サンクゼール
〜”サンクゼール”ブランドの総本山〜
外観

芋川という面白い地名にある、サンクゼール。その販売店は全国主要都市に広がっているのですから、その生産工場は、それはそれは垢抜けた場所、少なくとも郊外ぐらいだろうと想像します。
いざサンクゼールの住所に向かうと町からは離れ、山また山。まさかこんな山の中(といってもゴルフ場やホテルなどもありますが)にあるとは・・・。
入り口には垣根栽培のブドウ畑、ヨーロッパ風木造建築が見えるのでワイナリーらしさは満点です。
ワイナリーに足を踏み入れると、日本では変わった建物の配置が目に付きます。中央に庭があり、そこを中心に円形に各施設や工場が配置されるという造りです。
このワイナリー内から自然を見下ろす景観は抜群で、この景色を味わうだけにでも行く価値のある光景が広がっています。
歴史

都市部の方々、特に自然食品や原料にこだわった食品をよく購入される方なら「サンクゼール」を知る人は多いでしょう。また完全に直営店のみの販売形式をとっていることもあって、経済に興味がある方の間でも有名です。
元々、斑尾高原農場(現在のサンクゼール)は1979年に久世良三氏によりジャム製造販売事業を中核として出発しました。しかし、社名に反してどこにも農場など持たなかったこと、遅ればせながらの新婚旅行でフランスに行きその風景と文化に感銘を受けたことから、事業の舵取りを大きく変更します。ワインと食の融合した文化に触れ、自らもワインを造ることを志した久世氏は1988年、三水村に農業法人を設立、さらにワイン造りのための醸造機器を購入し、レストランやジャム工場も含めた本拠地を現在の住所に定めました。
が、これらの事業の全てをあまりに短期間に進めてしまった反動はてきめんで一気に資金難に追い込まれます。しかも創めたばかりのワイン事業から高品質のワインの生産はできず、1993年以降しばらくは厳しい経営を余儀なくされました。
幸いなことに、ワインの技術面は故浅井昭吾氏とメルシャンの援助を受けたことにより向上し、事業も久世氏の経営手腕により危機的状況を脱することに成功。そして、こうした危機を乗り越える途中、妻の久世まゆみ女史のすすめで良三氏はキリスト教に入信し、苦しい時期を乗り越える精神的な支えとしました。
このキリスト教への帰依の影響は個人に留まらず、事業の有り方にも影響を与えています。「経営理念は聖書に基づいている」と公式ページにも書いてあるのみならず、月曜には社員一同でゴスペルや賛美歌を唱和、祈りで朝礼を終えるといった宗教色のある社風を醸成しました。

現在のサンクゼールは2005年に大阪の梅田に「集大成」と位置付ける24店目を出店するなど、順調に事業を拡大中。特にほとんどの製品を自社で生産・管理し、直営店以外ではいっさい売らないという姿勢でここまで事業が発展したことは、ブランドビジネスとして確立されていることを意味しており、経営者などからも注目されています。
製品は昔から”本物志向”なので、原材料の表記などはワインであろうとジャムであろうとしっかりと明記されていることも特徴の一つ。
ちなみにこの斑尾高原農場という社名は、2005年にブランド名である「サンクゼール」に改名しています。理由は公式ホームページにあるのでそちらを参照すればわかりますが、要約すると商品の原料に世界各地の農産物を使うようになったため、社名のイメージと現状にギャップが生まれたことによるようです。

肝心のワインの原料は長野県・山梨県産の葡萄と、海外のワインも使用。原料の表示は明確に書かれているので、きちんと裏ラベルをみるなりすれば希望していたワインと違う原産地のものを買うことはないようになっています。その生産本数は21万本と、さすが全国級。
ワイン事業は有名ではあるもののサンクゼールのほとんどの社員はジャムやハチミツなどの製造業の社員で、ワインは5名程度の社員によって製造・栽培の管理が行われているのは、意外な事実です。
長野県でもかなりの高地なので、広大な自社畑をもつワイナリーとしては例外的にシャルドネ以外の自社畑ワインを商品化していません。寒さで赤は満足のいくものができないためですが、今後はピノノワールなどの赤ワインでも評価の高い製品を造るべく研鑚が続けられています。
施設の概略
試飲・販売所の他、レストラン、醸造所、ジャム工場があります。
このうち、ジャム工場は見学不可の様子。ここから全国のサンクゼール支店で売られるジャムが生産されていること、ほとんどの社員はこの工場で働いているということだけを心に留めておきましょう。

