機山洋酒工業
〜目標、最高のデイリーワイン!〜
外観

塩山市から牧丘町に行く道路の途中、恵林寺の近くに小さく上品な洋風の建物があります。”洋酒工業”などといういかめしい名前は、ともするともう少し大規模な醸造施設や機械的な雰囲気を感じさせますが、まったく正反対。
中に入ると、思ったより広いテイスティングルームには炭火を使うストーブがあり、カウンターにはグラスやワインが整然と並べられています。冬にいくとこのストーブに赤々と火がともり、ヨーロッパか昭和初期の洋風の屋敷に来た気分になります。

しかし、そんなクラシックで落ち着いた雰囲気をもつ機山洋酒工業から、大手を含めた山梨のワイナリーのなかでも、高い評価を得るワインが醸造されているのです。
歴史

公式ホームページに現在の運営方針等についての記載があるのでそちらも参照して下さい。元々は工業用アルコールとブランデー(こちらは現在も生産中)を生産していた会社だったそうですが、現在はもちろんワイン主体の会社です。社名はブランデーの「洋酒」と工業アルコールを作っていたことから「工業」、それに近くの恵林寺が武田信玄と縁が深いことから、その戒名である「機山」をとってつけたものだそうです。

会社は現在3代目となる代表の土屋 幸三氏と土屋 由香里氏のご夫婦だけによって運営が行なわれており、規模でいくとかなりミニ・ワイナリーとなります。ワインは年間約3万本を生産し、さらに瓶内2次発酵による本格的なスパークリングワインやブランデーまで生産しています。だいたい3万本という数値は独立採算のとれるギリギリの数値といわれていますから、さほど余裕がない中で品質良好なワインを醸造し続ける努力は並大抵のものではないはずです。使用する葡萄も契約栽培の地元農家と自社畑産のみと、原料にもこだわっています。
機山のワインは全体に銘柄の種類が少なく(甲州ワインが1銘柄しかないのは山梨で極めて珍しい)、値段も一部の特殊な商品を除き2000円以内に抑えられています。この理由は、「自分たちが買えない値段のワインは作らない」を経営哲学としてもっていることによります。時には利益率を下げてまで値段に配慮することもあるそうです。逆にそこまで努力しているのに、自社ワインを取り扱う飲食店が卸値の3倍以上の値段でワインを提供することには強い反発があるそうです。

このように安くて良いワインを提供する信念をもち、そのために切磋琢磨する姿勢は、機山洋酒工業が高く評価されていることを頷かせるものです。
施設の概略
敷地内には醸造施設や樽貯蔵を行なっているセラー等がありますが、忙しい時には見学できないと考えたほうがよいでしょう。
たまたま手が空いていれば醸造施設やセラーの見学も行ってくれます。

醸造は現在は主流から外れつつある、バスラン型圧搾機が使われ発酵タンクもホーロータンクと今をときめくワイナリーとしてはやや旧型に属する醸造設備です。やはりワインと醸造設備の充実は必ずしもイコールではないという一例の設備といえます。

テイスティングルームでは無料でワインとブランデーのテイスティングが可能。


葡萄畑
自社畑は約1.1ヘクタール。醸造施設よりも少し離れたところにありますが、充分に歩いていける距離です。
甲州やカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネを栽培しています。ヨーロッパ品種はレインカットを使用した垣根栽培です。
ヨーロッパ品種(特に機山ではシャルドネ)は病気にかかりやすいという問題があることから、栽培は「クリーンな畑」を目標としているそうです。ここでいうクリーンとはもちろん農薬の使用制限なども含んでいますが、それだけでなく病害虫が少ない畑という意味でもあります。このために畑の風通しをよくして病気の予防などを行い、健全果の育成に努めています。

