マルサン葡萄酒
〜人とワイナリーは見かけによらず〜
外観

どこをどう見ても、山梨県の勝沼によくある葡萄狩りの直売所にしか見えない建物です。しかしよくよく見ると「蔵元直売」とワイン販売を謳ったのぼり、そして販売所には「マルサン葡萄酒」の文字が。
あまりワイナリーらしくない目立たない建物ですが、実はここも侮ってはいけないワイナリーなのです。
庭には棚栽培の葡萄の樹が伸び、いかにもぶどう狩りの施設という雰囲気ですが、販売所の中をよくよくみると自社ワインずらりとが置かれています。
歴史

本業は生食葡萄農家なのですが先代のころから、主に甲州やマスカット・ベリーAを原料としてワインを造り続けてきました。醸造は、太平洋戦争の際に酒石酸獲得のために軍の命令に端を発しています。
これだけですと伝統的な勝沼のワイナリーなのですが、マルサン葡萄酒で現在力を入れているのはメルロー、シャルドネ、プティ・ヴェルドーといったヨーロッパ品種です。しかも、これらの葡萄は自社畑でレインカットによる垣根栽培されており、かなり真剣にワイン用葡萄栽培栽培に取り組んでいることは明らかです。

なぜ、このように小さなワイナリーがワイン用葡萄を造っているのかには理由があります。平成9年、勝沼町では滅多に降ることが無い大雪によって、それまで棚栽培を行っていた畑が大きな損害を被りました。この時の救済策として山梨県が、メルローやシャルドネなどのワイン用葡萄に限り苗を無料で供与するという政策を打ち出したのです。そこでマルサン葡萄酒ではマンズワインの志村技師(2004年時点では伊豆ワイナリー栽培長)に指導を受けてレインカットを導入。1600本以上のワイン用葡萄を植え、ヨーロッパ品種による醸造を行うようになったのです。

自社畑ヨーロッパ品種とは別に、昔ながらのマスカット・ベリーAやアジロンダックといったワインの主原料は主に知り合いの農家などから供給されています(甲州だけは自社畑のものが主体です)。原料を供給している農家も、造られたワインの多くを自分たちが飲む関係から病果などの選抜はしているので、一定水準の品質は保たれています。

使用する葡萄は勝沼産100%で、主力は自社畑のヨーロッパ品種と甲州。家族経営なので総生産本数は2万本以下となります。勝沼の歴史あるワイナリーとしては珍しく、一升瓶のワインは展示されていません。
施設の概略
施設としてはワインの販売所、そしてワインの地下セラーと醸造所があります。
この地下セラーは勝手に見学にいくことはできないので、お店の方に頼んで案内してもらいましょう。
セラーには所狭しとワインがならび(もちろんラベルは貼ってありません)、熟成されています。本数も醸造所の規模に比べればなかなかのもの。
門外漢には一見わかりませんが、セラーのワインはヴィンテージごとに整理されており聞けばどれが何のヴィンテージが教えてもらうことができます。

醸造に関しては、昔ながらの上面解放のタンクによる発酵。醸造工程のもろもろの要因が重なっているのでしょうが、ここの甲州は主流であるフルーティーなものとは異なるスタイルのワインになっています。

また、本業である観光葡萄園は販売所の目の前にあるのでぶどう狩りのシーズンであれば、「若尾果樹園」の巨峰や甲斐路といった生食用ぶどうを食べることができます。食べ放題はなしですが、葡萄狩りの際には結構な量の葡萄をサービスで食べさせてもらえるのでそれほど割高感はありません。葡萄は果実の中では異常に糖度が高いこともあって、「いくら食べてもいい」と言われてもなかなか量は食べれないのでこれでいいようにも思えます。


葡萄畑
ワイン用自社畑は勝沼の三輪窪という地域に約3.5アールの畑があります。場所でいくとメルシャン勝沼ワイナリーのすぐ近くです。特に地図等はないので、見学にいくならばお店の方に場所を聞いてからいく必要があります。
全てのヨーロッパ品種がレインカットにより栽培されており、かなり真剣にワイン用葡萄を生産していることがこのことだけでもわかります。栽培品種はメルロー、プチ・ヴェルドー、シャルドネで、カベルネ・ソーヴィニヨンは栽培されていません。山梨ではたいがいヨーロッパ品種ではカベルネ・ソーヴィニヨンを植えているので、そこからみると少し例外的な品種構成です。
マルサン葡萄酒のオーナーの談では、メルロー、プチ・ヴェルドーはある程度満足のいくものができているようですが、シャルドネには苦戦しており改植も考えているようです。