施設の一つには久世夫妻はクリスチャンであり経営理念も聖書に基づくものであるということと関連して、教会があります。
ヨーロッパや新世界では醸造所に十字架はまったくおかしくない光景ですが、日本では珍しい景色。そもそもワイナリーの代表がクリスチャンというのは、ここ以外では岐阜の多治見修道院ぐらいかもしれません。まあ多治見修道院は修道院がワインを造り始めたので、根本から違いますが。
教会では、久世良三氏の奥様の久世まゆみ女史が神父として諸事を取り仕切っています。単立教会(他の教会の階層に入っておらず、独立で運営されている教会の総称)であることなど、活動の詳細については公式ホームページに記載されているのでそちらを参照下さい。

販売所で販売しているものは、自社ワイン以外でも多岐にわたります。20種類を越えるジャムに始まり、コンポート、ハチミツ、ドレッシング、オイル、パン、さらにはアメリカ・イタリアの輸入ワイン、全てオリジナルブランドで統一されているというのには脱帽。さすが全国に多数の店舗をもつだけあり、よくぞこれだけの商品を開発・製造していると感心させられます。
ジャムは全て試食可能なので、自分の口に合うかどうかを試せるのは良心的な配慮とえいるでしょう。なお、商品やこういった試食形態は他の店舗と共通しているので一度でもどこかのサンクゼールに行った方なら、だいたい想像がつくかと思います。


葡萄畑
ワイナリーで見ることができるのは観光的な葡萄園ですが、管理はされています。正門にあるのはリースリングやミュラートゥルガウなど、現在ではワインの原料としては使用していない品種です。レストラン「サンクゼール」の隣にある凄まじいばかりの急斜面で栽培されている葡萄もワインの主原料ではありません。しかし、この畑から見える長野の山野はまさに絶景なので、必見です。

ワインの原料用に栽培される主な畑となる「大入葡萄園」は、ワイナリーから車でもかなり移動した場所、しかも誇張でなく山奥にあるので、気軽に見学には行けないのは残念です。
こちらの畑は標高600メートルとかなりの高所。長野県でしかも標高が高いこともあって寒冷地には適さないカベルネ・ソーヴィニヨンなどの赤ワイン品種は難しいので、栽培品種はシャルドネが主体となっています。
地質は主に粘土質、それなりの角度のある斜面にびっしりとシャルドネが植えてある光景は圧巻です。この畑は山に囲まれているために降雨量が少なく、レインカットすら必要でないというなかなか恵まれた畑。かなり寒いので、成長が遅い(勝沼などより2週間ほど差があるようです)のも特徴の一つです。
シャルドネだけで6へクタール、全ての畑を合計すると10ヘクタールと、国内ではかなりの規模の自社畑を所有しています。

蛇足ながら、経済的に自社畑はワインにしてもまったくわりに合わないそうです。サンクザールのワインは他社と比べて「安い」とは言えない価格なだけに、こういった問題が日本の全ワイナリーに重くのしかかっているのを感じるエピソードです。
銘柄: 善光寺 竜眼 2003
生産元: サンクゼール
価格: 1260円
使用品種: 善光寺
備考 薄いレモンイエロー。洋梨、青リンゴなどの爽やかな果実の香り。
アタックこそ優しいのですが、炭酸が入っているのかと一瞬錯覚するような刺激的な酸味があり、それを甘さがうまく覆っています。
あまり味わいはありませんが、香りもよくとても軽やかで肩肘張らずに楽しめるワイン。
善光寺自体が少ないのでそれだけでも価値がありますが、軽く爽やかなワインとして、購入の選択に入れてよい品質といえます。
飲んだ日: 2005年11月5日
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直営レストラン
このレストラン「サンクゼール」は長野の観光マップに頻繁に顔を出す人気レストランの一つ。1890円のランチを含めメニューは地元の野菜などを利用した欧風料理がメインとなっています。
教会があるのでもちろんウェディングも受け付けており、公式ホームページ上には挙式などの予定表も書かれています。この日は食事は無理でしょうから、食事に行きたい場合にはあらかじめ確認しておいた方が良いでしょう。

