ダイヤモンド酒造
〜醸造の力は偉大なり〜
外観

主要な道路から少し外れた場所にある、ステンレスタンクの群れ。これがダイヤモンド酒造の醸造タンクか、と思いきや”ワインビネガー”の文字が・・・?
実際の販売所はその向かい側で、見た目は普通の民家か事務所といった雰囲気です。
中に入るとあまり広くない接客用の部屋があり、棚には販売されているさまざまなワインが展示されています。壁にもところ狭しと自社ワインが並べられるという、なかなか個性的な陳列。
いかにも地元向けワインを売っているだけのようですが、実は急成長を遂げているワイナリーの一つなのです。
歴史
詳細は公式ホームページにあるのでそちらを参照して下さい。
もともとは組合が運営する酒造でしたが、現在は雨宮氏が株を全て取得し、以後は独自の経営を行っています。
社長である雨宮壮一郎氏は勝沼ワイナリークラブの初代会長でもあり、勝沼ワイナリークラブのボトルの製作などにも関わっています。勝沼ワイナリークラブのボトルには独自のマークが刻印されていますが、山梨、というよりは日本に初めて本格的ワイン醸造技術をもたらした土屋龍憲と高野正誠の二人をイメージした刻印なのだそうです。
現在、後継者である雨宮吉男氏がフランスのブルゴーニュで醸造・栽培を学び帰国し、従来とはかなり方向性が変わりつつあります。樽発酵の方法を変更してみたり、果汁凍結をすることで果汁の濃度をあげたりといった試みの成果は早くも商品に反映されてており、特に甲州やベリーAといった日本固有品種から、従来とは異なるスタイルのワインを造りだして注目を集めています。
ワイン雑誌、ワイン王国2005年春号(料理王国社)においても評者の一人が『雨宮吉男君は未完の大器。将来が楽しみ!』と記載しているなど、その醸造技術やワインへの姿勢は専門家の間でも高く評価されています。
栽培面でもピノ・ノワールなど新たなヨーロッパ品種の改植が進んでおり、こちらもおろそかにはしていません。
吉男氏自身はやがては自社畑で収穫された葡萄だけによるワインを販売していきたいと考えており、いずれはダイヤモンドから「ドメーヌ」を名乗れるようなワインが発売されるかもしれません。

他、変わったところではワインビネガーの生産も行っていますがこれも戦時中から作っているなど、なかなか歴史があります(この詳細も公式ホームページにあります)。このワインビネガーは、10数年前に帝国ホテル総料理長である村上信夫氏(※1)がその品質を認め、一筆したためたというもの。10年近く経って、雨宮吉男氏がある会合でたまたま村上信夫氏に会い、自分がダイヤモンド酒造の人間であることを告げると開口、「おたくのワインビネガーは素晴らしい!」と言ってくれたという話があるほどです。
ワインビネガーの生産にはデラウェアが優れた原料として活躍していますが、自社畑はもちろん周辺のデラウェアを集めても満足のいく生産量が確保できていません。特に赤のワインビネガー(ベリーAなどが原料)はまったく原料が足りず、毎年一定量を生産できないのが悩みの種です。

※1 ご存知ない方のために少し。1921年生まれで1940年に帝国ホテルに入社。1955年、フランスの名門ホテル、リッツなどで修行。帰国後、帝国ホテル料理長に就任。東京オリンピックの際に副料理長を務め、またいわゆる「バイキング」スタイルの形式を初めて日本に導入するなど、日本における西洋料理の発展に不朽の功績を残しました。
引退後も様々な形で料理人の育成に尽力しましたが、2005年8月に永眠。著書多数。
施設の概略
向かい側に醸造所などがあり、見学は要相談。
販売所でのワインの購入と試飲は、営業時間内であれば社員の方が対応を行ってくれます。
他、戸棚には勝沼ワイナリークラブのボトルの木の原型が飾ってあります。初代会長であったことから記念にもらったもので、勝沼にこれ一つしかないという貴重な品物です。

