Ich freue mich , hast dich zu getroffen……

 目が覚めて、白くぼやけた視界が徐々にはっきりしてくると、
 自分の部屋とは違う天井と部屋の様子に、まだぼんやりとした頭で途惑う。

 ここ、どこ………?

 頭を横に傾け、ようやく思い出す。

 目の前に、先生の寝顔。

 そうだ。ここは先生の部屋。
 わたし昨日、先生のマンションに泊まったんだった。

 ゆっくりと上半身を起こすと、掛布団がめくれ、裸の胸があらわになる。
 そして、先生の上半身も……。
 慌てて布団を先生の体の上に掛ける。

 3月半ばといってもまだ寒い。
 冷えるといけないから。

 先生の剥き出しになった肩まで布団を引き上げ、
 そして、わたしに向かって伸ばされている右腕にそっと触れた。

 一晩中、腕枕をしてくれていた右腕。 

 重さで痺れないように、腕の付け根のあたりに頭を置いていたけど……

 大丈夫かな?痺れてないかな?……

 滑らかな肌をそっとさすり、それから体を屈め、感謝の気持ちを込めて唇を押しあてる。
 わたしが眠るまで優しく髪を撫でてくれていた指にも、ありがとうのキス。

 こんなことされているのに、先生はまだ起きる気配を見せない。

 クス

 かわいい寝顔。

 11も年上の、大人の男の人に『かわいい』ってヘンかな?

 男の人ってそう言われるのすごい嫌がるっていうし、
 先生もきっと怒ると思うから、面と向かっては言えないけど……

 でも、かわいいんだもん。

 なんだかむずむずするような甘酸っぱい気持ちが込みあがってくる。
 ものすごく嬉しくなってきて、先生の肩に頬をすり付けた。
 そしてもう一度、今度は頭の上になった寝顔を見上げる。

 初めて見たのは、先生が疲れて教室で居眠りをしていた時。
 あの時、わたしは教え子の1人に過ぎなくて。
 でも、今はこうして、恋人として隣にいる。

 こんなに近くで、先生の温もりを感じている。
 穏やかな寝息を立てる先生を………。

 『奇跡』という言葉がじんわりと胸を打つ。

 先生と出逢えたことも、

 こうして、傍にいられることも。

 そのすべてが奇跡だと思える…………

 涙が出てきそうになった。

 哀しいわけじゃないのに、

 幸せすぎて ーーーーー

 ずっと夢見てた。
 こんな風に、目が覚めた時、隣に先生がいてくれることを。

 「泊まらせて下さい」なんて、わがまま言って困らせてごめんなさい。

 こういうの、先生すごく嫌がるのわかってはいたんだけど………でも………

 『初めて』のときもそうだったな………

 「結婚するまでダメだ」って、拒んだ先生を、わたしは思い返した…………






 卒業式の次の日。

 ドライブの終わり。念願の先生のお部屋に通されたわたしは、意を決して"お願い"をした。

ーー……せめて、君のご両親にきちんと挨拶をして、その、『婚約』をしてだな……

 「結婚するまでダメ」というセリフに、すごくびっくりしたわたしの顔を見て、
 先生は次にそう言った。

 でも、わたしは今すぐ先生に抱いて欲しかったの。

 わたしを愛してくれてるってことを、全身で感じたかった。

 わたしは先生の恋人だって実感したかった。

 だからお願いしたの。

 わたしを抱いて下さいって………

 すると先生は、眉間に皺を寄せ、難しい顔で押し黙ってしまった。

 先生のその表情を見た瞬間、さーっと全身から血の気が引いた。
 体がガタガタふるえ出す。

 いやらしい子だって思われた………
 先生に嫌われたーーーーー!

