ひるぜんワイン
〜ノウハウゼロから、山葡萄に賭ける!〜
外観

鳥取県の大山の南東にあたる岡山県川上村は、果てしなく山陰に近い山陽の小さな村です。この町にあるワイナリーを求めて観光地図を見ても所在地がわかりにくく、本当に第三セクターなのか疑いたくなります。さらに道の駅で場所を聞いていった先に見えるのは、総合体育館・・・。
しかしここであきらめずに、その裏側に通じる道をいくと、こぎれいな町工場のような建物が見えます。近くの敷地に、いやに葉は大きいものの葡萄が栽培されているに気付けば、ここがただの町工場などではないことはすぐに理解できます。
せめてどこか道の途中に看板を出しておいてほしい、このワイナリーが日本で唯一、山葡萄の栽培のみを専門に行う「ひるぜんワイン」です。
歴史
公式ホームページに詳細な歴史の紹介がありますのでそちらを参照して下さい。

個性的な歴史を持つワイナリーなので、私の方でも紹介致します。
なんと、ひるぜんワインのある川上村には果樹産業がなく、ワイナリー、それも第三セクターのワイナリーが設立される条件はまったく揃っていません。なぜ、ワイン事業などが計画されたのでしょうか。

ワイナリー設立の発端は、遥か北海道の池田町が山葡萄ワインの事業を成功させたことことから始ります。そのことを知った川上村の村長は「山葡萄なら川上村にもある、同じことがここでもできるだろう」と、それだけの理由からワイナリー事業を計画してしまいました。思いついてから一晩で現在の場所にワイナリーを造ることが決まったといわれるのですから、多くのことが熟慮されないまま準備が進んでいったことは想像に難くありません。
農協の出資を得ていざ創業すると、やはりというか数多くの問題が発生しました。事業であるからには、自然に生えている山葡萄だけでは原料が足りないので人の手で栽培をしなければならないのですが、そもそも葡萄栽培がさかんでない地域のうえに、日本、というよりおそらくは世界中のどこにも山葡萄を大規模に栽培した人間はいなかったのです。当然、技術供与を受けるなど不可能で、自らが実践してデータを蓄積する他なくなりました。加えて果樹産業がない地域なので契約栽培の依頼をなかなか受けてもらえず、栽培は苦労の連続であったようです。
一晩で決めたワイナリーの立地にいたっては、人気どころか家屋もない町外れの森の中。今でこそ隣にスポーツセンターができていますが、設立時には細い道路が村の中心地とつながっているだけで、地元の人々の多くはその細道の先にいったい何があるのか知らなかったというのですから、恐ろしい話です。
ヤマブドウについては自社畑の項で説明しますが、ヴィニフェラやラブレスカとも異なるアムレンシスという種類の葡萄であるため、雄の樹があったり、樹勢がかなり強かったりと扱いにくい品種です。しかも、ひるぜんワインが取得した果実酒の酒造免許は限定免許であったためにヤマブドウ以外の醸造ができず、否が応でもこの品種に挑まざる得ませんでした(現在の果実酒の酒造免許は細かい限定項目がなく、色々な果実を醸造できます)。
前述のように、「ヤマブドウのワイン」のノウハウは存在していないため、どんな栽培がよいのか、またどんなスタイルのワインがもっともふさわしいのか、今なおその形は完成をみていません。

現在でも、ワインの生産量はヤマブドウの収量が安定しないので不安定ですが、約2万本となります。
栽培しているのはヤマブドウですが生産しているワインの多くは、甲州かベリーAをヤマブドウにブレンドしたものです。ブレンドする甲州は山梨県産、ベリーAは農協を通じて岡山県産のものを入手しています。輸入原料はブルーベリーワインなどのフルーツワインを除外すれば、100%国産の原料のみが使用されています。
また、周辺農家で生産される原料からジャムやハチミツといった加工品を生産しており、観光産業の一翼を担っています。
このワイナリーが設立されてから既に20年近くが過ぎていますが、農家の高齢化、認知度の低さなど問題は少なくありません。しかし「栽培と醸造を確立すれば、日本を代表するワインができるかもしれない」と、未来に向けての挑戦が続けられています。

施設の概略

施設は事務所そのもので、観光客や来訪客をそれほど重視していないように見受けられますが、訪問する際にあらかじめ連絡しておけば山葡萄の畑についての丁寧な説明や、試飲を行わせてもらえます。必ず事前に予約しておいたほうがよいでしょう。
もともと生産工場としての側面が強いワイナリーなので、訪問客用の施設などがあまりないというのは当然といえます。
また外観の項でも強調していましたが、場所がわかりずらくきちんと調べておかないとたどり着くのに苦労することになるので注意。