葡萄畑
自社畑ではカベルネ・ソーヴィニヨンやデラウェアなどを栽培しています。他にプティ・ヴェルドーやシラー(この品種にはかなり期待をかけています)、栽培は困難を極めることは承知でピノ・ノワールにも挑戦しています。
デラウェアはワイン・ワインビネガー用に栽培しており、もちろんジベレリン処理などは行わず全て種有りブドウを栽培しています。
自社畑で栽培していない甲州やマスカットベリーAなどは県内の農家や農協からの購入により原料を確保しています。甲州は主に下岩崎地区の甲州を使用しており、この地域の甲州の特徴は少し苦味が強くでるとのこと。そして、雨宮氏自身が「日本のガメイ」と考えているベリーAは穂坂地区で栽培されたものです。

栽培方針としては農薬の使用量の少ない畑作りを目指しています。後継者の吉男氏は葡萄の病害虫の造詣が深いため、その知識を活かしてさらに効率の良く安全な栽培の研究中です。
銘柄: The KOSHU
生産元: ダイヤモンド酒造
価格: 1700円
使用品種: 甲州
備考 色はうっすらとした麦藁色。香りは完熟した洋梨、デリシャスリンゴ、わずかに黄桃のような重くクリーミーなところもあります。
香りに違わず、濃縮感のある味わいで甲州としては旨味と酸味がよくでており、しっかりとした味わいです。酸は刺激的な感じではなく、まろやか。残糖は少なく、やや辛口程度の味わいです。
シュール=リーでないにも関わらず、かなりしっかりとした味のワイン。スキン・コンタクトを使用しているとは思われるのですが、苦味などの雑味の成分はありません。
ダイヤモンド酒造に行ったなら購入をお奨めしたい一本です。
飲んだ日: 2004年2月28日
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テイスティング
販売されているほとんどのワインを試飲することが可能です。銘柄とバリエーションの比率でいくとかなり甲州重視で赤ワインはあまり多くありません。
甲州は、通常の辛口、甘口、シュール・リー、醸し、樽熟成、とほとんど全ての醸造方法がでそろっている感があります(ないのは長期熟成くらい)。こういってしまうとダイヤモンド酒造の人に悪いかもしれませんが、試飲で平行テイスティングするとかなり明白に醸造方法による違いを感じ取ることができ、勉強になります。
甲州における方向性としては持ち味を生かすためにスキン・コンタクトを使用し、甲州由来の風味を強くだすことを主眼においています。

The KOSHU:勝沼ワイナリークラブの審査に合格した勝沼ボトルに入った甲州ワインで、詳細は管理人のワイン記録に譲ります。過熟したブドウの味わいを感じるワインです。私好みではありますが、洗練された繊細な味のものが好きな人にとっては少し個性的なワインかもしれません。1700円とやや高め。

デラドライ 2004:自社畑のデラウェアを使用したワインで、かなり意外性のあるワインです。この2004年は7月が旱魃といって差し支えない状態であったためか、香りと味わいがしっかりしているのに特徴があります。香りはグレープフルーツ主体で、少し大麦のような穀物香もあります。珍しい辛口のデラウェアですが、デラウェアのワインとしては屈指の骨格と味わいがあります。本格的白ワインとして充分に通用する品質で、デラウェアワインの傑作といっていいかもしれません。
値段は1200円でヴィンテージが複数あります。ただ、このワインはホームページに掲載されていないのであしからず。


シャンテY・A ますかっとベリーA 2004:御坂地区のマスカットベリーAを原料としたワインで、価格は1300円。新しいベリーA特有の甘さとミネラル、ミントを伴ったような香りがあり、口に含んでもその印象を裏切らないフルーティーなワインです。タンニンはベリーAのワインとしてはきちんとでていますが、どちらかというとライトボディに属するワインでしょう。いかんせん”PLUS”のインパクトがあるので私個人は印象が薄くなってしまいましたが、フルーティーでコストパフォーマンスに秀でたワインです。特にベリーAの甘くフルーティーな味わいを好む人は、"PLIS"よりこちらの方がよいかと思います。

シャンテY・A ますかっとベリーA PLUS 2004:詳細は管理人のワイン記録に記述。樽を使用する他、もろもろの醸造技術により、上記のベリーAと同じ地区の原料とは思えない、重厚なワイン。このワインを飲んだメルシャン技術陣すら醸造データの提供を吉男氏に要請したというほどで、ワインは原料だけでなく醸造も同様に重要であることを納得させる一品です。

