五味葡萄酒
〜知名度↓ 内容↑〜
外観

五味葡萄酒は塩山市から牧丘町に行く道路の途中、恵林寺と放光寺の間に挟まれるような地点に建つ小さな醸造所。大通りからは中に入っている立地、小さな駐車スペース、砂利が敷かれ愛想のいい犬がいる庭、そこに隣接しているかわいい販売所、まさに家族経営のブティックワイナリーといった印象を受けます。こじんまりとした販売所には、来客用のテーブルが一脚とカウンターと商品が並べられたガラスケース。一升瓶ワインの種類がやや多めなこと以外はインパクトを与えるような光景ではありません。
あまりメディア露出がないこともあって、よく知られていない五味葡萄酒とはどんなワイナリーか?外観では分からない部分にスポットを当ててみます。
歴史

五味葡萄酒は当主である五味一彦氏の祖父の代に1953年に設立された会社で、五味果汁工業という葡萄果汁を加工する会社でした。やがてジュースばかりでなくワインも製造することを企画し、共同醸造所の酒造免許を購入、ここから現在の五味葡萄酒が生まれたのです。
共同醸造所の免許といっしょにそこで醸造を委託していた株主の農家も抱える形になった五味葡萄酒では、創業時にはこうした株主農家の葡萄をワインに加工していました。しかし現在ではそうした株は五味葡萄酒で取得しており、独立した会社として事業を展開しています。

従業員はご夫婦とご子息の3人と家族経営。原料は品質を重視し、一部甲州は五味氏が農協の役職に就任している縁もあって勝沼の農協のものを使っていますが、他は全て自社畑と契約栽培によるもの。塩山からはだいぶ遠い明野にもカベルネ・ソーヴィニヨンを依頼している契約農家があるなど、良質の原料の確保に努力しています。
規模のわりには商品のラインナップは豊富で、古参ワイナリーらしく一升瓶のワインも販売。ところが意外なことに葡萄酒の製造当初は一升瓶は生産していませんでした。現在の顧客の「量が飲みたい!」というニーズに合わせて造るようになったそうで、これは一升瓶ワインとしては珍しい経緯。また昔の果汁会社の名残というわけでもありませんが、葡萄ジュースも独自のものを販売しており、豊富なラインナップをさらに彩っています。
施設の概略
入り口の正面にあるのが醸造所、それより右に向かうと試飲販売所があります。

醸造所に入るとあまりにも高い木組みの天上に唖然。太い梁の上には巨大な桶までが置いてあるなど、ここで過去に大がかりな作業が行われていたことを想像するのは容易です。
実はこの醸造所はもともとは日本酒の酒造があった場所。そこをワインの醸造所に改装したものです。だからこそワインの生産規模のわりにスペースが広いなど一部になごりがあるのですが、醸造施設はもちろんワイン用のものばかり。
発酵タンクなどサイズからすると中規模クラスの生産量をうかがわせる大きさで、さらに温度管理可能なステンレスタンクがかなり多く並んでおり設備は想像以上に整っています。ちなみにこのステンレスタンクを購入するまでは冷却用のジャッキなどを回して温度を調整していたそうですが、塩山市はかなり暑い地域のため温度調節作業の頻度と管理はかなりの労力が必要だったでしょう。
現在も赤ワインではピシャージュ(醸造方法の一種 当ページ用語辞典参照)を行っており、醸造の季節には一日に何度も力仕事を要求されています。



葡萄畑
自社畑は塩山市内に数箇所、うち一つは醸造所のすぐ近くに。そのほか契約栽培の畑が複数あり、甲州の一部をのぞき全て自社か契約栽培の葡萄を原料として使用。栽培品種は多種類におよびシャルドネやカベルネといったヨーロッパ系メジャー品種から、ラブレスカのアジロンやデラウェアに巨峰、さらにベリーA、ブラッククイーン、アリカントAと川上品種の黒葡萄は揃い踏みの感があります。自社の畑は棚栽培と垣根栽培の混在した形式なので、両者の比較が容易なので見学はおすすめ。
甲州の収穫はその年にもよりますが10月20日ごろが最後の収穫ということですから、遅摘みの収穫といえるでしょう(ワイナリーのほとんどは10月上旬にほぼ収穫は終了)。
自社・契約ともに畑は塩山市周辺ですが、明野にある一軒の農家にカベルネ=ソーヴィニヨンの栽培も依頼しています。
五味葡萄酒によるとカベルネ=ソーヴィニヨンなどヨーロッパ品種に関しては小規模の醸造所では自社で栽培先をみつけるか、自分で栽培しないと原料の良否問わず、葡萄そのものが入手不能とのこと。テイスティングで後述しますが、ここからなかなかの葡萄が収穫されており、五味葡萄酒の中では最高峰のワインが出来ています。
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外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
テイスティング
カウンターにいる社員の方に販売されているワインを試飲することが可能です。全種類でなく、数種類を選んで行うテイスティングのようですので狙いをある程度絞ったほうがよいでしょう。