※ 時間が無くて食べれなかったので詳細についてはコメントできないことをお詫びします。


ツアー
ツアーは有料と無料の二種類です。
無料の”ワインツアー”は、平日、休日ともに毎日11:30〜、13:30〜、15:00〜 より受付ており予約は不要。このツアーは工場見学をしながらの「ワイン造りの解説、次いでワイナリー内の畑を見ながら葡萄品種などに関する基礎的な説明を行います。時間も短く20分もせずに終わるので、ちょうどツアーの時間の都合がつくなら気軽に申し込んでみましょう。
もう一方”ヴィンヤードツアー” は、希望日の三日前までに要予約で料金は一人3150円。ワイナリー内で軽食をとりながらのテイスティング、さらにバスでシャルドネの主力畑である大入葡萄園施設内に行き、広大な畑を実際に見ながら解説を受けます。ただ、このツアーは、降雪の時期は行っていないことに注意。
どちらのツアーも詳細については公式ホームページに詳しいので、そちらをご参照ください。

テイスティング

高価格帯の銘柄を除き、自社ワインならほとんどのワインが無料でテイスティングできます。また、ワインだけでなく、ジャムなどの試食もあるというのがサンクゼールらしいところ。もともと事業はこちらの方が先輩なので、テイスティングルームでも配置的にジャムやハチミツ、パンにも充分にスペースが割かれています。
以下にテイスティングのコメントを記載するので参孝程度に読んでください。

シャルドネ 2003:価格は2100円。自社畑のシャルドネを樽には入れずに発酵・熟成させた辛口白ワイン。マンゴー、洋梨、ミネラルの香り。味わいは酸味のアタックがしっかりしており、アフターにも強い酸味が残ります。果実香のほか、ハチミツのような含み香がありコクはそこまでないものの香りは豊か。タイプ的には、強いていうと暑い年のブルゴーニュ・ブランなどが近いといえるでしょうか。かなり酸味の効いたシャルドネです。

シャルドネ バレルファーメンテーション 2003:詳細は管理人のワイン記録に。

善光寺竜眼:善光寺葡萄を使用。価格は1260円。青リンゴの香りのする、やや甘口のフルーティーなワイン。とてもクリーンに造られており、取り立てて個性は強くないものの、気軽に楽しめる味わいです。

今回は、試飲で書いた銘柄が少ないですが、実は人気ワイナリーだけ売り切れ商品が多かったためです。実際に訪れた時に試飲できたのはこのなかでは善光寺だけ。
サンクゼールは、各支店でも試飲ができるようになっており、実際、ここに書いたシャルドネは新宿支店のサンクゼールにおいて試飲をしています。特に大阪梅田の24号店は、試飲コーナーが非常に充実しているので、関西圏の人はまずこちらにいってみるのもよいかもしれません。
色々なワイナリーの中でも、景観はトップクラス。
購入方法 
歴史などの中にも書いてありますが、主要都市に販売店があります。ただ、独自の販売網のため逆にいうとそこ以外での入手は少し難しくなるともいえます。ネットからの通販も利用可能です。

ワイナリーアクセス
アクセスに関しては斑尾高原農場の公式ホームページに説明されているのでそちらを御参照下さい。
200人の社員の出社は大変そう、と思える立地ですので車で行きましょう。自転車や徒歩の方には、一定レベル以上の体力と精神力が求められます。

総論
サンクゼールは、ブランドビジネスという面で最も成功しているワイナリーといって差し支えないでしょう。社員の構成比率からいってもサンクゼールが「ワインのブランド化に成功」したかどうかは判然としないのですが、その一翼を担っていることは確かです。

本社はさすがカントリーコンフォートを目指した久世氏の想いがあるので、施設や敷地は落ち着いた雰囲気ながらも洗練されています。山野を見渡せる抜群の景色もあいまって、数あるワイナリーの中でも景観や、周囲の森との一体化という面においては知りうる限りでは最高の醸造所の一つといえます。

