若松環境衛生だより 令和5年 2023年

●11月号 よく噛むことで食事を楽しむ!
 食べる事は生きるために必要な事であると同時に、大きな楽しみの一つでもあります。食べる事の楽しみとは、視覚・嗅覚・聴覚・触覚・味覚の五感で感じる楽しさです。まず食べ物を口に入れる前に、「おいしそう」と感じるのは、視覚と嗅覚によるものです。つまり、目と鼻で楽しんでいるのです。口に入れてからは、咀嚼することで触覚による舌触りや歯ごたえ、そして味覚や嗅覚による味わい、さらに「ポリポリ」「カリカリ」といった噛む音を聴覚で楽しむことができます。
 
 
歯には、「歯根膜(しこんまく)」といって、歯ごたえを判別するセンサーがあります。そして、歯根膜は部位により感度が異なります。特に、噛み切る役目をする前歯の歯根膜は敏感で、硬さ・柔らかさ・噛みごたえなどの触感は、前歯で噛んだときにより一層楽しむことができます。

また味は、主に舌にある「味蕾(みらい)」という器官で感じます。味蕾が多く存在する有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)や葉状乳頭(ようじょうにゅうとう)は、舌の奥のほう(奥歯の近く)に分布しています。そのため、奥歯でしっかりよく噛むと、唾液に溶けた成分が乳頭の奥の方にある味蕾を刺激するので、味わいが増します。

このように私たちは、様々な機能と感覚を駆使して食事を楽しんでいるのです。例えば、歯が抜けて義歯になると食事が美味しくないと言われることがありますが、歯がなくなると歯根膜がなくなるので噛みごたえの感覚が鈍りますし、また奥歯がなくなってしっかり噛めないと、味覚も鈍る傾向があります。ですので、自分の歯でしっかり噛むことは充実した食生活を送る上で非常に大切なことなのです。

                         
若松歯科医師会広報委員会

●8月号 唾液と健康

 唾液にはさまざまな働きがあります。まず、口の中を洗い流す「自浄作用」、バクテリアやウイルスなど、微生物に抵抗する「抗菌作用」があります。唾液がないと、バクテリアやウイルスが、喉を通過して体内に侵入しやすくなります。また、唾液中のカルシウムやリン酸には石灰化効果があり、歯の修復が期待できるほか、歯の表面を被膜でコーティングしてバリアをつくり、虫歯を防ぐ働きをします。

唾液が減って口の中が乾いていると、歯垢や歯石が付着しやすくなり、口腔環境の悪化につながります。さらに食べ物を飲み込みやすくする作用「溶解作用」や唾液中の酵素・アミラーゼがデンプンを糖に分解して消化を助ける作用「消化作用」があります。唾液が十分に分泌される事は、私たちが健康に暮らすために大切なことなのです。

また、唾液には大きく分けて「サラサラ唾液」と「ネバネバ唾液」の2つがあり、2種類の唾液がバランスよく分泌されていることが重要です。
 サラサラ唾液は、リラックスしているときなど、副交感神経が優位な時に分泌されます。サラサラ唾液がしっかりと出ているときは、口は潤った感覚になります。一方で、ネバネバ唾液は緊張したり、ストレスを感じている時や運動中など、神経が興奮して、交感神経が優位な時に分泌される唾液です。
 唾液の分泌は自律神経のバランスに影響をうけやすく、ストレスなどを強く感じたときにはネバネバ唾液の分泌が増加し、口が乾いた状態になります。つまり、唾液のバランスがよく、口が潤っているように感じる状態は自律神経が整っているということですので、普段の生活にとっても重要なポイントとなるのです。

                                    若松歯科医師会広報委員会

●6月号 よく噛むことで「唾液力」を鍛える
  「唾液の働き」というと、まず頭に浮かぶのが「消化を助ける」ということでしょう。しかし近年は、消化液としてのみならず、生活習慣病、アンチエイジング、快眠・リラクゼーション、感染症予防など、唾液の持つさまざまな機能が「唾液力」として注目されています。

