歯科治療と放射線について

  【若松衛生だより6月号にも掲載しましたが、ここではもう少し詳しく説明致します。】


医療の分野では様々な検査がありますが、放射線写真による検査は歯科の分野においては
外から見ただけでは解らない歯や顎の骨の内部の様子を映し出してくれるので大変有意義で
かつ必要な検査です。
 もし放射線写真を使わないとすると、歯と歯の間やかぶせた銀歯の下に隠れた虫歯や顎の骨の
内部の空洞や膿などが溜まった袋状のもの、腫瘍、顎の骨の溶け具合なども知ることができません。
 怪しいと疑われる程度に進んだ病変なら試しに削ってみるとか歯肉を切り開いてみるなどしないと
解りませんが、そんな乱暴なことは誰も望まないでしょう。また、自覚症状も無いし、見ても疑いも
持てない程度の初期病変は全く見逃してしまうということになります。
ですから、この有効な検査を役立てないのはとてももったいないことですし、
保険診療の上でも
治療の結果を放射線撮影で確認しながら進めるように求められてもいます。


しかし、放射線と聞くとなんだかとても危険で怖いもの、有害なもののように感じてしまい、できれば
撮影したくないと思う時もあるでしょう。
 医療現場では常に得られるメリットとデメリットのバランスを比較し、メリットの方が断然大きい時に、
お薬を出したり、検査をしたりします。
放射線撮影のメリットは既にお話したように他の方法では解らない病変を見つけられたり、状態が
確認できたりするのですから計り知れないほど大きいものです。

 それでは、気になるデメリットの方はどうでしょうか。
 私たちが太陽や宇宙空間、大気や大地、周囲の建物などから何もしなくても受けている自然放射線はごく微量なので人体に全く影響はありません。歯科でよく使われる数本の歯を写す小型の写真一枚で浴びる放射線の量は、年間に受ける自然放射線の1/40〜1/100程度と言われています。
全く影響のない自然放射線のさらに何十分の一程度なので、実質的には影響は無いと言えるレベルです。

 また、顎全体を写す、大きな写真の方も小さい写真とあまり変わりありません。大きさがかなり違う
のに不思議に思われるでしょうが、大きな方は断層撮影という撮影方式の違いや放射線の出る装置
からの距離などが違うためにこのようなことが起こります。
ですので初診の際などに大きい写真と小さい写真数枚を撮影したとしても何ら心配には及ばない
わけです。

 しかし、どんなに少ないといってもゼロでは無いわけですから、何らかの影響があるのではないか、
ちりも積もれば山となるのではないか、と心配する方もおられるのではないでしょうか。

 そこで、放射線によって人体に実際の被害が出る放射線の量に達するには歯科放射線写真で何枚撮れば当てはまるのか見てみましょう。
 例えば、女性が一時的に不妊になるには650万枚、胎児が流産するには100万枚、顎に近い眼の水晶体が白内障を起こすには1万2千枚という膨大な量の写真を一度に撮らないとなりません。こんな何万枚から何百万枚という数を一度の診療で撮る事は実際には全くありませんし、不可能です。

 結論として、歯科医院で放射線写真を何枚から何十枚か撮影しても実際に何らかの影響が出ることはありませんので安心して撮影を受け、病状をできるだけ正確に、早期に発見治療するように
してください。


         ■さらに詳しく知りたい方は日本歯科医師会のホームページをご覧下さい 



参考データ   自然放射線は日本では年間1.1ミリシーベルト前後。
          ブラジルのある都市では10ミリシーベルトと日本の10倍近いが癌の発生率では
          日本と差は無い。また東京とニューヨーク間を飛行機で1往復した時に受ける量は
          0.2ミリシーベルトとなり、場所や地上からの高さなどで大きく差があることが解る。
 
          小さな歯科放射線写真 1枚で受ける放射線 0.01〜0.03ミリシーベルト程度
          大きな歯科放射線写真 1枚で受ける放射線 0.02〜0.03ミリシーベルト程度