 そう思った途端、涙が溢れ、わたしは泣きながら謝った。

 泣く自分は大嫌い。
 嫌いなのに涙を止められなかった。

ーーごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………嫌わないで下さい………

 震える声で必死に、何度も何度も繰り返した。

ーー嫌わないで下さい………お願い………

 ふわっと、いい香りが鼻先をかすめたかと思うと、
 わたしは先生の温かい胸の中に抱かれていた。

ーー謝らなくていい。私が君を嫌うわけがない。……すまなかった……

 そう言って、先生は両手でわたしの頬を優しく挟み込み、
 涙を唇で掬ってくれた。
 それから、頬、唇に口付けが落とされる。

ーーん……

 先生の舌がわたしの唇を押し開け、内に入ってくる。
 舌先が触れ合った刹那、自分の涙のしょっぱい味が、口の中を刺激した。
 でも、それはすぐに、絡められた舌の甘さにかき消される。

 深く重ねられる口付けに、わたしは陶酔した。

 先生の舌の動きにおずおずと応えると、わたしを抱く腕の力が増し、体が一層密着する。
 服の上からでも先生の熱が伝わり、わたしの内に浸透する。
 体の中心に集まった鼓動の、大きく脈打っている音が聞こえた。

 初めてのキスは、今日。ドライブで連れて行ってもらった夕焼けの丘でだった。

 わたしのファースト・キス。

 その時の、唇と唇が触れ合うだけのキスとは全く違う深い口付け。

 あの時も溢れる幸せを体中いっぱいに感じていたけど、
 今はもっと別の感覚の方が多くを占め、わたしを揺さぶり、体を奥から火照らせる………

 頭が真っ白になり、おぼつかない手で先生のシャツを握りしめる。

 先生の唇がわたしの唇からゆっくり離れると、顎から首筋を通り鎖骨の窪みに落ちる。

 初めて感じる、皮膚を滑る唇の感触に、くすぐったいような甘い痺れが全身に広がった。

 ブラウスのボタンが外され、ブラがたくし上げられる。
 先生の目の前に晒される胸。

 恥ずかしい。

 あまり自信がない小さな自分の胸……。

 明るいところであらわになっていることがどうしようもなく恥ずかしくて、

 電気を消して下さい……。

 そうお願いしたかったのに、そんな間もなく、胸の突起を温かい口の中に含まれ、甘噛みされた。

ーーあ、ん……

 電気のような快感が背筋を走り、びくんと体が跳ね、声が上がる。
 自分でも恥ずかしいくらい濡れてエッチな声。
 でも、もうどうすることもできない。

 先生の熱い舌先と均整の取れた長い指が肌の上で巧みに動かされるたびに、
 わたしは愉悦にわななき、身をくねらせる。 

 もう、どうにかなっちゃう………

 施される初めての快感に溺れ、熱に浮かされたように息を上げながら、先生にしがみつく。
 崩れ落ちるわたしの体を、先生の腕がしっかりと支えてくれていた。

 体はどんどん熱を増し、鼓動が大きな音を立て頭の中を響き渡っている。
 視界は白いもやがかかったようにぼうっとなり、軽い眩暈を感じた。

ーー先生……お願い………どうにかして下さい………っ

 すすり泣くように哀願する声は、自分が発したものなのかわからないくらい遠くから聞こえた。


 いつのまにか、わたしは着ている物をすべて脱がされてベッドの上に仰向けに寝かされていた。

 喘ぎながらうわごとのように「電気消して下さい……」と言っていたせいか、
 寝室の照明は落とされ、ほの暗い。
 それでも部屋の中に差し込まれる月の光が、幻想的な薄明かりを醸し出していた。

 服を脱ぎ捨てた先生が、わたしの上に覆いかぶさる。

 上からわたしを見据える先生の瞳は、今まで見たことがないくらい熱っぽくて、
 息遣いも荒くて………

 初めて見る先生の様子に、少し怖くなって目を閉じる。

 頬に優しく触れられる指先を感じ、目を開けると、
 後悔するような先生の顔が月明かりの中浮かび上がる。

ーーやはり………

ーー違います!

