エロイカより愛をこめすぎて 番外編



act.0x 少佐殿のファッション・チェック

From Eroica with too much Love









すだれ執事が言った。

「ご主人様、今月号のカタログ、いかがなさいますか」
「ああ…」


ソファに座っていた少佐は、顔も上げずにそれを受け取った。
日常茶飯の事柄らしい。
興味津々の伯爵がおずおずと寄ってきて覗きこんだ。
「…カタログ? 何の?」

「わあ、なんだおまえ! いつからここにいる!」

興味に輝いていたはずの伯爵の顔面が一瞬にして曇りまくった。

「…先ほどもランチをご一緒したと思うんだけど」
(いまだに私のことを意図的に忘れるのかこの男は…)

執事が持ってきたのはどうやら2、3冊の、服飾・雑貨系の雑誌。
「へえ、君こうやって服とか買ってたんだ。 実はいつも謎だったんだよね」

癇癪を起こしたように少佐が怒鳴った。
「おい、こんなのがいるところで選ぶ気になれん!」
手にした服飾系の雑誌を執事に突き返そうとする少佐。
「ですが…今日が今月号に対応できる最終日だそうです」

「…来月でいい」

「来月は休刊らしく、今日を逃すと次回は2ヵ月後となります」

猛烈な不快感の空気が少佐から発せられている。
伯爵に向けて。
普通の人間ならそれだけで居心地が悪くなり、とっとと逃げ出すか退室するか、とにかく少佐殿の周りからいなくなるはずなのに、 伯爵に限ってそれはなかった。むしろ逆に絶対にまとわりつくに決まっていた(死)。

「私のことなんか気にしないで。いつもどおり選んだらいいじゃないか」
もうむしろ楽しげに、雑貨類の1冊に手を伸ばしぱらぱらとめくった。
「ふう〜ん。ふふふふふふ。…あ、これ素敵だな」

そのわざとらしい含み笑い。

なんでこんなヤツがいるときにわざわざ持ってきた!(怒・怒・怒)

という凄まじい恨みつらみの篭りまくった視線がすだれ頭に注がれたが、 実を言うと、執事がこれに関して声をかけたのはすでに3度目で、 これまでは「忙しい」「今、手が離せん」とバッサリ切り捨てられたり 後回しにされていたりしていただけなので、 ご主人様の謂れのない逆鱗に、ひたすら震えるしかないすだれだった。

ちゃっかり向かいのソファに腰掛けた泥棒は、 思いのほかその雑貨類の雑誌が気に入ったようで、 顔も上げずに夢中で眺めている。
なので不承不承少佐は手にした雑誌をざっと眺めだした。


     *


季節はこれから冬に向かおうという頃。
足りなかったもの、必要なもの、ぱっぱと判断して 「これ」、というものに付箋を貼っていくが…

不意に向かいの泥棒が雑誌に目を落としたまま言った。
「…君はよく私のことを『悪趣味』だとか言うけど」

少佐が視線だけを上げた。
向かいの不審者に向けて。

「私はいつも素敵だと思ってるよ……君のことを」

これがいつもの伯爵のお得意の流し目などとともに語られていたら
伯爵の顔面は、もう何度目かになるかわからない鉄拳を 見事にくらっていたかもしれないが、そうではなかった。

ただただ無邪気に、ヤツはそう言っていた。

凝視する少佐と罪のない表情で明るく顔を上げた伯爵は数秒見つめあった。

「おい!執事!!」
「はい、ご主人様!」

怒りを含んだご主人の声に飛んでくる執事。

「2ヵ月後で構わん! 今月は何もいらん!」
そう言ってすべての雑誌を突き返す。

「で…ですが…」

そして今度は伯爵に噛み付いた。
「何の嫌がらせだ! 本当にきさまは性根の腐った悪趣味野郎だ!」


な…

なんてひねくれた男だ!
どういう因縁の付け方だ!
(ヒトがここまで気遣ってやってるのに!)

