蒼龍葡萄酒
〜無添加甘口+本格辛口の二枚看板〜
外観

10台程度の車が駐車できるスペースの中にある赤い屋根と白い壁の建物が蒼龍葡萄酒です。
フランスのプロヴァンス風の洗練されたデザインの売店で、地酒的なワイナリーとはまったく異なる外観。それほど大きくはないのですがそのデザインが際立っているためにかなり目立った建物といえるでしょう。壁には蒼龍の設立年度の「1899」の文字が書きこまれています。
店内はワインへの影響を防ぐためか少し暗めの照明が使用され、かなりのスペースであることも見えます。
歴史
蒼龍葡萄酒株式会社は勝沼で1899年からワインの醸造を開始した老舗ワイナリー。ただ、現在の鈴木社長の先祖が最初から個人醸造所として経営していたわけではなく、設立時は共同醸造所として醸造免許を取得しています。その後に、その免許を買い取る形で鈴木家に施設と免許がバトンタッチされました。鈴木家の自宅の周りを覆うように大きな醸造施設が立ち並ぶ奇妙な工場の配置も、この頃の醸造施設の場所がそのまま使われていることに由来しています。こういった経緯もあってか現在でも農家からの依頼による委託醸造は継続中で、その旨を明記したワインも販売されている点はこの醸造所の知られざる一面といえるでしょう。
ちなみに社名の「蒼龍」は、中国の故事にある東西南北の守護神の一柱である「蒼龍」が幸運を呼ぶ神である言われることからそれにあやかって命名したもの。

当主の鈴木卓偉氏はワイナリーはまずワイン専門で経営していかなければならないという考えの持ち主で、ワインと関係がないような多角的な事業は行なわずワインプロパーによる運営を行っています。
蒼龍葡萄酒の名は知らなくても、ここで造られている「無添加赤ワイン」を一度も見たことがないという人はおそらくいないでしょう。あちこちのコンビニ、スーパー、酒販店、百貨店などのあらゆる場所のワイン売り場でその姿を頻繁に見かけるのですから、生産量だけでなく営業力も相当なもの。実際、鈴木氏は山梨県の長者番付でワイナリー経営者の中では常に一位というのですから恐れ入ります。
その生産量は年間120万本と圧倒的な数量。品質管理は厳格そのもので日本国内のワイナリーの中でも際立って清掃が行き届いた醸造所、清潔なクリーンルームでの瓶詰めに始まり、果ては商品の雑菌検査(※)までと品質の安全性を保障する作業は、やりすぎといえるほどに徹底しているのもこの醸造所ならでは。もちろん火入れ処理もエキス分(糖度と考えてください)が一定以上のものには必ず入れています。
ところがこの蒼龍葡萄酒も、2004年より新しい醸造長を迎え、さらに現社長のご子息が後を継ぐことになったころから変革が始まりました。無添加ワインも今までどおり生産していますが、同時に食中酒となる辛口のスティルワインの生産に力を入れておりその品質は目に見えて向上しています。2006年には凍結濃縮の甲州で「Japan wine challege」で最優秀日本ワイン賞を獲得。この快挙はあまり高品質のワインを造らなかったイメージのある蒼龍葡萄酒の変貌を他社や愛好家たちに印象付けました。

※ご存知のように商品化されるワインは、病原菌などが繁殖していることはまずありません。高いアルコール濃度、亜硫酸の添加、強力な酸はほとんどの菌類の繁殖を許しません。菌検査は蒼龍ではクレームがあった時の対応策という部分もあるようです。
施設の概略
新しく清潔感のある建物で、各所に置かれたインテリアや商品配置はかなりセンス良く、販売所内の商品配置にも相当気を使っているのがわかります。
売店ではワインの他、ワインオープナー・ワイングラスなどのグッズや、グレープシードオイル(自社製品ではありません)、ブドウジュース等の様々な商品の販売を行っていました。
売店の地下にある見学可能な地下貯蔵庫では、樽貯蔵中のワインや瓶内熟成されているワインが所狭しと並んでいます。このセラーはかなり清潔に保たれていますがもちろん現役のセラー。
その他の施設は見学を申し込まなければいけないので、ツアーの項目にて解説を続けます。



