂々と連れ込んで…」 「ぐずぐずするな! さっさと入れ! きさまは目立つんだ!」 後ろから蹴られそうになり、伯爵は逃げ込むようにその部屋に入った。 普通のハイクラスなビジネスホテルだ。 しげしげと室内を見回す。 「…まあきさまの趣味じゃないだろうがな」 早々にタバコを銜える。 「そりゃあ私の趣味じゃ君が気に入らないだろうしね。でも言っただろう? 私は君しか見えてな…」 また意味ありげな雰囲気になりそうなところを少佐が一蹴する。 「ぐだぐだ言わずにさっさとシャワーを浴びてこい!」 バスルームを指差し怒鳴られた。 きょとんとする伯爵。 「え? さっきのホテルで浴びたけど」 「あんなところ! 水から何から汚染されとる! あそこでの形跡はにおいも名残も何一つ残すな! 後で点検するからな!」 「……君が言うとなんか卑猥だな」 ジロリと睨む。 (すぐ怒る) ぷいっとすねたように、でも少し茶化して言った。 「そんなに言うなら君が洗えば?」 瞬時に少佐は伯爵の二の腕をむんずとつかんだ。 そして引きずるようにずんずんバスルームに向かう。 「ちょ…ちょ…どうしたんだ…少…」 バスルームに放り込まれた。 迫力の少佐に壁に追い詰められてゆく伯爵。 揉みあううちにどちらかの肘でも蛇口ににあたったのか、勢いよくシャワーの水が(主に斜め上の少佐に)ザーッと降りかかった。 壁に手をついてスーツのままびしょぬれになる少佐。 動転しながらもたらーっとそれを見上げる伯爵。 「…………」 「…………」 それなりに驚いて二人ともしばらく言葉と動きを失った。 しばらくのち、ようやく伯爵がくすっと笑った。 それから非常にやさしい顔になった。 そっと少佐の顔に手を伸ばす。その黒髪をやさしくすいてかきあげる。 ひっきりなしに降り注ぐやわらかいシャワーの水。 銀色に光るしずくがぽたぽたと落ちる。 濡れそぼった君。 髪は烏の濡羽色。 本当に君は相変わらず素敵だ。たまらないほど。 少佐は黙っていた。 ただ、自分を濡らした水が伝い落ちて、その、自分にさわってほけほけ喜んでいる男を濡らすのをじっと見ていた。 「少佐…何を見てるんだい?」 「…おまえ」 「どうして?」 「理由がいるのか?」 かすかに首を振り、やさしく苦笑して、そのままその頬にくちづけた。 そっと手のひらでその頭と首を支え、何度もやさしく口づける。 愛しくてもう我慢できない。 「…どうするんだ。スーツが台無しじゃないか」 「きさまだって」 「私は君に洗ってもらうんだからいいんだ…」 もう伯爵が、その頭をかき抱き、首に顔中に何度も何度も口づける。 少佐が言った。 「…服まで洗わん」 *** 少佐がベッドに腰掛けて言った。 「きさまがさらに記録に挑戦するから、風呂場の方がてっとりばやい。後始末も楽だ。何よりきさまがあちこち飛ばしても誰にも迷惑が掛からな…」 羞恥に怒り狂った伯爵に枕で殴り殺されそうになった。 が、徹底的に骨抜きにした直後なので全然力が入っていない。 昨夜と違って清潔で大きなベッドに転がされたままの伯爵。 ばしばし力なく叩いてくるそれを適当に背中で受け止めてから、少佐はさっさと歯を磨きに行ってしまった。 *** 「おい、あんた!」 昼間のタイムズ・スクエア。 真っ昼間からギラギラのネオン。ごみごみした雑踏。 呼びかけは無視した。 こんなところにおれの知り合いはいない。 だから歩む速度も緩めない。 「おい!」 後ろから腕をつかまれそうなその瞬間、くるっと振り向いた。 「おれに何か用か」 思わぬタイミングで急に振り向かれて、相手は逆に驚いたようだ。 見覚えはある。 先日銃も突きつけられた。 確かあの阿呆の… 「…なんだったかな」 元・刑事を凝視してあごをさすりながら少佐がつぶやいた。 「あんた、何か知らないか? 『エロイカ』が突然消えた」 なんだったかな…と黙ったまましつこく考え続ける少佐。 「無事だけでも確かめたいんだが…。ボスがひどく心配していて…」 『ボス』『こいつ』なんだったかな…と思いつつ、少佐は落ち着き払ってつぶやいた。 「…『あんたが』じゃなく?」 その言い方に、元・刑事の勘が働いた。 若干安堵の表情を覗かせる。 