タルカベカベルネ・ソーヴィニヨンは輸入ワインが使用されたブレンドワインです。普通に栽培した日本のカベルネのワインは骨格が弱く、飲んでも全然カベルネらしさがないために外国のワインをブレンドすることが多いのですが、ダイヤモンド酒造でもこれを行なっています。飲んだ第一印象はなかなか良かっただけに、純国産のカベルネ・ソーヴィニヨンのワインを作る難しさを暗に示されたような気がします。

黄金の甲州 2000:「醸し」を行った甲州ワインで1700円。色は無色透明が特徴の甲州とは思えないほど山吹色になっており、少し渋苦味があります。苦味も含めて酒質は甲州としてはなかなか濃く、ほうとうなどと一緒に食べるとよく合いそうな味です。なお、甲州はあまり醸してしまうと、色素がですぎて醤油をこぼしたような茶色になってしまうので綺麗な色の状態でワインにすることには苦心しているとのことです。

巨峰ヌーヴォー:ダイヤモンドでも人気銘柄で、1300円。色合いはピンクよりも少し赤みがかっており、スミレやラズベリー、狐臭のフルーティーな香りのワインです。甘口ながら味わいも巨峰のワインとしてはしっかりとしており、おすすめ。

「勝沼クラブ赤」「シャンテワイン赤」などが赤ワインの銘柄ですが、どちらもカベルネ・ソーヴィニヨンとマスカットベリーAのブレンドワインとなります(シャンテワインはさらにベリーアリカントAのブレンド)。

2004年以降、従来のものとスタイルが変わってきましたが総合的にみると、ダイヤモンド酒造のワインは全体に香りや味わいが明確かつ、印象に残るものが多い傾向があります。特筆するほど優れた原料葡萄の仕入れ先を聞かないにもかかわらず、かなりのレベルのワインを生産しているのはさすがです。

これとは別に、ワインビネガーも3種類販売されています。
このうち一つは、「味が濃すぎる」というお客さんの要望により果汁で薄めたもので、単にテイスティングするだけならともかく本格的に料理に使用するには少し物足りない味わいです。
他の二つは赤・白の2種類のワインビネガーで、白の主な原料はデラウェアです。デラウェアが原料と聞くとお土産ワインのイメージと重なる方も多いと思いますが、ワインの場合と異なり、ビネガーはデラウェアが原料として優れているそうです。
かなり濃縮感のあるビネガーなので料理に使用するときには分量をレシピより少なめに調整したほうがいいかもしれません。マリネやサラダに使用してみましたが香りと味わいが市販品よりも鮮烈です。添加物は使用されていません。
ビネガーもテイスティングできますが、気をつけないとむせます(^^)。

向かいにあるワインビネガー工場。本店よりもこちらのほうが目立つのですぐわかります。
購入方法 
ワイナリーの販売所から直接購入、ホームページからの注文を受付けています。他、山梨県内にも流通しています。
※当ページで紹介したワインやワインビネガーを含め、ホームページに記載がない銘柄が複数あります。直接、ワイナリーの方にうかがった方がいいかもしれません。

ワイナリーアクセス
・勝沼ぶどう卿駅からから車で10分
公式ホームページに詳細な地図が載っているのでそちらを参照してください。

総論
地酒的なワイナリーだったのですが、2004年ヴィンテージ以降から明らかに品質に変化があります。甲州やベリーAに重きを置いてるのは一緒なのですが、従来の素朴なスタイルから重厚感や華やかさのある銘柄が増えているのです。テイスティングの項でも書きましたが、この中でも「ますかっとベリーA PLUS」は特筆もののワインで、今後のベリーAのワインに一石を投じるほどのパクトを持っています。また、甲州でも2004年度の山梨県内コンクール「甲斐VIN」において部門1位を獲得しており、こちらも将来が期待されます。
全体を俯瞰すると、規模のわりには銘柄がかなり多く、とりわけ甲州の銘柄の数はトップクラスで、同じ甲州でもそれぞれにかなり違いのある商品を造っています。
残念ながらヨーロッパ品種はまだ植え始めたものが多く、その成果が現れるにはもう少し時間がかかるようです。

