鈴と理樹について、確かな筋から興味深い情報が入った。明日土曜日、理樹と鈴がデートするらしい。 裏付けるように鈴が部屋を訪ねてきた。 「おこづかいをくれ。足りなくなった」 ふんぞり返ってあごを突き出し、鈴は言う。 「なんに使うんだ?」 「じしょを買う」 「俺のを貸してやる。英語漢和仏語独和、なんでもあるぜ」 「……お前が持ってないやつだ」 「なんてやつだよ?」 言葉に詰まって、鈴がたじろぐ。しばらく逡巡して見せてから、 「は、はんれいろっぽう2008だ!」 「使うか、んなもん」 兄貴を騙して小銭せしめようだなんて、高校生のやることとは思えない。まったく我が妹ながら嘆かわしい。 説教しようと口を開くと、鈴はしょげ返って下を向き、悲しそうに肩を落としていた。近頃はめっきり見せない姿だったものだから、俺は久しぶりに慌て、 「あ、ああ、判例六法か! 使う使う、最新版は持ってないな。ほら、新しいの買ってこい」 そう言って五千円札を鈴の小さな手に握らせた。柔らかくて温かだった。鈴は嬉しそうに帰って行った。 「見たな、真人! 謙吾!」 「はっ」 「ここに」 謙吾が埃を立てながらベッドの下から、真人が天井に張り付くのをやめ姿を見せた。 「ブリーフィングを始める」 電気を落としてろうそくを灯し、手ごろな箱を囲んだ。 「皆わかっていると思うが、今回はいつものようなスニーキングミッションではない」 「ああ、あれだろ? ステーキングミッションってやつか」 「それを言うならストーキングだろう」 「『影ながらの護衛』と言え。謙吾隊員」 「言ったのは俺じゃないんだが……まぁいい。だいたい恭介、お前は少し鈴に甘すぎやしないか?」 「もちろんあれも作戦のうちさ。泳がせてあいつらの出方を見る」 「嘘だろ」 「嘘だな」 「……とりあえず真人は理樹につけ。謙吾は鈴だ。俺はここで中継する」 「ほんとにやるのかよ」 「兄として友人として、それはどうなんだ? なんのために尾行なんてする?」 「あいつらが悪い虫にたかられたりしないようにするためさ」 「嘘だろ」 「嘘だな」 「ええいうるさい! お前らだって心配だろう!?」 「ぶっちゃけやがった。まあ気持ちは分かるが……」 「あいつらももう子供じゃないんだぞ?」 「だから今回だけだっ!」 午後七時。鈴が学校を抜け出して近所の雑貨屋に走った。謙吾から報告が入る。思い切り校則にも寮則にも違反していると苦言を垂れていたが、鈴の後を追って自分までも違反していることには気付いていないようだった。 鈴が買い込んだのは新しい歯ブラシと、歯磨き粉と、噛んで飲み込む口臭対策のグミ(?)と、口の中をくちゅくちゅしてキレイにするアレ(なんでこんなに口の中を気にするんだろう。兄として無性に気になる)と、シャンプーとリンスと、汗の匂いを取る(十二月だぞ?)スプレーと、新しい靴下と、リップクリームとハンドクリーム(あんなに柔らかかったのに)だった。 ともすれば鈴の一生分の女の子らしい買い物だった。 「以上、報告を終える。オーバー」 「オーバーはいらん」 続いて真人から連絡が入った。 「どうやらデートってのは本当らしい。理樹の奴、十字懸垂に誘ったら案の定断りやがった。こいつぁクセェぞ」 「帰投せよ、オーバー」 さらに自覚のないまま潜入工作員と化した小毬からメールが着た。解読にしばらく時間を要したが、意訳すれば『鈴に頼まれた服装のコーディネート、大人っぽいのと可愛い系のとどっちがいいですか?』だった。二人は子供過ぎる。さりとて、背伸びはして欲しくない。しばらく悩んでから、大きくなった鈴っぽいので、と答えた。 『理樹くんの好みは?』 『残念ながら知らない』 『え〜っと、じゃあ恭介さんはどういうのが好きですか?』 んん、なんだろう。 『子供っぽいカッコいい服』 『おっけ〜ですよ〜♪』 いよいよデートは確かなようだ。 戻ってきた真人、謙吾と明日の打ち合わせをし、寝た。 