若松環境衛生だより 平成30年 2018年

11月号

「歯が呼吸と嚥下を支える」

 
「何のために歯があるの?」当然「食べる為」ですよね。しかし「食べる」だけなら歯はそれほど必要ありません。歯がなくなっても「すりおろし食」で生きていけますし、究極は「胃ろう」や「点滴」でも命を繋ぐことはできます。高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐためにはその方がいいとされてきました。ところが最近は否定され始めています。

 ヒトは数分間息が出来ないと、そして数日水が飲めないと、確実に死んでしまいます。ですから私たちの体は「①呼吸、②嚥下、③咀嚼」の順を生きていくうえで優先します。

 ①歯が失われると鼻~のどの奥が狭くなり呼吸効率が悪くなります。効率よく正常に鼻で呼吸するためには上下の顎の位置関係を整える、つまり噛み合わせが必要なのです。
 ②正しく飲み込むためには、舌とのどの筋肉が力強く大きく動かなければいけません。この時上下の歯がしっかり噛みあっていないとこの動きが出来ず、「むせ」が起きます。
 ③細かくすりつぶす歯の動き「そしゃく」は、安全に飲み込める状態を作り出し、効率よい消化、つまり栄養摂取の効率を上げます。つまり歯を大切にして、口から食べることは③だけでなく、むしろ①と②に必要なのです。ガン手術後の入院日数が半減したり、認知症の改善が見られたり、糖尿病が改善したり・・・実は、当然の事、歯がダメで飲み込めないとどんどん弱っていくのです。

 さて、11月10日(土)14:~16:30若松中央市民センターにて、若松歯科医師会主催の「あんしん!お口フェア」が開催されます。「専門医による口腔がん検診」や「舌圧測定」など盛りだくさんの催しです。もちろん入場無料!皆様をお待ちしております。

  
                            若松歯科医師会広報委員会

                     

8月号 「骨粗しょう症と言われたら歯科受診を!」
 BP製剤という骨粗鬆症の薬の副作用で、抜歯などの歯科治療を受けたことをきっかけに、あごの骨が口の中に露出する「顎骨壊死」という副作用が発生する場合があるという話を耳にしたことがあるでしょうか。研究が進んでいなかったため混乱を招き、BP剤を服用していると歯科治療ができないとされた時期もありました。しかし顎骨壊死の原因は細菌感染であり、BP製剤そのものではないことがわかって来ました。

 若松区の高齢化は進む一方。寝たきりに直結する重大な骨折を防ぐため、骨粗鬆症の治療と予防は重要な課題であり、BP剤が第一選択薬として有用な薬であると言われています。基本的には休薬せず、歯科治療を行うことが大切です。しかしBP製剤は骨の吸収だけでなく形成も抑えます。歯周病の方はBP製剤が多量に長期間残りやすいため、骨の傷が治りにくく、壊死を起こすことがあるのです。薬を服用する患者さんは、口の中を清潔で細菌が少ない状態に保持することが副作用を防ぐのに一番有効なのです。

 歯周病は自覚症状が出にくい上に、高齢者が家庭でのハミガキだけで清潔な状態を保ちつづけるのは極めて困難です。プロのケアで口の中を清潔にする歯周病治療は、顎骨にBP製剤を多量に集めないことにも役立つ上、「噛める」状態を保つのですから、一石二鳥と言えます。だからこそ、歯科医師会と医師会はBP製剤使用時の医科歯科連携、情報共有を進めているのです。

 BP製剤服用開始前には必ず歯科医院に行き、歯科治療を終わらせておくこと、セルフケアとプロケアをきちんと続けること、通院を自己判断でやめず定期的なチェックを怠らないこと。忘れないでくださいね。

                             若松歯科医師会広報委員会 

6月号

「『歯を大切に』その本当の意味って?

