都濃ワイン
〜南の地に、風雲児現る〜
外観

都濃町の海岸線から少し入った厳しい坂を越えていくと、葡萄畑の連なる先にワイナリーが見えます。あたりを見回せばそこかしかに垣根栽培の葡萄畑が丘の斜面に延々と広り、一瞬ここが日本であることを忘れそうになります。
眼下には都濃町と海の見える絶景が広がり、近くには太平洋側に面したなだらかな斜面にはイベント用の広場もあります。あたりには人家もなく、鳥の声や、遠くで農業機械の動く音だけが聞こえてきます。

しかし、とてものどかな光景とは裏腹に、このワイナリーの評価は数年で急上昇しています。「エキサイティング」と評される、都濃ワインとはいかなるワイナリーでしょうか?


歴史
都濃は宮崎県一の葡萄の生産量を誇る町で、そこで生産される葡萄は「尾鈴ぶどう」と呼ばれて親しまれています。都濃ワインはこの尾鈴ぶどうを100%使用したワインを醸造するワイナリーで、経営形態は第三セクターとなります。

※都濃ワインに関する歴史や方針は極めて詳細に公式ページに載っていますのでそちらを参照ください。

さて、いわゆる第三セクターのワイナリーというと、「個性に乏しい」「赤字経営」「観光客重視」といったイメージがありますが、都濃ワインはこのどれにも当てはまっていません。というよりも完全に反対といっていいでしょう。
まず中規模のワイナリーでありながら直接の醸造に関わっている社員は実質的に二人しかいません。そのうち醸造担当の小畑 暁氏は、ブラジルのワイン工場で醸造長をしていたという、たぶん日本では他にいないであろう職歴を経て都濃ワインの醸造長となった、超個性派です。もうお一人の栽培担当の赤尾氏と共にワイナリーを運営していますが、あまりに激務なので入社してもみんなやめてしまうので、常時二人体制とのこと。・・・話半分としてもなかなか凄まじい労働環境のようです(^_^;

その都濃ワインが、1996年に初めて生産した3万本のワインはあっという間に売り切れ、都濃ワインは「幻のワイン」とまで言われるようになったのは有名です。現在は設備を整え、必要なときには地元の人をバイトで雇うなどして、年産で22万本とかなりの量を生産していますが、常時品薄なのは変わりません。
施設の概略
基本的に試飲&販売所があるだけです。しかも、人気があるために試飲できる銘柄が複数あればラッキーかもしれません。
他に地元のお土産や収穫された野菜などを売っています。また、施設内には都濃の敷地内で行われるイベントのポスターなどが貼ってあり、その内容はワイン関連だけでなく、ソフトボール大会であったりといろいろで、あまり他のワイナリーでは見ないものもあります。

工場見学は、ガラス越しから、その巨大なタンクが見て取れます。工程等についても簡単な説明書きがありますが、醸造施設内に入ることはできません。
この醸造施設は、バイトの人でも動かせるように機械化と作業の単純化を重視したものとのことで、意外に大規模プラント的な雰囲気を持っています。

また、1F部分には樽のセラーがあり、主にフレンチオーク(アメリカンはほとんどなく、一部フレンチ・アメリカン混合の樽があるだけです)中心の樽発酵・樽熟成が行われています。
※セラーは自由に見学することはできないようです。

外観の項でも触れたように駐車場も付いた大きな広場もあるので、ピクニック気分でいくのもよいでしょう。


葡萄畑
4haとかなり広い自社の葡萄畑では主にシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、マスカットベリーAが栽培されています。
見学は場所が近いので歩いて行けますし、レインカットによる垣根式栽培が行われているため見ればすぐにわかります。

「良いワインは良い葡萄から、そして良い葡萄は良い土から」を目標とした栽培が基本ですが、都濃ワインの考える良い土は通常のワイナリーと異なります。
ワイナリーに行き、その畑の土を踏むとまずふかふかなのに驚きます。まるで雑木林の下土のようです。
この秘密は、土中に微生物が豊富にいることによって菌糸という白い糸(正体は微生物の塊)が土中に張り巡らされて、それが土の粒同士をくっつけることによって隙間が多くなることによります(団粒といいます)。こうして団粒構造によって土に隙間ができると木の根はのびやすくなるので、より広く深く根を降ろしますし、隙間が多いので水はけがよくなります。その結果、土中のミネラル分などを豊富に含んだ葡萄ができる、というのが都濃ワインの栽培方法です。
ある時、葉の成分検査をして「栄養不足」という結果がでたので、さっそく堆肥を撒き、再び検査をしたところ、同じく「栄養不足」という結果がでたことがあるそうです。その理由は微生物が堆肥を全て分解してしまったことによるというのですから、都濃の土地の微生物含有量はかなりのものでしょう。
「葡萄でなく、微生物に餌を与える栽培」が、この特殊な畑を作り上げています。