理樹×鈴のためのマナー教室 ―恋人死闘編― 「だからつまり俺はさ、理樹と鈴がどこに出ても恥ずかしくないようなカップルになったらいいなと思ってるわけだよ。だがあの二人は若すぎる。作法ってもんがなってない。そこで俺が出て行って手ほどきすればいいんじゃないかと思うんだ」 身振り手振り熱弁するが、反応は鈍い。 「確かに見てると恥ずかしいほどベタベタしてるが、学生ならこんなものだろう」 呆れたように謙吾は言う。変装用のトレンチコートの下にジャンパーを羽織っているものだからもこもこと動きづらそうにしていた。 「だいたいよぅ、二人で遊びに行くのに作法なんてあんのか?」 サウナスーツに身を包み、暑苦しくも額を拭いながら真人が訊ねてきた。息を吐くたび、真人の眼前が白く煙った。吐かなくてもスーツの隙間からもうもうと湯気が立っていた。 「当然あるさ」 「どんなだよ?」 「例えば――あれだ」 俺はサングラスを外し、白い皮手袋の人差し指で二人の後姿を示した。 「ただ歩いているだけだろう? なにがまずいんだ?」 「よく見てみろ。鈴は今日、踵の高い靴を履いているな」 「確かにそうだな。……しかし鈴がエナメルの靴なんて、なにがあったんだ?」 「小毬プロデュースらしい。ここからでは確認できないが、コートの下のトレーナーは髑髏マークだ」 「寮から出てくるの見たけどよ、提げてる鞄は猫さんだったぜ……」 しばし小毬のファッションセンスについて討議する。鈴っぽいのと注文したはずなのだが。兄として、妹が友達にああ見られているのかと思うと複雑だった。 「おっと、脱線したな」 「え? 本線なんてあったのか?」 真人が驚いてみせる。 「まぁいいから聞け。鈴と理樹の身長差はおよそ10p強ってとこだな?」 離れてしまった二人の背中を追いかけながら話す。二人が頷く。 「そして鈴は今踵の高い靴を履き、その差は詰まった。それだけならばまだいいが、見てみろ」 並んで歩く理樹と鈴の背中を指す。鈴が縁石の上に乗りバランスを取りながら歩いていた。 「確かにあれは行儀のいいものではないな」 頷きながら謙吾。いや、そうじゃない、と俺は解説を入れる。 「鈴にはああいう場合、理樹より低いところを歩くような配慮が欲しい」 「……別にいいだろ、どっちでも」 「いやよくない。理樹の男としての何かを損ねかねん」 「とてもそんな風には見えないが」 理樹と鈴は仲良く手を繋いでいる。ご丁寧にも繋ぐ手だけ手袋を外し、真っ赤な手を握り合い、楽しそうにおしゃべりしていた。 「理樹の問題じゃない。周りにどう見られるかが問題なんだ」 割と真剣に、俺はそう言った。 しかし期待とは裏腹に、真人は気のなさそうに答える。 「別にあいつらがいいならいいんじゃねえか?」 そうもいかないんだよ。言おうとしたが、二人を見失いかけ、慌てて追ううちにタイミングを逃してしまった。 電車に乗って途中ファーストフードの昼食を取り、二人が向かった先は水族館だった。入場料はワリ勘。同い年カップルだからこれは当然だろう。薄暗い構造と人混みで、会話を盗み聞きできるくらいには近づくことができた。ちなみに俺たちはなにも食べずに冬空の下、二人を見守り続けていた。愛があるからなんともなかった。 「見てみろよ、すげえでっかいタコがいるぜ!」 「どれどれ……ふむ。わさび醤油が欲しいな」 「お前ら、やる気あるのかっ!」 叱責すると、 「愛じゃ腹は膨れないんだぜ……」 真人は遠い目をしてそう言った。 それから、水槽に挟まれたトンネルのような道を延々歩く。 鈴は物珍しさに興奮し、あちこち動いては理樹を振り回していた。 「ああ、よくない」 「今度はなんだ?」 謙吾がめんどくさげにしながらも食いついてくれる。真人はシャチだかクジラだかの馬力の解説に触発されてかどこかに消えてしまった。 「デートの基本は思い遣り。常に相手のことを気遣う心がなければいけない」 「だが、理樹は気にしていないようだぞ?」 背中をあごでしゃくってみせる。