2013 年 9 月 6 日

 

有資格者各位

公益財団法人 日本卓球協会

ドーピングコントロール委員会

委員長 松尾 史朗

 


 

ドーピング検査陽性者の処罰の変更について

(処罰が重くなりました)



 

 

  先に病院受診時の不注意にてご紹介いたしました女子マラソン選手のドーピング検査陽性事例について、8月20日に処罰が変更になりました。
 貧血治療で病院受診した際に『自分がドーピング検査の対象となる選手であることを医者に告げなかったこと』が選手側の明らかな不注意と判断され、1年間の資格停止処分を受けた事例ですが、この度、処罰が軽すぎるとの指摘があり、スポーツ仲裁機構での審議の結果、資格停止が2年間に延長されました。
 2年に延長になった経緯を皆様に説明いたします。


T. 今回のドーピング陽性事例の概要
 この選手は女子マラソンの選手であり、オリンピック参加の可能性もあったトップ選手の一人でした。強度の貧血で病院を受診し、治療としてエリスロポイエチンの注射を受けています。この薬剤は、赤血球数を増やすホルモンであり、明らかな禁止物質です。この注射を受ける際、選手は医者にドーピング検査のことを告げてはおらず、また薬剤の名前、内容についても確認せずに注射を受けていました(ドーピング検査で陽性となるまで選手はこの薬剤の名前を知りませんでした)。

 日本ドーピング防止規律パネルは、以下の2点について選手に非があると裁定し、1年間の資格停止処分を下しました。
@ 診療の際、医師に自らがドーピング検査の対象となりうる選手であると告げなかったこと
A 治療薬について、その内容を確認しなかったこと



U. 処罰変更までの経緯
 実は、日本ドーピング防止規律パネルによる『1年間の資格停止処分』という決定は、日本ドーピング防止規程にて『2年間の資格停止処分』と定められているものを1年間短縮したものでした。
 同規程には「選手に重大な過失がないことを証明できる場合には、資格停止期間を短縮することができる」と定められており、日本ドーピング防止規律パネル(処罰の決定機関)は情状酌量の余地ありと考え、2年の資格停止期間を1年に短縮したのだと思います。
 これに対して日本アンチドーピング機構(ドーピング検査の実施、管理などを行っている機関)が異を唱えました。「選手に重大な過失があったのだから資格停止期間を短縮するのはおかしい」ということです。
 このように2つの機関で意見対立が生じた場合、それを仲裁し判断を下すのは「公益財団法人日本スポーツ仲裁機構」です。スポーツにおける裁判所です。
 その判断は、選手が病院受診した際に『自分がドーピング検査の対象となる選手であることを医者に告げなかったこと』は重大な過失であり、情状酌量の余地なしとのことでした。そのため選手の資格停止期間は1年ではなく2年に変更されたのです。


 この事例を通して学ばねばならないのは、『不注意は許されない』ということです。「自分で意図して行ったドーピングではないのだから処罰を軽減してくれても良いのではないか」と考える方も多いと思いますが、その主張は通らないということです。
 また、「同じ日本人同士なのだから一旦決定された処罰に対しクレームを付けることはないのではないか」との意見もあると思いますが、国内でこのような対応をとらなくても世界アンチドーピング機構が警告を発します。
 結局、同じ結果となります。大変厳しい、厳格な世界です。


 選手が薬を飲む際、病院を受診する際などには、くれぐれも間違い、不注意が生じないようご注意ください。
 以下の2点が重要です。
 @ 診療の際、医師に自らがドーピング検査の対象となりうる選手であることを告げること
 A 治療薬について、その内容を確認すること