山口ワイナリー
〜名醸地への試金石〜
外観

国道2号線から、山陽町の田園を抜けていくと、醸造所に隣接する小さなかわいい建物がみえてきます。
あたりは畑や田んぼだらけの中では変わって見える建物が、山口県唯一のワイナリー、山口ワイナリーです。

辺りにはあまり人家もなく、のどかで落ち着いた雰囲気のワイナリーで、あまり観光客の姿も見られません。駐車場も小さく、本当にミニワイナリーといった趣です。

一見、一般的な外観のこのワイナリーと葡萄畑は、表面上はわかりませんが、日本では変わった立地条件に建っています。
文字どうり「立地」の”地”が違うのです。

歴史

山口ワイナリーは1999年より醸造を開始しました。独立法人ではなく、日本酒造である永山酒造のワイン生産部門となります。

明治20年に初代となる永山橘太郎氏により、灘(兵庫県)の銘柄であった「男山」の商標を買い取り、日本酒製造を開始したのがその興りとなります。昭和7年に永山酒造合名会社と現在の社名に。以後は米焼酎「寝太郎」の生産を行うなど意欲的に事業の展開を続けています。
その永山酒造がワイナリーを建設しようと思い立った理由は、意外にも現在の当主である永山純一郎氏の母親である永山静江女史が、ワインにこるようになったことから始ります。ワインにこっただけなら普通の愛好家と変わらないのですが、静江女子は島根・広島と隣県にワイナリーがあるのに山口県だけにはないということへの対抗意識も含めて、なんと自社でワインを醸造することを企画しました。しかも、フランスに行くんなど本格ワインに慣れ親しんでいたこともあって設立当初から、ヨーロッパ品種を自らの畑で栽培するという本格指向。
しかも、趣味半分の動機ながらも、ワイナリーオープンの4年前から畑にカベルネ・ソーヴィニヨンを植えて準備を整えておくなど準備に期間をかけており、かなり真剣に取り組んでいることがうかがえます。

その立地も変わっています。畑の項でも説明しますが、ワイナリーのある石束の近くには日本最大のカルスト大地である秋吉台(※1)があり、ここは国内では珍しい石灰岩質です。その影響で山口ワイナリー周辺では酸性土が普通の日本では珍しく、弱アルカリ性の土壌となります。
詳しい方はご存知とは思いますが、もともとシャルドネやカベルネといったヨーロッパ品種はアルカリ性土壌で長く栽培されてきた葡萄です。このため、秋吉台周辺の地質はヨーロッパ葡萄の栽培好適地ではないかということが言われているのです。実際、栽培した葡萄のデータを調査したところワイン用として充分な品質という結果が得られたといいますから、好適地としての素養はあることは確かです。

現在、このワイナリーでは周辺の農家の葡萄(主にベリーA)と自社畑のものを主体としたワイン造りが行われています。一部に山梨県の甲州を使用した銘柄がある関係で、全て山口県産ではありませんが、純国産原料による醸造が行われておりその生産量は約3万本となります。山口県唯一のワイナリーとしては量が少ない気もしますが、もともと山口県の葡萄生産量が多くなく、また経営者自身が飲みたいワインを造っている部分もあるので生産量は極端には重視していないようです。

蛇足ですが、ワインの原料重視の姿勢を学び、本業の日本酒造のほうでも契約栽培による米の栽培などを行うようになっているなど、永山酒造の酒造りに少なくない影響をこのワイナリーが与えているようです。近年、山口県の独自品種と言っていい酒造好適米「穀良都」を100%使用した銘柄「山猿」を発売するなど、個性ある日本酒造りを目指しています

※1 カルスト地形とは水に溶けやすい岩石を多く含む、可溶性の地層が、侵食されてできた地形。可溶性の代表的な岩石は石灰岩であるためにカルスト地形の見られる地層では土壌はアルカリ性になる傾向があります。
日本では石灰岩の厚い層が少ないので広大なカルスト地形は多くはありません。それでも山口県の秋吉台、福岡県の平尾台、愛知県の大野ヶ原などが広大なカルスト地形を形成しています。
施設の概略
試飲販売所では、チーズなどの山口県のお土産が売られています。また、すぐ外には見学用の畑があり、説明書きもすぐそばにあります。
あたりにはほとんど人家がなく、とても静かな環境です。この山口ワイナリーの住所をみると、番地がありません(!)。あたりにそれだけ家々がないというのがこの一事でもわかります。

