天橋立ワイン
〜もっとも海に近い醸造所〜
外観

およそ日本に住んでいる人間の中で「天橋立」という地名を、聞いたこともないという人はいないでしょう。
しかし日本三景の一つとしてあまりに有名な観光地に、一つの醸造所が出来たことを知る人は多くありません。
宮津湾のまさに海岸のすぐそばに建っている醸造所は、けして目立たない建物ではないのですが、ワイナリーとしては違和感があります。味わいのある門構えに、瓦葺の屋根、まさに日本庭園といわんばかりの庭を見ると、どう見ても旅館か、高級和菓子店以外には見えません。
しかし、よくよく観察すると瓦葺の屋根に、葡萄の形のネオンがあることに気付くでしょう。
そこが有名観光地の名を冠する「天橋立ワイン」です。
歴史
このワイナリーは名前からすると第三セクターのようですが、北海道ワインなどが出資して設立した民間企業です。
北海道のワイナリーの出資により本州で醸造所が建設されるのは日本ワイン史上で初めてのことですが、その契機となった人物が現社長の山崎浩孝氏です。
元々は公立高校の教師だった山崎氏は、退職し土産物店などを始めるなかで、ワインに興味を持ち、丹後に農業生産法人たんごワイナリーを設立し栽培の研究をはじめました。さらにワインの醸造技術を修得するため、妻子を地元に残して北海道ワインに就業。同社で10年間にわたりワイン造りに携わった後に帰郷すると、奥様の実家の旅館経営に従事する傍ら、1999年、北海道ワインと共同出資により地元の宮津市に醸造所を設立しました。

総生産数は約8万本。ワインは単一品種のワインと、無濾過(亜硫酸無添加ではありません)の製品が多い傾向があります。
浩孝氏が地元産葡萄のみを使用する北海道ワインで勤めていたこともあり、天橋立ワイナリーでは丹後産(宮津市及び近隣市町村を含む)の葡萄にこだわる醸造を目指しています。ただそれほど葡萄栽培がさかんではない地域で地元産100%の醸造は難しく、北海道の葡萄の双方が使用されています。
醸造は施設を含めドイツの技術を基本としたもので、醸造のアドバイザーもドイツのケラーマイスター(醸造責任者)です。それはワインのスタイルにも反映されており、特に北海道の葡萄を使用したワインは品種によるところもありますが、本場ドイツの同価格のものにも劣らないクリーンで香り高いに仕上がっています。

施設の概略

外観は旅館のようだと書きましたが、ワイナリーの内装も木材や漆喰をふんだんに使用したまさに旅館そのもの。これほど「和風」を意識させるワイナリーは古今東西ないでしょう。オーナーご自身が旅館経営者であることが強く影響しているのでしょうが、良い意味で印象に残る内装であることは間違いありません。
醸造施設はワイナリーの一階の部分にあり、ガラス越しにみることができます。タンクなどを見るかぎりでは小〜中規模程度の生産量の醸造施設かな、と思わせる大きさのタンクなどが見えます。

2階にはシックな試飲兼販売所があり、そこにワインやお土産も陳列されています。このお土産のラインナップが少し変わっており、京都産の本格派のお酢など、観光の記念品とは異なる内実のある商品が販売されています。

また敷地内ではありませんが、オーナーの経営する旅館「ワインとお宿 千歳 (アドレス:http://www.amanohashidate.org/chitose/)」もあります。





外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
葡萄畑
ワイナリーの敷地内に見学兼試験栽培を行っている畑があります。剪定は垣根で行われており、ワイン用の畑であることは一目瞭然です。
しかし、ここはあくまで見学用で本当の畑はワイナリーから離れた場所に存在しています。栽培面積は4ヘクタールとなかなかの広さがあり、植えられている品種はほとんどがセイベル(※)の系統です。約10ヘクタールある25軒の契約農家においても品種は同様です。
これも適当に植えたわけではなく、醸造所の設立以前から地元で10年の歳月をかけて試験栽培を繰り返し、その結果から栽培品種をセイベルと決めています。
細かく言うと白ワイン用のセイベル9110と赤ワイン用のセイベル13053がその主力ですが、ほぼセイベルのみの栽培というのは日本国内でも天橋立ワインしかないでしょう。