 そもそも唾液とはなんなのでしょうか?
唾液の99%は水ですが、残りの1%の中には、酵素やたんぱく質などのほか、ウイルスや細菌などに対抗するための抗菌物質が含まれています。成人の場合、唾液は1日に1〜1.5ℓ程度出ています。絶えず分泌されていますが、特に食事中には、噛むという運動によって「咀嚼-唾液反射」が起こり、分泌量が増えます。
 あまり知られていないのが、「唾液は血液からつくられ、血液に戻る」ということです。実は、唾液腺には無数の毛細血管が通っています。その毛細血管の中の血液が唾液腺を通過する際に唾液へと変化していくのです。その過程で、血中のさまざまな成分が唾液腺の中に取り込まれ、唾液の成分となります。さらに、つくられた唾液中の物質もまた、血管を通じて全身へと移行していきます。ですから、唾液は血液と同じように多くの重要な成分を含んでおり、体や心の健康維持に欠かせないとても重要なものなのです。
 噛むことと唾液は、私たちが日ごろ感じている以上に深くかかわっています。
食べ物を食べたり、口の中に刺激があったときに唾液の量が増えることは実感しやすいと思いますが、実は、唾液の質にも影響が出てきます。私たちの体を守る唾液中の物質は、現在わかっているだけでも100種類以上あり、中身のバランスは、食事の内容や歯磨き習慣などの生活スタイルで変動します。唾液腺は自律神経に支配されていて、副交感神経と交感神経の二重支配を受けているので、どちらの神経が優位になっても唾液は分泌されます。
 ただ、実はどちらの神経が優位になっているかによって分泌される唾液の種類は違います。(「副交感神経優位でサラサラな唾液」と「交感神経優位でネバネバな唾液」)どちらの唾液も重要ですが、一番重要なのは口内でバランスよくどちらの唾液も存在することです。つまり、唾液のバランスがよく、口が潤っているように感じる状態は自律神経が整っているということですので、普段の生活にとっても重要なポイントとなるのです。
 また、唾液の量が少ないと、しゃべりづらい、食べづらいなどの悪影響が出てきて、生活の質を下げることにもなります。そんな時に誰でも簡単にできるのが、噛むこと(咀嚼)です。よく噛むためには、食材を大きめに切ると、自然に噛む回数が増えます。歯ごたえ、噛みごたえのあるものを食べるのもよいでしょう。唾液の量が十分で、唾液の質も高ければ、口腔の免疫力により細菌やウイルスに負けない体になります。唾液を十分に出して、唾液力の向上を心がけましょう。

                                若松歯科医師会広報委員会
●2月号 小児期のフッ素塗布やシーラントについて
   子供の虫歯をより効果的に予防するには、歯科医院でのシーラントとフッ素塗布がおすすめです。
これらは歯科医師や歯科衛生士でなければ施術できない虫歯予防法なので、ご家庭でのセルフケアより予防効果が高くなります。今回はそんな歯科医院で受けることができる子供の虫歯の予防処置についてお話しします。

 シーラントとは、奥歯の溝をレジンなどの樹脂の材料で埋める処置です。奥歯の溝は、乳歯や生えたばかりの永久歯では汚れがたまりやすく溝の一番深い所は石灰化度が低い(まだ十分に硬化していない)ため虫歯になりやすいことがわかっています。そのため小児歯科ではあらかじめ乳歯の奥歯の溝を、削らずにシーラントで埋めて、虫歯リスクを抑えるようにしています。特に生えたばかりの6歳臼歯は虫歯のリスクが高いので、シーラントをした方が良いケースも少なくありません。

 フッ素の虫歯予防効果として「歯が強くなる」という表現をよく耳にします。これは歯のエナメル質が再石灰化する際、フッ素の効果によりエナメル質の「ハイドロキシアパタイト」が「フルオロアパタイト」と呼ばれる特別な構造に作り変えられ、虫歯菌が産生する酸への抵抗力が増加する(歯が溶けにくくなる)ことから「歯が強くなる」と表現されるようになりました

 歯科医院で用いるフッ素ジェル等のフッ素濃度は、市販の歯磨き剤に比べ高濃度なので、定期的に使用することでより高い予防効果が期待できます。

 シーラントやフッ素塗布は、ほぼすべてのお子さまに効果が期待できる虫歯予防法なので、お子さまの歯を虫歯菌から守りたいとお考えの方は、積極的に受けるようにしましょう。

                                    若松歯科医師会広報委員会