葡萄畑
ワイナリーの敷地内にバラと共に小さな垣根式の畑があります。ガーデニングのようでもある畑ですが、こちらはどちらかというと見学用の畑。
本当の畑はワイナリーから車で数分のところにあります。
計1ヘクタールあたりの畑の周りには遮蔽物もあまりなく山間の地形であるため、風のとおりはよく、湿気などはたまりにくいそうです。歴史の項でも書いていますが、このあたりは石灰土質が混じっているため日本では珍しく弱アルカリ性(pH7.25程度)の土壌です(※)。

この土壌ならばシャルドネなどは好適地ではないかということで、自社畑で栽培されているのは全てヨーロッパ品種です。栽培方法はレインカットの垣根式で主力品種はシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨン。1996年からの植えられているので樹齢も充分な状態となっています。糖度ののりも良好で、26度以上となることもままあるなど完熟しやすい環境のようです。

※余談ですが過去、葡萄農家が甲州を試験的に植えてみたところうまくいかなかったそうです。もともと剪定に高い技術を要求する葡萄のため、この一事で甲州はアルカリ土壌向きでないとは断定できないとは思いますが、興味深い話です。

ツアー
ツアーは無料で、あらかじめ事前に予約しておいた方がよいでしょう。
申し込んでおけば売店、または醸造の社員の方が畑と醸造所についての説明を行ってくれます。

醸造設備は奥までいくことはできませんが、意外に広く圧搾機やステンレスタンクなどの設備についての説明を受けることができます。
ツアーそのものは20分程度で終わるので、気軽に頼めます。
ただ、誘致はしていないのに観光バスが来ることもままあるそうなので、従業員の方が忙しそうなときはやめましょう(^^)。
銘柄: ヤマグチワイン シャルドネ 2000
生産元: 山口ワナリー(永山酒造)
価格: 2500円(記録付け忘れのため、正確ではありません)
使用品種: シャルドネ(自社畑産100%)
備考 ステンレスタンクによる熟成を行った自社畑のシャルドネのワインです。このヴィンテージ以降は樽熟成した銘柄に切り替わっています。
色はやや薄めのレモンイエロー。香りはおとなしめで、ミネラル香とトロピカルフルーツ香りが主体です。全体におとなしいワインで酸味は少なく、あまりメリハリのない印象。味わいは薄く単純で複雑味に欠けるところがある気がします。含み香にはトロピカルフルーツの他、クリーミーなところも少しあり、また香りと同じくミネラル香が。余韻は短めです。

全体にインパクトに欠ける印象でしたが、どうも私が飲んだ時点ではもう飲み頃を過ぎてしまっていたようです。買ってすぐに開ければよかったかなと後悔しています(T_T)
飲んだ日: 2005年2月9日
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テイスティング
販売されているワイン・日本酒・焼酎を無料で試飲することが可能です。吐機がきちんと最初から用意されているところなど、配慮がなされています。

2000 白 :1500円。甲州シリーズだけが山梨県産の甲州葡萄のワインです。低価格白ワインに適した品種が山口県内では生産されていないのもこのワインを造っている一因と思われます
いわゆる白い花の香りにちょとだけかつおぶしのような香りがあります。味わいはシンプルで飲みやすく、酸味もしっかりとあります。

シャトー・ヤマグチ シャルドネ 2001:価格は3800円。自社畑産シャルドネを樽貯蔵させたワイン。トロピカルフルーツとクリーム系の香り。酸味が強く、バランスがよいワインです。樽香は含み香にありますが、それほど強くなく、ワイン全体にボリューム感を与えています。ただ、試飲させて頂いていうのもなんですが価格は品質と比べるとまだ高いような気がします。

サビエル・ロザリオ 2001:価格は1750円。山口県産のベリーAによるワインで、ベリーAでは上級の銘柄になります。樽熟成ですが、控えめな樽の香りのためワインの果実香がきちんと確認できます。全体に香りはおとなしめですが、味わいはほどよく複雑味があります。余韻にはイチゴジャムのような香りが長く残ります。

シャトー・ヤマグチカ ベルネ ・ソーヴィニヨン: 2001価格は3000円。ピーマンと樽の香りがあり、口に含むとややおとなしめながらも収斂味を感じます。余韻には短いながらもカシスのような果実の香りが残るなど、カベルネの特徴がきちんとでています。この銘柄も私的には値段が高い気が・・・。

巨峰  :価格は2000円。メロンとキャラメルの香りがする、フルーティーな巨峰ワイン。品種の関係上仕方ないのですが味わいは薄めで複雑味にかけるところがあります。やや甘口の銘柄。

原料は自社畑のものと、周辺の農家の葡萄を使用しています。ヨーロッパ品種は全て自社畑産のものとなります。
品質的には抜きん出て目立つものはないのですが、手堅く真面目に醸造しているという印象を受けます。また、自社畑ワインなどに無濾過のものが多く(亜硫酸無添加ではないです)、極力葡萄の味をワインに残そうとする思想が見受けられます。