このセイベル9110、13053という品種は、ヨーロッパのシャルドネ、リースリング、カベルネ、メルローなどのノーブル品種と比べると個性に欠けるところがあり、ワインの評価は芳しくありません。しかし、極めて耐病性・耐寒性の高い頑健な品種でもあります。
13053などは北海道で栽培されているという事実を見ればで耐寒性の高さは疑う余地もありません。
さらに天橋立ワインの社員の方によると、契約農家の畑の一部は宮津湾に流れ込む川沿いにあるため、満潮時にはあろうことか海水が畑の中に入ってきてしまうそうです。しかし、海水が入ろうとその畑のセイベルは健全に育っているというのですから恐るべき頑強さです。

最後に見学に関してはワイナリー敷地以外の自社畑に関しては少し距離があるので、車などの移動手段が必要となります。

※ セイベルというのはフランスの交配雑種の総称で、それぞれの品種ごとに番号がふられています。このため同じ「セイベル」でも、番号が違うものはまったくの別品種です。現在では本家フランスではほとんど栽培されていませんが、セイベル13053などは北海道での赤ワイン用品種としては押しもおされぬ主力品種です。
テイスティング
2階で無料でテイスティングが行えます。社員の方がグラスに入れてくれるタイプのテイスティングなので香りや味をきちんと確認できます。ただ、この方式は混んでいる時にはあまり向いていないので、ゆっくりテイスティングしたい方はできればあまり販売所がいっぱいでなさそうな時期に行った方がよいでしょう。

ミュラートゥルガウ 2001:1375円。北海道産ミュラートゥルガウを使用。淡い黄色でマスカット香と青リンゴのような華やかな香り。辛口でしっかりとした酸味と豊かな含み香のある、折り目正しいワインです。

ケルナー 2003:北海道産ケルナーを使用。375mlで1200円とやや高めですが、内容はかなりよいワインです。マスカットや花を思わせる、「ケルナー香」がしっかりと含み香や上立香にあります。辛口ですが、薄っぺらいところはなく味わいがあり、余韻はグレープフルーツのような香りが、はっきりと感じ取れます。おすすめワインです。

セイベル 赤:1365円。北海道産のセイベル13053を使用した赤ワインです。色は透明感のある紅色。果実香のほかにちょっとマイタケのような香りも感じました。酸味がかなりしっかりしており、タンニンは少なめ、シンプルな味わいのライトボディのワインです。

夜久野高原ワイン 2003:375mlで1000円。ベリーAを使用したワインでキャラメル香とライトながらタンニンを感じます。シンプルな味わいです。

彩雲 2003:375mlで1260円と天橋立では高めのワイン。ベリーA・丹後産セイベル13053、北海道産ツバイゲルトレーベのブレンドによるワインです。樽熟成されており、しっかりとした樽香と少しスパイシーなところがあり、ライトなカベルネのワインのような印象を受けました。訪れたなら飲む価値がある銘柄。名前もカッコいいです(^_^)。

辛口ワインに関してはほとんどがフィルターを使用しない無濾過ワインとなります。また、銘柄の構成でみても観光地のワイナリーとしては辛口がかなりの比重を占めているところが目をひきます。

興味深いことにフルボトルにすると高くなりそうなワインは全てハーフボトルサイズで売ってあり、どのワインも額面上では1500円以下と安めです。実際、高いワインでもフルボトルで売っても2000円弱ぐらいでしょうから、値段は全体的に抑えられているといえます。
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購入方法 
公式ホームページからの購入が可能です。宮津市内であれば入手は容易ですが、他県からは取寄せるほかないでしょう。

ワイナリーアクセス
アクセスに関しては公式ホームページに掲載されているのでそちらを御参照下さい。


総論
最初に名前を聞いた時に想像したことは「第三セクターで中高年観光客重視のワイナリー」でした。
が、実際は民間資本により設立されています。さらにオーナーはワインへの情熱により自ら醸造所に就業したというのですから想像していたこととほぼ反対です。

「原料は北海道・京都産のみ」と国産葡萄にこだわる路線を明確にしており、かなりコンセプトはしっかりしているといえるでしょう。
まあ、北海道の葡萄というのはいささか京都から遠く思えますが、葡萄栽培がさかんでない地域においてワイナリーを運営しつつ純国産にこだわるとすれば、こういった方法は必須でしょう。しかもオーナー自身が元は北海道ワインの社員であったことを考えれば、自然な選択です。

