翼を持つ二人の手が機体から離れ、パイロットは地を蹴ります。自分の手からも機体は離れ、琵琶湖に舞います。浮いた。美しすぎるテイクオフ。琵琶湖の空に吸い込まれていくようです。次の瞬間、機首が下がりました。「あっ」。
湖面に着水。
翼は折れてない。パイロットも無事のようです。
プラットホームの上から見る木製グライダー「SAILWOODU」は、波間に揺れ、あまりにも奇麗すぎました。
鳥人間コンテスト参加チーム、未来工房は、チームリーダーの後藤孝雄さん、佐々木克明さん、伊東利和さん等を中心に、メンバーの大半を建具職人が占める、いわば異色のチームです。ここでおことわりしておきますが、この鳥人間出場に関するすべての事は、まったく建具組合とは関係ありません。主催は東三河建具組合でも、東三河建具組合青年部会でもありません。ただ東三河建具組合青年部会は、これに協賛する。ということでご理解下さい。誤解をまねき、組合事務局等にご迷惑をかけたことはこの紙面を借り、お詫びいたします。
大学のチームとかの中で、自分たちの特徴を出すにはどうしたらよいかと考えたとき。必然的に得られた答えは「木で造ることにとことんこだわってみよう!」ということです。今、鳥人間コンテストで、上位入賞機に限らず、ほとんどの機体は、カーボンとかアルミ。新素材を使っているわけです。その中で。オール木製、無垢材でどこまでできるか。それが自分たちの挑戦です。表面に張ったフィルム、パイロットを保護するための発泡スチロール以外は、すべて無垢の木材で仕上げることができました。もちろん合板も一切使用していません。結果的にこのこだわりが、他に類を見ない、特徴的なオリジナル性の高い機体を生むことができました。制作には、あらゆる木工技術を駆使したと言っても言い過ぎではないかも知れません。パソコンにNC木工機。最後に活躍したのは、職人の勘と胴付鋸でした。
最終的に、結果を出す事はできませんでしたが、湖面に着水し木で組上げた翼が折れずに原形をとどめた事は、それだけでも特筆すべきだと思います。木材も、それを組上げる技術によっては、構造材としても充分新素材に対抗できるものだと感じました。また、充分な最終調整を行う事ができず、風をとらえることはできませんでしたが、潜在能力を秘めた機体だと考えています。一瞬の夢にかけた二年間の体験は、他に代え難い貴重なものになったと思います。この「遊び」に付き合ってくださった、多くの方々、協力してくれた人たち、応援してくださった多数の人々に深く感謝いたします。
未来工房 前田明宏