   
 誰もが元気で健康な暮らしを送りたいと願っています。体のあちこち、心臓や肝臓や手や足の具合が悪ければ楽しく暮らせません。歯がピカピカで丈夫な体でも、精神的な不安が大きければこれもまたしかり。こころのありようもふくめて全身が「健全」であることが大切です。それでも、私たち歯医者は「歯の大切さ」を説くのです「まずはお口の健康から」と。

 健康に関するTV番組や新聞・雑誌の記事などで、「噛めれば元気」「長生きと歯」「誤嚥性肺炎と口腔」「糖尿病と歯周病」「ガン治療の前に歯の治療」など、毎週のように取り上げられています。これは歯科医師会等の歯科関係団体の努力によるものもありますが、むしろお医者さんたちや看護、介護の現場からの声によって、広く全身の健康と歯・口腔の関係が指摘され、認識が広まって来たためです。歯科医院が皆さんの健康を守る最前線として認めていただけていることは嬉しい限りです。

 一例をあげましょう。「歯周病が糖尿病を悪化させ、治りにくくしてしまう」と聞いたことがありませんか?なぜ歯ぐきの病気である歯周病と細胞・代謝の病気である糖尿病が関係しているのでしょう。出血や膿を出しているような炎症をおこした歯ぐきの周りからは、炎症関連の化学物質が血管を経由して24時間体中に放出されています。歯ぐきの炎症とは「ただれ」です。ただれた歯ぐきから出て血流にのった炎症関連物質は、体のなかで血糖値を下げるインスリンを効きにくくします(インスリン抵抗性と言います)。そのため、糖尿病が発症・進行しやすくなり、治療効果があがらないのです。歯周病治療によって歯肉の炎症をコントロールできればインスリン抵抗性が改善し、血糖コントロールも改善することが、多くの臨床研究で報告されているのはそのためです。また、糖尿病対策の食事療法において、適量の食事をバランスよく食べて満腹感と幸福感を味わうために、よく噛むことが欠かせません。噛めないところを放置しては「マズイ」ですよね。

 日本糖尿病協会発行の「糖尿病連携手帖」2017年第3版から、歯科での定期検査記録のページが大きく詳しくなりました。北九州市の糖尿病重症化予防連携推進会議でも歯科からの意見が反映されています。自分自身の丁寧なハミガキは当然として、歯科医院で炎症の原因となっている歯石を定期的に取り除く(スケーリング)ことが重要なのです。

 中等度以上の歯周病の場合、その「ただれ」の表面積の合計は手のひらと同じ程度。手のひらサイズの「ただれ」があってそこから出血や膿が出てきているのに、治療なしで何年間も放置されていると考えるとあなたは平気でしょうか?「私たちの体は血管を通じてすべてつながっている」言われてみると当たり前の事ですが、忘れないようにしたいですね。
 次回も歯と「健全」な全身との関連について書いていきます。


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2月号 みんなで食事して脳を鍛えよう!
 
 認知症になると、記憶能力が急激に衰えてきます。早期発見、及び、脳のトレーニングが重要になります。脳科学がご専門の九州歯科大学吉野賢一教授によると、日常生活に少しの工夫をすることで、脳が鍛えられるとのことです。そのひとつは「食べる」ことです。京都大学霊長類研究所の正高信男教授によると、人間と動物では、授乳の方法が異なり、母子が「目を合わせる」格好で授乳するのは人間だけということです。

人間が、目を見て、顔を見せて食事をするのは、心を見て、心を見せて食事をすることにつながります。実社会においても、忘・新年会、歓送迎会、懇親会、お見合い、結婚披露宴、誕生日祝など、数多くの行事が食事とセットになっています。

動物は基本的に空腹の時に食事をして、満腹の時は食事はしません。ところが、人間は空腹時でも我慢して食べなかったり、満腹でも敢えて食べたりする場合があります。食べるか食べないかの判断を相手に合わせることができるのです。つまり、人間は一緒に食事をする相手がいることで、よく注意し、考えて食べることになり、脳がトレーニングされるのです。

現在、北九州市は、三師会と協力して、「ふれあい昼食交流会」などの取り組みを行っています。コミュニケーションをとって食事ができるので、まさに脳をトレーニングする良い機会になると思います。食事をスムーズに行うには、「歯」が重要になります。よく噛むことによって、脳が刺激され、認知症の予防につながります。

良く噛める歯を維持するためにも、歯医者さんで歯とお口のチェックをしてもらいましょう。そして、健康なお口を維持して、認知症を予防しましょう。


                         
 若松歯科医師会広報委員会