自社畑は垣根栽培が主体ですが必ずしもヨーロッパ品種=垣根栽培がもっとも優れているわけではないという持論をもとに、契約栽培農家の棚栽培によるヨーロッパ品種の育成研究にも力を入れています。実際、契約農家にとっては慣れ親しんだ棚栽培の方が受け入れやすいのは確かでしょうし、湿気が多い日本では一概に垣根栽培がよいとはいえないでしょう。
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外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
テイスティング
カウンターにいる社員の方に販売されているワインを試飲することが可能です。
カウンターやホームページに各ワインの非常に詳細なテイスティングの記述があるため、あまり私からは香りや味等について書くことがないのです。従って簡潔な感想を書くにとどめます。銘柄は全部で白2銘柄、赤3銘柄、他にスパークリングワインとブランデー2種類と厳選されています。
また、良年に限りキザンアートラベルという限定ワインが発売されますが、これは発売本数が少なく通年商品でもないので、タイミングを外すと入手は困難です。

キザンワイン 白 2001:甲州ワインですが澱に漬ける期間が短いのでシュール・リーではありません。機山で一番低価格の白ワインで、爽やかな果実香と繊細で透明感のある味わいながら、しっかりと厚みもあります。甲州でよくでる苦味がまったくといっていいほどないのも特徴といえるでしょう。1200円と安い価格で販売されています。ちなみに、このワインは一升瓶だと1700円と、低価格で販売されています。一升瓶はヴィンテージがなく、悪く言うと「余りもの」を入れているので720mlと比べると総合的なバランスで劣ります。ただそれでもかなりおいしいので量を飲む人や、大勢で飲む予定がある人は一升瓶も選択肢に入れてよいでしょう。

キザンワイン 赤 2000:ブラッククイーン100%のワイン。ブラッククイーンのワインを飲んだ方の中には、”刺激的な酸味が強い”のイメージがある人もおられるとは思いますが、かなり柔らかな酸味をもち刺激的な感じはありません。表記はありませんが、実はこれは樽熟成ワインで、樽の保存と新樽からの強すぎる樽香をとるために樽に入れられているのです。このときにマロラクティック発酵(用語辞典参照)が起こり柔らかな酸味のワインとなっているようです。同じく1200円です。白と同じく一升瓶は1700円で、720mlと比べるとややバランスに欠けます。

キザンセレクションシャルドネ 2002:樽熟成のシャルドネとセミヨン。パイナップル香りがよくでているだけでなく酸味の切れがよく、食事と楽しむのに良いワインです。特に2002年は当たり年といっていい内容!値段は1500円とこのクラスのワインとしては破格の値段です。

キザンセレクションカベルネソービニオン/メルロー2000 :メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンのワイン。個人的な感想としては同価格のフランスのボルドーのサンテミリオン地区のものに近い果実味の豊さ、バランスの良い優しくふくよかな口当たりでした。カベルネの比率が50%を超えているので買って熟成させるのも良いと思います。

ファミリーリザーブ 2000:メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ブラッククイーンのワイン。非常にバランスがよく、機山のブレンドの技術の高さを思いしりました。元はワイナリー限定販売で訪問した人々だけに販売していたところ、好評なので一般販売することにしたという経緯があるのも頷けます。
この銘柄は、お蔵事情や葡萄の質により毎年ブレンド比率が異なるため、年ごとに味わいの変化が激しいとのことです。毎年買ってその違いを味わうのもありかもしれません。

マール・ド・キザン(ブランデー):ワインではありませんが、試飲したので一応コメントを。値段は320mlで1000円で、醸造方法等に関しては公式ホームページに非常に詳しい解説が載っているのでふれません。使用している原料はブラッククイーンのワインの”絞り粕”にあたる部分です(フランスのマールと一緒)。樽熟成を行なっていないため無色透明、少し刺激的でフルーティーな芳香が特徴です。値段はホワイトブランデーとしては異常といっていいほどに格安です。

※他、スパークリンワインは甲州を使用し瓶内二次発酵により製造した本格的なものですが、入手困難です。

総合的にみて品質とのコストパフォーマンスという面で、海外ワインと対決可能か、あと一歩のところというレベルに達しています。ヨーロッパ品種を使用したワインのコストパフォーマンスは抜群で、シャルドネを使用した白ワインなどは日本ワインの基準でいくともう1000円高くてもおかしくありません。
唯一、甲州だけは山梨県には強力なライバルが多数いるため抜きん出てコストパフォーマンスがいいという感じはありませんが、それでも甲州ワインではかなり上位の品質です。
リリースするワインは、ありがたいことに飲み頃まで瓶熟成してあるので「買ったはいいが若すぎた」といった心配は無用です。

