麻屋葡萄酒
〜低価格個性派の本格ワイン後発組〜
外観

勝沼町の等々力の交差点にいくと、「アサヤワイナリー」と大きな緑の白抜きの看板。
さっそく入ると、どこが駐車場か作業スペースかわからない広い空間と、そこに隣接する倉庫とおぼしき建物が2棟。相当大きなワイナリーを予感させます。
が、こう思うかもしれません。

「・・・ワイナリーはどこ?」

よーくあたりを見ると、どうやら事務所らしき建物と、奥の瓶詰め用の施設に気付くでしょう。
この瓶詰め施設の二階に行けば、カウンターつきの広く立派な木彫のテイスティングルームに辿りつく事ができます。
歴史

麻屋葡萄酒株式会社は大正10年創業以来代々ワイン造りを営んできた老舗。

年間の生産本数は約10万本で、原料はほとんどを山梨県内の契約栽培で確保しています。酒販店を営んでいることもあって(現在も総利益の多くは酒販店のもの)地元消費用に一升瓶ワインを主体に生産を行っていました。しかし、ワイナリーの4代目当主である雨宮一樹氏がシャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンといった品種に力を入れており、銘柄も720mlのものが多くなっています。他にワインヴィネガーの生産を行っており、これは勝沼町ではかなりの生産量。

※蒸留免許を持っており以前はブランデーも生産していましたがこちらは休止中。

現在の目標としては2010年までには山梨県産100%のワイン造りを行うこと。また、このワイナリーの特色として甲斐ノワールや山ソーヴィニヨンなどの国内改良品種を数多く取り扱っていますが、これらの葡萄によるワインの品質をさらに向上させるべく契約農家と共に切磋琢磨しています。
消費者にとってありがたいことにコストパフォーマンスの良いワインを造ることもその目標に入っており、他のワイナリーと比べ全体に価格が安いというのもこのワイナリーの特徴といえるでしょう。
施設の概略
施設は醸造設備とセラーを見学可能。
歴史のあるワイナリーということもあって新旧様々な設備が見学できるので、あらかじめ連絡をして醸造設備を見学させてもらうことをおすすめします。

瓶詰めの作業場は、酢の製造や酒販も含めて生産規模が大きいので山積みになった資材をみれば説明がなくてもわかります。
醸造設備は、主体であるホーローとステンレスタンク、そしてフレンチオークとまさに新旧様々のものが入り混じる内容。古いタンクは30〜40年も使われているそうです。
なにより必見なのは地下セラー。厳密にいうと半地下の貯蔵庫で、ほとんどのワインが一升瓶で貯蔵されていますが、各ワインの区画がコンクリートのブロックで区分けされた珍しいもの。こういうつくりの貯蔵施設は少なく、見学できるなかでは私は他に九州の巨峰ワインを知っているのみです。
また倉庫内の貯蔵されたワインのヴィンテージも物凄く、1980年代の甲州がけっこう大量に保存されていました。テイスティングの項でも書きますがこのようなヴィンテージのワインが、あまり通常の一升瓶と変わらない価格で販売されている理由の一端はこういった在庫の量に下支えされているのは間違いないでしょう。

これら醸造設備は何からなにまで全てテイスティングルームの一階と地下に集約されています。正確にはその上にテイスティングルームを造ったのでこのような形になったのです。
実際、テイスティングルームの奥にはタンクなどを上から覗けるのぞき窓のような部分がありますが、これも実際は下のタンクへの醸造作業をするために開けてあった穴を見学用に改装したもの。タンクの見学でガラス張りの部分を横から眺めるものが一般的で上から眺めるものはほとんどなく、私も珍しいとは思いましたが、話を聞いて合点がいきました。