醸造施設は見学は不可となります。
ただ、ご好意ににより見学させていただいたので、レポートを記載します。

醸造施設はヤマブドウとはいえワインの醸造と同じです.工場の規模は小さいものの主流である空圧式の圧搾機とステンレスタンクによる醸造が行われています(ただし、このタンクは温度調整機能はないので冷却は冷却ホースを巻いたり水をかけて調整しています)。製品化はされていませんが試験的にアメリカンオークによる樽熟成も行われており、その樽もこの工場内に置かれています。この「樽熟成ヤマブドウ」を飲ませて頂いたところ、もともとの青臭さや根菜系の強い香りがほどよくアメリカンオークの香りでバランスがとれ、異常に酸が強い味わいも樽のヴァニラの香りなどで和らいでおり、むしろ普通のワインに近い親しみやすい味わいになっていました。
そして、工場内はワイン用の醸造施設ばかりでないのがひるぜんワインらしいところ。醸造用器具に混じって見たことが無い機材が置いてあったのですが、それらはジャム用やジュースに加工するための機材でした。さるなしなどの変わった材料のジャムなどを色々と生産していることもあって、こちらの加工にも多くの労力がさかれているそうです。



外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
葡萄畑
事前に予約しておけば、畑の見学が可能です。日本でも山葡萄が栽培されているワイナリーはあまりないので、貴重な畑です。自社畑は数箇所の合計で2ヘクタール、契約栽培と合わせると12ヘクタールとかなり広さがあります。

我々素人からみるとヤマブドウはもともと自然に生えているだけあって丈夫で簡単に栽培できそうなイメージがあります。ひるぜんワインでも当初はそう思っていたそうですが、実際に栽培してみると想像とは大きく違うことがわかったそうです。
まず、病害虫に対して強いことは強いのですが、葡萄の主要な病気には全て感染します。そもそも自然環境では山葡萄が密集して生えていることなどはありえないので、畑で栽培すると自然界では起こりえない集団感染の確立が高くなるそうです。害虫も同様です。
この対処法として、殺虫剤などを使用するとこれも問題に。山葡萄には雄樹と雌樹があり、雄の樹がないと受粉せず収量が減るのですが(※)、殺虫剤や防虫剤を受粉の時季に散布すると媒介昆虫までいなくなるので実がならなくなってしまいます。

さらにヤマブドウは実一つあたりの果汁の量が極めて少なく、最大限まで搾っても搾汁率は6割。参孝までに、現在の圧搾機をもってすれば葡萄の重量の9割以上の果汁を搾り取ることができるのですから、いかに低い割合かがわかると思います(ただし、そこまで搾るとかなり苦味や雑味の多いワインとなってしまうので6.3〜7割程度の搾汁率が主流です)。
他、自家受粉できないため実ごとの変異が激しく、安定した品質にならないという問題もある、まさに難物です。

ひるぜんワインの隣にある試験栽培の畑をみれば、異常に大きな葉と、伸びたい放題にのびまくっているヤマブドウの勇姿(?)を確認できます。

※実はこれも失敗によりわかったそうです。専門家から雄樹はなくても大丈夫といわれ、雄樹を減らしたところ、収量が減少。以降、畑の中に一定本数の雄樹が栽培されることになったそうです。なお、当然ながら雄樹は実をつけることはありません。
テイスティング
事務所の中に椅子や机があり、いくつかの銘柄を試飲できます。使い捨てのカップではなく、きちんとテイスティンググラスが用意されているのはありがたいです。
フルーツワインを除くと銘柄が非常に少ないこともあり、試飲できるのは以下の2種類になります。

ひるぜんワイン ロゼ:2003年度の国内ワインコンクールで銅賞に輝いたワイン。山梨県産の甲州とヤマブドウのブレンドワインで値段は2310円。やや甘口ですが、ヤマブドウの酸味が強力なのでむしろバランスが良いくらいです。チェリーとブラックベリーの重めの果実香と、少しだけごぼうのような根菜の香りを感じます。
よくまとまったワインですが、1500円ぐらいにならないものでしょうか(^_^)。ハーフボトルもあります。

ひるぜんワイン 赤:詳細は管理人のワイン記録にゆずります。ベリーAとヤマブドウのブレンドワインです。しかし、フルボトルで2730円はやはり高い気が・・・。
こちらもハーフボトルがあります。