理樹は膝に手をつきながら、色とりどりの小魚に目を輝かせる鈴の横顔を嬉しそうに見上げていた。 会話が漏れ聞こえてくる。 『レノンたちも連れてきてやればよかったな』 『怖いこと言わないでよ、鈴……』 なるほど、確かに二人は楽しそうだった。 「おい! ちょっと来てみろよ! 白熊はすげえ筋肉らしいぜ!」 真人もずいぶん楽しげだった。 それから二人はペンギンに餌をやったり、理樹に懐いたメスのセイウチを鈴が威嚇したり、ショーのイルカに水を掛けられて喜んでいたり、ともかくデートを満喫しているようだった。 ああ、俺も混じりたかった。 ため息をつく。 「おお、見ろ! 俺が投げた鰯を食ってる!」 謙吾も喜んでいるし、なによりだった。畜生。 学校の最寄り駅に戻ってきたときには日が暮れていた。駅前のロータリーでは高い木に電灯を絡める準備が始まっていて、いわゆる恋人たちの季節ってのが始まるんだなあ、などという実感が湧いた。 二人は近場のファミレス、その窓際の席に陣取った。俺たちは物陰に隠れつつ二人を見守る。無論怪しまれるが、このご時世声をかけてくるような奴はいなかった。 二人に料理が運ばれてきた。理樹の前に唐辛子とパセリがちりばめられた香ばしい湯気を立てるパスタが、鈴の前には鉄板に乗ったステーキが置かれた。分厚い肉の上には香草入りのバターとレモンが添えられていた。 「ああ、なんか腹減ってきた」 「俺たちも中入ればよかったじゃねえか」 「ここからじゃないとあいつらのテーブルマナーが見られないだろう……ほら、見ろ!」 明るい光に溢れる店内の二人を指差す。鈴が添え物のニンジンを箸で摘まんで、ポイポイと理樹の皿に放り投げていた。 「……いつものことだろう?」 謙吾が不思議そうに俺の顔を見た。 「ここは学食じゃないんだぞ。仮にも公共の場だ。理樹にやるにせよもう少しやりようがあるはずだ」 「だが、ファミレスだぞ?」 作法もなにもあるか。謙吾はそう呆れた風に言う。店内には親子連れも多く、レジの前を子供が走り回っている。 「そういう問題でもないさ」 理樹はニンジンを頬張り、飲み込んでから鈴になにかを話す。多分、好き嫌いはダメだよ、とかそんな感じのことだ。鈴はふてくされたような顔をしてナイフを持つ。そしてフォークでレモンを押さえ、切り分け始めた。理樹はパスタをフォークに巻きつけるのに集中していて気づかない。どうするつもりだろう、と思いながら見ていると、レモンの切れ端をフォークで刺して、そのまま口に運んだ。 我が妹ながらアホだと思った。 「アホかっ!」 さすがの謙吾もツッコんでいた。 鈴は渋い顔をしながら、もきゅもきゅと口を動かす。理樹が顔を上げてやっと気がつく。苦しそうに飲み込んで、鈴がコップの水に口をつけ、理樹になにか言う。理樹が笑って、鈴がむっとして紙ナプキンの束で理樹の頭を叩く。理樹は痛がるそぶりをしながら、ごめんごめん、と手を顔の前で合わせる。それから二人で笑い合う。 「楽しそうだし、いいんじゃねえか?」 「それはそうだが、レモンはないだろう」 「俺もパセリ食うし」 「お前と鈴を一緒にするな」 二人が話しているあいだ、俺は黙って二人を眺めた。食事が終わり、鈴が口を気にしながら妙に長い手洗いから戻ると、理樹が腕時計を指した。二言、三言鈴と話して席を立とうとする。理樹も当然考えて外食に誘っていただろうに、鈴は理樹から伝票を引ったくり、有無を言わさず全部支払ってしまった。 もちろんまずいのは言うまでもない。 「……なぁ恭介。もう冷えてきたし、帰ろうぜ」 「いーや、ダメだ。あの二人を見守る義務が俺たちにはある」 「いいじゃないか。なんにせよ二人は楽しんでる。それで十分だと思うぞ」 「そうだそうだ。これも理樹たちのプラ……プライ……」 「サブプライムローン」 「そう、サブプライムだぜ。俺たちが首突っ込むとこじゃねえよ」 愛想が尽きたよ、とでも言うように、二人は肩をすくめて見せる。