蛇足ながらワイン・ヴィネガーの醸造設備は本社より離れたところにあります。興味がある方はアサヤワイナリーまで問い合わせを。


葡萄畑
あちこちに畑があるようですが、ちょうどワイナリーの隣地に甲州の畑があるのでそこがもっとも見学に行きやすいでしょう。

畑自体は一般的な棚栽培で仕立てられており、素人目には特筆して書けることがありませんでしたが、自社畑で甲州を栽培しているワイナリーは少数派であることに考えが及ぶと、珍しい畑であることがわかります。
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外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
テイスティング
外観でも書いたように立派なテイスティングルームがあります。なんとこのテイスティングルームは先代のオーナーが自分で一から作ってしまったというのですから驚き!
観光客を意識してのグレープオイルや飲用のワインヴィネガーの販売など、大変にアイテム数が多くどれを飲むのか目移りしますので、じっくり考える余裕をもってワインを味わうのがよいでしょう。

生き生き山梨:価格は1000円。麻屋葡萄酒を代表する銘柄の一つで葡萄の丘でも販売されています。香りはおとなしめですが、洋梨、火入れしたとおぼしき沢庵やぬかのような香りもわずかにあります。いざ飲むと香りの印象よりクリーンなワインで、糖度を残していることもあり厚みがある内容。インパクトはないものの食中酒として幅広く楽しめる、コストパフォーマンスの良い銘柄です。

勝沼甲州 樽貯蔵 2002:
価格は1300円。樽熟成の甲州としてはおそらくもっとも安い価格帯に属します。樽熟成とはありますがそこまで樽香主体ではなく、熟成もあって甲州由来の香りもあまり強くないおとなしいワイン。辛口の銘柄ですが明らかに糖分とは異なる完熟した葡萄の厚みとほどよい酸があります。目立ったところはないですが大変にバランスがよくおすすめ銘柄の一つです。

勝沼甲州樽発酵 2003:
価格は1800円。ほどよい樽の香り、わずかに洋梨の香りがしますがあまり甲州の香りは強くはありません。麻屋のワインとしては大変にドライで軽快な印象。酸も強く飲み応えがあります。

勝沼甲州 やや甘口 2003:
価格は1800円。上記の樽発酵の糖度を残したスタイル、というとわかりやすいでしょう。しかし、やや甘口〜中口といった雰囲気でさほど「甘い」と感じることはありません。上を選ぶかは好みでしょうがこれも悪くないワインです。

勝沼辛口:
価格は一升瓶で1800円。地元で一番人気という銘柄で、古酒の甲州を混ぜておりヴィンテージ非表記も合点がいきます・非常にドライに仕上げており、古酒特有の干しエビやしたけ、べっこう飴のよう。どことなくアモンティリャードのようなドライシェリーを彷彿とさせる香りが印象的。

甲斐ブラン:
価格は1600円。国内改良品種である甲斐ブランのワイン。香りはあまり特徴的なものはなく、強いていうとムスクや若いメロンといったところでしょうか。大変に酸が強く油断して飲むと驚かされますが、含み香などはあまりなく後味にはかなり強い苦味が残ります。

麻屋シャルドネ 2002:
価格は1800円。勝沼町と山梨市で収穫されたシャルドネが原料です。ニューサマーのような柑橘類、クリームやヴァニラ香。糖分を切っておりドライですが味わいはけしてさっぱりというほどでなく、ほどほどのコクを持っています。余韻は樽の香りが主体で、上立香、含み香ともに品種の香りは総じて控えめです。

甲州 新酒 2005:
価格900円。・・・いかに新酒とはいえ1000円を切る価格にまず驚きます。洋梨、白い花、少し青リンゴといったフルーツ香主体で、味わいもクリーンで軽く「新酒」というイメージを裏切らない内容。

甲斐路 新酒 2005:価格1100円。生食葡萄の人気品種である甲斐路を原料としたワイン。生食用としては中〜高価格帯に属する品種で酸が少なく親がネオマスカットであることもありマスカット香の明瞭な品種でもあります。ワインの方もまさにマスカットが前面にでており、そこにヨーグルトやクリームといった香りが加わります。糖度は中口程度に残っており、含み香もフレッシュで酸もあり全体にバランスがよい銘柄です。このスタイルが好き、またはワインをそこまで飲まない人にお土産に買うならおすすめの銘柄でしょう。
この銘柄に限らず麻屋の新酒シリーズは全体に価格が安く、個性が面白い銘柄も多いので買って損はない思えます。