また、販売所の前にはぶどう狩り用の棚栽培の畑もあり、このうち甲州のみ醸造に使用されています。
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地下セラー。実はビンテージ管理がされており、ほどよく熟成したところで販売されます。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
テイスティング
甲州とマスカットベリーAのテイスティングができます。ヨーロッパ品種は無理なので買ってからのお楽しみです。

甲州 百:洗練されてクリーンな現在の甲州とは異なり、果実香よりは熟成香主体の甲州。日本酒に似た雰囲気があり、酸化した梨のような香りも感じられます。アルコール感も強く、田舎料理と合わせて飲むとおいしそうです。

ベリーA 百:甲州と異なり、軽やかで清涼感のある味わい。ピーマンなどの青い香りが強くでており、辛口ですが全体に突出したところがなく、とても気軽に飲める味わいです。

銘柄は全体的に辛口仕上げが多く、なんといってもこの規模のワイナリーとしては自社畑産のヨーロッパ品種によるワイン「美味くぼ」が主力商品というのは驚きます。
赤ワインは、メルローとプチ・ヴェルドーのワインで、プチ・ヴェルドーが30%を越えてブレンドされている珍しいセパージュ(ブレンド)。ラベルにはヴィンテージはありませんが、実はヴィンテージ管理されており、聞けばどのヴィンテージかを教えてもらうことができます。昨今の当たり年は2000〜2002年とのこと。基本的にメルローは熟成が早いので、既に販売されている銘柄は飲み頃であると考えていいといえます。
値段は2000円〜3000円で、ヴィンテージで価格が違うようです。

白ワインはシャルドネ100%によるもの。もちろん辛口で、自社畑の項に説明したようにレインカットを使用して栽培された葡萄を原料としています。
値段は同じく2000円。

他に、毎年一定本数の甲州を亜硫酸無添加の状態で保存しておく商品があります。これは別に健康志向に訴えるつもりの商品ではなく、無添加のまま熟成させて、酸化や熟成による独特の味わいを楽しむために醸造されているものだそうです。ほとんどが仲間内で飲まれてしまうようですが、一部が店頭販売されています。
購入方法 
ワイナリーの販売所から直接購入、電話・FAXによる注文を受付けています。ワイナリー以外には取り扱い店はほとんどありません。

ワイナリーアクセス
・勝沼ぶどう卿駅からから車で5分。
下記ホームページに地図が掲載されています。
http://yamanashi.visitors-net.ne.jp/~wine/map_html/map57.html
なお、下記のホームページは当ホームページとはいっさい関係ないため、このホームページの内容についてお問い合わせすることのないようにお願い致します。

総論
こういうと失礼ですが、「え、こんなところでメルロー!シャルドネ!?」と、衝撃を受けたことを覚えています。
どこをどう見ても観光葡萄園で、「蔵元直売」とは書いてあっても「どこかのワインを買ってお土産として売っているのだろう」ぐらいに考えていただけに、まさか本当に醸造所でしかもヨーロッパ品種を栽培しているとは想像だにできませんでした。

全国レベルを狙うという意気込みは、かけらもないとしか思えないのですが栽培と醸造はかなり真剣。勝沼町の「ぶどうの丘」にも置いておらず、販売にも熱心に見受けられないわりには、まともな品質のワインを生産しており、いい意味で不思議なワイナリーです。

醸造している甲州とベリーAは、昔ながらの造りを反映した、地酒色の強いワイン。
これに反して銘柄の「美輪くぼ」は、ヨーロッパ品種のみを使用した、本格ワインです。赤ワインでも樽を使用していないのですが、色が非常に濃く、かなりの濃縮感やしっかりとしたタンニンがあります。国産のヨーロッパ品種の低〜中価格帯のワインは「悪く言うと、薄い」印象を受けるものが少なくないだけに、驚きます。山梨県産のこの価格帯のワインとしては、もっともパワフルなものの一つではないかと思います。
さらにプチ・ヴェルドーの比率が、あまり見かけないほど高比率であったりと、とても面白いワインなので一度は飲んでみることをお奨めします。