 わたしは慌てて叫ぶ。

ーー少し怖いのは本当。………初めてだから………でも、それ以上に………

 途切れ途切れ言葉を紡ぐ

ーーずっと夢見ていました。先生にこうしてもらうこと……だから………お願い……

 して欲しいと懇願する自分の恥ずかしさなど、もうどうでも良かった。
 ただ、先生に抱いて欲しくてたまらなかった。

ーー好きです、先生。大好き………

 唇が塞がれる。

ーー私もだ。君を愛している。

 手を取られ、指先にも、一指一指丁寧に口付けが施される。

 それから熱い腕と体に包み込まれ、強く抱き竦められた。

 わたしも先生の広い背中に手をまわし、ありったけの想いをその腕に込める。

 もっと先生を感じられるように。

 融け合うように。

 抱かれている腕の中で
 わたしは何度も「好き」と繰り返した。

 3年間ずっと伝えたくて、でも言えなかった言葉が、堰を切ったように迸り出た。

 何度も何度も……

 先生はその度それに応えてくれた。

 熱く溶け、弾け飛ぼうとする意識の中でわたしはそれを聞いていた。

 私も君が好きだ と
 ずっと君にこうしたかった という先生の言葉を………


 ゆっくりと気遣うように、わたしの内に先生が入ってくる。

 わたしは息を飲み、先生を受け入れる。



 心と心が引かれ合うように、体と体も引かれ合っているの。

 いま、すごく、それを感じている。


 涙に濡れるわたしの頬を、
 先生の手が、いたわるように、子供をあやすそれのように、撫でてくれていた………






 初めて先生に抱いてもらった時のことを思い出して、
 わたしは一人顔を赤らめる。

 あの後、先生、

「君のご両親に合わせる顔が無い……」って嘆いてたっけ……


ーーわたしは後悔してません!……そりゃちょっと…(だいぶ…)痛かったですけど……
  すごく嬉しかったから……

 一所懸命わたしの気持ちを伝えると、
 先生は息を吐き、大きな手でわたしの髪をくしゃくしゃっとして、複雑な表情で笑った。

 ……わたしは先生を困らせてばかりいるのかもしれない。
 こんなに好きなのに。
 先生を困らせたいなんて、全然思っていないのに………

ーーごめんなさい……

 そう言うと、先生は笑ってキスをしてくれた。

ーー君には敵わない。

 そう言いながら。


 

(先生が好き)

 わたしの目の前で安らかな寝息を立てている寝顔を見つめ、改めてそのことを実感する。

 先生に嫌われたら、どうなってしまうかわからないくらい………

 考えただけで胸の奥が痛み、涙が溢れそうになる。

(だから、わたしを嫌わないで下さい)

 わたし、できるだけ先生を困らせないように努力しますから。

(大好き、先生)

 ちゅっと寝顔の頬にキスをする。


 さて、と。
 きっともうすぐ先生も起きることでしょう。
 朝ご飯の支度をしておかないとね。

 あ、その前に、紅茶を。

 モーニング・コーヒーならぬ、モーニング・ティー。

 先生と一緒に飲むの、夢だったんだから。

 いそいそとベッドから滑り降り、
 椅子の上に無造作に置かれていた愛しい人のシャツを羽織る。

 そして、ハミングしながら、うきうきした足取りで台所に向かった。

ende

小説置き場へ戻る


唐突で恐縮ではありますが、初エッチのお話(想い出?)でございました。
主人公ちゃん、君は偉い!君にカンパイだ!!(「乾杯」でも「完敗」でも可)
先生みたいな人と付き合うのってホント大変だと思いますよ……。
(ああもう、先生の後頭部をひっぱたきたいくらいであります^^)
先生のシャツを着る主人公男性諸子がえらく喜びそうなシチュ。
『もう一度ベッドに引きずり戻しの刑』だよ。主人公ちゃんvv
主人公はわたくし(東)の理想の女の子像でありまして。
勿論、「こうなりたい」ではなく、「こういう娘が好きだー」という理想です。
大好きだー主人公ー!!(←大バカ。でも、先生にゃもったいないよ、君は。いや実際^^)

ところで今回のタイトルは、ときメモ2のハッピーED曲「あなたに会えて」から頂きました。
(この曲、すごく好きなんです!珈琲でなく紅茶なのも歌詞からですv)
相変わらず怪しいドイツ語にしておりますが……汗……
胸を張って「文法、間違ってます!」と云えます。←ダメだろ!!

今回少しエッチな描写が入りましたので、15禁に致しましたが、どんなもんでしょう?
直接的な描写はないので年齢制限しなくてもいいかなとも思ったのですが、念のためと思いまして。
(というより、直接的な描写があったら18禁になるのかな??)
GSではなんでもかんでも初めて尽くしの事をやってる私でして、実を云うとこういう小説を書いたのも初めてです。ですので、いろいろな面、ご容赦下さいね、レディーの皆様方(^o^)ゝ
そのうち18禁も書きたいですね〜(本気か?書けるのか?)

2005.3.28UP