ベリーアリカント 新酒 2005:価格は1100円。川上品種であるベリーアリカントA100%の珍しいワインで、さすが色づけ品種だけあり真っ黒といっていい色素の濃さです。赤ワインの新酒の特徴であるインクや小豆のほか、山いもやピーマン、口紅のような香りもあります。色に反して渋みやタンニンはほとんどなく、糖度はないわりには味わいはかなり濃縮感がありますが非常にシンプルです。華やかな果実香はあまりなく、上記のような香りが主体に感じられます。
なおこのワイン、色素が濃すぎて服やタオルにつくと洗っても青く残ってしまうそうなのでご注意を。

酔仙 1986:一升瓶のみの銘柄で価格は・・・確か1800円ぐらい(すいません忘れました)で安いことは確かです。この文章を見ている方は改めてヴィンテージを見て頂けば、このワインの値段が無茶苦茶な低価格であることはわかるでしょう。色はそこまで薄茶色といった感じで思ったより退色しておらず、香りはべっこう飴や黒糖といった古酒の白ワイン特有のもの。やや甘口で熟成によりコクもでていますが、ヴィンテージの成果によるものかまとまりの良いワインです。少しフレッシュさがあるので糖分と亜硫酸添加量により過度の熟成が抑えられているのではないかと推測しています。なにはともあれ古酒の甲州を安く飲んでみたいという方は絶対に買い!


他、海外ワインとのブレンド銘柄として甲斐路(一升瓶→1800円、720ml→1000円)、同じくブレンドの銘柄であるシャトーピノー(赤・白)、ワイナリーの方が「むちゃくちゃ甘い」と評する甘味果実酒(一升瓶→2000円、720ml→1000円)とかなり多用な商品を扱っています。
麻屋のワインは全体傾向としては香りはあまり目立ったところがありませんが、特に甲州は糖度を残しボリュームを厚くした銘柄が多いように感じます。また、国内改良品種をかなりの種類手がけており、この面では他のワイナリーの追随を許しません。
購入方法 
ワイナリーでの販売、もちろん隣の麻屋の酒販店でも販売されています。

ワイナリーアクセス
公式ホームページに地図が掲載されていますので、そちらをご参照ください。

総論
規模としてはけして小さいワイナリーではないのですが、いま一歩注目度が低い印象があったワイナリーでした。ひどいことに私は向かいの中央葡萄酒には5回以上は行っているのに麻屋葡萄酒には一度も行かなかったという、日本ワインファンとして反省しなければいけない経歴をもっています。今回やっと記事を書きましたが、遅すぎたという他ありません。


さてこの麻屋葡萄酒なのですが総括すると、世界レベルに手が届かんとしている名醸造所と比較すればヨーロッパ品種や甲州のワインは内容的にはまだ一歩遅れをとっているように思えます。しかし、雨宮一樹氏は葡萄のポテンシャルを最大限に発揮させるために契約農家との連携を強めるなどして品質の向上に努めているので近年かなり変化がるといわれているので、今後が楽しみ。
また『コンクールで入賞or海外ワインの愛好家に評価が高い』スタイルのワインでなければ、現状でもかなり個性的なワインを販売しているので行けば面白い醸造所の一つです。甲州の古酒として値段面で破格の「酔仙」を筆頭に山ソーヴィニヨン、甲斐ブラン、ベリーアリカントAなどの国内改良品種で数多くのユニークなワインが発売されており日本ワインファンなら食指が動くこと間違いなし。
個人的におすすめは、ここの代表銘柄である「生き生き山梨」、「勝沼甲州樽貯蔵」(これはコストパフォーマンス良好)、原産地認証甲州、ヨーロッパ品種では「麻屋シャルドネ」。全体に低価格なので気に入った銘柄を買いやすいというのも好印象です。