銘柄: シャルドネ アンフィルタード 2003
生産元: 都濃ワイン
価格: 2800円
使用品種: シャルドネ(自社畑産100%)
備考 樽発酵・樽熟成を行い、フィルター処理を行わないで醸造したワイン。
濃縮味を予感させるレモンイエロー。華やかなパイナップルとマンゴー、樽の香りのほかにしいの実(どんぐり)のような香りも。酸はおとなしいですが、豊かな味わい柑橘系の含み香とがマッチしたボリューム感があります。
ただ、若いこともあってか後味に苦味がでているので、苦味のニュアンスが嫌いな方はあまり好みではないかもしれません。食事と一緒だとあまり気にならない程度のレベルですが。
都濃でもっとも高価格のワインですが、海外のシャルドネと遜色ないワインです。
飲んだ日: 2004年10月24日
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直営レストラン
ワインレストラン・ソネットが、都濃ワインの販売所より少し下ったところにあります。このレストランは、厳密にいうと都濃ワインの直営ではないそうですが、同じ敷地内のすぐ近くに建っています。
外観はワインレストランというだけあり、どことなく醸造所のような雰囲気があります。
レストランの店内には宮崎県のお土産ものなども展示・販売されていますが、あまりこちらにはワイナリーのオリジナリティを示す物品は販売されていないようでした。
食事はバイキング形式で、ランチのみ。味は値段相応で、価格は安めです。なかには、宮崎県特産の料理なども含まれており(全体が洋風料理なので違和感がありますが)、お昼時にいったなら訪れるのもよいでしょう。


テイスティング
いわゆる「本格ワイン」を指向するワイナリーの場合は、ラブレスカのワインはあまり重視しない傾向がありますが、都濃はそうでもありません。宮崎県はキャンベルアーリーが非常に古くから生産されていますが、都濃ワインもこれが主力品種です。キャンベルアーリーはかつては日本でも栽培面積で第二位だったこともある生食用葡萄で、同じくラブレスカのデラウェアに匹敵するほどの耐寒性と耐病性をもつ頑健な品種です。都農町でも昔からこのキャンベルアーリーを栽培していたのですが、生食用としては巨峰群に追いやられて栽培面積を大きく減らしていきました。しかし、都濃ワインや地元農家は古くから栽培されたこの品種こそ都濃町の独自性を表現するものであるという考えから、かなり熱心にキャンベルアーリーの栽培と醸造を行っています。もちろん、ヨーロッパ品種にも力を入れているのは言うまでもありません。

試飲に関しては残念ながら、銘柄が少ないうえに、売り切れているものも多いのであまり多くは試飲できませんでした。

キャンベルアーリー:値段は1220円。都濃ワインを代表する銘柄のひとつでロゼワインです。「Wine Report 2004」においてお買い得なワインの第二位に輝いたワインでもあります。香りには柔らかな狐臭と、イチゴゼリーのようなフレーバーがあります。味には甘味と、それを引き締めるリンゴ酸の酸味、さらにわずかに種のような苦味があり、よくあるだれた感じのする甘口ワインとは一線を画します。ラブレスカを使用したワインとしてはとてもバランスがよく、またキャンベル・アーリーを使ったワインの中では最高峰の一つといえるでしょう。
余談ですが、このワインは売り切れていて試飲だけができる状態でした。なぜ試飲だけが・・・とも思いましたが、今にして考えれば、せめて試飲だけでもという御好意だったのでしょう。でも、おいしくても買えないと、もどかしい気分になります(^_^)

マスカットベリーA :1330円。香りはフランボワーズとボジョレ・ヌーヴォーにも似た甘い口紅のような香り。柔らかい酸味と果実香があり、余韻にはホップや大麦のよう。個性を有したベリーAのワインです。
これとは別に「マスカットベリーA・エステート」(自社畑産)がありますが、こちらは試飲はありませんでした。
購入方法 
地元のスーパーや、ホームページからの通販で購入できます。
できるはずですが、ワインの人気が高くて実際には銘柄によっては入手が困難です。発売から時間が経った銘柄の購入は、望み薄と思ってください。隣の綾町の観光課の職員さんに話を聞いたところ、「都濃のワインはおいしいけど、ここだとなかなか手に入らない」というのですから、人気があるのは想像がつきます。
発売すると地元の人が並んで買う、などという嘘か誠かの噂が流れるくらいですから、もし興味がある銘柄が入手できそうであれば、即買うことをお奨めします。
ちなみに都濃のホームページは完成度が高いばかりか、栽培通信と醸造通信が、ほとんど毎日更新されているという、私のように更新が遅い人間には耳の痛いホームページです。激務の中、毎日更新しているのかと思うと頭が下がります。

ワイナリーアクセス
都濃ワインの公式ホームページにアクセスマップが掲載されていますから、そちらを参照してください。


総論

栽培からそれ以外の活動まで柔軟かつ意欲的に色々なことを実行してしまうパワーにはただ圧倒されます。
また、私たちが行った時には地元の小学校が遠足に来て、敷地内の公園でピクニックをしているなど、とても地元に愛されているワイナリーという印象を受けました。