「やっぱり…あんたのところか」 「…知らんよ」 「無事なんだろうな?」 「知らんと言っとるだろうが」 「無事ならいい」 だが、元・刑事は、意識のない『エロイカ』をこの男が殴り続けたのをもちろん覚えている(死)。 「…とにかく、あまり手荒なことはしないでくれ」 「『ボスが心配してるから』?」 その保護者面に少佐がひとしきり笑った。 そして急に真顔になった。 「バカにするな。ガキじゃあるまいし。足腰立たんくらいのことはもうやっとる」 元・刑事はその台詞をどちらに解釈したらよいか迷った。 ゲイである『エロイカ』がこの男にベタ惚れなのは知っているが、どう見てもこの男にはソッチの気(け)はなさそうなので一応『暴力』と判断した。 「…ではボスにそう伝えるぞ?」 「好きにしろ。おれは一向に構わん」 「あんた、生きてこの国から出られなくなるが…」 「そりゃ楽しみだな」 少佐が何度もうなずいてわざとらしくにこにこと笑った。 伯爵の涙を知っている元・刑事は信じられないという風情で言った。 「あんた…彼に一体何の恨みが…」 「『恨み』? 恨みなんぞ山ほどある!!!」 すごい剣幕だ。 呆然としてから目をすがめてつぶやく元・刑事。 「…あんた…彼がどれほど…………まさか彼の気持ちを知らないのか?」 少佐が静かな不快感を露にした。 そんなことをこんなやつに説明されることに。 「それも含めて大迷惑だが……」 それまでと口調が変わっていた。 その視線にさらに穏やかでないものが加わっていた。 「…きさまの出る幕じゃないことは確かだ」 元・刑事は驚いた。 まさか… 「とにかく、あの阿呆はおれがきっちり天国まで送り届けたから安心しろ」 そう言い放ったときの彼の表情には、物騒さだけではない、男くさい余裕の笑みがにじんでいた。 やはり『暴力』じゃない? まさか……ソッチなのか? とっとと歩き去る少佐。振り返って言った。 「ついでにボスに言ってやれ。『一生心配しとれ』ってな」 *** ホテルに帰ってくると、伯爵が怒っていた。 「…なんだ」 「『なんだ』じゃない。なんで私がこんなところに閉じ込められなきゃならないんだ! どうなってるんだこの部屋は!」 実はそこは情報機関御用達のホテルで、凶悪犯なども監禁できるよう、特殊なキーシステムが作動していた。伯爵にも歯が立たない、 最新型のコンピューターロックだ。 落ち着き払って少佐が言った。 「泥棒を野放しにできん」 「私はNY(ここ)にはそういう目的で来たんじゃない!」 「…いずれにしろ有害だ」 「言いがかりだ! 私のことを心配している人間もいるんだ!」 一瞬不審げな顔をしてから、少佐は何か思い出したようにあっさりと言った。 「ああ、それならおれが伝えといたぞ。おまえは天国に召されたとな」 嫌な予感。 「……………誰に?」 「あの、なんとか言う元・刑事」 伯爵が赤くなる。 彼には恥ずかしいほど私の想いがバレているのに、よりにもよって君の口から… 「…またおかしな言い方したんだろう。とにかく出してくれ!」 「きさま気づいとらんのか?」 何が! という非難がましい伯爵の目。 「なんか出てるぞおまえ」 は? 「特にやった後とか…」 え? 「『襲ってくれ』オーラみたいな…」 みるみるみるみる真っ赤になる。 何か言い返したい。 だが言葉にならない。 わなわな震えたかと思うと、ついに力なくへたりとソファに座り込んだ。そして片手で口許に頬杖をついて、不貞腐れたように言った。 「…君にそんな感受性があったことが驚きだ」 「自覚はあるんだな? なら大人しくしとれ」 少佐はネクタイを緩めた。 「被害者はおれ一人で十分だ」 *** 夜。 愛する男に愛される身としては、やや照れくさそうに伯爵が訊いた。 「で? 私はどこで寝ればいいんだ」 「好きなとこで寝ればいいだろうが」 カチンときた。 なんだこの雰囲気は。 なんだその嫌悪感丸出しの言い方は。 これが想いを寄せ合った(?)恋人同士の会話か!? 伯爵は完璧にへそを曲げ、ぷいっとソファに枕を持って行く。 *** 真っ暗になって15分も過ぎた頃。 「少佐…ねえ、少佐。寝たのか?」 「うるさい! なんだきさまは!」 