西暦2020年の大相撲(前編)
2020年、大相撲春場所。
ところで、春場所といっても
1月である。
従来は春場所といえば3月であったが、折からの地球温暖化によって
1月が春になってしまったのである。
相撲は、西暦642年にその記録があるなど、古来より伝わる伝統スポーツだ。
財団法人・日本相撲協会(仮称)は、この長い伝統をタテに、怠慢経営を続けていた。
20世紀末ころから、満員御礼の垂れ幕が出にくくなり、
2005年にはついに、最後の牙城・大阪場所でも満員御礼が出なくなる。
それでも、怠慢経営が続いた。「客離れ。」
「趣味の多様化。」
それでも、伝統を守るという一声で、なんら対策が施されることはなかった。
あんまりな相撲人気低下に、ついに時の協会理事は立ち上がる。
外資系経営コンサルティング会社に、大幅な経営改革を頼み込んだのである。
2015年のことであった。
そして、新体制を敷いて5年たった2020年、春場所。
その千秋楽の取り組みを、見に行ってみることにした。
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2020年1月26日(日)
東京駅から10分。両国国技館に到着。
その名前がダサいということから、「トウキョウ・コロシアム」と改名されていた。
隣にあった「江戸東京博物館」は、やはりダサいとの声から、
今ではライブの会場になっているようだ。
さて、凋落した相撲人気は復活しているか。
コロシアム(国技館)の周りには、たくさんの若者がいた。
しかし、どうみてもヤンキーっぽい若者ばっかりだ。
かつてのように、マス席に座る上場企業のお偉いさんなどは見られない。
さて、チケット売り場に行くと、売り切れ。
すごい。満員御礼である。
と同時に、少し悲しくなった。相撲が見られないのか・・・
そのとき、脇にガキが寄ってきた。
「兄ちゃん、チケット譲るよ。B席5,000円のところを、8,000円にまけたるよ。」
二つ返事で断った。
しかし5,000円とは高い。これでなぜ満員になるのだろうか。
そんなに高くてやっていけるんかいな、、と思っていると、別のガキがきた。
「ヘイ、ボウイ。チケット。セブンティ・ダラーズ($70)OK?」
なんだこいつは。
しかし、見てみるとアメリカ人のようだ。ここで悪知恵を働かせる。
「OK。バット、アイ・ハブ・ジャパニーズ・マネー・オンリー。
ワン・ダラー・イズ・テン・イエン。
ソウ、、アイ・ペイ・セブン・ハンドレッド・イエン。700エン。OK?」「イエース、センキュー」
今の相場は1ドル150円であることを考えると、おおもうけだ。
ガキをだまして、定価の10分の1程度の値段で入場する。
偽造チケットではないらしく、ちゃんと入場することができた。
時間からして、そろそろ十両が終わるころだ。
入ってみて、度肝を抜かれた。
あちらこちらで 発煙筒 が焚かれている。
まるで外国のサッカー場のようだ。
そして、会場には若者しかおらず、家族連れなどはいなかった。
初老の相撲好きなど、全くいない、というか、土俵下のマス席は撤去されている。
撤去されて、何になっているかといえば、
堀になっていた。
理解不能なので、とりあえず近くに居た20歳前後の青年に聞いてみる。
「なんだ、知らねえのかよ。
過激な奴らが、土俵に上がってこられないようにしているのさ」
その瞬間、向正面あたりで爆竹の大音響。
どうやら、中入りを終えて、幕内力士の登場シーンを待ちきれないらしい。
花道から力士がそろって入場するが、花道はトンネルのようになってしまい、
力士の姿を窺い知ることはできない。
そして、土俵に力士が勢ぞろいする。
一人ひとり、名前が呼ばれていく。名前を呼ばれた力士は、土俵に上がる。
これは、昔のスタイルと同じだ。
「琴田中」。
「千代の千代」。
聞いていると、どうもシコ名が安直だ。
格下の力士ならともかく、幕内力士で、この名前である。
親方は、何を思ってシコ名をつけたのだろうか・・・
そのとき、さっきの青年が
「あ、あいつ解雇だぜ!」
えっ?
「あいつだよ、あいつ。朝竜。明日っから路頭に迷うことになるだろうな。」
まだ単なる土俵入りである。なぜ解雇されるのかと聞くと、
「外資が決めたんだよ。名前呼ばれたときに拍手が少ない力士は、
人気がない って判断されるから、規定で解雇されんだよ。」
マジかいな。恐ろしい話だ。
「で、俺は西郷って力士にカネ積まれて、、へへ、頼まれてんだよ。
拍手してくれってさ。バカげた話だよな・・」
その「西郷」とやらの力士が呼ばれた。
そのとたん、青年はどこから取り出したのか発煙筒を放り投げ、「ウワーー、ウワーー、西郷ーー!!!」
と、狂ったように叫びまくった。
それをみた「西郷」は、何やらこちらを見て、ほくそ笑んでいるようだった。
今日はこれで安泰だ、と心をめぐらせていたに違いない。
それにしても、安直な名前ばかり。なぜかと聞いてみると、
「なぁさぁ、、俺らってアタマ悪ぃじゃん?
小難しい名前じゃ、俺ら分かんないんだよねー」
納得。
これだから、どんな階層にも受け入れられるってわけか。
これも、外資コンサル会社の通達らしい。
なかなか徹底している。
前頭の紹介が終わり、小結の紹介になる。
小結になると、化粧まわしに 電飾 が許されるらしい。
きらびやかな回しだ。チャチっぽく見えるが。
関脇になると、化粧回しに スピーカー を設置できる。
関脇の「琴木村」の化粧まわしは、登場とともに「ウンガァアアアーーー」
と、おたけびを上げた。
若者らが喜ぶ。
大関になると、かつては横綱にしか許されなかった
綱をしめることが許される。
が、それを見ても若者は無関心のようだ。
あまりの合理化経営に、協会せめてものの反発だったのだろうが、
やはり受けない。ましてや、横綱がやっていた「雲竜型」「不知火型」の土俵入りは、
時間の無駄 ということで、2年前から割愛されたそうだ。
そして、ただひとりの横綱「公(おおやけ)」の登場である。
横綱になると、どうなるのか聞いてみた。
「ほら、あれだよ。上、上。」
なんと「公」は、土俵の真上から、ロープにつるされて降りてきた。
そして、場内が暗転し、ブシューと煙幕が。
それと同時に、テーマソングが流れた。