パスポート紛失事件

<母親の部屋> <子供の部屋> <リンク集> <普通の家>


内容紹介

 初めての海外旅行、入国当初は緊張してたけど、4日目ともなれば、慣れが出でくる。どこからともなく、油断という小悪魔が舞い降りて、心の隙間を突かれました。そして、パスポート紛失事件が起こってしまった。いや〜、まいった、まいった。この事件はバッファロー空港からナイアガラリバーに向かう、バスの中より始まった。


 初めてのアメリカ旅行、ロサンゼルスに3日滞在した我々は、ナイアガラの滝を見るべく、バッファローに向かった。バッファロー空港に着いて、いつものように安く済ませるため、タクシーや、リムジンバス等は使わず市バスのような路線バスで、ナイアガラの滝まで行くルートを探していた。

 すると、空港敷地内にバス乗り場があり、時刻表はなかったが、停留所だけは全部書いてあったので、それで確認しながら、5、6のバス乗り場を見てまわった。周りには何人か、バスを待ってる人がいて、背の高い黒人が単行本を読んでいた。 

 3つ目のバス乗り場で、"ナイアガラリバー"と書かれた文字を見つけ、お〜、これだっと思ったが、とりあえず他のバス乗り場を見たが、それらしき文字はなかったし、"ナイアガラリバー"は最終停留所だったのでこれだっと確信した。それがそもそも事件の始まりだった。

 バスの時刻表が無いので、いつバスが来るかわからなかったが、しばらくすると何人か人が並びだした。するとバスがやってきたので、大きなスーツケース抱え込んで友人と2人で乗り込んだ。(なんで、アメリカのバス乗り場は時刻表がないんだ?) ちなみに座った場所は、一番後ろから2つ目ぐらいで、日本とほとんど同じようなバスだった。しばらく走っていると人が1人減り、2人減りと私と友人以外は誰もいなくなってしまった。

 周りの風景は田舎の町並みという感じで、本当にこのまま行けば着くのかなっと少々不安を感じていた。すると、バスがいきなり止まって、おまけに運転手が外に出て行くので終点かと思ったが、相変わらずの町並みのため、おかしいなっと思っていると、運転手が郵便物か何かわからないけど小包を持って帰ってきた。バスが郵便配達をするなんて初めて知ったが、いまいち良く分からなかった(客が乗ってんだから早く行けよ)。私はとりあえず開いたドアから外を覗いて、戻ってきた運転手にfinish(着いた?)って聞いたら、Noって答えたので再び自分の席に戻った。(おい、おい、このバス本当に大丈夫かよ。)

 自分の席でパスポートの入っている茶色いバックの中身を見ていると、友人が、このバスあやしくないかっと、言ってきた。うん、確かにあやしい。バスはずっと町の中を走り続けていて、どう考えても滝らしい雰囲気には、ほど遠かった。本当にナイアガラの滝に向かってんのかな。

 それから10分ぐらい走り、辺りを見渡していると草原のようなところに来て、そのうち目前に大きな川が流れる堤防沿いの道路に到着した。しかし、滝らしきものは無かった。ここが終点かなっと思って、運転手に再度finish(着いた?)って聞いたら、Yesって答えたので、周りを見渡しながら、やっと着いたのか、とバスの文句を言いながら友人と急いで降りた。ところが周りの景色は違った。

 そこは、日本では考えられないようなすばらしい景観のところで、向こう岸がかすれるほど大きな川だった。まさにナイアガラリバーだと感激した。堤防沿いは草原と多少大きめの木々が点在していて、リスが木の周りを走り回っていた。その瞬間重大なことに気がついた。ここはナイアガラの滝ではない。またその直後、更に重大な事に気がついた。確かスーツケースと別に持っていた茶色いかばんが無い。しまった、と思ってバスの方を見ると2〜300m先をバスはすでに走っていた。やばいっ、これは、ダッシュだっと思い10mほど走ったがバスは止まることはなく、走り去って行った。

 急いで、バス会社に電話しようと思い会社名(確かメトロバス)と電子パネル(バスの後ろの窓の上にある)に書いてあるバスの番号と名前を覚えた。ところが、周りには何も無く、堤防沿いの道がず〜と、続いているのと、道から外れたところには雑草と樹木が点々と乱立していた。近くに少々古びれた建物があったが、中がどうなっているのかは良く分からなかった。

 それよりも今どうするかが問題であった。茶色いバックの中には自分のパスポート、すべてのお金、トラベラーズチェック、飛行機のチケット(友人のも)、ホテルのクーポン券(勿論友人のも)など貴重品が入っていた。そのバックは私にとって旅行中は、命の次に大切な貴重品入れであった。よりによって、そのバックをバスの中に置き忘れるとは、私にとっての多少の救いは、そこが最終停留所であった為、そのバスがおそらくバスの倉庫に帰るだろうという小さな望みだけであった。もし、そのバスがダウンタウン(市街地)に行き、他の乗客がそのバックを手にしたら、おそらく2度と戻ってくることはないだろう。

 ところが近くを見渡しても電話ボックスらしいものがなく。また、自分たちが宿泊するホテル(ヒルトンホテル)も見当らなかった。唯一、はるか見渡す川岸にホテルらしきものが見えたが、自分たちの周りには何もなかった。我々はその場で何をすべきかを考え呆然としていた。友人に相談しても、いまいち事の重大さに気が付いてなく、自分一人であせっていた。