「全然『被害者』になってないじゃないか!」 「十分被害者だ! 安眠妨害するな!」 「あのソファは寝心地が悪いんだが」 「そうか。じゃあ床で寝ろ」 伯爵はぶすっとしたまま、黙って横から少佐のベッドにごそごそと潜り込む。 「…おい。ここは床じゃないぞ」 「さっき好きなところで寝ていいって言ったじゃないか」 なんでそんな意地悪なことばっかり言うんだ、と背中からその身体にしがみつく。 はあ、くらくらする。君の匂い。 「…そんなことまで許した覚えはまったくないんだが」 「いいや。TPOをわきまえれば、やりたいときにやっていいって誰かさんに言われてる」 ようやく少佐がかったるそうに寝返りをうって伯爵の方を向いた。 げっそりしたような声で言った。 「…おまえ、元気だな」 伯爵は嬉しそうな声。 「君がこんなところに閉じ込めてくれるからだよ。お陰で私は一日中不貞寝してたんだから」 *** お疲れなら別に愛してくれなくて構わなかったが(伯爵は単にイチャイチャしたかっただけだった(苦))、愛してくれるなら拒絶する理由もない。 たくましい背中を撫でていた手が、次第に追い詰められるようにその肉をつかむ。 愛する相手に愛される悦びに、伯爵はもう無我夢中で少佐の顔中・首中にキスの雨を降らせ、耳を甘噛みしては囁き続ける。 「あ…少佐…少佐…気持ちいい…」 「黙れ。言うな。わかっとる!」 「…言いたいんだ。言葉でも伝えたいんだよ」 「やめるぞ!」 な… なんでこんなときまでこんなに怒ってるんだ! 「ケチ!」 *** 「あ…少佐…少…佐…」 美しい口唇が、なじるように、甘えるように、うわごとのようにつぶやく。 気が遠くなるほど続く、切ない振動。 正直ケチなんだか気前がいいんだか、少佐は実際よくわからなかった(死)。 自分で動けと言った割には協力的? とにかく硬いし揺れるしなかなか達かない(死)。 伯爵だってこんな気持ちいいことは、なるべくできる限りいつまでも味わいたいのは至極当然なのだが… 白い肌はバラ色に染まり、全身がひくひくとわなないている。 ついに堪え切れなくなった伯爵様。 追い詰められたように頭を振り、切羽詰った涙声で訴えた。 「あっ・あっ…しょっ…もう!」 「まだ」 そうしてひたすら容赦のない責めにさいなまれ続ける。 もうとっくに過ぎている限界を堪えるために、健気にシーツをわし掴む伯爵の手がブルブルと震える。 でも… 「やっぱりもう!!」 「いや、まだ」 延々と責められ続け、もうよすぎて何も考えられない。 騎乗位で、すでにあられもなく身悶えるほどの快楽に支配されてしまっているのに。 必死の荒い吐息の合間。 こんなのも私だけなのかな…とさらに切なくなるが、いや、そんなはずはない。現に……などと考察する余裕も奪うかのように、 不意に尻を鷲掴まれるとその激しさは急激に増した。 *** 少佐は本当に最高だった(セリフ以外)。 その鍛え抜かれた全身のバネ・筋肉。熱い肌の感触。 奇跡のよう。 この素晴らしい肉体を、一体どれくらいの女が味わったんだろう。 ぐったりと放心したまま、力なくその首に腕を絡みつかせていた伯爵が、不意にその不快すぎる想像を振り払う。 「…なんだ」 少佐の詰問。 変なところは勘がいい。すぐバレる。 軽く頭を振ると、黙ってすがる腕に力を込める。 「…君が嫌いだ」 「ああ、おれもだ」 伯爵がそのままむっとした。 腹いせに目の前の肩の肉に噛み付いた。 それを期に、お互い仕返しのように甘噛みを繰り返す二人(死)。 不意に少佐が言った。 「…ばかめ。余計なことばかり考えやがって」 「…」 言葉も動作も失い急にしおらしくなる伯爵。 そして目を伏せたままそっと囁いた。 「…少佐、愛してる」 二人は見つめあった。 「ふん、そんな手に乗るか」 伯爵は『くそ』という顔をし、二人は再びむさぼりあった。 つづく
エロイカより愛をこめすぎたら
act.06 ただならぬ関係 The Alarming Relations
ニ0一0 十月十六日
サークル 群青(さみだれ)
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