機山のワインは品質以外にも一つ特徴があります。一升瓶ワインを除くほぼ全銘柄にヴィンテージが記載されているのです。
海外のワインを多く飲む方は「当たり前」と思うでしょうが、日本では中〜高価格のワイン以外でヴィンテージ記載を行なっているワイナリーはまれです(全銘柄に無いワイナリーもあります)。それが一番低価格のワインですらしっかり入っています。
ヴィンテージの有無に関しては各ワイナリーごとのこだわりもあるのでしょうが、少なくとも記載があるおかげで年ごとのワインの違いを感じることができるのは確かです。

購入方法 
ワイナリーの販売所から直接購入、ホームページからの注文を受付けています。他、山梨県内にも一部で流通しているようですが、生産量が少ないので直接買わないと入手困難かもしれません。(現在、人気急上昇によりオンラインショッピングは停止しています)

蛇足ですが、機山のホームページは物凄い情報量のページです。用語辞典からブドウの種類、ワイン醸造工程の詳細、ブランデーの蒸留方法・・・etc. と、あらん限りの情報がつめこまれています。さらに日本ワイナリーのホームページで数少なく、英語でも書かれているページです。必見。
このホームページに強いて文句をいうとすれば(というかほとんどいちゃもんですが)、ワインのテイスティングの記載が一般の愛好家の視点からみると「詳しすぎる」ような気がすることでしょうか。まあ、単に私のレベルが低いだけともいえるのですが(^_^;

ワイナリーアクセス

公式ホームページに詳細な地図が載っているのでそちらを参照してください。

総論
あるとき、丸藤葡萄酒工業の大村春夫専務から「中の上の品質のワインだけを作っているようではよくない」と言われたことがあるそうです。確かに機山のワインは低〜中価格帯のものばかりで、有力ワイナリーの中では例外的にフラグシップにあたる高価格のワイン作りを行なっていません。しかし、2000円以内という制限の中で本当に良いものを造り続けていることは、我々ふところの寒い消費者にとってはありがたい限りです(丸藤も同価格帯のワインで勝るとも劣らないワインを造っていますので誤解のないように)。
ワインとは日常飲むものである、という観点からみると機山洋酒工業はそこにもっとも力を入れているワイナリーの一つといえるでしょう。

今後も「中の上」で最高のワインを目指し、がんばれ機山洋酒工業!

(本文 は当ページの常連である"Y/N"様よりご協力頂いております)
銘柄: カベルネ・ソーヴィニヨン/メルロー 2001
生産元: 機山洋酒工業
価格: 1800円
使用品種: カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー
備考 色は薄めのガーネット。香りは樽のロースト香が強くでているほか、わずかに干しプラムや大豆のような香りを感じました。すでに果実香ではなく、熟成香が主体となっています。
アタックは優しく、舌には熟成による旨味と甘味が広がります。含み香にはブラックベリー系の香りを感じ、味わいにはしっかりとした収斂味もあるなど、アタックの優しさや全体の繊細さの割には骨太な印象。余韻には樽のほのかな香りが漂います。
抜栓すぐよりは少し置いたほうが香りや味わいがより強くでてきていたようなので、飲む少し前にコルクを抜いておいたほうがよいかもしれません。

一定レベルの高級感がありながら飲みあきしない優しい味で、同社のファミリーリザーブと比べると果実味などの点ではインパクト不足なもののバランスがとても良く、値段以上の価値は充分あります。
飲んだ日: 2005年2月11日
社名 機山洋酒工業(株) / キザンワイン
住所 山梨県 塩山市三日市場3313
電話番号 0553-33-3024
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.kizan.co.jp/
自社畑あり 契約栽培畑あり ツアー等 訪問自由
テイスティング可(無料)
栽培品種 甲州、シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ブラッククイーン、他 営業日 年中無休
営業時間:9:00〜17:00
★訪問日 2003年12月29日、2004年10月5日
備考:山梨産葡萄のみ使用、スパークリングワイン生産、ブランデー生産
ワインは全銘柄試飲可能です。グラスの形状もテイスティングするのに申し分ありません。
醸造所の一枚。空気圧式が主流のなかでは少数派になりつつ圧搾機です。