ついに伯爵の方もカチンときた。
すっくと立ち上がった。

「いいよ、コンラート。私が選ぶ。 今年の冬は楽しみだな。頭のてっぺんから爪先まで 私好みの少佐ができあがるぞ。覚悟するんだな少佐」

伯爵が執事からその雑誌類をすべて取り上げた。

「勝手なことをするな! きさまなんぞにおれのものを 選ばれてたまるか!」

猛然とその雑誌類を奪い返そうとする少佐。
そうはさせるかとひらりと身をかわす伯爵。
「あ…」とそんな二人に力なく立ち尽くす執事。

逃げ回り、身をかわしながらも、 伯爵はおろおろする執事にそっとウィンクした。
『私にまかせておきたまえ』と。

心配げな表情を浮かべながらも、 執事は一礼して下がっていった。



     ***



数十分後…

息を切らせた伯爵がぜーぜー言いながら床につっぷしていた。

一方少佐は…

そのそばの床に座り込み、こちらも若干息は乱したのち、 すでにその雑誌をぱらぱらとめくっていた。


何か必要なものがある、と、きっと少佐が 事前に言っていたのだろうと察しがついた。
それが何かは知らないが。
でなければあの忠実な執事が、 あんなに困った顔をするはずがない。

ようやく息が整ってきた伯爵が、 少佐の背後からそのページを覗き込み、茶化すように言った。

「え〜、それは右の方が絶対いいよ少佐」
「黙れ」

そう言って伯爵のアドバイスなど完璧に無視して ページをめくっていく。

「あ…」

しばらくして不意に伯爵が少佐の袖口をつかんだ。

「…なんだ」

今、付箋の貼られたページ。
実に私好みのブラックのレザーのコート。
いいデザインだ。
君が着たらどんなに……。

だけど、こんなことを口にしたらきっとまた君は…。
――トーヘンボクめ。

そのまま、ふいっと顔を背けると その背にすねるようにつぶやいた。

「…君とはホントに趣味が合わないよ、少佐」
「フン」

そう言ってタバコを銜えたまま、 少佐はぱらぱらとページをめくり続けた。


     *


窓の外はすでに秋色。

“君と過ごす今年の冬も、
とても素敵なものになりそうだ”

そんな嬉しい予感を確信して、
伯爵は目を閉じると、 そのまま大人しくその背に身を預けた。








FIN



エロイカより愛をこめすぎて
 act.X 少佐殿のファッションチェック

Side story "The fashion check of the Major"
From Eroica with too much Love


ニ0一一 三月二七日
サークル 群青(さみだれ)
 

…というわけで、少佐と伯爵がケンカしながらイチャついてるだけの話でしたー。

少佐宅での日常的な話。
とりあえず、05の後ではないかなと思う。
アレを超えたような妙な落ち着き?は、ある。
なんだこの出来上がった恋人達…(死)

私は少佐殿がどうやって自分の物を買ってるかなんて想像したこともなかったんですが、某H様が「こんな感じなのでは?」と言われてはじめて「そうか!なるほど!」と思って書いたものです。
このとき少佐殿が必要だったものが何なのか私も知りません。
いつでも対応できるわけではない「何か」を想像してみてください(他力)。

せっかく書いたので、お読みいただけそうな方には広く読んでいただきたく、こちらにも上げる気になりました。
その他、「ページ作るほどじゃないな〜」というのとか、ボツ?っぽいものはブログ(語録)の「作品」ってとこに入ってるんで その気がある方はゼヒご覧くださいませ。

ありがとうございました。
(by さみだれ)

PS:熱心にウチのエロイカフィクを読んでくださっている方、どうも気づいていない 方がほとんどのようなので告知します。さみだれさん、ブログでエロイカフィクの 裏話とかネタ晴らしとかもしてるんで(いいのかね?(笑))もしご興味ありましたら こちらもどうぞ。http://blogs.yahoo.co.jp/gunzyo710

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