もともと乗り気じゃなかったんだろうから、これだけ引き回されれば当然だった。それに、二人の言うことにも一理ある。三理くらいは認めていいかもしれない。二人が楽しく生きていてくれるなら、俺だって満足さ。なにも言うことはない。 だが、俺は思うんだ。 『二人が良ければいいじゃないか』っていうのは違う。多かれ少なかれ、二人は他人の目に晒されて生きていくことになるんだから。二人は二人きりで生きてるわけじゃない。いつも誰かが二人を見ていて、勝手な評価を下す。ときにその評価は二人の足を引っ張るようにだってなるんだから。 そう言い聞かせ、オレンジ色の店内を見ると、吸い込む息が急に冷たく感じられた。二人が手の届かない場所にいるように思えた。 「恭介。お前、もしかして寂しいんじゃないか?」 二人が店内から出てきた。会計のことで揉めているんだろう、歩きながら、どこか険悪な雰囲気も感じられた。 俺はしばらく謙吾の言葉の意味を考え、 「……どういう意味だ?」 そう訊ねてみた。 「そのままの意味だ」 にこりともせず、謙吾は馬鹿真面目に返す。 鈴が拗ねたような顔をして、往来の中、半歩理樹の前に出た。 「俺が妬いてるってか?」 だとしたら鈴にだな。理樹を独り占めしやがって。 鼻で笑って、茶化してやろうと思う。だがそうする前に謙吾が遮る。 「その通りだ」 俺の目を真っ直ぐに捉えながら、謙吾が言った。その向こう側、理樹が鈴に追いつき、肩を掴む。 「お前は、あの二人の若さに嫉妬している」 ムキになって振り向いた鈴の顔に、理樹が顔を被せた。行き交う人混みに紛れ、二人は肩を抱き合いながら、長いあいだずっと唇を合わせていた。 なるほど、若さに嫉妬か。 たしかにもう、俺は長く生き過ぎた気がする。 「ひゅー、あいつら見せつけやがって。憎いねぇ、この」 真人に肩を叩かれる。 「正真正銘の高校生カップルだな。なにも心配要らんさ」 謙吾にも叩かれる。勝手に肩を組まれ、三人四脚みたいな格好になる。 「よし! スキップしながら帰ろうぜ!」 真人の提案を受けられるほど、俺は若くなかった。 三人して帰路に着く。振り返ると、二人は時間が経つのも忘れいつまでも見つめあっていた。 二人が俺たちのいない場所で、二人きりで過ごして、笑い合う。俺が以前から、いつか見られたら、と夢見ていた光景だった。 でかい男で三人、すごすごと歩いていると、ポケットの携帯が震えた。小毬からだった。エニグマもびっくりな、まったく意味不明な文章だった。 返信を考えあぐねるうち、重ねてメールが入った。 『あした空いてますか?』 そうシンプルに一行だけ書かれていた。 「なんだ? さっきから。誰からなんだ?」 真人が画面を覗き込もうとしてくる。 「ま、待て、なんでもない、ちょっと冷静に考えさせてくれ」 謙吾と真人が顔を見合わせた。俺も一緒になって見合わせたいところだった。 「きょーすけが好きな格好?」 ヤンバルクイナが好きな陸上競技について訊ねられたかのような、とんでもなく素っ頓狂な声と表情で、鈴が聞き返す。僕はそこまで驚きもせず、ただなんとなくリコーダーの生えたランドセルを思い浮かべた。 「え、えっと、普段からお世話になってるし、デートとかじゃなくて……」 「デートォ!?」 真っ赤になって説明しようとする小毬さんを遮り、鈴が叫ぶ。 「そ、そんなんじゃないってば〜!」 鈴は腕を組み、むっつりと押し黙る。怒っているわけではなく、なにかを考えているようだ。 「……園児服だな」 「ほ、ほえぇぇっ!?」 今度は小毬さんが叫んだ。 「だいじょーぶだ。こまりちゃん。妹のあたしにバッチリ任せておけ」 小毬さんの両肩を掴み、自信満々に鈴が言い切った。 「……で、やっぱりやるんだ」 「こまりちゃんの身の安全のためだからな、仕方ない」 僕らは二人の待ち合わせ場所を校門とあたりをつけて、張り込みをしていた。 「きょーすけのやつ、こまりちゃんに恥かかせたら承知せん」 鈴がこぶしにグッと力を込める。 