日本でもワイン用葡萄栽培の"非好適地"といっては過言ではない宮崎県の沿岸近くに、このような革命的ワイナリーが存在しているということには、世界的にみても想像以上の重要性や意義があると思えます。確かに長野・山梨のハイランクのワインと比べるといま一歩かもしれませんが、「かなりワイン向きでない土地」から高レベルのワインができているということは、日本の他のワイナリーも注目を集めています。
もしかしたら近い将来、日本のワインと聞いて専門家が思い浮かべる名は「Tsuno」となる日がくるかもしれません。

このワイナリーに訪問しても、工場見学はほとんどないので醸造設備が見たい方にはあまり面白くないかもしれません。しかし、畑は自由に見学できる状態なのでワイン造りに興味がある方ならぜひとも見ておきたいところです。公園もとても広く清潔で、開放感があるのでこちらが目的でいくのもいいかもしれません。
そうでなくても、とにかくおいしいワインを醸造しているので、ぜひ一度は訪れたいワイナリー。飲めば「宮崎県でこれだけのワインが造れるのか!」と、驚くでしょう。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  直営レストラン  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
銘柄が搾られているので試飲は少なめ。銘柄が多ければラッキーかもしれません。
社名  (有)都濃ワイン
住所 宮崎県児湯郡都農町大字川北14609-20  電話番号 0983-25-5550
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.tsunowine.com
自社畑あり 契約栽培畑あり ツアー等 訪問自由
テイスティング可(無料)
栽培品種 シャルドネ、キャンベルアーリー、マスカットベリ−A、カベルネ・ソーヴィニヨン、他 営業日 年中無休
営業時間:9:00〜17:00
★  2004年5月21日
備考:都濃町産ブドウのみ使用、レストラン「ワインレストラン・ソネット」併設、第三セクター
ワイナリー近くの畑。実際いってみると土がふかふかなのに驚かされます。地面から離れたところに果実ができるよう、高めのレインカットが行われているようです。
しかしこのワイナリーが注目される理由は何といっても栽培でしょう。その基本を簡潔に書くと、有機農法により微生物の豊かな土壌を作り、葡萄の木を育て、健全な葡萄を収穫すること、です。最終目的は他のワイナリーと一緒ですが、その手段がまったく異なります。
まず、ワイン用葡萄栽培においては窒素分の少ない痩せた土壌にこそ凝縮された葡萄ができるという常識を覆し、かなりの量の堆肥を畑に撒いています。これによって土中の微生物は活性化します(詳しくは葡萄畑の項で説明します)。この微生物が旺盛に活動している畑こそ、葡萄にj深みやミネラルを与える源となるというのが都濃ワインの考えです。
実際、農薬を撒きすぎた畑では微生物が減少し、ワインから個性が無くなるということはかなり以前から言われているので、的外れでな栽培方法ではないといえます。が、これほど大胆な着想を得ているワイナリーは、世界でもそうはないでしょう。
こういった手法はよく話題になるビオディナミ(バイオダイナミクス)と混同されて紹介されているようですが、都濃では必要であれば農薬も撒きますし(ただしかなり減農薬です)、必ずしも有機肥料ばかりでなく、検査して欠乏があれば化学肥料の散布も行っています。また、頻繁に葉などの成分検査も行っており、かなり科学的なデータを元に栽培の方針が決定されています(※1)。

また、環境を守る農業という観点から、微生物が有機物を分解するメカニズムを用い、廃棄された食物から菌体肥料をつくるグリーンガイアと呼ばれるプラントがあります。ここで土壌改良用肥料を生産するなど先駆的な事業にも取り組んでいます。

宮崎県という日本でも南部のワイナリーであるため高温多雨で台風の直撃コースという重度のハンデを背負っており、およそ恵まれた環境にはありません。しかしそのハンデを克服するべく、従来の栽培方法に囚われることのない自由な発想と栽培方法は、日本はおろか世界からも注目されています。「Wine Report 2004」のアジア地域において、もっとも将来性があり、エキサイティングなワイナリーと紹介されたのにも頷けます。

※1 都濃ワインがビオディナミを行っていると誤認されているもう一つの理由は、地元の有志農家の一部が「農薬を散布する際に月の満ち欠けによる生体バイオリズム」を考慮して撒く」ことによるようです。・・・薬の種類にもよりますが、農薬を撒いたらもうビオディナミじゃないような(^^)
このワイナリーの人気を支える地元とのつながりは密接で、都濃ワインの広場では地元の学生や町民によるサッカー大会や、ソフトボール大会などといったイベントも頻繁に行われています。ワイナリーが季刊で発刊している小冊子の『CORK』(右の写真)には、都濃のワインの紹介だけでなく、地元の農家の人々が自分の抱負などを語っていたり(しかもワインと全然関係ない作物の農家であることも)、ワインと合う料理の作り方を紹介しているなど、とても第三セクターが出版しているとは思えない楽しい冊子です。