このダイヤモンド酒造の次期当主である雨宮吉男氏の話を聞くと、よく言われる「ワインは原料が9割」、葡萄のポテンシャルをいかに引き出すかが重要、といったこととは少し異なる考えをもっているように感じます。もちろん原料の質は重視しているのですが、ワイン愛好家が評価を低くする要素の一つである、補糖・補酸、果汁濃縮などの技術の使用にはためらいがなく、それらを使ってワインの完成度を高めることに肯定的です。同じくブルゴーニュで修行した小布施酒造の曽我氏はどちらかというと原料の個性をそのまま引き出すことに力を注いでいることを考えると、興味深い違いです。
こういったことは方向性の違いなので賛否を問うこと自体が愚かしいことであると思いますし、少なくとも吉男氏による温度管理やもろもろの技術によりダイヤモンド酒造のワインのレベルが向上していることは確かです。そして醸造技術が栽培と同様にいかにワインにとって重要かということを語ってくれるワインを生産していることもまた間違いないでしょう。

批判をいうとすると、なかなかユニークなワイン作りを行っているだけにツアーがないのが残念。多種類の醸造方法を使っているのですからその工程などを、実際の機具を見ながらの説明するタイプのツアーがあればより良い気がします。ワインビネガーの醸造過程などに興味がある人もいると思われるだけに余裕があれば簡易でもツアーを行なってほしいところ。
ともあれ、急速に品質が向上しているワイナリーの一つとして、日本ワインファンにとって要チェックのワイナリーの一つです。

最後に蛇足ながらワインビネガーは、市販のものとは異なる個性があり(もちろんいい意味で)料理が好きな方などは一度は買ってみることをお奨めします。量産品のビネガーより少し高めですが値段に見合うだけの品質です

勝沼ボトルの原型(木製)です。大変貴重な品。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
社名 (株)ダイヤモンド酒造
住所 山梨県東山梨郡勝沼町下岩崎880
電話番号 0553-44-0129
取寄せ オンラインショッピング有り HP http://www.jade.dti.ne.jp/~chanter/
自社畑あり 契約栽培畑あり ツアー等 訪問自由
テイスティング可(無料)
栽培品種 甲州、デラウェア、カベルネ・ソーヴィニヨン、他 営業日 年中無休(不定休)
営業時間:9:00〜17:00
★訪問日 2003年12月29日、2005年7月27日
備考:ワイン・ビネガー生産
銘柄: デラドライ 2001
生産元: ダイヤモンド酒造
価格: 1200円
使用品種: デラウェア(自社畑産100%使用)
備考 色はうっすらとした黄色。穏やかなグレープフルーツと、わずかに埃のような重さのある香り。
飲むとデラウェア特有の狐臭が少し香り、味は爽やかですが強い酸味があります。炭酸が入っているわけではないのですが、口の中に微発泡したワインを飲んだ時のような刺激があるほどにしっかりとした酸味です。適度な苦味により全体の味も引き締まっています。
余韻には飲んだ時と同じかすかな甘い香りが残りますが、名前に偽りなく甘い味わいはほとんどありません。
普通、ラブレスカのワインは3年も経って飲めるようなものは少ないのですが自社畑できちんと作ればこれだけのものが作れるという好例です。香りは穏やで食中酒向きですが、何よりデラウェアワインに対して「甘いだけのまずいワイン」というイメージを持っている方は認識を改めるために飲むことをお奨めします。
飲んだ日: 2004年4月1日
銘柄: シャンテY・A ますかっと ベリーA PLUS
生産元: ダイヤモンド酒造
価格: 1800円
使用品種: マスカットベリーA(穂坂地区産100%使用)
備考 グラスに注ぐと、まずマスカットベリーAのワインにあるまじき濃厚な深紅色に驚かされます。若干にごっていますが、これは濾過が少ないことによります。
香りは樽に由来するヴァニラ、ロースト香がまず印象に残りますが、そのあとからスミレ、ブラックベリーの香りもよく出ています。
アタックはやさしめですが、コクとなめらかなタンニンをもつ、少なくともミディアムボディを名乗るのに充分な重厚感のあるワインとなっています。含み香は確かにベリーA特有の甘いベリー系の香りはあることはあるのですが、花の香り新樽の香りなどとうまく統合されていて、ブラインドで飲むとベリーであることを外す人は多数いる(多分、私では当てられません)でしょう。かなり完成度の高いワインで、海外の赤ワイン好きな人でも納得させるだけの力があります。

私見では、色彩や高級感において岩の原葡萄園の「深雪花」に勝るとも劣らない一品と思います。少なくとも日本でも屈指のベリーAワインなので、見つけたら即買い。ただし生産本数が少ないのでお早めに。
飲んだ日: 2005年8月5日