葡萄畑
自社畑はありますが、特に見学コース等はありません。面積は0.7haと会社の規模に比べてやや少なめです。栽培されているのは、メルロー、甲斐ノワール、アジロンダック(こちらは改植を検討中)など。
銘柄: プレミアム甲斐ノワール 2005
生産元: 蒼龍葡萄酒
価格: 2100円
使用品種: 甲斐ノワール
備考 山梨県の甲斐ノワールを樽で熟成させた赤ワイン。しっかりとしたベリーやクローブなどのスパイスの香り、そこに樽のチョコレート香などが少し加わります。味わいは優しいアタックですが口中で中盤からグッとボリュームを増し、刺激的でないながらもしっかりとした酸、豊かなブラックチェリーやシナモン、杉の葉、そしてチョコの香りが広がります。新樽も使っているとおぼしきニュアンスがあるのですが、それに負けない果実香があるのは驚きでした。
当然ながら飲んだ時点では少し若かったのですが、現状でも充分に飲み応えがあり、また余韻の長さや香りも文句のないレベル。
蒼龍葡萄酒の生まれ変わりを思い知らされる見事な赤ワインです。
飲んだ日: 2006年12月15日
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テイスティング
冷蔵庫に入っているワインを自分で取り出して、使い捨てカップで自由に試飲することができます。
かなり販売している銘柄の数が多く、全部の試飲は時間もかかるのである程度興味がある銘柄だけに搾って試飲したほうがよいでしょう。
テイスティングコメントは小さなカップでの試飲であるため、参孝程度に読んでください。

シトラスセント甲州 2006:1582円。ノンボルドー、すなわちボルドー液を栽培時に使用していない甲州葡萄から造った甲州ワインです。これに加えて嫌気発酵などの醸造法により、通称「きいろ香」といわれる香りをだすことが狙い。狙いどおりレモンやグレープフルーツの明瞭な香りのある、中口ぐらいのワインでとなっています。残念ながら新酒ということもあって、厚みが無く、またきいろ香系統の甲州では他社に比べるとややインパクト不足なように思えるのは否めません。それでも購入の価値はあり。

シャトーソウリュー勝沼町原産地認証ワイン :糖度18度以上の葡萄を使用した甲州の原産地認証ワインで、値段は3010円と高価です。さすがに値段だけのことはあり、試飲した蒼龍のワインの中ではもっとも酸味や味のバランスが良いワインでした。ただ、他社の原産地認証ワインと比べると目立った個性などをあまり感じないのが難点です。

無添加白ワイン:原料は甲州です。希薄な洋梨のような香り。中口程度の甘味で、味は雑味が多く、しかも飲んだ後に甲州独特の紙のような香りがかなり強くでてしまっています。もしかしたら試飲したものが劣化していたのかもしれませんが、それとしても紙のような香りが強すぎる気がします。また表記はありませんが、白は甲州でしか造っておらず、市場を見る限りでは無添加赤よりも生産量は少なめの様子。

無添加赤ワイン:この無添加ワインは、コンコードを原料に酸化防止剤を使用せずに醸造した甘口ワインで最も有名な銘柄でしょう。原料は果汁そのものではなく、輸入したマスト(濃縮果汁)。これだけだと濃すぎるので加水して希釈、発酵させたのがこのワインですが、飲んだ感想はアルコール入りグレープジュースといった雰囲気です。コンコードはもともとジュースとして加工するのに優れた葡萄なので、気軽にジュース代わりに飲むのに適したワインといえます。ただ内容どうこう以前に、原材料がはっきり書かれていないのは感心しません。

メルロー 2003:
価格は2117。樽を主体とした樹木やヴァニラの香りで、ミディアム程度のボディがあります。タンニンも出ており、口中にはブラックチェリーやキノコ、イチジクといった香りと、樽由来のヴァニラ香などがしっかりついています。やや複雑味が足りない気もしますが、なかなかの赤ワイン。

リザーブ甲州 2005
:価格は3150円。凍結濃縮による果汁を使ったワインで、がっちり辛口。「Japan wine challenge 2006」において最優秀日本ワイン賞を受賞という快挙を成し遂げました。まず印象的なのははっきりとわかる洋ナシや青リンゴの香りで、そこに隠れて樽の香りも漂ってきます。味わいはアタックは優しいものの口中に入るとボリューム感と厚みがあります。余韻も中程度で果実香が主体と、高級白ワインの風格。まだ若いという印象を受けましたが、従来の蒼龍葡萄酒「シンプル、薄い」のイメージのまま飲むと衝撃を受けることになることは保証できます。