訪問の目安は一概にはいえませんが、基本的に甘口〜辛口できちんとしたワインがそろっており試飲もできるのであまりワイナリーに行きなれていない人とでも楽しめるのではないでしょうか。また、前述の理由により日本ワインファンで国内改良品種に興味がある人はまとめて試飲・購入できるありがたいワイナリーなのでこういった方ならぜひいきましょう。

麻屋葡萄酒はまだまだ進化の余地があるワイナリーですが、甲斐ノワール、山ソーヴィニヨンといった国内改良品種を大事にしている点は評価されてよいのではないでしょうか。
個性的な品種に挑戦する貴重なワイナリーがもっと世の中で認められ、日本ワインの裾野が広がっていくことを期待すること切です。
ワイナリーの向かいにある甲州畑。特に麻屋葡萄酒の畑であることを示すものはないのですが、ワイナリーの窓から直下に見える部分がこの自社畑です。
銘柄: 原産地認証 L'ESPOIR(エスポエール) 甲州 2002
生産元: 麻屋葡萄酒
価格: 1800円
使用品種: 甲州
備考 糖度18度以上の甲州で造ったワインで勝沼の原産地認証ボトルに入っています。
淡いレモンイエロー。香りには、おとなしめな洋梨、梅、たるのヴァニラ香。
口に含むとわりにアタックが強く、糖度が残っていることもありボリューム感があります。含み香は樽の香り主体で、その後に洋梨などの果実香が隠れている感じ。
後味にはかなり強い酸が残りますがヴィンテージとボリュームを考えるとちょっと不自然な感じも残るので補酸が多いのかもしれません。またごくわずかながら樽由来とおぼしきタンニンの渋さを感じます。
余韻は果実香はなく、樽の柔らかい香りが主体となります。

すでに販売されていないヴィンテージのワインですが、麻屋葡萄酒のスタッフが「葡萄がいいと、ワインも違う」とおっしゃていたようになかなかの内容なので別ヴィンテージでもこのシリーズがあれば買ってもよいのではないでしょうか。

飲んだ日: 2006年4月29日
銘柄: 生き生き山梨
生産元: 麻屋葡萄酒
価格: 1000円
使用品種: 甲州
備考 色はほとんどなく、香りは最初に米酢のようですがだんだんと洋ナシやミネラルといった香りが開いていきます。含み香は果実味主体、少し白砂糖のような感じも。中口ぐらいに糖度を残していることもあり、アタックは強くボリュームがあります。味わいは複雑ではなくシンプルですが、糖度が高めということもあって価格に比して飲み応えはあります。酸はさほど強くないですが後味にはあまり甘さは残らず、余韻はほとんどありません。
また糖度の感じから補糖が多いかもしれないという印象は受けました。

価格も安く味も中口、香りもよくでているので自分用だけでなくワインを飲み慣れていない知人へのお土産として購入する使い道なども検討して良い銘柄です。
飲んだ日: 2006年5月6日
社名 麻屋葡萄酒(株)
住所 山梨県甲州市勝沼町等々力166
電話番号 0553-44-1022
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.wine.or.jp/asaya/
自社畑あり、契約栽培畑あり ツアー等 工場見学可
テイスティング可(無料)
栽培品種 甲州、シャルドネ、甲斐ブラン、甲斐ノワール、
ベリーアリカントA、カベルネ・ソーヴィニヨン、他
営業日 日曜・祝日休業
営業時間: 8:30〜17:00
★  2004年3月10日、2004年10月25日、2006年4月12日
備考:ワインヴィネガー醸造、酒販小売店を営業
ずらりと瓶が並んだセラー内部。かなり古いヴィンテージの一升瓶も大量に保管されています。
ワイナリーの内装。ずらりと並べられた一升瓶が地元主体のワインを造っていることを物語ります。ただ新酒の時期だけはここも新酒が置かれます。
細り路地に面しているこちら側がテイスティングルームの表玄関。酒販店側からワイナリーに向かうとこちらに出ます。