ベントピア 白:1617円。甲州のフリーランを多めに使っているのか、小規模ワイナリーであるにもかかわらず大手に負けないほどにクリーンな内容。おおむね下記の甲州の白に準じた内容ですが、もっとクセが少なく洗練されています。

甲州 辛口:詳細は管理人のワイン記録を参照。

ベリーアリカント:1680円。川上品種の中で、一般にはブレンド用に栽培されているベリーアリカントのヴァラエタルワイン。赤を通り越して黒っぽくすらある色と、小豆、ごぼう、にんじんのような根菜の香り。この品種のヴァラエタルは他社のものを何度か飲んでいますが、いずれにせよ凝縮感はでるものの味わいが非常にシンプルというのが、良くも悪くも特徴です。五味のものはやや酸味が強く、この品種のワインとしては引き締まった印象を受けました。

カベルネソービニオン 2006 :明野の一軒の契約農家から収穫されたカヴェルネソーヴィニヨンのみで作られたワインで2575円。五味葡萄酒で最高額のワインのためか、樽を使って高級感のあるワイjンを指向しています。香りはヴィンテージが若いこともあって、小豆などの還元香、杉やブラックチェリー、樽由来のコーヒーやヴァニラ香など。熟成は新樽比率が高いのか、最初は樽の香りがやや強め。実際に飲むと、大変になめらかでエレガントな風格。タンニンも樽由来と葡萄由来の双方も含めてしっかりしており、風味にパンチ力はないものの、それを補ってあまりある奥行きを持っています。エレガントなスタイルのワインが好きな方ならば買いの一品。

全体にコストパフォーマンスは妥当か良い、といえる銘柄が多数。スタンダードな品種以外に、アジロンダック、巨峰などのマニアに受けない葡萄からも内容のあるワインを造っているところにプライドを感じます。
値段的にも内容的にもデイリーワインがほぼ全てを占めているといっていい商品構成。なかには「これワインのコンテストに出したほうがいいんじゃないのかな?」というワインもあり、有名じゃないからとバカにして飲むと不明を思い知らされることになります。
購入方法 
ワイナリーの販売所から直接購入のみとなります。電話等での注文による発送は受け付けているでしょうが、五味葡萄酒はHPがないらしいうえに、流通に載っていないのでかなり入手手段が限られているワイナリーと考えていいでしょう。品質は充分なレベルに達しているワイナリーとしては珍しいといえます。

ワイナリーアクセス

http://local.goo.ne.jp/leisure/spotID_TO-19000531に地図と簡単な紹介が掲載されています。
※このページは当HPとは関係がないので、質問等をこちらのページに行わないようにお願い致します。

総論
日本ワインマニア垂涎のワイナリーとして有名な機山洋酒工業の近くにあるけど、あまり有名ではないワイナリー。ならばワインは・・・というのが訪問する前の私の先入観でした。
しかし、やはり百聞は一見にしかず、の格言どおり直接行かなければ本当のところは何もわからない、というのを痛感しました。

まず最低ラインから全体に品質はクリーンで、小さい家族経営の醸造所としてはかなり洗練されています。甲州ワインもハイレベルな現在の状況に遅れをとっている印象は受けません。赤に関しては基本的に複数の品種によるアサンブラージュ(ブレンド)が主体というスタイルをとっており、単一品種のヴァラエタルワインは多くはありません。これは日本ではどちらかというと少数派に属しますが、「国産葡萄でおいしいワインを造ってくれればOK」な私としては気になるのはブレンドの腕のみ。そして五味葡萄酒のブレンドのセンスと原料の葡萄の品質は確かです。