販売されているやはり甲州が主体。他に輸入のカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドした赤ワインなども一部ありますが、昔と比べるとこういった輸入ブレンドの銘柄は相当に減りました。変わって増えたのが、山梨県内の甲斐ノワールやアジロンダックといった品種を使用したワインや、同じく山梨県のメルローを使った高価格ワイン。甲州のラインナップも増えており、旧ラインナップも含めて全体に品質が底上げされてきています。新しい醸造長は葡萄の新鮮さを重視し、納入された葡萄は必ずその日のうちに圧搾するということで社員の方々の苦労も増えているのですが、そのためなかのか特に白ワインにおいて以前よりもよりクリアーな味になっているように思えます。

さて、こうしたワインとは別に、端に追いやられているように見える一升瓶の棚を見るとこの醸造所のもう一つ顔が現れます。歴史の項でも書いたように蒼龍では委託醸造や地元用ワインの製造を行っており、その種類も豊富。それぞれ特色があるワインになっているうえ、実は醸造所では「定価より安い価格で売られている」のです!。もしどこかで蒼龍の一升瓶ワインを飲んで気に入った方がいるなら朗報です。
なお、一升瓶は値段も安い上に地元の方の好みに合わせるという観点からプレスランを多くいれており、720mlのワインとは内容はまったく別物と考えてください。

他、フルーツワインも多数販売されています。なぜかフルーツワインの陳列棚の中にマスカットのワインがあるのはご愛嬌(^^)。
内装のセンスのよさは群を抜いています。インテリアや商品配置にはかなり気を使っているのがわかります。
ツアー
工場見学には前日までに予約が必要。予約をすれば社員の方が工場内の説明をしてくれます。

まず案内されるのは外からも見える貯蔵タンク。入り口から右手には、やたらに古い木製の醸造所、正面にはコンクリートで作られた醸造所と、まるで別のワイナリーの施設のようにすら見えますが、どちらも蒼龍葡萄酒の醸造施設です。
置かれている屋外の貯蔵タンクもホーローと温度管理のできるステンレスの新旧タイプのタンクで、それらが塔のように並ぶ光景は圧巻の一語。ホーロータンクは常に上から水が流れていますが、これは地下水をかけて内部のワインの温度を一定に保つためのものです。合理的な方法ですが、タンクの周りに藻が生えてみすぼらしくなるというのが問題とのことでした。

醸造所内部には、ワイナリーを訪れた人ならば見慣れたバルーン式のウィルメス圧搾機や、破砕機といった醸造器具が見受けられます。発酵タンクなどは室内があり、その途中には古樽があり、ここにはフォーティファイドワインなども入れられています。なお、メインの樽貯蔵庫は試飲販売所の地下、そして醸造所の地下にあるのですが、後者は湿度のため黒かびだらけになって見た目が悪い場所だそうなので訪問客が案内されることはありません。

瓶詰め機や発酵タンクのある場所に案内されると、今まで小さいワイナリーばかりいっていた人は必ず驚きます。まず、瓶詰めはクリーンルームで行われている点。ビニールのシートが入り口にはられ、外気がやたらに入らないように注意されています。しかし、数々のワイナリーを訪れた(と勝手に自認する)私を驚かせたのは、醸造所内部全体の清潔感でした。そこまで新しい工場でないことはコンクリートの塗装や壁の様子からわかるのですが、「塵一つおちていない」はオーバーにしても床や施設の清掃に並外れて労力を割いていることは一目瞭然で、ここまで清潔な醸造所はまれ。蒼龍のワイン造り、特に無添加ワインのあり方はどうにも同意しかねる私ですが、これほど醸造に気を使っているということを見せられると、その真剣さは認めざる得ません。
まあ、大雑把な私からするとここまでやらないでもいいんじゃない?、とも思いますが(^_^)。

その後、圧倒的な貯蔵量を誇るセラー(実はワイナリーの販売所と同じ建物内にあります)を見学し、最後にこちらは予約不要で見学できる樽の貯蔵所に案内されたところでツアーは終了。
説明も丁寧で、ワインの醸造工程などに興味があるならば「かなり良い」といっていいツアーなので、おすすめツアーといえます。
なお、所要時間は30分ほど。

外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 ツアー  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
購入方法 
ワインの販売はワイナリー内の販売店と、公式ホームページからの通販、全国の様々な店舗で販売されています。が、無添加以外のワインとなると以外に入手が難しく、ワイナリー以外での購入は難しいと考えたほうがいいかもしれません。

ワイナリーアクセス
アクセスに関しては蒼龍葡萄酒の公式ホームページに詳しく説明されているのでそちらを御参照下さい。目立つ建物なので通り過ぎるということはあまりないでしょう。