ワインの品質に関しては、悲しいかな丹後産・北海道産を問わずセイベルを100%使用したワインはいま一つです。いえ、正確にいうと同社で販売している北海道のノーブル品種で醸造されたワインと比べるといま一つなのです。セイベルよりも北海道産のケルナーやミュラードゥルガウの方が香りも味わいもずっと個性的で、飲み応えがありました。セイベルはワインの質においてはいま一歩だといわれているのでこれはやはり品種の差なのかもしれません。しかし、栽培ノウハウやデータの蓄積など新興生産地にはほとんどないのですから、まさにこれからがこのワイナリーの真価でしょう。
栽培を地元にこだわってワインを販売する高い志と熱意のあるワイナリーですから、その未来に期待するところ大です。

訪れる場合、幸いにして超有名観光地にあるので、「天橋立に行ったついでに」という軽い気分でにワイナリーを訪れることができるのが助かります。
個人的な感想としては、北海道産のノーブル品種を使用したワインはその金額をだすに値するものです。ケルナーの辛口などは本場ドイツの辛口白ワインにも劣らないのでおすすめです。

日本三景を眺めに行ったワイン愛好家なら、足を運んでみてはどうでしょう。
銘柄: セイベル 白 2002
生産元: 天橋立ワイン
価格: 1365円
使用品種: セイベル9110(北海道産)
備考 セイベル9110(ホワイトアーリー)を100%使用。
色はやや黄色で、ローズマリーやタイムの他にかすかに梨のような香りがあります。全体に極めて香りの要素が少なく、あまり品種特性といったところを感じません。
味わいはシンプルですが、ほどほど厚みのある酸があり、けしてバランスがおかしいといったことはありません。含み香には、生木のような香りとハーブ香が少しあります。あまり余韻はありません。
一言でいうと「アロマティクでないワイン」で、明白な品種の香りといったものを私では感じ取れませんでした。
しかし、味わいは貧弱ではないので、むしろ香りがない分だけ白身魚のムニエルなどとあわせやすいかもしれません。
飲んだ日: 2005年5月4日
自社畑。海が非常に近いのですが、健全に育っているようです。
社名  天橋立ワイン(株)
住所 京都府宮津市国分123 電話番号 0772-27-2222
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.amanohashidate.org/wein/
自社畑あり 契約栽培畑あり ツアー等 訪問自由
テイスティング可(無料)
栽培品種 セイベル9110、セイベル13053、他 営業日 定休日:水曜
営業時間:10:00〜17:00
★  2004年6月14日
備考:国産ブドウのみ使用(北海道、京都)、オーナーは「ワインとお宿 千歳」経営
2階はとても景色がよく、晴れた日に外を眺めたくなる場所です。
銘柄: こだま 2004
生産元: 天橋立ワイン
価格: 1300円(ハーフボトル)
使用品種: セイベル9110(丹後産)
備考 丹後産のセイベル9110(ホワイトアーリー)を100%使用。
2004年ですが色合いには黄色が強くでています。メロン、レモンなど果実のみずみずしい香りが主体で、少しだけガラムマサラのようなスパイシーなところもあります。酸味はあまり強くないのですが、辛口で味わいと凝縮感がでておりプリンスメロンや梨のような青い香りが、含み香と余韻に残ります。また少しですが、古酒のような熟成の味わいも感じ取れます。

印象としては上記の北海道産のセイベル9110よりも凝縮感があります。また品質とは関係ありませんが無濾過だけあって少し温度を下げるとすぐに酒石酸の結晶がワインに現れてきます。
ただ、2004年の白ワインでありながらすでに飲み頃の限界か、それをすぎつつあるワインのような気がします。白ワインとしてのフレッシュさを楽しむならばすぐに飲んだ方がよいかもしれません。

知人のソムリエに飲んでもらったところ
「香りはメロン、ライムなどの果物の香りがでています。酸はあまり強くありませんが、濃縮感があります。ただ、亜硫酸が少ないのか2004年でありながらすでに”疲れはじめているワイン”という印象を受けます。」
とコメントを頂きました。
飲んだ日: 2005年7月4日