他、ハーフボトル限定でヤマブドウ100%のワインがありますが、生産量が少ないため訪問時には売り切れていました。

ワインに関しては日本でもかなり銘柄数が絞られています。フルーツワインについてはその時々で臨時に造るものがあるので、こちらは種類が豊富です。
また、ヤマブドウのワインを飲む際に注意が一つ。
色素が濃すぎるので服などについたりすると落ちません。気を付けて飲みましょう(^_^)。なにしろワイナリーでワインを濾過する時、ヤマブドウだけは色が濃すぎて濾過されているのかどうか見た目ではわからないというのですから、推して知るべしです。

フルーツワインの値段は標準的なのですが、本命のワインは値段が張るので困ります。テーブルワインとしてはちょっと厳しい値段です。
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一見、台所のような雰囲気ですが、事務所兼テイスティングルームです。ワイナリーに関する貴重な資料や写真なども展示されています。
購入方法 
公式ホームページからの購入が可能です。ただ、ジャムやはちみつに関しては全種類が掲載されているわけではないようです。川上村の道の駅などでも、ほぼ全種類の商品が販売されています。

ワイナリーアクセス
アクセスに関しては公式ホームページで説明されているのでそちらを御参照下さい。所在地は「平成の森 スポーツセンター」の総合体育館裏になります。


総論
一般には葡萄の余剰生産量を解消する目的で造られることが多い第三セクターのワイナリーにおいて、異なる過程で誕生し、さらにヤマブドウのみという栽培方針を貫くかなり異色のワイナリーです。

ヤマブドウは、通常の葡萄と比べると研究が進んでいないのですが、ここ最近は交配品種やヤマブドウそのものも注目される部分が出てきました。その現在の潮流へとつながる醸造所の一つといえるでしょう。

飲んだ感想ではまずまずのワインを醸造しているように思うのですが、ヤマブドウ系ワイナリーはワインジャーナリズムからの注目度が低く、いま一つ注目が集まっていません。地元でもあまり知られていないという、笑えない話も聞かせてもらいました。
ただ、我々のようにいまいち資金に余裕がない消費者にとって、2000円を越えるワインだらけというのはかなりマイナスです。品質はまずまずと書いていますが、値段と見合っているのかと聞かれると、私は「?」と思ってしまいます。原価が高いのは理解できますが、せめてスタンダードなひるぜんワインの赤とロゼは1500円前後で発売してほしいところです。
とても取り組みが真面目なワイナリーなので、値段・品質ともにさらなる向上を望まずにはいられません。

訪れる場合には、困ったことに誇張なしに見つけにくいのがこのワイナリーの問題です。運送屋が迷って電話をかけてくることがあるというのですから下調べもせずに行くと川上村をさまようことになります。必ず、公式ホームページを見るべきです。
実際に行くと、ワイン以外にジャムやハチミツといった面白いアイテムを作ったりと、色々と驚きのあるワイナリーです。大山や蒜山の近くにいくことがあれば時間を作って寄ってみるとよいでしょう。楽しい経験ができます。
銘柄: ひるぜんワイン 赤
生産元: ひるぜんワイン
価格: 2730円
使用品種: ヤマブドウ、マスカットベリーA
備考 ヤマブドウとマスカットベリーAをブレンドした赤ワインです。
色は黒といっていいほど濃い赤。香りはトマト、グレープジュース、生のごぼうのような根菜の香りも目立ちます。含み香は、タバコや生木の青い香り、ごぼうの香りが確認でき、口にいれた時には意外にまろやかです。しかし、アフターにかけて非常に強い酸味を感じるワインで、前知識なく飲むと驚かされます。余韻は短めで、タバコの葉に近い印象を感じます。
かなり酸味にインパクトがありますが、けして違和感を感じるようなワインではありません。酸味が強いワインに抵抗がない人などには特におすすめです。

飲むと、ベリーAが入っていてもこれほどの酸味を感じるヤマブドウの力に本当に驚かされます。
飲んだ日: 2005年4月3日
ジャム用の機材。ヤマブドウの収穫期の9月中旬ぐらいにジャムの生産が入ってしまうと、過酷な日程がくまれることに・・・。
社名  ひるぜんワイン(有)
住所 岡山県真庭郡川上村西茅部709-1
電話番号 0867-66-4424
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.hiruzenwine.com/
自社畑あり 契約栽培畑あり ツアー等 訪問可(要予約)
テイスティング可(無料)
栽培品種 ヤマブドウ 営業日 定休日:土日・祝日
営業時間:8:30〜17:00
★  2004年6月6日
備考:第三セクター、国産葡萄のみ使用、ジャム製造、ハチミツ製造
こちらはジュース用の加熱殺菌機。ワインにも低温殺菌されている銘柄もあります。。