 そこで、30分ぐらいが経ち、どこからともなく、白人の男の子が傍を通りすぎて古びれた建物の中に入っていった。(心の叫び:おい、声をかけて助けを求めろ、助けてくれは何だっけな・・・、そうだ、ヘルプミーだ。)我々にとって海外旅行は初めてで、英会話も出発前に少しかじっただけで、電話で会話なんてとんでもないという程度のレベルだった。しばらくするとその建物の中から、さっきの男の子が出てきて何か話しかけてきた(ラッキー)。May I help you?(私にはhelp youしか聞き取れなかったが)。そこで、まず第一声は心をこめて、ヘルプミー(help me)、なかなか、海外でヘルプミーを使う事は無いよ。っと思いながら、パスポート入りのかばんがなくなったことを話そうと、I lost my important bag.(大切なバックを失った)と日本調で話したが通じず、どうもbagという発音が悪く、バッグ、バッグと何回言っても通用しない。そのため、友人の持っているリュックを指差してバッグと言うと、向こうはオ〜、イエッ、ベェックと言ったので、そうか、バックはベェックと言うのかっと感心してた。そこで、我に帰って、こんなことで感心している場合じゃない、と思い直して、バスの中に置き忘れたことを私のスーパーあやふや英語で説明すると、その少年は建物の中に入っていき、しばらくして出てきた。そして、「You…………・」おいおい、なんて言ってんだよ。もっとゆっくりしゃべってくれよ。なんて向こうが言ったのかは分からないが、ジェスチャーからすると、どうもこの店の中に入るようにと、そしたら店の人が何とかしてくれるよってな感じで話をしてくれた。

 そこで、2人でおそるおそる古ぼけた建物の中に入ると、中は意外に活気があって昼間だというのに皆カウンタに座ってアルコールらしきものを飲んでいて、カウンタの中にいるおばさんが、まぁ座りなさいよ。っとカウンタの席を指差し、我々の前にコーラを出してくれた。ふと、これは無料か有料か?、金無いしなぁ、っと友人を見るとかなり緊張していた。とりあえずさっき白人の男の子に言ったようにパスポートを無くした。っと説明すると、周りに何人かの人が集まってきた。バスの中に置き忘れたから、バス会社に電話をしたい、と説明していると、その中の1人が電話ボックスに入り(なんだよ、店の中に置いてあるじゃん)電話帳で調べてくれて、電話をかけてくれた(なんていい人だ)。ところが、何回電話をかけても相手は出なかった(ちょっと、やばいかな)。

 そこで外人同士がなんかワイワイと話し合ってて、なんか私に言ったがあまり聞き取ることは出来なかったがすごいショックを受けた(この旅始まって以来のショック)。それはその外人が行った内容の中にポリス(発音はポリースって感じ)という単語入ってたからだ。えっ、ポリス、警察にやっかいになるの、初めての海外旅行でかんべんしてくれよ、っと思ったけど、どうしようもないし、せっかく電話をかけてくれるというのだから、そこは任せようと思った。そして、その人が電話をかけようと受話器を持ち上げてプッシュボタンを押そうとした瞬間・・・、外にバスが見えた。そこでその人は走ってバスのところにかけよってバスを止めてくれた。我々も後を追って走っていった。そういえば、コーラは1口も飲んでなかった。

 そのおじさんはバスの運転手に、パスポートのことを聞いてくれていた。が、違うバスのため茶色いバックのことは分からなかったが、そのおじさんがバスの運転手に交渉してくれて、バスの倉庫まで乗せてくれることになった。もちろん無賃乗車で。それから、バスの一番前に座っていると、すぐ後ろに座っていたおじさんが、何か話しかけてきた。ツァリースト(旅してんの)? イェス。話するような気分でもないけど適当に話をしていると(英語が出来ないので話しなんてたいそうなことでなく、ほとんど聞いていただけ)10分ぐらい経って、バスの倉庫に到着した。そこでバスの運転手が倉庫を指差して真っ直ぐ行って右に曲がると事務所があるから、そこで聞けばいいよ。っと教えてくれ、我々はお礼を言って、そのとおりに行った。(さあ、バスはいるのか)

 倉庫の中に入ると、人気がなく、がらんとした事務所だったが、女の人が出てきて、パスポートがなくなったことを告げバスの番号を告げると、その女の人は内線で聞いてくれた。ところが、そのバスは先ほどまでいたけどもう既に出ていった。っと申し訳なさそうに我々に告げてきた。これでもう絶望的だ、っと思った瞬間友人があっ、あれ、おまえのバックじゃないのっと15mぐらい先の忘れ物置き場らしきところの一番上に無造作に置かれたバックを見つけ、それをみせてもらうと、中にはパスポートもお金もトラベラーズチェックも飛行機の航空券も全てそのままの状態で残っており、無事に手元に帰ってきた。

 バックを無くして途方に暮れているとき、白人の男の子が現れて、声をかけてくれなかったら、こうスムーズに見つかりはしなかっただろうし、バスの運転手がバスの中を見まわらずにそのままダウンタウンに出かけていたら、おそらく戻ってくることはなかったと思う。バックが無事に戻ってきたのは、白人の男の子が、バーのおばさんに言ってくれて、そこで中にいたお客さんがバスの運転手に交渉してくれたおかげだったと思う。また、機会があったら、そこのバーを訪れて、無事にパスポートが戻った事を伝えたいですね。

ちなみにこの後、ナイアガラの滝にはタクシーで30分ぐらいかけて移動した。結局、ここはナイアガラリバーであって、ナイアガラの滝ではなかった。みんなもパスポートの紛失には気をつけよう。

終わり

戻る