総論
販売する無添加ワインの知名度という意味で、山梨、いえ下手をすると全国で蒼龍葡萄酒が最も有名かもしれません。以前、宮崎県まで自転車でいったことがありますがそこでも蒼龍の無添加赤ワインが売られていたのですから、販路はまさに全国級でしょう。

私個人は無添加ワインに対してはやや否定的な考えの持ち主であるため、無添加ワインが主力商品であることの是非については、中立の見方ができないのでここでは触れません。ただ無添加ワインに限って原料表示がないのは感心しません。マスト(濃縮果汁)を発酵させた国内産ブドウなのか、日本の葡萄だけで醸造したワインなのかはメーカーの責務として記載するべきでしょう。

無添加ワイン以外の純国産のワインは以前は、かなりの惨状と評してよい状態でした。まずくはないのですが、品質やコストパフォーマンスで優良醸造所と並び立つとは間違えても言えなかったのです。しかし近年、現社長のご子息が醸造業務に就くようになり、まるき葡萄酒にいた方が醸造長として2004年に入社したあたりから急速に品質が改善されました。今までが「?」といった感じのワインが多かったこともあってこの変革には驚きを隠せません。まだまだのびしろがあるようにも思えますし、「素晴らしい!」というレベルのワインは多くはありませんが醸造所自体の規模を考えると将来性は◎。
おすすめは、白ワインでは「甲州シトランセ」と「リザーブ甲州」。後者は飲みごろがきていないうえに高いのですが、有名な勝沼醸造の「勝沼甲州樽発酵」(こちらも凍結濃縮)に迫る内容。赤ワインは、メルローも悪くはないですが、甲斐ノワールは出色もので、この品種のワインとしては文句無しに最高峰の一つです。
加えて一升瓶の甲州は意外においしいという点に注目。かの中央葡萄酒の三澤社長が「蒼龍の鈴木さんは甲州をよくわかっている」と評したことがあるそうですが、確かに原料の葡萄そのものは優れていないように思えるものの、実にクリーンかつバランスよく造られており、感心させられます。

訪問に関しては、お洒落な内装と低価格で飲みやすいワインやフルーツワインがそろっており、ワインについての知識がまだない人でも気軽に商品を選べるのは利点。また、蒼龍のワインをデパートなどでよく購入している方もさることながら、内容的の充実した銘柄も出始めたのでワインマニアでも時間を割くに値する醸造所に変わりました。
本当によい醸造所が増えて嬉しい限りです。
社名 蒼竜葡萄酒(株)
住所 山梨県甲州市勝沼町下岩崎1841
電話番号 0553-44-0026
取寄せ オンラインショッピング有り HP http://www.wine.or.jp/soryu/
自社畑あり、契約栽培畑あり ツアー等 あり(無料、要予約)
テイスティング可(無料)
栽培品種 甲州、メルロー、甲斐ノワール、シャルドネ、
メルロー、アジロンダック、他
営業日 年中無休
★  2004年3月13日、2006年12月1日
備考:無添加ワイン生産で有名、フォーティファイドワイン製造
清潔感あふれる地下貯蔵庫。他に樽もおいてあります。とにかく清潔にしてあるのが蒼龍の特徴の一つです。
銘柄: 甲州辛口
生産元: 蒼龍葡萄酒
価格: 1695円(1.8l)
使用品種: 甲州
備考 甲州葡萄の一升瓶ワイン。一升瓶は720mlのものよりプレスランを多くしたものだそうですから、別物と考えるべきです。
さて、その香りはというと確かに甲州の皮特有の香りがしないではないですがよほど注意しなければわからないレベル。それ以上に洋梨や青リンゴといった華やかな果実香のほうが印象に残り、華やかさは一升瓶甲州では充分といっていいでしょう。
味わいは極めてシンプルで、辛口とはいってもけっこう糖度が残っており、中口ぐらいの甘さ。酸味はあまりなく、含み香は果実香が目立ちます。余韻はやはり洋梨の香りが主体。
全体としては、クリーンに醸造されており、他社の一升瓶の甲州などにでやすい沢庵のような洗練さに欠ける匂いはありません。酸が足りないため、インパクトに欠ける部分がありますが、値段を考えればお買い得といってよいワインです。
飲んだ日: 2006年12月18日
ここは通りからでもわかる蒼龍の外観です。石垣に松まで植えられているのは以前から疑問でしたが、自宅の周りに醸造所があると考えると納得。
写真ではわかりにくいですが、清掃の行き届いた醸造所内部。大手メーカーをも凌ぐ勢いの徹底ぶりです。
販売所と同じ建物内の貯蔵庫。まさに山積みのワインが出荷の時を待っています。圧巻!