こんな症状はありませんか

食事が飲み込みにくいとき

「嚥下(えんげ)」とは食べ物や飲み物を飲み込むことを言い、また「誤嚥」とは飲み込むときに、食べ物などが気管に入ってしまうことを言います。年を取るに従って、体のさまざまな働きが衰えますが、物を飲み込む嚥下能力もだんだんと低下し、食べ物や飲み物が飲み込みにくくなります。その時「食べ物が口に残る」「むせる」などの症状がでます。

最近は研究が進み、「嚥下障害」の程度に合わせた工夫やリハビリテーションが行われるようになり、効果を上げていますので「年だから仕方ない」とあきらめず、早めに症状に気づいて、適切な対応をすることが大切です。

(ア)飲み込みにくくなる原因

@生理的な原因
▼ 筋力の低下……舌、頬、のどなどの筋肉が低下して動きが悪くなりその結果口に食べ物が残ります
▼ 感覚の低下……口の中の感覚が低下し、舌で食べ物をうまく扱えなくなります。
▼ 咀嚼機能の低下……「歯茎が弱くなる、歯が悪くなる、歯を失う」などにより、食べ物を良く噛み砕くことができなくなります。
▼ 唾液の減少……唾液の分泌量が少なくなり、食べ物と唾液を混ぜて一塊にすることがうまくできないようになります。
▼ 舌などの位置の低下……舌や舌骨、咽頭蓋の位置が下がり、飲み込むときの位置まで持ち上がりにくくなります。

Aその他の原因
▼ 病気の影響……痴呆症のため、認知に問題が生じて、うまく食べられなくなったり、脳血管障害や神経系の病気のため、まひが起こったり、舌が動きにくいなど、嚥下反射に問題が生じて、うまく飲み込めなくなります。
▼ 服薬の影響……いろんな病気のため薬を常用していると、薬の影響で唾液の分泌が悪くなり飲み込みにくくなることがあります。

(イ)注意すべき症状

飲み込みにくい状態がすすむと窒息や肺炎を起こすこともあり食事のときのちょっとした次の症状を見逃さないのが大切です。
▼ 食べ物が口に残るようになった。
▼ 口からよくこぼすようになった。食事の時間が、だらだらと長引くようになった。
▼ぱさぱさした食べ物が飲み込みにくくなったり、お茶にむせたりする。

(ウ)嚥下障害の3大兆候

もう少し進むと次の3つの症状が見られ、飲み込みにくい状態になっていることが考えられます。

▼咳き込む                ▼むせる               ▼たんがでる

さらに悪化すると誤嚥するようになり次のような症状も起こります。

▼食後、ガラガラ声になったり、声がかすれる。

▼食事をすると疲れる。                   ▼原因不明の体重減少。

(エ)進行すると深刻な症状も起きる。

飲み込む能力がさらに低下すると、全身の健康状態を悪化させたり、生命にかかわることもあります。

▼誤嚥性肺炎……気管に入った食べ物や唾液が肺に入り、肺炎を起こすことがあります。

▼窒息……しっかり飲み込めなくて、食べ物がのどに詰まると、窒息することがあります。

毎年、お正月には、おもちで窒息死するお年寄りが少なくありません。

▼低栄養……食べる量が減って、栄養不足になることもあります。

▼脱水……水を飲む量が減ると、血液の流れが悪くなり、脳梗塞などを起こす危険性が高まります。

また脱水症状になることもあります。

−「NHK きょうの健康」より抜粋−向井美惠昭和大学歯学部教授