意外なことに観光葡萄園とワイナリーを兼任している醸造所は勝沼には少なく(他は原茂園ぐらい)、その意味でも貴重なワイナリーです。ぶどう狩りに行った時にぶどうとワインの両方同時に楽しもうと考えている方には、まずおすすめです。
また、「地元の人が好きな昔ながらのワイン」をお求めになりたいはマルサン葡萄酒の甲州を買うといいでしょう。なにより、日本ワインのコアなファンであることを自認している人ならば、「知らないだろうけど、実は勝沼のマルサン葡萄酒では・・・」と自慢のタネにできるワイナリーなのでぜひ足を運んでみてください。きっと何か、驚き、注目することがあるでしょう。
工場内の様子。非常に昔ながらの醸造所といった雰囲気です。古い開放樽に歴史を感じます。
銘柄: 美味くぼ 赤 (無表記ですが2002年です)
生産元: マルサン葡萄酒
価格: 2000円
使用品種: メルロー(約65%)・プチ・ヴェルドー(約35%)
備考 自社畑産100%のワイン。樽は使われていません。
エキス分が多いのか、グラスにつくワインの涙が複雑です。色合いはプチ・ヴェルドーによるものなのか、はたまたグッドヴィンテージによるものなのか、深く暗い、暗紅色で驚かされます。香りはおとなしく、プルーン、ダークチェリー、インク香。
アタックはかなりしっかりとしており、重量感があります。複雑味にはかけるものの、味わいには凝縮感があり、日本ワインとしてはかなりしっかりしたタンニンが特徴的です。また、完熟によるアミノ酸に由来する甘さが感じられ、含み香には少しリンゴの香りが残ります。余韻はあまりありません。

日本ワインで、しかも樽を使っていないのにも関わらず、なかなかパワフルなワインです。料理に合わせるなら、少し油が多めの和食などと相性がいい気がします。

飲んだ日: 2004年12月26日
社名 (有)マルサン葡萄酒 / 美味くぼ
住所 山梨県甲州市勝沼町勝沼3111-1
電話番号 0553-44-0160
取寄せ 電話・FAX注文可 HP http://www11.plala.or.jp/wakaony/wain.html
自社畑あり ツアー等 訪問自由
テイスティング一部可(無料)
栽培品種 メルロー、シャルドネ、プチ・ヴェルドー、甲州、マスカットベリーA、アジロンダック 営業日 年中無休
★訪問日 2004年4月5日、2004年11月19日
備考:勝沼産葡萄のみ使用、観光ぶどう園「若尾果樹園」運営
銘柄: 若尾
生産元: マルサン葡萄酒
価格: 1200円
使用品種: 甲州
備考 色は淡く少し茶色がかった黄色。香りはおとなしめで、白い花を連想させる香りにミネラル香があります。
味はやや辛口程度、しっかりとしたアルコール感があり、少し甘さに人工的な雰囲気がある気がするので捕糖は多めかもしれません。
含み香にオレンジリキュールに似た柑橘系の香り、ミネラル感とまた軽い苦味があります。甲州としては旨味が多くでており、味わいのバランスはまあまあです。どちらかというと食中酒向きのお酒です。
洗練というよりは、もう少し地酒的な部分が多いのでくせの強い料理などにいいでしょう。
飲んだ日: 2004年8月12日
銘柄: 美味くぼ 赤 (無表記ですが2001年)
生産元: マルサン葡萄酒
価格: 3000円
使用品種: メルロー(約65%)・プチ・ヴェルドー(約35%)
備考 自社畑産100%のワイン。樽は使われていません。2001年のみブルゴーニュ型のなで肩の瓶で、これ以降のヴィンテージはすべてボルドー型。
色合いは2002と同様、深く暗い、暗紅色でわずかに透明感がある程度。香りは強く、カシス、ダークチェリー、山菜、アスパラガスのような香り。
アタックは強く、インパクトは充分。2001と比べるとまずまずの複雑味をもち、味わいには凝縮感があるところ、細やかなながらもしっかりとしたタンニンを感じるところは特筆もの。完熟によるアミノ酸に由来する甘さが感じられ、酸は穏やかなものの後味にふくらみとエレガントな喉越しをもち、飲んだ充実感が残ります。
含み香にはリンゴとブラックベリーと山菜っぽい香りがあり、余韻は短め。

2002同様パワフルなワインですがエレガントさもあり、気に入るかどうかは別にしても一度は飲んでも損ではありません。が、パワフルなために強い人でないと量が飲めないかもしれません。
飲んだ日: 2006年3月22日