エロイカより愛をこめすぎて 00



act.00 さみだれの陰謀
The Samidare's Plot
From Eroica with too much Love







コードネームは「さみだれ」







闇のエージェント「さみだれ」との密約。

『使命 : どんな汚い手を使っても「鉄のクラウス」を陥落せよ』




(そりゃ私には願ってもないことだけど…)

 いきなり呼び出され、クラシックなスパイスタイル(←さみだれの趣味)の衣装を着せられて、 無駄に薄暗い部屋にもかかわらずサングラスをかけた「さみだれ」に使命を告げられた伯爵は当惑顔だった。


     ***



「何しやがるきさまの差しがねか! この野郎ぶん殴ってやる!」


 ワイシャツネクタイ姿の活きのいい少佐殿が、部屋の中央の台座の頑丈な枷に、大の字に両手両足首をはめられ捕らえられていた。 伯爵の姿を目にするなり、その活きのよさはいや増した。

(実にありがたいお膳立てだが…)

 ふと見れば、部屋の壁面にはありとあらゆる拷問道具が揃えられている。
 そのあまりの充実振りに、思わず伯爵の足がそちらに向かう。

(なんだこれはーーーー!!(輝))

 正直言って、全部一通り使って遊んでみたいものばかり。
 しかも少佐相手に!?
 素晴らしい! 夢のようだ!!!
 …という白昼夢を破る少佐の怒号。


「このくそ野郎―――!!!(怒)」


 依然、大声でわめきながら少佐ができる限りもがいている。
 しかしもがいてももがけていなかった。背中を若干浮かせられるくらい。
 少佐を捕らえている鋼鉄の枷は頑丈で、しかも自由度がほぼ全くなかった。

(あんなに力いっぱいもがいたら、腕や足の方が怪我するぞ。)

 やれやれとひとつため息をつくと、伯爵は台座に歩み寄り優雅に腰をかけた。
 そのまま少佐に身を寄せ、小さな子供を宥めるように囁いた。
「しー、静かに。すぐ終わるから。大人しくして少佐。痛くしないから…」

 明らかに目の前に迫ってきた身の危険に、少佐の動揺はさらに増す。


「してられるかこの変態! こんな不条理があってたまるか!」


「仕方ないよ、さみだれの小説だから。すべてさみだれの見たいように設定されるんだ」
 そう言って伯爵は淡々と二人のあいだの距離をさらに縮めてくる。
 真っ青になった少佐は、ぶるぶるぶるぶる震え出した。

「き…さま、このおれに不埒なことしやがったら、ただじゃ済まさんぞ。脅しじゃない。やめろきさま、やめ…………」


 Chu!


 伯爵が少佐の頬にひとつだけ軽くキスを落とす。

「……………」
「……………」

 つまらなそうな伯爵と、絶句した少佐が見つめあった。

 伯爵は台座横の『解除』と書かれた大きな緑のボタンを押した。
 ウィーン…という機械音とともに、少佐を戒めていた四つの枷が時間差で外れていった。

 伯爵が立ち上がる。肩をすくめ、ぷいっとそっぽを向いた。
「うるさくて集中できないよ。君の嫌がる顔は大好きだけどね」
 少佐が半身起こし、くずれたあぐらのまま、左手で右手首をさすりながら悔しそうに言った。

「…きさま、こんなことで恩を売ったと思うなよ」
 伯爵が振り向いてにっこり笑った。
「買ってくれないんだろう? 知ってるよ」
 少佐が憮然とした。

「………いやな野郎だ。反吐が出るくらいいやな野郎だ」
 そんないつもの少佐の悪態も、伯爵はいつもどおり痛くも痒くもない風情で聞いている。
 体をはたいて少佐も立ち上がった。

 二人向き合い見つめあった。
 少佐が黙ってしまった。伯爵が尋ねた。

「…どうした?」


 え?


 少佐に胸ぐらをつかまれた。
 …かと思ったら次の瞬間には引き寄せられ口唇を一瞬何かがかすめたような…

 それよりも、どん! と胸を突かれた手の強さの方が衝撃的でよくわからなかった。


 ええ!?


 伯爵の驚きの問いかけ顔に答えるように少佐が吐き捨てた。


「きさまなんぞにこれ以上借りを作るのが我慢ならんだけだ。二度とおれの前に現れるなよ伯爵!」


 びしっと人差し指で伯爵を指したままそう吠えると、少佐はさっさと部屋を出て行ってしまった。


 …ええ!?



     ***


『「エロイカ」君。君は実にいい仕事をしてくれた』


 室内に変な放送が入った。
「はあ?」
 若干首をかしげた伯爵が天井を不審げに見上げる。

『第一段階クリアだ。任務完了おめでとう』
「はあ……」

 脱力のあまり巻き毛が何本か抜けた気がした。

 なんだかあまりに唐突で、さっきの少佐も本物だったのか疑わしくなってきた。
 結局一体なんだったんだ…と思って、頭をかきながら伯爵もその部屋を後にした。


     ***


 漆黒の闇夜にとどろく雷鳴。
 暗い屋敷の中に、「さみだれ」の不気味な声がこだまする。


『これで下準備は整った! 覚悟するがいい「鉄のクラウス」!』


 わっはっはっはっはっはっは!
 はーはっはっはっはっはっはっはっはっは!


     ***


 嵐の中、帰路を急ぐ少佐の背筋を悪寒がぞぞぞっと走った。








FIN



エロイカより愛をこめすぎて
 act.00 さみだれの陰謀

The Samidare's Plot
From Eroica with too much Love


ニ0一0 一月二十七日 脱稿
サークル 群青(さみだれ)
 

はい! どうもお疲れ様でした〜。どうもスイマセンでした〜(笑)
「エロイカより愛をこめすぎて」act00『さみだれの陰謀』でした〜。
(マジメに読まないように〜!!(笑))
えっと、こちら正真正銘のネーム第一作だった気がします。あれ?違ったかな?(朦朧)
私が「ネーム」と言っとるのは、セリフとあらすじだけを書き殴った思いつきメモのことなんですけど、 作り話づくりはだいたいここからスタートします。で、ネームがつるっと読めるか読めないかで デキの良し悪しはほぼ決まるとかなんとかって漫画教室みたいなコーナーに昔書いてあったような(笑)。
こちら、当初「これくらいならいけるんじゃないか」と、かなり漫画で描きたかったんですけど、まあ……、もういいでしょう(笑)。

他ジャンルでも、四肢拘束ネタによく私(さみだれ)出演します。不条理の源泉として(cf.『前代未聞』)。
で、この後(01)、ホントにさみだれの陰謀で二人はそういうことに…(笑)

お読みいただきありがとうございました。
(by さみだれ)






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