それはそれとして、ワインを製造しているのですからその感想も。
まず赤ワインは少ないのですが契約栽培などのメルローのものがあり、その他、山梨の甲州や長野の善光寺葡萄のワインも製造しています。赤は飲む機会がありませんでしたが、甲州や善光寺はクリーンに丁寧に造っているという印象を受けました。
メインであるシャルドネですが、飲んだ限りでは銘柄問わず酸味のしっかりしたスタイルという点では共通しています。ブラインドで出されほどほどワインを飲んでいる人であれば、比較的北の地方か高地という返答がでてくるタイプです。ただ、ヴィンテージによるでしょうが厚みのある酸やミネラル香、またエレガントではあるものの、この品種のワインとしてはわずかにコクに乏しい気がします。価格的に安くないワインなので、価格面か品質面でもう少しコストパフォーマンスがよくなると、もっと評価されるワイナリーになるのではないでしょうか。また、樽のシャルドネが3150円〜4500円というのはまだしも、最高価格のものが定価が12600円というのは白ワインとしては高すぎの感があり、価格設定に疑問も。
個人的には飲んだなかでは、善光寺、ステンレスタンクのシャルドネがコストパフォーマンスがよかったように思います。
品質的に低いものを造っているのではなく、私がわりに旨みやコクのしっかりしたシャルドネが好き・・・ということですので誤解しないようにしてください。買って失望するワインではありません。特に寒冷地の酸のしっかりしたシャルドネが好みの方は、むしろ他の日本のシャルドネよりサンクゼールのシャルドネが好きになれるようにも思えます。

ジャムやフルーツソースなどの商品に関しては、価格は安くはないものの、素材を厳選し原料の出所のしっかりとした製品を作っています。品質的にも原料の風味がよくでているので、一度もサンクゼールの製品を購入したことがない人は、少なくとも試食ぐらいはしてみたほうがよいかと思います。

訪問をおすすめしたい人としては、まず当然ながらサンクゼールの商品をよく購入している人。本山(^^)ですし、商品の充実ぶりは見事なのでやはり行けば充実したショッピングが楽しめます。また、食事のためにレストラン「サンクゼール」に寄るのはなかなかよい選択のようです(伝聞で書くのは、私はまだ食べたことがないからです・・・)。
サンクゼールの商品も含めてよく知らない人でも、景観は何度も書いたように抜群なので、その景観を楽しみつつどんな商品を扱っているのか見て回るだけでもかなり有意義な時間が過ごせます。
近くを訪れ、時間が空いているなら立ち寄ってみるとよいでしょう。
醸造タンクでは珍しい合成樹脂製。残量がひと目でわかるかわりに、掃除が大変とのこと。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑   直営レストラン ツアー テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
社名 (株)サンクゼール
住所 長野県上水内郡三水村芋川1260 電話番号 0262-53-7002
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.madaraofarm.co.jp/
自社畑あり、契約栽培畑あり ツアー等 あり(有料・無料)
テイスティング可(無料・ジャムも可)
栽培品種 シャルドネ、メルロー、カベルネ・フラン、ナイアガラ、キャンベル・アーリー、他 営業日 営業時間:9:00〜17:00
★訪問日 2004年6月22日
備考:直営レストラン「レストラン・サンクゼール」を経営、ジャム生産、 輸入ワイン販売、教会併設(プロテスタント)
広大なシャルドネ畑、景色も絶景と言うことなし。有料ツアーの場合、ここも見学コースに入っています。
銘柄: シャルドネ バレルファーメンテーション 2003
生産元: サンクゼール
価格: 3150円
使用品種: シャルドネ(自社畑)
備考 樽発酵による自社畑のシャルドネ。
色は薄めのレモンイエロー。樽由来のヴァニラの香りと、ミネラル香と、マンゴー、ニューサマーなどの酸味の強い柑橘類の香りを感じます。
アタックはとても優しいのですが、しっかりとした濃縮感があり、エレガントながらもほどほどの旨み。含み香もそれほど上立香とかわりませんが、樽の香りはバランスよくマンゴーのような果実香です。
アフターにかなり刺激的な酸が残るのが特徴的で、余韻は短めながら柑橘類の果実香、樽の香りが残ります。
安いワインではありませんが、とてもバランスがよくこの値段分の価値はあると思います。酸味のしっかりしたワインが好きな方に特におすすめ。
飲んだ日: 2005年11月24日