また、ワインのホームページである当ページとしてはわき道にそれますが日本酒と焼酎もせっかくテイスティングできるので、飲んだ感想を載せてみます。
購入方法 
電話・FAX、メールにて注文可。詳しくは公式ホームページを。県外に出荷されていなので、他県での入手は難しいでしょう。

ワイナリーアクセス
公式ホームページを参照してください。

総論
日本酒や焼酎の酒造(あるいはその両方)が母体となっているワイナリーは多数ありますが、その中では小規模な部類に入るといっていいワイナリーです。しかし、もともと趣味の延長が設立につながっているワイナリーなので、むしろ量より質を狙っていると考えるべきでしょう。
品質的には自社畑ものといえどまだまだ上を目指せる余地はあるとは思いますが、シャルドネなどは果実味がよくでているなど個性がしっかりしており、将来を期待させる品質です。山口ワイナリーならではの個性が品質・知名度とも存在感を増していけば、秋吉台周辺が栽培好適地としてクローズアップされるかもしれないので、今後が楽しみなワイナリーです。現在のところ、個人的には自社畑ワインには割高感があるのでぜひ値段の面でも奮起してもらいたいところです。

また、ワインとは関係ありませんが日本酒や焼酎まで試飲できるのもお酒好きの人には楽しみなところです。特にここの米焼酎の寝太郎(43度)は、コストパフォーマンスという点では並みの米焼酎などよせつけない品質です。アルコール度数43度でありながら720mlで1550円と割安なうえに華やかな吟醸香のする米焼酎で、ヒット商品であるというのも頷けます。また、日本酒の「山猿」は、まだまだ良くなる予感がします。


総合的にみると山口県唯一のワイナリーながらも品質的には高いレベルを目指しているので、ワインを全然飲んだことがないような人よりは辛口の海外ワインなどをある程度楽しめる人といったほうがよいと思います。また、前述のように色々な酒類があるので一度にいろいろ試飲してみたいという欲張りな方におすすめです。あたりには葡萄狩りもできる地域もあるので、山陽町周辺に秋に行けば葡萄ライフを満喫できるかと思います。

本業の日本酒のほうでもワインでも、品質に対して前向きに取り組んでいるので、その努力の開花には要注目です。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 ツアー テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
こちらは、ワイナリーから少し離れた自社畑です。2004年時点では垣根栽培の光景がみえる山口県の畑はここだけでしょう。
比較的新しいワイナリーだけあり、醸造施設には温度調整のステンレスタンクなど、最新型の施設が目立ちます。すぐ近くには樽もつまれています。
あまりないタイプの据え置き型の吐機。自動洗浄機能付きとこのあたりの配慮がミニワイナリーながらもきちんとされているのはさすがです。
社名  永山酒造(合) 山口ワイナリー   / シャトーヤマグチ
住所 山口県厚狭郡山陽町石束
電話番号 0836-71-0360
取寄せ メール・電話・FAXによる注文可 HP http://www.urban.ne.jp/home/nsg/sub3.htm
自社畑あり、契約栽培畑あり ツアー等 あり(無料・要予約)
テイスティング可(無料)
栽培品種 シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、マスカットベリーA、、他 営業日 定休日:毎週水曜
営業時間 AM9:00〜PM5:00
★  2004年5月30日
備考:親会社「永山酒造」(日本酒蔵元)、国産葡萄のみ使用、焼酎・日本酒の試飲可
特別純米 山猿 :山口県独自の酒造好適米「穀良都」より作られた純米酒。ホームページの趣旨と沿わないので詳しい解説はしませんが、この米は高い栽培技術を要するためにこの米を獲得し、自社銘柄として販売するには幾多の苦労があったようです。
栗の薄皮や穀類の香りのする重厚な香りと、ともすると重たいともとれる複雑な味わい。洗練の極地のようなお酒でなく、普段飲んでうまいと思える酒を目指しているのがわかります。社長の永山純一郎氏自身も燗で楽しむ酒であるとおっしゃっているように、圧倒的に燗向きと思える味わいです。

寝太郎 43度 :価格は1550円。1981年、サントリーオールドの売れ行き好調のころ、その打倒を目指したという、無謀なまでに高い志のもとに発売された米焼酎です。さすがにその高い理想の実現は成らなかったようですが、口に含んだ時に広がるフルーティーな吟醸香や、高い度数によるのみ応えは見事です。度数が43度もあるわりには値段が安く、しかも洗練された味わいで、焼酎を個人的な嗜好としてはまったく飲まない私ですら、「おすすめ」と思える米焼酎です。もし、焼酎ブームでもっと米焼酎が注目されるなら往年の夢がかなうかもしれません。