こうは言っているけれど、実のところは鈴も心配なのだろう、と思った。まったく鈴とは気が合うようで、僕も不安でならなかった。 「二人とも、遅い。いきなり遅刻か。減点3だな」 鈴がメモ帳に『正』の字の三画目までを書く。 「点数の基準はなんなのさ……」 ツッコミは置いといて、確かに遅い。探りを入れた感じではもう落ち合っててもいいはずなんだけど。 そのときポケットの携帯が鳴る。謙吾からだった。 『やられた! 職員用の駐車場のフェンスを乗り越えたようだ!』 「理樹、どうした!?」 鈴も異常を察知したようだった。 「裏をかかれたみたい。こりゃ追いつけないかも……」 ここから走っても数分かかる。そのあいだに恭介のことだ、小毬さんを連れていても上手く逃げおおせることだろう。 諦めかけたそのとき、今度は鈴の携帯が。 「くるがやからだ」 『こちらで補足した。JRではなく私鉄の駅に向かっているようだ。追って連絡する』 「さすが、頼りになるね」 「ちょっと怖いけどな……」 「ともかく、急ごう!」 僕は鈴の手を取った。走りながら、一人、また一人とリトルバスターズのメンバーと合流していく。 「みなさん! こっちです!」 クドの声。言われなければ見逃してしまうような、細い道の先を指差している。 「……美しくないです」 「恭介を追いかけようと思ったら、やっぱりそうスマートには行かないよ」 「いえ、そういう意味ではなくて……」 西園さんがため息を吐く。酷く落胆した表情で僕の横顔を盗み見てきた。なにやら意味深だった。 やがて見えてきた小さな駅舎の、改札の向こう。今まさに電車に乗り込もうとする恭介と小毬さんの姿が見えた。小毬さんはミニスカートにダメージが入ったジーンズジャンパー、下にキャラクターもののシャツで、頭に大きなリボンといった格好だった。 「こまりちゃん、かわいいな。きょーすけにはもったいない」 満足げに鈴が言う。小毬さんから聞いた恭介の好みと、鈴の小毬さんのイメージを掛け合わせた服装だった。 「逃がすかぁ!」 来ヶ谷さんと行動を共にしていた、葉留佳さんの声が聞こえる。そしてベルが鳴り、締まりそうなドアに飛び乗って―― 「違う! 葉留佳君、罠だっ!」 葉留佳さんを止めようと、来ヶ谷さんも電車に乗り込む。 入れ替わるように、恭介と小毬さんが別のドアから飛び降りた。来ヶ谷さんたちを乗せたまま、電車は動き出す。来ヶ谷さんが悔しそうに表情を歪める。 絶妙のタイミングで、反対の線路に電車が入ってきた。 「まったく人の迷惑を考えんやつだな……我が兄ながら情けないぞ」 「いつまで経っても、子供だよねぇ……」 二人して、幼少の頃からまるで衰えないアグレッシブさに呆れ返る。 ホームに立つ恭介が、こちらを見てニヤリと笑って見せた。ちなみに小毬さんは肩で息をしていてこちらに気づいている様子はない。 「追うぞ!」 鈴が走るペースを上げる。今度は鈴に手を引かれるような形になった。息が上がりそうなのを堪えながら、繋いだ手が離れないよう力を込めて握った。 かつて夢見ていた光景だった。 「真人! 飛ぶぞ!」 「いよっしゃああああああ!」 追いついた謙吾と真人が、改札を抜ける。しゃがんだ謙吾の肩に真人が飛び乗り、謙吾が足首を掴んで立ち上がりながら投げ上げる。キレイな弧を描いて、真人が向かいのホームに着地した。 大人になっても、僕たちはみんなで息を切らして馬鹿やって、そして隣には鈴がいて。 あとがきああ、だめだ、馬鹿なノリってのがどうしていいのかわからない。みんなすごすぎるだろう。くそう。ファッション雑誌だって買ったのに。女性用ファッション誌の下にとらドラとリトバスのアンソロジーってどんな変態だよ、畜生。あと、恭介×小毬推奨。 ぶっちゃけ理樹くんじゃこまりんは荷が重いぜぇ。 鈴はステーキを水で流し込むようなワイルドな女の子のイメージなんですけどどうでしょうか? 推敲してもし足りないのはデフォで、いっぺん改稿しました。 |