テイスティングコメントにもあるように最も高い(といっても約2500円ですが)明野のカベルネ=ソーヴィニヨンが文句なく五味葡萄酒では最高峰の内容。やたらに濃いワインを求める人には必ずしも向いていませんが、繊細ながら複雑な味わいをもち、五味葡萄酒では数少ない樽熟成の銘柄ということもあって高級感があります。樽の香りのある銘柄は少ないため、どちらかというと葡萄のもつ味わいをしっかりと味わいたい人に向いたワインが多いかもしれません。生産本数の制約から出品は無理そうですが、コンテストにだせば銅賞以上はとれる内容ではないでしょうか。

近くに恵林寺をはじめ数々の観光地に恵まれ、やや立地がわかりにくいという難点以外はワイン愛好家でも観光主体の人でも訪れやすい醸造所なので、塩山に行くならばぜひ予定ルートにいれてみてください。
銘柄: 甲州 辛口
生産元: 五味葡萄酒
価格: 1312円
使用品種: 甲州
備考 色はほぼ透明。わずかに黄色があるかどうかぐらいの淡い色合い。香りはまずなんといっても梨、次いで白い花がきますがかなり果実香の豊かなタイプの甲州です。NV(ノンヴィンテージ)ですが、ヴィンテージは若いものが使われているようです。
アタックは優しく、口の中に果実の良い香りがひろがります。ラベルには「辛口」と書いてありますがそこまでドライではなく、軽く甘味を残したバランスになっており料理との幅もありそうです。甲州にしては濃縮感があり、糖分を残している関係で酸味はそれほど感じないもののワインの味がボケているようなことはありません。最後は甲州らしいといえば甲州らしい苦味があり、これが全体を引き締めています。

質の良い葡萄が使われている印象、おすすめ。
飲んだ日: 2008年6月22日
シンプルですが清潔感のあるカウンター。ここで数種類の銘柄が試飲可能です。
これだけ立派な梁のある木製の醸造所というのも珍しいです。
社名 五味葡萄酒(株) / ベントピア
住所 山梨県甲州市塩山藤木1937
電話番号 0553-33-3058
取寄せ 直接購入と郵送のみ HP なし
自社畑あり、契約栽培畑あり ツアー等 訪問自由 工場見学は要相談
試飲あり(有料・無料)
栽培品種 甲州、セミヨン、シャルドネ、マスカットベリーA、ブラッククイーン、ベリーアリカントA、カベルネ・ソーヴィニヨン 営業日 年中無休
営業時間:9:00〜17:00
★  2008年3月16日
備考:山梨県産葡萄のみ使用
ワイナリー近くの自社畑。冬に行ったために寂しい状態ですが、棚栽培であることと面積あたりの葡萄の木の本数が生食用の畑よりも多いように見えます。
発酵タンク。こちらはジャッキを使って温度調整を行うタイプ。新型の調整機能のついたタンクもあります。
銘柄: 甲州 辛口
生産元: 五味葡萄酒
価格: 約1100円(1.8L)
使用品種: 甲州・デラウェア
備考 色はほんのりと黄色があるかどうかぐらいの淡い色合い。香りはまず葡萄の皮、すこし洋梨、フルーティーなタイプとは若干異なります。NV(ノンヴィンテージ)。
アタックはまずがっちりとした重厚なもので、ねっとりと言うと言い過ぎですが濃縮された味わいが広がります。含み香に葡萄の種や皮のニュアンスがあり、また余韻はファンタグレープと柑橘類のようなフレーバーがあるのでデラウェアがブレンドされているのがわかります。
青デラを入れたのか非常に厚みのある酸味があり、とにかく国産の白にしてはやたらにのみ応えがあるのにはびっくり。またタンニンをはっきりと感じるので、プレスランの部分が多く使われていると予想できます。

なかなかに個性的なワインですが、私的にはフライや少し味の強い魚料理などと合わせるには最適なワインと思います。内容的なものからみても値段からみてももこれは買いでしょう。まあ少々量が多いのですが・・・^^;
飲んだ日: 2008年6月22日