2月号では、「生涯口から食べる大切さ」と題して、増齢による咀嚼嚥下機能の低下と誤嚥の関係や、歯科治療と健康寿命の関係などについてお話ししました。今回は、具体的なデータを示しながら前回の内容を補足したいと思います。
国民医療費は年々増大しています。平成21年度は36兆67億円で前年度に比べ1兆1983億円、3.4%の増加となっています。人口一人当たりにすると28万2400円で前年度に比べると3.6%の増加であり、歯止めがかからない状態です。それは本当に、国民の幸せにつながっていると言えるのでしょうか?
我が国が世界に冠たる長寿国と言われるようになって久しくなります。現在の平均寿命は男性が79歳、女性が86歳と発表されていますが、それは「口から食べる幸せ」を満喫しながら日常的に介護を必要としない自立した生活が営める健康寿命とは、約8年以上の開きがあります。私たち歯科医師は、健康寿命を延ばし、限りなく平均寿命に近づけることで医療費を削減でき、健康で幸せに長生きできる社会が実現できると考えています。
また、口の中でしっかり噛むことができている歯の数と、その人の生存期間との関係を15年間にわたり追跡した研究があります。それによると、80歳以上では、男女ともにしっかり噛める歯が10本以上ある人は、有意に生存率が延長することが認められました。自分の歯でしっかり噛んで食べることにより長寿につながることが、科学的に証明されているのです。
そのようなことを踏まえ、日本歯科医師会では厚生省(現厚生労働省)と協力して平成元年から、満80歳で20本以上の歯を残そうという8020運動を推進してきました。歯が20本というのは自分の歯でおいしく食べることができる歯の数を意味しています。開始当初の達成者は10%に満たない程度でしたが、平成23年度歯科疾患実態調査では、満80歳以上の38.3%の方が達成しています。そして、達成した人はそうでない人に比べて歯科医療費は当然ですが医科医療費が少ない、という驚くべき結果も出ているのです(グラフ参照)。
歯科医院での治療と予防を適切に行い8020の達成者を増やすことが医療費を削減し、ひいては国民の健康長寿につながります。私たちはこれからも、地道な啓蒙活動や日々の診療を通じて国民の皆様の「生きる幸せ」の実現に大きくかかわって行きたいと考えています。
若松歯科医師会 広報委員会
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